33,ダンジョンへの招待
芦屋家のウォークインクローゼットの1角には、アパレルショップの試着コーナーのような、カーテンの仕切りがあり、大きな姿見の鏡が設置されている。
その鏡が、フィルがエターナリアに設置した異界に繋がる門の出入口となっていた。
関係者以外が見てもただの鏡だが、資格を持つ者にはダンジョン内の風景が映る。
魔女のダンジョンの最深部である地下100階に設置された異界門であったが、ミオは不特定多数が、レイラの終の住処へと立ち入るのを嫌い、別の場所へと移された。
再設置されたのは、ダンジョンの地下90階。
ダンジョンに住む一般人が入場することを許された場所としては、最も深い階層となっている。
その階にあるのは、魔女レイラの眠る聖廟と、祈りを捧げる神殿。
その異界門がある部屋に一般人が紛れ込まないように、多数のゴーレムが警備にあたる。
「へぇ~。これがゴーレムなのかぁ。すごいなぁ~」
昨晩の飲み会の後に、そのまま泊まったアヤヒコ・カイト・サトシは、後学の為にエターナリアの見学にやって来た。
そして今、サトシは警備についているミスリルゴーレムをペタペタと触っている。
(自我があるって教えたほうがいいのかな?)
ミオは、ベッタリと指紋をつけられてウンザリ顔のゴーレムを見て思ったが、結局は放置した。
周囲のゴーレムは、自分の所へ来ないようにと考えているに違いない。やや引き気味に見える。
「ここには初めて入るね。この通路を抜けると神殿に出るの?」
ケンの同級生のイツキが、異界門のある部屋から出て、真っ白な1本道を歩きながらケンへと確認している。
週末には再びエターナリアにてケンと冒険者活動をする約束をしていたので、土曜日の朝8時30分に芦屋家に来たのだ。
そこでミオの転移魔法でなくても異世界へと行ける通路が出来た事を知らされたイツキは、鏡を通り抜けるという人生初の体験をした。
突き当たりの大きな扉の前に一行が着くと、ゴーレムが2体、片方ずつ扉の取っ手に手を掛け、横にスライドさせて開けた。すると大聖堂の吹き抜けの上部にあるフロアに出た。
扉をくぐるとふわっと風を感じ、焚き染められた香の煙の匂いが届き、鼻腔をくすぐる。
天井がとても近く、そして明かりを取り込む窓一面に張られたステンドグラスの精巧さと芸術性の高さ、輝く光を反射する神聖さに目を奪われ、一行は暫し魅入った。
全体的に白を基調とした壁や床の至る所に観葉植物の鉢が置かれ、瑞々しい新緑の色に心を癒される。
階下には神殿に参じる一般人が列を成し、魔女レイラを模した巨大な像に祈りを捧げているようだ。
階段を降りて行くと、ミオに気が付いた参拝者は次々に跪き頭を垂れる。
トシヤ達はもう見慣れたが、初めて見たアヤヒコ達は面食らう。
「なんじゃ?どうなっとる?」
「あー。じいちゃん。ミオはこの世界では、ほぼ神様扱いされてるって認識だな。正確に言えば、ミオの前世の魔女レイラなんだけど」
「なんと!!」
ケンが説明すれば、アヤヒコは驚いて声を上げた。
カイトも目を見張り、サトシは面白がってニヤニヤしている。
住人達に軽く手を上げて応えるミオだが、歩みを止めることはなく通り過ぎる。
ミオの前にはイグニスを先頭に、融機人達が警護を固める。
人々は道を開け、ミオ達の進行を妨げる者はいない。
地下86階、いつも芦屋家とイツキが過ごしている屋敷へと移動すると、身の回りの世話をする大勢のメイドや執事が一斉に頭を下げ挨拶をする。
『お帰りなさいませ!!』
「ただいま。今日は私の祖父であるアヤヒコ、それに伯父のカイトとサトシも連れてきたわ。賓客としてもてなしてちょうだい」
『かしこまりました』
ミオが声をかけると、一糸乱れぬ返答がされた。
ここに来るまでに、もはや定番となった言語理解の指輪を渡していたため、住人の言葉を理解出来たアヤヒコ達は、普通の人とは姿の異なる住人達を見て驚きはしたものの、ミオに対する追従の姿勢に感嘆の息を吐いた。
今までの常識や世界観が覆されるという驚きと、これからどんな発見が待ち構えているのかという期待が、かつての少年の頃のような青い感情を引き出して、年甲斐もなく滾るアヤヒコ達であった。




