7,魔女のダンジョン
ミオは前世の家族に会う。
澄み渡る青空の下、花が一面に咲く丘の上に、ポツンと小さな家があった。
初めてこの景色を見る者は、此処がダンジョンの最深部だとは、思い至らないであろう。
このエターナリアの世界で最も高名な魔女の住まいとは思えないほどの、とてもとても小さな民家。
そこで今まさに1つの命の灯火が、消え入りそうになっていた。
銀色の髪に金色の瞳。女性にしては背が高く細身な容姿。若かりし頃は、頬も唇も桜色に染まっていたその顔は青白くなり、優しくも愛らしい声を発することもなくなって久しい。
人々からは黎明の魔女レイラと呼ばれたその女性の年齢は、一見すると20代でも通るほど若々しい。
だが悠久の時を生きた魔女も、とうとう寿命をむかえようとしていた。
血の繋がった子孫や弟子達、長く仕えてくれた家令や使用人一同は、終の棲家となるダンジョンを創る前に別離を済ませていた。
揉めるであろう形見分けは、きちんと自分の手から、生前贈与という形で渡してある。無論危険な魔道具ではなく、日常の役に立つ品だけを贈った。
現在このダンジョンにいるのは多数のゴーレム。
そして迫害を受けていたために保護した魔族や少数民族。
その他に、晩年の研究で創り出した、機械人形とホムンクルスとの融合体【融機人】が数体である。
寝台の周囲にいるのは融機人が5体・・・いや、訂正しよう。―――人間と等しく魂と心を宿した5人の愛しき我が子達である。
「・・・マザー、マザー。お願いします。どうかワタシ達をおいて逝かないで下さい―――」
銀色の髪と青い瞳をもつ融機人の長女アクアが魔女レイラの手を握り、ハラハラと泪を流している。
赤い髪と金色の瞳の長男イグニスは顔を歪め、うつむいて肩を震わせている。
金色の髪に茶色の瞳の次男クレイは手で顔を覆い、金色の髪に銀色の瞳の三男トールは、次男の肩に顔をうずめている。
ピンクゴールドの髪に翠の瞳の次女フィオーレは顔面蒼白で立ち尽くす。
魔女レイラは最後の力を振り絞り念話をおくる。
・・・それは子供達への感謝の言葉と、自由に生きてほしいという願いであった―――
ミオは5人の融機人の愛し子達がどうしているかが気になり、家族旅行の前に確認しようと試みた。
先ずは1人だけでダンジョンへと魔法転移したのである。
(不法侵入と思われて、イキナリ攻撃とかしてこないよねぇ)
ミオは内心ドキドキで、前世の最後をむかえた家の扉の前に立つ。
ドアには魔力感知式のロックがかかっており、登録されていない人物は入ることが許されない。
右手をかざし魔力を流すと、アッサリと扉が開いた。
「おじゃましま~す・・・」
なぜか小声になり、忍び足で中へと踏み出す。
―――はたから見ると、まるっきりの不審者である。
そして2・3歩進んだ所で、ガシッと、左肩を掴まれた。
(ギャーーーッ!!!)
ビクッとなり、悲鳴を上げようとしたが、口を押さえられて声が出なかった。
「マザーと同じ魔力を感じる。・・・誰だ」
背後から右手で口を押さえられ、先ほど左肩を掴んでいた左手で、ミオの腹部を拘束するようにして、グイと引き寄せられた。抱きしめられる形となり、そして右手が口から外されると、顎をクイっと持ち上げられた。
ミオは相手を逆さまに見上げる事になり、姿を認識出来た。
「あ。イグニス!久しぶりー。私ね、ちょっと生まれ変わってみたレイラなんだけど」
「・・・・・・は?」
「生まれ変わっちゃったし!」
体格も良く武人然としており、日頃は動揺などめったにしない融機人のイグニスは、この時は混乱の余りに思考停止した。
そうこうしている内に、俄に人の気配がして、続けて残りの姉弟達が駆け付ける。
黒髪黒目の子猫の様な印象を受ける女の子を抱きしめているイグニスに、アクアは問いかけた。
「殺気も出さず警戒もしていないみたいですが、その子はどうしたのですか?」
「・・・・・・」
相変わらず固まっているイグニスに、クレイとトールが近づいて揺さぶる。
『大丈夫かー!』
「あ、あぁ。平気だ」
「その女の子はどなたですの?」
フィオーレが首をかしげつつ訊ねる。
「まずは部屋に入って席につこう」
イグニスは拘束していた手を緩め、ミオをエスコートするためにそっと手をとった。
中には円卓があり、席がいつも決まっている為、姉弟は次々と自分の席につく。
イグニスはミオをマザーの席、つまり、魔女レイラの指定席へと導いた。
驚きに目を見開く面々。
ミオは自身に起こった出来事を語り始めた。
―――そして数分後、苦しいほどの5人分の抱擁受け、涙ながらに逢いたかったとの言葉をかけられた。
順番に抱き締め、ポンポンと背中を軽くたたく。
レイラの感情まではは甦ってはいなかったのミオだが、とうとう思い出した。涙が溢れ再開を心から喜ぶ。
何度抱き締め、頭を撫で、再会を歓ぶ言葉を紡ぐ。
あっという間に時間は過ぎ去り、一度日本へと帰還すると告げる。
だが、また会えなくなるのではないかという不安から、離れたがらない子供達。
「マザー。他の者達にも姿をお見せ下さい」
アクアが会わせたがっているのは、ゴーレムやダンジョンに住むことを許した者達である。
レイラによって造られたゴーレム達にはハッキリと自我があるため、レイラが死去してから寂しがっていると教えられた。
その他ダンジョンに住んでいる、外界で迫害を受けていた魔族や、その他の少数民族。
魔族といっても、ゲームのように好戦的な種族ではない。人から怖れられる容姿のために魔物と間違えられ、攻撃を受けて逃げて来たのだ。
一例として、下半身が蛇のラミア族や、足が蜘蛛のアラクネのような種族である。
レイラは各階層を、それぞれの種族が住みやすい環境に整え提供したのだが、とても住みやすく、楽園とまで言われているらしい。
「でも急に皆を集めるのは時間的にも無理でしょう。日時を決めて後日改めて、っていうのが現実的じゃない?」
「それがいいだろうな」
イグニスも同意する。
「でも私がレイラの生まれ変わりだなんて、よく信じてくれたね?普通は疑うでしょ?」
ダンジョンに住む他の種族はそう簡単には信じないのではないだろか。
「うーん。魔力は同じだから大丈夫だとは思うけどね。僕たちは特にマザーに創造された存在だからすぐに判ったよ」
「けどさ、鈍いヤツはわかんねーかも知んねーぜ?」
クレイは楽観的だが、トールは少し懐疑的だ。
「ワタクシ達がマザーの生まれ変わりの存在を、キチンと周知させれば良いのですわ!」
フィオーレは責任重大と、こぶしを握りしめて気合いをいれる。
「私の現在の家族である両親と兄が観光で来たがってるの。近い内に連れて来るから、その時は面倒をみてちょうだい?ただのか弱い人間だから守ってほしいの・・・その時に、他の種族がレイラの生まれ変わりを許容出来そうであれば会う、という流れでいきましょう」
こうして前世の身内と会えた私は、お互いに離れがたく思いつつも、再会を約束した。
記憶と感情が甦ったミオは、今までよりもちょっぴり大人っぽく成長していきます。




