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18,砂漠の守護者

フィルガズィールが主役回です。

ああ、僕が師匠(せんせい)に初めて会ったのは、約2千年前の事になるんだなぁ。何だかとっても懐かしいよ。



母上が僕を産んでから、体調を崩してしまっていて、知り合いの人族に預ける事に決まった。

母上の名前はサツゥァラフィーリャ。僕と同じ黒竜だ。

竜は5~6千年位生きるらしいが、母上は4千歳。

子を産むのは約2千歳位が適齢期のようで、僕を産んだ時はだいぶ高齢出産だったみたい。


体調を整え、ゆっくり休養を取る為に、レイラと言う名の魔女が僕の世話をしてくれると説明された。

なんとその魔女は、母上の倍は生きているとの事だ。


……それってもう人族じゃあないだろ。


父上は氷竜で極北の地に住んでいるが、会ったことは無い。

まぁドラゴンなんて種族はそんなものだ。機会があれば会えるだろう。


師匠に最初に会った時は、キラキラ銀色に光る妖精種かと思った。

声は鳥の声音よりは低いが、渓谷を吹き抜ける風を切る音よりはまろやかで高い。


あまり表情を変える事は無いが、雰囲気は暖かい。

僕を抱っこするのが好きなようで、いつも抱えて歩く。

あんなに細い腕なのに、自分の半分の背丈はある僕を持ち上げても、ふらつきもしないのは何でだろう?

身体強化だろうか、重力制御だろうか。


これから魔法使いの弟子になるのだから、いっぱい教えて貰えるに違いない!


ワクワクして尻尾をピタンピタンと打ち付ける。


師匠は難しい学問を語るような教え方はしなかった。様々な魔法を見せてくれて、魔力の流れを感じる手法を取り、真似をして覚えていった。

それに色々な場所へ連れて行ってもらった。今までは母上が作った巣穴の中でのみの活動だったので、見る景色の全てが目新しく映った。

巣穴と言っても、ダンジョン程では無いにしろ、とても深い洞窟だ。

時々涌いて出る魔物は、狩りをする練習になったり、そのまま餌になったりした。だが、代わり映えの無い巣穴とは違い、世界は広いのだと実感させられた。


海に行った時は、湖と違って塩辛い水に驚いたし、山では深い木々の中から果実を探し出すのに夢中になった。

一番印象深かったのは、やはり砂漠だ。

照りつける太陽の熱や、焼けるような砂の大地は、暮らすのには不向きだと思ったが、なんと此処には、か弱い人族が住んでいるらしいじゃないか!

ドラゴンでもキツいのに、どうやったらこの灼熱地獄に耐えられるというのか?

師匠に聞いても、魔法はそれほど得意な種族では無いと言うし。


なんていうか人族に物凄く興味が出た!


ドラゴンであれば、基本的に自分に合った土地を探して場所を決めて移動するが、人族は産まれた土地に順応してずっと同じ所に住むのだとか。


でも砂漠に水と果物が無いのは大変過ぎると思うんだ!

師匠にお願いしたら、オアシスを造ってくれた。その周囲には、美味しい果実が沢山実っている木々も生えている。


スゴい!師匠は何でも出来るんだ!


