6,異世界行ってみたいなぁ~
お母さんはお父さんの味方です。
「異世界ってどんな所なの?行ってみたいなぁ~」
そうアイコが呟いたのは、ミオとトシヤが前世を思い出してから3ヶ月後。
アイコとケンが【ライト】の術を覚えた頃である。
「ほら、もうすぐ2人とも夏休みでしょう?お父さんも長期休みが取れそうだし!」
トシヤは病気が完治して、神官の仕事に復帰したが、周りは心配して気をつかってくれている。
なにぶん実家の親族が継いでいる神社のため、柔軟な対処をしてくれるのだ。
ミオにも手術について、遅ればせながら伝えてある。
今度は直ぐに教えて!とプリプリ怒り、強く念を押されたトシヤは、ひたすら謝罪した。
「実際行けんのか?って話だよな。そこんとこどうなんだよ」
ケンも興味が隠せていない。
「まあ。魔道具もあるし、足りない魔力は補えるから、行こうと思えば行けるけど・・・」
「・・・黎明の魔女降臨―――!」
トシヤは1人で何やらハワハワと口に手を当て、額に汗を浮かべて焦っている。
「お父さん!別に世界に終焉をもたらしに往く訳じゃないんだから!」
魔女の伝説に怖れおののいているトシヤにツッコミを入れ、ミオは頬を膨らませた。
前世の若き魔術師はどれ程小心者だったのか。怖がり過ぎである。
「どんな魔道具を使うんだ?」
「うーんと、これ!」
ミオが手にしたのは、グレープフルーツと同じ位の大きさの水晶玉のような物。但し時折、虹色に煌めいている。
「ダンジョンコアの代替品にもなる優れもの」
ブーッ!!と、トシヤは飲みかけのお茶を吹き出した。
「ダンジョンなんて人が造り出せるものではないよね?神の所業だよ!!」
「ドラゴンとエルフには亜神として崇められた時代もありました」
ドヤ顔をしてみせると、トシヤは頭を抱えた。
「あぁぁぁぁぁー・・・」
なにやらうめき声がする。
「じゃあ問題は解決ね!夏休みに入ったら行きましょうねぇ」
いくらミオが高い偏差値の高校を志望していないからといって、受験生を持つ母親らしからぬ発言に、一同苦笑いだ。
「行くとしたら、平和な所じゃなきゃな」
ケンが至極真っ当な意見を述べる。
「じゃあガインズ国のミスティザードがいいよ」
「それって有名な観光地だよね。湖が綺麗な」
トシヤの提案に、ミオは土地の情報を思い出す。
「そう。前世のボクの出身地だよ」
懐かしそうに目を細め、ふんわりと微笑むトシヤ。
「湖の魚だけじゃなく、高原にいる牛とかも美味しくてね。食文化もそこそこ発展していたよ。最も日本人としては物足りなく感じてしまうかもね」
トシヤの遠い故郷に想いを馳せるような、望郷の念を読み取ったアイコは、すぐさま決断した。
「じゃあそこにしましょ!決定~!よぉ~し!夏の家族旅行は異世界よ~!」
「そんなに軽く?イヤイヤ。確かに行こうと思えば行けるとは言ったけど。旅行はハードルが高いよ!ちょっと覗いてすぐ帰るのじゃダメなの?日本と違って危険が沢山だよ!?魔物もいるよ?死んじゃうよ!?」
アイコの軽い様子にミオはタジタジである。
「ミオと父さんがいれば大丈夫だろ?それか身を守れる魔道具をくれ!」
チョーダイ!と手を差し出され、半眼となるミオ。
「お、お父さーん」
ミオが助けを求めると、トシヤは困った様に笑いつつも、
「んー。ボクもちょっと行きたいなぁ。ミオ。フォローを頼めるかい?」
「やった!さすが父さん、話が分かる!冒険者登録もしようぜー」
「バカなの?危ないよ!」
可笑しなテンションで暴走気味のケンに注意をする。
だが気持ちは分からなくもない。ミオも以前だったら、ゲーム感覚で同じノリだったかも知れない。でも・・・。
「兄さんは、向こうの世界で雑魚のゴブリンすら討伐出来ないと思う」
グロい姿、しかも死体をちょっと見ただけで悲鳴をあげたのに。
そんな視線のジト目をしていると、痛いところを突かれたように、ウッとうめくケン。
「確かに~そうよねぇ」
アイコも同意する。
「お、男のロマンだぞ!たとえ薬草採取だけでもしてみたいんだよッ!!」
吃りつつも主張するケンに、家族は生温い視線を送った。
「ミオ。夢を叶えてあげたらどうだい?」
「どうせなら家族で登録しましょう?パーティー名も決めなきゃ!」
ひょっとしたらケンよりも乗り気ではないだろうか。ウキウキとした雰囲気が滲み出ている。
こうして、夏の家族旅行が決定したのだった。
家族の安全が第一なのです。




