20,落ち人は同級生
着実に異世界に馴染む芦屋家。そこに新たに加わるメンバーが!
鬼人族と鼠族の協力を得て、ケンの修行は順調に進んでいる。
だが武器を用いての戦闘訓練は、投擲武器のみ。剣で切り伏せる筋力も培われていない状態なので、徐々にならしていった方がいいというのが、指導しているヒューゴの見立てである。
そのためスピード重視で攻撃を躱しつつ、ナイフ等の投擲訓練が中心となっている。
それと、新たな魔術の会得に成功した。【罠感知】と【解錠】の2つだ。
ちなみに魔術ではないが、【罠解除】の技術も身につける事が出来た。
ケンが冒険者になるとしたら、【斥候】となるだろう。
前衛としての才能は、残念ながら見込めないが、補助的役割の適性は高い。パーティーを組むとしたら、引っ張りだこになる存在だ。
ケンは魔女のダンジョンの訓練用の施設がある階層で、ひたすら特訓を重ねていった。
その頃、トシヤとアイコは当初の予定通りに、ガインズ国のミスティザードに来ていた。
護衛としてイグニスとクレイが武装しており、また、アクアとフィオーレは侍女として随伴していた。
日本では平均的な身長と体格であったが、この世界では小柄で華奢に見える2人。だが人の良さが品格として滲み出ているのか、貴族のお忍びであると周囲からは認識されているようだ。
「買い物の軍資金として好きに使ってね!」
そうミオから渡された財布には、空間収納魔法がかけられており、中には豪奢な屋敷の1つや2つが余裕で購入出来てしまう程の金銭が入っていて、トシヤは思わず遠い目をしてしまった。
だがお金を貰ったものの、実際に買い物をする時は、トシヤが支払うことは許してもらえなかった。
そういう行動は、使用人としてついてきている者がするべきであると、アクアに諭され頷いた。
最初は遠慮する気持ちがあったが、身の回りの世話や護衛、さらに活動に対して不自由な思いをさせてはならないと、ミオからの指示を受けている面々に迷惑はかけられない。
トシヤはエターナリアの世界の常識を知っているので、アイコよりは馴染むのが早かった。
それに実は、トシヤの前世の身分が高かった為、人に世話をされるのは慣れていたのだ。
だが、まぁそれは別のお話。
服や装飾品を買った後、昼食を摂るために店へと入った。
勿論先に席を予約してある。
前世で味わった料理よりも多彩なメニューが並び、トシヤは進歩した食文化に感動した。
アイコは名物の魚の煮込みに舌鼓を打ち、高原で放牧されている牛の乳を使ったヨーグルトを絶賛した。
まるでとろけるチーズのように伸びる、ツルツルとした食感のヨーグルトは今までに食べた事が無かった。ジャムを入れて甘さを調節するのだが、ジャムは数種類の果実から作られた物が並び、色々な味を楽しめた。
地球のケーキのようなデザートは未だに開発されていないようだが、それでも満足する食事だった。
幸せそうに微笑むアイコの手を取りエスコートする。
店の外に出ると、荷台が檻になっている馬車が停まっていた。どうやら車輪の調子が悪いらしい。
不意にその檻の中にいた人物の1人が、慌てた様に立ち上がり、トシヤに声をかけた。
「あっ、あのっ!ケン君のお父さんですよね。す、スミマセンが助けてくれませんか……!!」
見るとそこには、パーカーにジーンズ姿で高校生位の、眼鏡をかけた男の子がいた。
トシヤも彼の顔には見覚えがあった。
「あれっ?君はケンの同級生の榊イツキ君じゃないか?どうしてここに?」
「オレにも分からないんです。昨晩の塾の帰りに、穴に落ちたら……その、荒野にいまして……」
イツキは自分でも訳が分からないといった風で、現状に戸惑いを隠せないようだ。
「とりあえず出して上げるよ。イグニス、お願いしていいかい?」
「はい。承りました」
イグニスとクレイは、馬車の持ち主の人物に交渉しに行った。
馬車の持ち主は治安維持のための一般兵のようだった。
巡回中に荒野で倒れている人物を発見して職務質問したが、身分証も持っていなかったので、聴取の為に連行する途中だと言う。