「センセイ!いっぱい魔法を教えてね!」


グルグルと師匠の足元を駆け回ると、抱き上げられて頭を撫でられつつ、先程の言葉に頷きを返してくれた。



それから百年位魔法を教わり、僕の母上の体調が良くなると、一旦マンツーマンの授業は終了となった。


もちろん師匠とはそれっきりという訳では無く、何度も再会しては魔法を教わっていたが、付きっきりではなくなったので、少し……いや、だいぶ淋しく思ったが我慢した。


オアシスは僕のお気に入りの場所になり、入り浸っていたが、人族が黒竜を恐れて逃げて行くのがショックで、人化の魔法を使った。

砂漠の民とは違って白い肌だが、オアシスは色々な人種が集まって来るので、あまり気にされずに済んだ。


だが何年経っても年を取らず、また人族の魔術は使えない為、あっさりと魔法使いだとバレた。


露見した当初は遠巻きにされたが、実害が無いと知れると打ち解けた。

砂漠の砂嵐からオアシスを護っている姿を何度か目撃されていて、ありがたい存在だと認められたのが大きい。

時折、手土産などを渡され、感謝の言葉をかけられたりもした。



千年を過ぎた頃には、僕にとって人族は、オアシスと同じくらい大切で護るべき対象になっていたんだ。



オアシス周辺の見廻りから始まり、徐々に範囲を拡げて、いつしか砂漠のほぼ全土を視野にいれ、人々を魔物や砂嵐から救う存在になっていた。


その過程で、僕が黒竜だと知られてしまう場面もあったけど、砂漠の民との信頼関係が揺るぎないものとなっていて、問題なく接してくれたのが嬉しい。



人の姿になりオアシスで寛いでいると、砂漠を横断して商品を運ぶ商会の子供達に懐かれた。

師匠が僕の世話をしてくれていた時を思い出し、抱っこしたりしてあやしてみた。

弾ける様な笑顔とはしゃぐ声に癒される。


―――師匠も同じように思ってくれていたのだろうか。


時折ふとそう考える様になった。


その商会は何度もオアシスを訪れ、子供達はどんどん成長していく。

人族の成長はドラゴンと比べると、河の水の流れの如く早い。あっと言う間に手をすり抜けて行ってしまうのだ。


その中の1人の少女は特に、逢う度に最上級の喜びの感情を隠す事無く伝えて来た。


それが少女からの求愛行動だと気が付くと、途端に僕にとっても彼女が特別な存在になったんだ!


でも生きる時の流れが違い過ぎる。彼女は同族と付き合うべきだろう。

だが彼女はそんな僕の考えを一蹴する。


「寿命が違うからこそ、今この瞬間を1分1秒でも無駄にしたくないわ!さっさと観念して結婚してちょうだい!!」


なんと逆プロポーズされてしまった。


―――砂漠の民の女性は芯が強い。


母上に伝えると、


「ドラゴンの結婚適齢期である2千歳になるし、いいんじゃない?」


あっさりと返される。


あ、種族とかは問題にしないんだね。

その理解と信頼に感謝です!

まだ僕は2千歳では無いけど、母上にとっては誤差なのかな?


母上はドラゴン年齢でかなりの高齢。もしかしたら孫の顔が早く見たいのかも。


師匠にも通信魔法で連絡を取り、結婚式に招いた。


師匠は長年の研究から【融機人】やゴーレム、さらにダンジョンをも創造してしまっていた。


何処までも天才的な師匠は、どれ程修行を積み重ねても追い付ける気がしないよ。


結婚式と披露宴もお開きになり、師匠と話す時間が取れた。


もっと魔法を教わりたいと伝えると、師匠は珍しく表情を陰らせた。


そして自分の耳を疑う言葉を放った。


「私はそろそろ寿命のようなの。終の棲家も用意したわ。フィル、会えるのも最後かも知れないわね」


淡々と告げる言葉に、本人ではなく、周囲に控えている融機人達が苦しげな顔をする。


「センセイ何を言ってるの?冗談だよね……?」


震える声で問いかけてみても、師匠は発言を撤回しなかった。


師匠は冗談を言わない。


僕は真実だと理解すると、鳥肌が立ち、心が恐慌状態になった。


―――師匠がこの世から居なくなる?


そんなの今まで想像もしなかった。悠久の時を生き、これからもその生が続くと信じて疑う事の無かった存在は、心の支柱となっていた。


だが、いつまで経っても師匠は否定の言葉をくれない。


「可愛い教え子の祝いの日に、こんな話をしてしまってご免なさいね。でも今言わなくてはいけないと思って……」


深夜まで続いた宴の後に、並んで座っていた師匠は夜空を見上げていた。


何処までも深い漆黒の空に、輝く星々と月が浮かんでいる。


銀糸の髪が月明かりを受けて、淡く虹色に煌めいている。


まるで師匠の魔力のように……。




それから約3百年経過してからだ―――師匠の悲報が届いたのは。



オアシスの水量が年々減り、師匠の容態が良くないのは察していた。


この土地を去るのを決めたのは、水が減っているのを実感して直ぐ。


グズグズしていては、愛しい妻サラの子孫を護れない。


オアシスから西南に少し行った場所に、かつてダンジョンであった地下の街を発見した。

地下5階層までしか無い其処は、もう機能しておらず、ダンジョン核も失われていた。


師匠の様に魔力を結晶化させて宝玉を造れる力も無く、ダンジョンを機能させるのは難しい。


だが、ふと思い付いてしまったのだ。


ドラゴンとしての命の源である【魔核】をダンジョン核として使えるのでは?と……。


人族としての心臓。それを核として捧げ、ダンジョンを復活させた。


例え自分が死んでも魔核は残り、ダンジョンは機能していく。





―――こうして僕はダンジョンの主となったんだ。


今は人化の魔法も解け、成竜となった身体がほぼ石化しており、動くこともままならない。


5階層の最奥。まるで謁見の間のようだが玉座は無く、突き当たりの壁面の窪み(アルコーブ)に身を横たえている。

砂時計の砂が落ち切るのを待つようにして、命が尽きる最後の時を待つばかり。


そんなある日。信じなれない魔力を察知した。


「……センセイ?」


間違えようが無い。師匠だ!


