22,フィルの長男の役職は・・・。
ミオの冒険が始まりそうで始まらない。
「父上……なのですか?」
フィルを抱えたまま、ロマリオ帝国の冒険者ギルドに入り、冒険者登録をしようとするミオ達の前に、身長が2mはあろうかという巨漢の竜人が立ち塞がった。
「ん?ベガか!久しぶりだね。元気してた?」
フィルは幼竜の姿で尻尾を揺らす。
「あ、センセイ。この子はボクの一番目の息子だよ。280歳になったかな?ドラゴンの血が濃いから長生きするね!」
成る程。確かに砂漠で会った竜人族よりはドラゴンの風貌が見てとれる。顔に少しだが鱗があり、骨格もガッシリとしている。
フィルは人化すると完全に人族に見えるが、ベガと呼ばれた人物は元々このような姿なのだろう。
「以前砂漠に赴いた時には石化が進んでいたようですが、治ったのですね?……自分もポーション等は探していたのですが、父上の状態を治療できる程の効力のある薬は見付けられなくて……。ですが回復なされて安心致しました」
「うん。センセイが助けてくれたからね。紹介するよ!あー、でも別室の方がいいかもねぇ」
ザワザワと周囲が騒がしい。……それもそのはず。ベガは冒険者ギルドの中枢たる本拠地のトップ。数ある冒険者ギルドのギルドマスターを束ねる立場、グランドマスターの地位についている。
そのグランドマスターの父親が黒竜であるというのは有名な話だ。
そのベガが父上と呼ぶ、どう見ても幼竜にしか見えない存在と、小柄な女の子。
―――興味を引かれない訳が無い。
衆目にさらされていると今更ながらに気が付いたベガは、フィル達を自分の部屋へと案内した。
部屋の扉にグランドマスターの文字が掲げられてるのを見たミオは、
(冒険が始まる前にギルマスをすっ飛ばしてグランドマスターと面会とか、テンプレを越えたな……)
と、遠い目をした。
応接室のソファーに座り、フィルはミオに抱えられたままでリラックスしている。
ミオがお茶とともに出されたクッキーをフィルの口元に持っていくと、モシャモシャと食べる。
その様子を見たベガは、信じられないモノを見たような目をしていた。
ベガにとってフィルは威厳に満ち溢れた父親であり、尊敬する師匠でもある。
幼竜の姿をしているのも初めて目にしたが、それよりも少女を信頼しきっていて、警戒を少しもしていないのには心底驚いた。魔力で父親だと即座に判別したが、それが無ければ現実逃避したくなるような光景だった。
会話をする前にベガは結界を張り、外部からの干渉や、こちらの声が漏れないようにした。
「それで父上、そちらの方は……?」
「ああ。ベガは初めて会うよね!ボクに魔法を教えてくれたお師匠様だよ。センセイって呼んでる」
ベガは、ハッと息を飲んだ。
「父上の師匠と言えば、伝説の魔女レイラ様であると記憶しておりますが、伝え聞いている容貌とは違うような……それに儚くなられたと耳にしたのですが……」
「センセイ。ボクの息子に教えてもいい?」
ミオが頷くと、フィルは話を続けた。
「そう。ベガも知っての通り、センセイは一度亡くなったよ。でもね、魂の回帰により転生したんだよ!スゴくない?!今の名前はミオって言うんだよ」
興奮して鼻息も荒く、尻尾も絶好調にフリフリしている。
ミオは紹介されて目が合ったのてで、軽く会釈した。
「その様なことが可能なのですね……流石は伝説の魔女様です!」
熱く語るフィルに感化され、ベガも拳を握り締め相槌をうつ。
「―――それでね!センセイがエリクサーを飲ませてくれて治ったんだよ!」
状態異常が治った経緯を聞いたベガは、お茶を吹いた。
気管にも入ったのか、話をしようとしても出るのは声ではなく咳ばかり。……鼻からも少しお茶が出たのでコッソリと拭いた。
咳き込み過ぎて顔が真っ赤になり熱を持つ。ようやく咳がおさまり、先程の言葉を問いただす。
「え、エリクサー……ですか?」
「そうそう。ここだけの話にしてね!そんなスンゴい薬を持ってるなんて知られたら大騒動だよ」
「………でしょうね……。ミオ様、父を助けていただきありがとうございます」
大柄な体格に似合わず、謙虚な態度を崩さないベガは、伝説の薬により父親が救われたと聞き、頭を下げて感謝を伝えた。
そして頭を下げたまま、冷や汗を流しながら考える。
(エリクサーなんて最上級の薬がオークションに出品されたら、最低でも10億。権力者が金に糸目をつけない場合は桁がさらに上がる……!)
「なんとか工面してエリクサーの代金をお支払致しますので、お時間を頂けますでしょうか……!」
だがミオは首を振る。
「可愛い教え子の為だもの!代金なんていらないよ!」
「ですがっ!!」
あまりに希少価値の高い薬に、対価も支払わないのは如何なものか。
真面目なベガは悩んだが、当のフィルはケロッと言い放つ。
「センセイはまだ何個もエリクサー持ってるんでしょ?好意に甘えるよ!」
―――ベガは信じられない言葉を聞き固まった。
ベガは普段は威厳のあるグランドマスターです。フィルの前では少し遠慮がち。




