21,見習い魔術師
イツキ視点です。
「そっち行ったぞ!」
ケンは突進して来た魔物に、投げナイフで牽制して勢いを削ぎ、方向転換をさせて誘導する。
「任せて!ストーンバレット」
イツキの土魔術による石の礫が、フリルのついた服を着ている角の生えたイタチに直撃した。それが致命傷だったようで、イタチの魔物は光の粒子となって消えた。
残されたのは魔石とブローチのドロップ品。
此処はガインズ国にあるダンジョンの1つ、【お伽の国の迷宮】である。
可愛い見た目の魔物が、服を着て闊歩しており、またダンジョンの内装もやたらとメルヘンチック。その為、初心者や女性に人気が高く、逆にベテラン勢や男性冒険者からは敬遠されがち。
初心者向けのこのダンジョンに、ケンとイツキは冒険者登録を済ませて直ぐに来た。だが2人だけではない。
もう1人は灰色の髪と瞳、身長は160cm程の細身。年齢は15歳位の外見の男の子。人化の術で姿を変えた鼠族のテトである。
テトは余程の危険が無い限り、2人の行動に手は出さないようにして、周囲の警戒をしていた。
トールや鬼人族のヒューゴも付き添いを申し出たが、過保護かつ過剰戦力となるので、ミオが許可しなかったのだ。
接待ゴルフならぬ、接待探索など楽しさ半減だ。
……そう、日本人が求める浪漫に欠ける!
ケンとイツキは、無理をしないとトール達に約束をしていた。
夏休みに入ってからもう2週間が経過。修行を重ねようやく魔女のダンジョンを出る事を許された2人は、テトの護衛が付くのを条件として、冒険者活動を開始した。
当初の予定では、芦屋家のメンバーでパーティー登録をするはずであったが、アイコはこちらの世界に来てからというもの、アクアとフィオーレと一緒に料理をしている方が楽しいらしい。冒険者登録は見送るようだ。
トシヤは魔術師としての実力は十分に備わっているものの、魔女レイラの図書館での読書に時間を使いたいと希望した。あの様子では、クレイに本を取り上げられるまで、寝食を忘れて本に夢中になりそうである。
ミオとフィルは、ガインズ国から離れたロマリオ帝国にて冒険者登録をした。
難易度の高いダンジョンに挑戦するためなのだが、こちらは言うまでもなく最強コンビだろう。
初心者ならば最初の討伐はゴブリンや芋虫などが一般的ではあったが、ケンのグロ耐性の低さから、こちらのメルヘンチックな要素溢れるダンジョンが選ばれた。討伐に徐々に慣れるよう配慮された形である。
可愛い生き物にトドメを刺すのにも覚悟がいる。そんな事を思ったケンは「あいつらは敵なんだ!」と、何度も自己暗示をかけて乗り越えていた。
―――ここに来るまでの過程を、イツキは思い返していた。
夏休みに入り、塾の夏期講習に通い、22時を過ぎて帰宅する途中での出来事であった。
不意に足元を踏み外す感覚があり、マンホールの蓋が開いてたから落ちたのかと思い胆が冷えた。
悲鳴を上げずに済んだのは、直ぐに足がついたからだ。
多少体勢は崩したものの、転ぶまではせずたたらを踏む。
ふと顔を上げると、月と星の明かりに照らされ、反射した光でうっすらと白く見える大地。見渡す限り人工建造物は無し。
今までの建物や街灯、そして車のライトの光に溢れた風景とはかけ離れた大自然の中にイツキはいた。
「………は?」
理解不能。
イツキは思考停止して、無意識に眼鏡の位置を直す。
酷い夢だと思った。だってありえない。
だけど吹き付ける風の冷たさも、荒野の土の匂いも、拾い上げた石の感触のどれもが現実だと実感させられた。
なんで?何か予兆はあったか?ただ歩いていただけなのに。
とにかく人の住む場所に出なければ、野生動物と遭遇なんて洒落にならない事態に陥りたくはない。イツキはとりあえず移動する事にした。
月明かりの下、足場が不安定で進むのにも気力と体力を使う。
何時間歩いただろう。空が明るくなりだし腕時計を見ると、午前4時半だった。
―――ちなみに、小説みたくステータスが見れるかとか、魔法は使えるか等を確認するために、色々呟いてみたが全て空振りだった。
(人前では絶対やれないな。かなり恥ずかしい)
そんな実験をしながら歩いていたが、疲れがピークに達し、近くにあった岩の隣に座りもたれかかった。
疲労と眠気に負けその場に横になると、あっという間に意識は沈んだ。
「※※※※※※※!」
どれ程の時間が経過したのだろう。
どこの国の言語か判らない言葉が聞こえ、その声に耳をすまし、ぼんやりと考えていると肩を揺さぶられた。
意識が浮上し重い目蓋をようやく開けると、中世の外国の兵士のような格好をした男性がいた。
「※※※※※※※※※※!?」
歩き疲れてダルい体をゆっくりと起こして座る。男性が続けて何かを言っているが、サッパリ理解出来なくて首を傾げた。
コスプレイヤー………ではないよな?