実に正しく忠実な仕事ぶりだ。
だがここでイグニス達により、誘拐されていた身内であると伝え、【レイルズ商会】という、ダンジョン関係者が経営している店の名前を出し、身元を保証した。
レイルズ商会という大店の保証をちらつかせられた兵は、
「では確認のため、店まで同行致します」
規範に乗っ取った正しい行動を宣言した。
それには、アクアが通信術を飛ばし、店の関係者に口裏を合わせるよう指示をして、店に着いた時の応対をしてもらうことによって無事に解決した。
トシヤが身元を引き受けた途端に、イツキは安堵のあまりへたりこんでしまった。
「一晩行方不明だったら、親御さんが心配しているのではないかしら?早く帰らないとねぇ」
アイコは自分の頬に手をあて、オロオロとしている。
「いえ。両親共に医者でして、昨晩は帰らない予定だったので大丈夫です」
トシヤに支えられながら立ち上がると、アイコを安心させるように言う。
「そうかい?でも一応、友達の家にいると連絡を入れたらどうかな?」
「えっ?携帯繋がるんですか!?」
驚くイツキに対して、トシヤは苦笑いだ。
イツキの疑問点も当然だ。異世界に地球の電話会社の電波塔が有るハズも無く、通常ならば携帯は使えない。
トシヤは首に下げているペンダントを持ち上げて見せた。
「これは日本とエターナリアの一部を繋いで、携帯電話を使用できるようにした魔道具だよ」
「……ここってヤッパリ異世界なんですか?って言うか、帰れるんですか?」
半信半疑で問いかけるイツキに、トシヤとアイコは頷いて肯定した。
イツキは右手で目元を覆い「はぁーーーっ」と息を吐き「良かった……」そう呟いた。
その後、レイルズ商会の応接室で、イツキが落ち着くまで居させてもらった。
その合間に、アイコとアクアとフィオーレは、店で買い物をしている。
「イツキ君も何か欲しいものがあったら買ってあげるよ。お金の心配はしなくていいよ。異世界で買い物なんて滅多に出来ないから、いい記念になると思うよ?」
「あー。そうですね。お言葉に甘えさせて貰ってもいいですか?」
少し心に余裕が出て来たらしく、イツキは照れ臭そうにしながらも商品を見に行った。
やはり魔道具が気になるようで、定番の物品鑑定眼鏡をじっと見ていた。
「異世界と言えば鑑定よねぇ~」
アイコは微笑ましそうに見た後に、その品を包んでくれるように店員にお願いした。
「あ、この魔術書読みたい!これも買おう!」
トシヤは何冊か魔術書の購入を決めた。
「魔術?使えるんですか!?」
イツキはビックリしてトシヤを見る。
「うん?ああ、まあね。ボクは魔術師だからね」
「凄い!!オレも魔術を勉強したら使えるようになりますか?」
イツキは期待に胸をふくらませ、キラキラとした眼差しをトシヤに向けた。
「ケンも少しは使えるようになったし、可能性はあるね」
「教えて欲しいです!お願いします!」
「あらあら。やっぱり興味が出るわよねぇ。アタシも教えてもらったのよ!まだ【ライト】しか使えないけど」
アイコは「ふふっ」と笑う。
「とりあえずいったん拠点へ帰ろうか」
買い物を終えた一行は、レイルズ商会の空き室を使わせてもらい、全員で魔女のダンジョンまで転移した。
「ケンはいるかい?」
トシヤは近くにいた鼠族のミトに声をかける。
「おかえりなさいませ。ええ、ケン様は訓練が一段落しまして、現在は休憩中のようです。只今お連れしますので、少々お待ち下さいませ」
小さい身体を折り曲げ、ペコリとお辞儀すると、瞬く間に姿が消えた。
「まぁ!忍者みたいねぇ!」
アイコは嬉しそうにはしゃいでいる。
イツキには、大きなハムスターがキューキュー鳴いているようにしか聞こえなかった。
一瞬にして移動したのにも驚いたが、到着した先にいたのは、どう見ても人外ばかり。
(異世界人って色んな種族がいるんだな)
これが普通なんだと思い込むイツキ。
部屋でくつろいで待っていると、タオルで髪から滴り落ちる水分を拭きながら、ケンが歩いて来た。
