25,忘れてた現実
「おねぇちゃんありあとう」
舌足らずな口調で『ありがとう』と伝えてくれたのは、ガルウィンの娘のフェリシアちゃん2歳。
「ちゃんとお礼を言えたなぁ~。偉いぞ~ぅ!」
デレッデレに蕩け切った顔で娘を誉め讃え、抱っこしてホッペにチューするガルウィン。
フェリシアちゃんは『キャー』と奇声を上げながらニコニコしている。
ついでにミオも隣で、お礼を言われた嬉しさを噛み締め、身悶えしていた。……メロメロである。
ミオは30階のボス部屋からドロップしたウサギのリュックを、ガルウィンの娘にプレゼントすると言うと、
「じゃあ家に来いよ!」
そうガルウィンは軽くミオを誘い、ギルドで魔物素材の換金を済ませた後に、家にお邪魔する事になった。
ついて行ってみると、家というか豪邸だった。貴族街に住居をかまえたとは聞いていたが、Aランク冒険者とはここまで稼いでいるのか……。
門を通り、真正面にあるの建物へと進む。主に来客は此方へと案内されるらしい。
同じ敷地にはガルウィン、ラルク、タイラーのそれぞれの家族が住む屋敷と、使用人が生活する建物があるようだ。
案内された客室へ、各家族が集まった。
ガルウィンの奥さんと娘のフェリシアちゃん。
ラルクの両親と奥さん。
タイラーの奥さんと9歳の息子。
他にラルクとタイラーには12歳の息子がそれぞれおり、現在は帝国の学園の寮にいるらしい。
魔法使いを初めて見た面々は興味津々の様子。
特にタイラーの息子であるトアは、「自分も魔法使いになれますか?」と瞳を輝かせて質問する。
魔術師としての勉強は、もうすでに開始しているようで、来年から学園に通って勉強する予定の予習は、大分進んでいるらしい。
魔法使いとしての素質は、ほぼ生まれつきのものだ。魔力の流れが視覚で捉えられる者だけ。
ミオの見立てでは魔法使いでは無いと伝える。
「でも魔力は多いから、魔術師としては優秀だと思うよ。しっかりと自分のお父さんから教わるといいよ」
少し残念といった表情をしたものの、魔術師として優秀という判断をされ、嬉しそうにはにかむ。
食事をご馳走になり、祖国から帝国へと移住してきた当時の話等を聞いたりして、あっという間に時間は過ぎた。遅くなった事もあり、客室へ宿泊を進められたミオは、その言葉に甘える。
そして次の日の朝、ガルウィンからこんな提案をされた。
「帝国のダンジョンに潜るなら、ウチから通えばいい。何なら臨時パーティー組んで一緒に行こうぜ!」
ニカッと満面の笑みを浮かべ、誘うガルウィン。
「そうですね。いくらミオさんが強いとはいえ、新人には違いありません。私達ならば冒険者のノウハウも教えられますし」
「他の連中に絡まれないように牽制も出来るからな」
タイラーとラルクも賛成のようだ。
「センセイ、僕も賛成だよ。このメンバーは強いし、一緒に行動しても損はないと思うよ?」
「うん!じゃあ宜しくお願いします!」
そうして共に行動する事が決定した。
地下30階で活躍するミオは、Cランクへと早々にランクアップしている。グランドマスター権限で、面倒な手続きは免除。とても助かっている。
ダンジョン内では、干し肉等の保存食を食べるのが普通だが、ミオはアイテムボックスに詰め込んでいる料理を取り出し、ガルウィン達にも分けている。
時々セーフティエリアで声をかけられ、他の冒険者にもあげている。
今日はダンジョンでよく会うベテラン冒険者のゲイツさん(48歳・男性)と一緒にランチタイム。
「いやー。嬢ちゃんと会えてラッキーだわ。マジで。今日の飯は何?」
貰えないとは考えていないらしい。図太い精神の持ち主である。
「今日はコレ!じゃーん。おでん!」
「おー。煮物だな!」
「500シェルです」
「金とるのかよ!いや……ダンジョン内で食えるんだから、500は安過ぎか?普通はもっと絞り取るだろうよ」
「いいの。ゲイツさんはアイテムくれたから特別!」
「特別だったら無料にしてくれても……」
「それは無い」
「そうかよ!」
ポンポンと軽口を言い合う2人を、周囲は苦笑で見守る。
「それにしてもゲイツさんとこんな風に親しくなるとはなぁ」
ガルウィンは床に敷いたシートの上に胡座をかき、リラックスした状態で言う。
ソロでBランクのゲイツは、帝国でも腕利きで名を知られている。
単独で難しい依頼をこなし、達成率も高い。
貴族からの指名依頼も数多く請け負っている。
「それはコッチのセリフだぜ。余所の国から来た高ランカー様なんざ、鼻持ちならねぇと思ってたからな。話してみればいいヤツラじゃねぇか!」
おでんをモシャモシャと食べ、汁を啜り幸せそうに表情を弛め、お互いの今までの距離感は何だったのかという位に親しげに語り合う。
ちなみに貨幣については、
青銅貨=1シェル(1円)
銅貨=5シェル(5円)
大銅貨=10シェル(10円)
鉄貨=100シェル(100円)
大鉄貨=500シェル(500円)
小銀貨=1,000シェル(1000円)
銀貨=5,000シェル(5000円)
大銀貨=10,000シェル(10,000円)
小金貨=50,000シェル(50,000円)
金貨=100,000シェル(100,000円)
白金貨=1,000,000シェル(1,000,000円)
簡単にまとめるとこんなカンジ。日本円と似ていて計算しやすい。
「ミオ。照り焼きバーガーをくれないか?」
ラルクは最近照り焼きにハマっている。
「では私はエビマヨバーガーで!」
タイラーはマヨラーの気配がする。
休憩場所にいる他の冒険者も羨ましそうにチラチラ視線を寄越しているので、ミオは追加で出した。
「小銀貨ワンコインで売りまーす!」
「買う!2個くれっ!!」
「オレは5個だ!」
「色んな種類を一個ずつ欲しい!」
「ハイハイ。押さないでね。ちゃんとここにいる全員に渡すから」
ダンジョン内で会えた人限定で売っているので、冒険者達の間では出会えたら幸運だと囁かれている。
少々高くとも、味は最高だ。飛ぶように売れている。
運良く購入した者達は、ダンジョンから出たら自慢して歩くため、噂は広範囲に及んでいるが、ミオはまだ気が付いていない。
そんなのんびりとした生活が何日か続いたある日。ミオの携帯電話が鳴った。
―――母、アイコからである。
いつもならメールでしか連絡は来ない。
なぜ電話なのか……。
周囲には、離れた場所からでも話が出来る魔道具だと説明して、少し緊張つつも通話ボタンを押した。
「もしもし?お母さん?どうしたの?」
次のアイコの台詞によって、ミオの顔は真っ青になった。
「おい!ミオ!顔色が悪いぞ!何かあったのか!?」
「嬢ちゃん。大丈夫か?」
ガルウィンは直ぐ様反応して心配してくれた。
ゲイツも背中に手を当てて支えてくれている。
アイコはこう言ったのだ。
「ミオちゃん。夏休み終わるけど、宿題は終わってるの?」
と―――――。




