30,芦屋神社
「……トシヤ、肩に何を乗せている?」
そう問いかけてきたのは、トシヤの3人兄弟の一番上の兄カイトだ。
「んー。オウムだね(笑)」
突然現れたオウムは、念話で語りかけてからトシヤの肩に降り立つ。
真っ赤なオウムはイグニスの変化した姿だと理解したのだが、こちらに来るという予定を聞いていなかったトシヤは驚き、半笑いで答えるしかなかった。
トシヤの実家の芦屋神社は、歴史を感じさせる神社ではあるが、きちんと手を掛けて磨かれており、清廉な空気が流れいる。
本日は赤ちゃんの健やかな成長を願う家族が3組ほど、お宮参りに訪れていた。
宮司である父アヤヒコが腰痛の為休んでいるので、禰宜であるカイトが祝詞を上げ、権禰宜のトシヤが補佐をした。
恙無く執り行われ、祈祷後には赤ちゃんの名前入りの記念品を手渡す。幸せそうに微笑む家族を見て、トシヤは幸せのお裾分けをもらったかの様に胸が温かくなった。
予約していた家族は、この後カメラマンによる記念写真撮影がある。
3家族の内2家族は、よその写真スタジオに予約を入れているらしく、そちらへと向かった。
「サトシ兄さん。撮影の準備はいい?」
トシヤは3兄弟の真ん中の兄に確認した。
兄弟の中でサトシだけは神職に就かず、カメラマンとなった。
20~30代の頃は、海外各地に旅をして風景写真家として活躍していたが、40歳を過ぎてから地元に写真スタジオをかまえ、今日のように記念行事等の人物撮影が主となった。
今日は依頼人の要望に答え、写真スタジオではなく、神社の前での出張撮影となった。
幸いにして天候も良く、照明を設置しなくとも済みそうだ。
いつも愛用している昔ながらのフィルムカメラは、全ての設定を手動で行うマニュアル一眼レフであるが、本日の記念写真の撮影には、オート機能のデジタル一眼レフを使用する。
理由としては、写真撮影後にパソコンに接続して、依頼主に直ぐに確認してもらえるからである。
今回も撮影後に、どの写真を印刷するかを用意したパソコンで見てもらった。
アングル、表情、光の具合などなど。それらを依頼主に相談されながら決めていく。
この時注意しなければならないのは、カメラマン視点で「これにしましょう!」とは言ってはいけない事だろう。
依頼主が求めているのは、カメラマンとしての『出来の良い写真』ではなく、家族として『心に響く瞬間の画像』だからだ。
ほんの少しボヤけた箇所があったとしても、赤ちゃんの微笑みに惹かれたら、他の短所は見えなくなるのだ。そしてその目利きは、子を愛する親にしか出来ない。
相談を受けると言うよりは、可愛くて仕方がない子の、どこら辺が魅力的かを頷きながら聞くのが仕事である。
ウンウンと相槌を打っていると、あっという間に現像したい写真の枚数が増えていく。
そして、これぞ!という写真は大判で印刷され、記念の台紙で表紙を飾り、立派なアルバムのような記念品として仕上がる。
勿論それ以外に気に入った写真があれば、普通サイズの写真として印刷して渡される。
大抵の家族は自宅にパソコンを持っているので自分の家でプリントアウトが可能だ。それゆえに撮影したほぼ全ての写真を欲しがり、CD―ROMの発注をされる。
一緒に来ている祖父母には、印刷した写真を依頼される事が多い。
近場に住んでいる場合は自宅で印刷された写真を家族が渡せるが、離れて住んでいる時にはそうもいかない。サトシがスタジオに帰ってから印刷した後に送付する。
そうして本日の予定が消化され一息ついたところにイグニスがやって来て、カイトからの冒頭の一言があったという訳だ。
「うわっ真っ赤。派手だなぁ~!なになに、オウムいつから飼い始めたの?」
サトシは興味津々で覗き込む。
「ボクが飼ってるわけではないのだけどね。何と言ったらいいのかな……」
家族にどう伝えたらいいかを迷うトシヤ。するとそこへ―――。
「なんと!トシヤ!式を手に入れたのか!?」
父アヤヒコが現れ、驚愕に目を見開いていた。
その父の肩には、芦屋家の人間に代々使役されている管狐が乗っている。
芦屋家は平安の時代には、陰陽師の家系であったとされている。とはいえ、この家は分家の子孫になるので、力の強い者はなかなか産まれず、現在ではアヤヒコだけが管狐を使役しているのが現状だ。
「だが相変わらず霊力は殆ど感じられ無いがなぁ。」
白い顎髭を撫で、ハテ?と首を傾げるアヤヒコ。
カイトは霊力が強く、占術はほぼ当たるが、本人は占いはあまり好きではないらしく、占いを行うのはアヤヒコに請われた時のみである。また、時折未来視のような夢を視るようだ。
サトシはカイトよりも霊力が多く、符術を使い、結界等を張り穢れを退けることが出来る。穢れは黒い靄の様に見え、触れると体調が悪くなったりする。霊力が強い人ほど認識しやすいので、時折巡回して穢れを祓っている。
トシヤは管狐のような常人では見えない生き物に懐かれやすく、よく撫でているのを家族に目撃されている。だが霊力はほぼ無く、使役などは行えないようだ。
この芦屋家の秘密は、アイコにすらきちんと教えた事は無い。ケンやミオも同じく知らない。
知っているのは神社の後継ぎであるカイトの妻とその息子。
だが今後は家族にも伝えてもよいのではないかと、トシヤは考えている。
そして、ミオの前世の話を含めたエターナリアとの繋がりを、トシヤの親兄弟にも教えるべき時なのかも知れない。
「イグニス。ボクの家族にエターナリアについて教えようと考えているのだけど、君はどう思う?」
――――――トシヤは肩に乗るイグニスへと問いかけた。
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