そしてケンがイツキの存在に気がつくと駆け寄る。
「イツキ!どうしてここに!?」
ケンはイツキの肩を掴んだ。
「ケン。彼は次元の狭間に落ちたんだろ。この世界では落ち人と呼ばれているな」
ケンの後ろから、トールが声をかけた。
「マジで!?落ちたの?大丈夫かよ」
「あ、ああ。怪我は無いよ。突然荒野に出て彷徨ったけどね」
肩を揺さぶられながら答える。
「親が心配してるだろ?直ぐに帰るのか?」
「親は今仕事で家を空けてるから、大丈夫だよ。それよりケンのお父さんから魔術を教わりたいんだ!親にはケンの家に泊まりがけで勉強会しに行くって伝えるから!……あ、でも着替えとか用意しにいったん家に行きたいな」
「お、おう」
高校の同じクラスで、いつも大人しい優等生なイメージのあるイツキが、やたらと食い気味に言うのに対し、ケンはちょっぴり圧倒されて後ずさった。
と、そこへ、
「たっだいま~っ」
ミオの声が聞こえた。
周囲にいた者が、家族とイツキを除いて、一斉に頭を下げた。
「えっ?」
戸惑うイツキをよそに、融機人達がミオの元へと集う。
「お帰りなさいませ。あら、フィルガズィール様もご一緒でしたか。お久しぶりでございます」
アクアがミオの脱いだローブを受け取りながら、フィルへと挨拶をした。
「うん。久しぶりだね。またセンセイと旅をしようと思って来ちゃったよ」
人化の魔法を解き、竜の姿をしているフィル。だが成竜の姿では移動が不便なので、幼竜に変化してミオに抱えられている。
嬉しそうに尻尾を揺らし、ミオにしがみつく。
「お父さ~ん。この子ね、私の弟子なんだよ。黒竜のフィルガズィール。フィルって呼んで~」
両前足の脇に手を差し込み持ち上げ、トシヤに向けて見せた。
尻尾をフリフリして愛想良くするフィル。
「あ、ああ。宜しくね」
トシヤは唖然としながらも返事を返した。
「まぁ!可愛いわ!アタシも抱っこしたい」
手を広げて迎え入れるポーズをするアイコに、フィルを渡す。
「私のお母さんだよ」
「フィルです!ヨロシク!」
「まぁ!ヨロシクねぇ」
嬉しそうに微笑むアイコとフィル。仲良くなれそうだ。
「え?ドラゴン?大丈夫なの?って言うか、皆は言葉が分かってるの?」
イツキは多少混乱しているようだ。
「あー。イツキにもこれヤルよ」
ケンはポーチの中から、言語理解の魔法が付与された指輪を取り出して渡した。
「言葉が分かる指輪。調整機能付きだから、安心してくれ」
ケンに渡された指輪をさっそく着けると、指に合わせて丁度いいサイズになった。
そこでようやくミオが、第三者の存在に気が付いた。
「えっ?誰?」
「俺の同級生。この世界に落ちて来たんだと」
「うわぁ。それは大変だったねぇ」
目を真ん丸くして驚くミオ。
「ん?もしかして、ミオから見ても落ち人って珍しいのか?」
「うん。次元の穴は空に現れる事が多くて、落ち人って言葉の通りに、空から落ちて来るのが大半なんだよ。無事に生きてるのが珍しい」
「うわっ。生きてるのが珍しいのかよ。物騒だな。てかイツキ、無事で良かったなぁ……」
「……ホントにね……」
若干顔色が青ざめつつ、声を絞り出すイツキ。
「イツキは父さんから魔術を教わりたいんだと。一回家に帰って旅支度したいってさ。転移魔法で送迎してくれよ」
「ん?いいよ。今行く?」
「センセイ。ボクも一緒に行きたい」
フィルはアイコの腕の中でジタバタした。
「うーん。ちょっと今回はパスかな。フィルはお留守番だね」
「え~っっ!」
ショックを受けるフィル。
「ハンバーガー食いたいから俺も行く」
ケンは収納魔法が付与されたウエストポーチの中から、日本でいつも使っている斜めがけバッグを取り出した。
「よし!行こうぜ!」
「じゃあ2人とも私に掴まってて!」
―――こうして、ケンの同級生のイツキは異世界で救助され、エターナリアと往復する生活を送るようになったのだった。
トシヤに家族以外の弟子が出来ました。




