31,胃袋をつかまれた人々
「なぁゲイツ、ミオ殿はいつ来るんだ?」
帝国の冒険者ギルドに併設されている酒場で、のんびり食事しているゲイツの席の向かい側に座る人物がいた。
「殿下。魔法使いへの接触は御法度ですよ。特に王侯貴族はダメでしょうに」
相手はこのロマリオ帝国の第5皇子、ノートル殿下であった。
高貴なる身分の皇子が、荒くれ者も多く出入りする冒険者ギルドに居てもいいのか?と悩ましく思うが、実は本人も冒険者であり、しかもCランクの実力を持っているために余計な気遣いも出来ない。
「だから冒険者としてしか話しかけていないだろう。前回のダンジョンアタックから、もう7日にもなるのではないか?」
「まだ6日ですよ」
「細かいぞっ!」
指名依頼をよく受けたりしたので、信頼されているようだ。ありがたい事に気安く会話する関係性を築けている。
「ミオちゃんは他国の学生らしいですよ。夏季休暇が終わったので国に戻ったようです」
「なんと!では私のハンバーガーはもう入手困難なのかっ!?」
まるでこの世の終わりのような表情をする皇子。
ガタン!
と、周囲から幾つもの椅子の音が聞こえた。
目をやると絶望に打ちひしがれる男性が多数。
その1・天井に顔を向け目を閉じている男。
その2・頭を両手でかかえ、テーブルに額をつけて動かない男。
その3・握りこんだ右手で目元を隠し、左手を腰に当てて動かない男。
その4・目を見開き、左手で口を押さえている男。
その5・片膝をつき頭をかかえている男。
その6・両手で自身を抱き締めるようにしながら身を捩らせ、皇子にウインクしてキスをせがむように口を尖らせている男………。
―――最後の一人は皇子に近付けないように警戒を強めよう。
改めて見回すと、悪目立ちする面々の他にも、どうやらミオがダンジョンで販売している食料を求めている冒険者が多数いるようである。
よく行動を共にしていたゲイツを見張っていれば、ミオが近寄ってくると考えていたようだ。
(ここ最近監視されているような視線を感じていたものの、敵意は無かったので何だろうと不思議だったのだが、こういう事だったのか)
ゲイツは疑問が解消されてスッキリした。
(それにしても、魔法使いに他力本願な一攫千金の夢を見て、自分の願いを叶えて貰うために近付くのではなく、食料の販売をジッと待つなんて、意外と行儀のいい冒険者ばっかだな!)
低ランクの駆け出しならば、考え無しに押しかける輩もいそうだが、ミオが食べ物を売っていたのは、高ランクのみが辿り着ける階層であった。そこで出会う冒険者達は、迂闊な行動が命取りになるのを知っているのだろう。
(それに機嫌を損ねて販売禁止されるのを恐れたか?)
そんな膠着状態を打破する一言がホール内のどこからか聞こえて来た。
「そう言えば、ゲイツさんはミオさんが国へ戻る直前に、ハンバーガーだけじゃなく、ドーナツとかおにぎりとか大量に購入してなかったか?」
ギンッ!!
音がしそうな程に、睨みを効かせた視線がゲイツを貫く。
「おぉぅ………」
なんで知っていやがる……と呟いたのを耳にしたノートル皇子がゲイツの腕を掴んだ。
「ゲイツ?俺とお前の仲だよな?」
「私じゃなく俺になってますよ殿下」
「んんん!そんなのはどうでもいいのだよ。――――――ハンバーガー融通して……くれるよね?」
口元は笑みの形をつくってはいるが、目は笑っていない。
眼力でチビりそうだ。ゲイツは戦慄した。
ハッと気が付くと、周囲の男どもがジリジリと間合いを狭めて来ている。
(怖っ!!)
ゲイツは後ずさったが、流石は冒険者達だ。しっかり包囲網を敷いている。
どうやら逃げ場は無いようだ。
「ゲイツさん!ハンバーガー下さい!!」
「俺おにぎり!」
「ドーナツ各種お願いしますっ!!」
『ゲイツさん!!』
一斉に詰め寄られ、ゲイツはガックリとうなだれた。
そんな様子をギルドの入り口付近でコッソリと覗き見る人影があった。
ゲイツよりもミオと行動を多くしていた3人。
そう。臨時パーティーを組んでいたガルウィン達である。
ガルウィンは娘のためにドーナツを大量に購入していた。
ラルクは照り焼きハンバーガーが最も多いが、他の種類も沢山買っている。
タイラーはマヨネーズを用いたおにぎりを中心に大人買いをしていた。
今入って行けば、ゲイツのように全てを毟り取られるに違いない!
――――――3人はお互いの顔を見合せ、1つ頷くと、そっとギルドの扉を閉めたのだった。




