26,とある鼠族のつぶやき
私達【魔女のダンジョン】の住人は、魔女様に仕え必要とされたいという承認欲求を胸に秘め、日々を過ごしていた。
だが当の魔女様は、弟子である黒竜のフィルガズィール様のみを連れて旅に出てしまわれた。
私も同行したかったなぁ。
意気消沈しているところへ、ダンジョンの管理者の一人である、融機人のアクア様がいらっしゃった。
「ねぇ、マト。ミオ様のお母様の身のまわりのお世話を―――」
「やります!やらせて下さいっ!」
失礼であるとは思いつつ、アクア様の言葉が終わらぬ内に、反射的に発言していた。
魔女様の母君であるアイコ様の傍には、私の妹であるミトがいる。正確に言うと、ミトはアイコ様だけではなく、トシヤ様やケン様も含めたご家族全員のサポートをしている。
ご家族とはいえ、トシヤ様は図書室へ入り浸り、アイコ様は主にキッチンでフィオーレ様や調理担当者と料理について毎日研究。そしてケン様はお友達のイツキ様と一緒に修行。
ミトは別々に活動しているご家族を繋ぐ連絡係りとして忙しく駆け回っている。
そしてケン様が冒険者として外に出ると、護衛として私とミトの従兄弟であるテトが選ばれた。
このテトは幼い頃から身体が弱く、長くは生きられないと言われてきた。ほぼ寝台の上で過ごし、身体も小さく、会話もろくにしてこなかった影響か、言葉もたどたどしい。
そんなテトに転機が訪れたのは、魔女様の帰還を祝う回帰祭への参加だ。一生の思い出として、何としても一目でも魔女様にお会いしたいという一心で、辛い状態を押して家から久々に出た。
そこで親切にも薬を下さり、病気を治してくれたのがケン様だ。
万能薬を口にしたテトは、あっという間に病が完治。
隣で見ていたミトは驚くと同時に嬉しさでいっぱいだった。この奇跡の回復を身内に伝えようと、ケン様に抱き抱えられたテトを置いて帰って来たらしい。
テトは困惑しつつも、家族以外に初めて親切にされ、照れくささもあり悶えていた。
病の完治だけではなく、衰えた体力までもが回復し、テトは鼠族としての素早い動きも取り戻した。
それによりケン様の修行にも付き合えるようになり、さらに親睦を深めて行った。
幼い頃からテトに付きっきりで、献身的に支えていたミトは、ようやく自分自身の時間を得た。同い年ではあったが、身内から見ても面倒見のいい姉のようだった。
手が離れた今は、病気の快気を喜びながらも、一人の時間を持て余し、少し寂しく思っているのではないだろうか。
だが今やミトは、芦屋家の面々の信頼もあつく、伝令役をこなして活躍している。
そんな中で私がアクア様から言いつかったアイコ様のお世話係は、ダンジョンの住人ならば就きたいと熱望されている役である。
妹や従兄弟だけではなく、私も頑張らなくちゃ!
気合いを入れて仕事をしていると、充実した毎日は飛ぶように過ぎていった。
―――そんなある日。
魔女様が焦った表情でダンジョンへと帰還された。
トシヤ様とアイコ様に付き添われ、机にかじりつき猛勉強されているご様子。
ちょっぴりベソをかかれて……いえ、困惑顔で一心不乱に取り組まれている。
こんな時こそ少しでも力になりたいと思い、室内環境を整え、適度な頃合いを見計らってお茶をいれ、好物だとアイコ様より教えていただいた白桃を剥いて差し入れしてみた。
やはり白桃がお好きらしく、持って行った私に、笑顔でお礼を言われた。
笑顔でお礼だなんて~!嬉し過ぎる!!
周囲の視線からは羨望と嫉妬が感じとられた。
フフン。羨ましいでしょっ!
睨む輩にはドヤ顔で応えてやったわ!
あっ。地団駄踏んでる。
そんな事をしている時間があれば、自分でも何かお役に立つ事をすればいいのに。
アイコ様のお世話も楽しいけれど、やはり主たる魔女様に仕えるのが、このダンジョンに住む者としての本懐だと心底実感した。
理屈ではない。魔女様こそ至高の存在。
さーてと、ライバルに負けないように、今後も魔女様のために働きますか!