見たことの無い荒野で、やたらと使い込まれている軽鎧を身につけている、明らかに日本人では無い男性。
英語ならば多少は話せるが、目の前の男性の言語は、イツキが今まで聞いたこともないものだった。
男性は懐から名刺のようなカードを出し、説明をしているようだ。
(もしかして身分証があるか聞いているのか?)
とりあえず無いと伝えるために、そのカードを指差しながら首を左右に振り、持ってないとジェスチャーで伝えた。
兵士姿の男性はタメ息を吐くと、ついてこいと言う風に手招きをした。
そして馬車まで誘導される。
その馬車の荷台はまるで……というか見たまま、犯罪者を搬送するような鉄格子がはまった窓枠があり、半分檻のような見た目になっている護送車だった。
御者をしていたもう一人の兵士が警戒をしながら近づいて来て、檻の鍵を開けた。
(向こうの2人は腰に剣を佩いているし、逆らったら危険だよな)
イツキは大人しく檻に入り、中にいた先客を見た。犬っぽい耳と尻尾を持った幼児が3人。
随分とコチラを警戒して檻のスミに下がり、身を寄せ合っている。
(うわっ!獣人?本物?……って言うか、ここって異世界ってことなの?!)
表面上は取り繕いながらも、内心は混乱して疑問符だらけだ。
そして護送車のような馬車は走り始め、荒野を突き進んで行く。
空に太陽が昇り大地を照らすと、暗がりでは見えにくかった荒野の景色が鮮明になった。
石畳ではないが、馬車の走っている地面は固められた土のようで、周囲の荒野とは違い、きちんと整備されているらしい。だがもちろん日本のようにアスファルト舗装などがあるわけもなく、轍や窪みが沢山できていて、車輪がとられる度に跳ねあがる。
荷物のように運ばれる身としては、乗り心地は最悪と言ってもいいだろう。
照りつける太陽が上に来た頃、ようやく人がいる場所へと到着。門を潜り抜けると景色は一変した。
緑豊かになり、遠くにはキラキラと光を反射している湖があり、その向こう側に街が見える。
門を通り抜けてすぐに街へと入るわけではなく、おそらく外敵対策の壁が人里の周辺を囲んでいるようだ。
喉が渇き、背負っていたリュックからミネラルウォーターのペットボトルを出して飲む。ついでに携帯をチェックしたが、当然圏外だ。
タメ息を吐き携帯の電源をオフにした。
ふと視線を感じて目線を上げると、獣人の子供達がじっと見つめていた。
正確に言うと、イツキを見ているわけではなく、水のペットボトルをなのだが……。
「そうだよなぁ。ノド渇いてるだろ?もう一本あるから飲むか?」
リュックから取り出して見せるが、身を寄せあっている子供達は唾を飲み込み、目を離さずに水を見ているものの、動こうとはしなかった。
「あー。言葉もわからないんだよね。どうしよう」
とりあえず少しずつ距離を詰めて、ペットボトルのキャップを開けた状態で渡す。
自分用に開けた方のペットボトルを口にあてて飲み方を教えると、一番年長の男の子が受け取り一口飲んだ。
パァっと表情を輝かせ、他の2人へと飲ませる。
「※※※※※!」
おそらくお礼であろう言葉を言い、ニッコリと笑顔を見せる子供達。
イツキはホッコリと和んだ。
一定の距離は保ちつつ、雰囲気は幾分か軽くなったようだ。
そんな交流を続けていると、今度は先程よりも大きな門が近づいて来た。街へと入る城門のような堅牢な壁が続いている。
まばらな人並みの外壁周辺から、街の中心部へと向かっているようだ。徐々に行き交う人が増え、民家だけではなく店も並ぶ通りに来た所で、馬車が大きく揺れ、突然停止した。
兵士の2人が降りて馬車の点検を始める。どうやら車輪部分の故障らしい。
一人がどこかへ出掛け、もう一人は残るようだ。
(なんか美味しそうな匂いがする)
どうやら馬車が停止している隣の建物はレストランのような食事処らしい。
(お腹空いたなぁ……)
何気なく建物の出入口をぼーっと見ていると、人が出てきた。
(えっ!?あの人達はもしかして!)
「あっ、あの!ケン君のお父さんですよね。す、スミマセンが助けてくれませんか……!!」
慌てて立ち上がると、格子を掴み声をかけた。
やはり同級生の両親だった!兵士へと交渉してくれて、解放されたときは安堵のあまりに座り込んでしまった。
気になった獣人の子供達について確認すると、あの子達は孤児院へと連れて行かれるようだ。
きちんと生活が出来るようにサポートする体制が整っている、しっかりとした国だと教えられて安心した。
異世界初の買い物をさせてもらえた時は、子供のようにワクワクしながら選んだ。
それと、ケンのお父さんが魔術師だと知り、自分も教えてほしいと懇願した。もしかしたら人生で一番ドキドキしているかも!
絶対に魔術を使えるようになりたい!!
その後、拠点であるダンジョンまで移動した。瞬く間に別の部屋へと転移して、扉をくぐったら沢山の人(?)がいた。角や牙、羽根など持ち多様な姿をしている。芦屋夫妻は平然としており、この場所に馴染んでいるようだ。
なんか大きなハムスターと話をしているようだけど、「キューキュー」鳴いているようにしか聞こえないんだけど……。
やがてケンがやって来て心配された。
その後ろにはやたらと美形な青年が付き従っていた。
(ケン……何なの?状況とか経緯とか教えてほしいんだけど……!)
さらにケンの妹が登場すると、周囲に緊張が走り、一斉に頭を下げているのを見た時は面食らった。
ケンがコッソリ説明してくれたところによると、妹さんはこのダンジョンの主らしい。
(どうしてそうなった!!)
ともあれ妹さん改め、ミオちゃんが日本とコチラの世界を行き来して送迎してくれるようなので、ハンバーガーを食べたがってるケンと一緒に日本へ戻った。
自宅へと一度帰宅して、両親へメールする。
『クラスメイトの芦屋ケンの家に泊まりに行きます。やりたい事が見つかったので塾は辞めたい』
すると、いつもはメールの返信なんて次の日とかもザラだったのに、すぐさま返ってきた。
『反抗期?』
父は心配してるのか、していないのか……。
『成績は落とさないようにする。でも今は他に打ち込みたい事が出来た!』
『なら頑張れ。母さんには俺から伝える。塾にも連絡しとく』
放任主義ではあるが、見放されてるようには感じない。
今までで一番理解を示してくれているように思え、嬉しさで感動してしまった。
ダンジョン暮らしが始まり、ケンのお父さんを「芦屋先生」と呼び、魔術の勉強がスタートした。
2日で【ライト】の術を覚えたら、ケンとケンのお母さんに歯ぎしりして悔しがられた。
2人は習得に3ヶ月かかったらしい。
「イツキ君は魔術師の才能があるね!」
芦屋先生の指導に熱が入り、順調に土系統の攻撃魔術と、風系統の攻撃魔術を使えるようになった。
そして2週間が経過して、冒険者登録をするのを許された。
気になっていたミオちゃんの実態も教えてもらい、敵にまわしてはいけないと心に誓う。
(転生した大魔女とかスゴすぎる!)
ミオちゃんからは色々なアイテムを貰った。
定番のマジックバッグにポーション類各種と、防御魔法が付与されたローブや腕輪。ダンジョンに帰還するための魔法具もある。
(普通はこういったマジックアイテムを入手する為に冒険者になるんじゃないかなぁ……)
まさしく至れり尽くせり。
「まぁ心配性だよなー。でもあって困るモンでもねぇし、いいんじゃね?」
ケンは楽観的にそう言い放ち、自分に与えられたマジックポーチに武器や道具を詰め込んでいた。
「ミオはこれからどうすんだ?」
「私?フィルと一緒に高難易度ダンジョンに潜るよ。あのね、ダンジョンの宝箱から出る物品が進化してるんだって!マジックバッグってもう古いらしいよ。今は収納腕輪が最先端だって!絶対にゲットして来るからーーーっ!」
怒涛の勢いで言い、フィルを抱っこしたまま駆けて行ってしまった。
「あいつは収納魔法があるから、必要ねぇんだけどなぁ」
「マザー……あ、えーっと、ミオ様は、収集家だからな」
トールが呼び方を訂正しつつ、行動原理を説明する。
ミオは『様』を付けずに呼んでほしいようだが、ダンジョンの住人はミオを敬うのが当然なので無理だった。
「じゃあ俺たちも外に出て、冒険者登録しようか。ガインズ国だっけ?」
イツキはトシヤから貰った杖を握りしめ、期待に満ちた瞳で前を向く。
「おう!そうだな。行こうぜ!テトも宜しくな」
ケンが人化の術で少年の姿になったテトに声をかける。
「はいデス!」
灰色のふわっとした短髪に、シルバーがかった灰色の瞳の少年となったテトは、元気良く返事した。
トールやヒューゴは悔しそうに、あるいは羨ましいそうにテトを見る。
『自分達もついて行きたかった!』と、顔に書いてあるかのようだ。
イツキはまだまだ魔術は勉強したての見習いだが、冒険者として活動しつつ魔術の修行を継続する。
ゲームでは無い。リセットのきかない冒険がスタートした。
スミマセン。お久しぶりです。書いては消しの繰り返しをしておりましたが、悩んでいてはいつまで経っても進まないので修正とか気にせず、思いきって投稿に踏み切りました。のんびりの投稿になりますが、どうぞ宜しくお願いします。
続きを読みたいとおっしゃって下さった方々に、この場をお借りして感謝申し上げます。感想ありがとうございます!