以前と比べると小さくて、見失いそうになる程度の魔力ではあるけれど、確かに師匠の気配がする。


直ぐに子孫のジークに念話を飛ばし、師匠を連れて来てもらう。



扉を開けて姿を現した師匠は、以前とは姿が違っていた。


『久しぶりね、フィル。私の今の名はミオ。レイラの生まれ変わりよ』


混乱する僕に、師匠が念話で教えてくれた。


!!


輪廻転生なんてお伽噺だとばかり思っていたよ!流石だ!やること成すこと突き抜けている!



更に師匠はとんでもない奇蹟を起こしたんだ!


石化して動けない僕に近づくと、おもむろに口をこじ開けて、何かの薬を飲ませた。


……ハッキリ言おう。


激マズである。


「カハッ」っと反射的に吐き出しそうになったが、師匠は今度は口をがっちりと閉じさせて防ぐ。


「センセイ!何をするんですか!?」


思わず起き上がって叫んで抗議した。


……そう、起き上がれたのである。


「えっ!?何?どういう事!?」


身体を医療鑑定すると、石化症状である結晶は見当たらず、魔力循環も正常。

更に寿命も増えていた。

後5千年は生きれるだろう。


「何で瀕死の重態だったのに治った挙げ句に、通常よりも寿命が延びてるのさ?」


もう訳が分からないよ。


師匠が飲ませてくれた薬の瓶に鑑定をかけてみる。

少量残っていた薬液に反応があった。


【エリクサー : 全ての状態異常回復 ・ 体力及び魔力の完全回復 ・ 寿命の延長】


「おぅっふ……」


口からなんか変な息が洩れ出た。


師匠ってばこんな伝説の中にしか存在しないような薬を持ってたの!?


相変わらずアイテムボックスの中身はヤバイらしい(汗)


戦争が起きそうな薬をホイホイ出さないでほしいんだけど。


「さぁっ!これで治ったね。後は、ダンジョンの維持にコレをあげるよ!」


そう言って左手中指から虹色の石が付いた指輪を外して寄越す。


僕は受け取る為に人化の魔法で姿を変えた。


そして指輪を手に取って驚いた。


これってアレでしょ!?魔女レイラの魔力を集めて固めたヤツ!


すんごい魔力を秘めた宝玉を渡されて、僕が遠い目をしちゃったのは仕方が無いと思うんだ。


―――結局は有り難くダンジョンを維持する為の核として使わせてもらったけどね!


「ねぇ、フィル。これからはダンジョンに引き込もってないで、また世界中を一緒に旅しましょう?」


そう誘ってくれたのが嬉しくて、抱きついてしまったのは仕方がないだろう?


そこいらの子供よりも華奢で小柄。

ヒョイと抱えあげると、重さも気にならずに持ち上げれた。


「うわっ。センセイ小っさい!ちゃんとゴハン食べてる?」


ちょっとデリカシーが欠けていたかも知れないけど、そのジト目はどうかと思うんだ。……うん、ゴメンナサイ。

僕はそっと師匠を床に降ろした。


「ジーク。竜人族とダンジョンの管理を任せるよ。ハリソンとカシムも、ジークを助けてあげてね。もちろん時々様子を見に来るけどね」


でも心配はしていないんだ。だって僕が身動きが取れなくなってからも、ずっと此処に住む民を導いてくれてたのは、このメンバーだからね!


それから久しぶりに1階層の街へと赴き、民との交流を果たす。

住人の中でも特に、と言うかやはりり竜人族は身内なので喜ばれた。


ダンジョンは新たな核により、今まで以上に安定している。安心して出掛けられるよ!


師匠は転移魔法ではなく、空飛ぶ板に乗って移動すると言う。

景色を堪能したいんだってさ。

ふふっ。ナニそれ面白そう。

自分の翼じゃなくて、そんな移動方法があるなら、僕も乗せてもらおーっと!


サヘリアルの街を出る際には、住人達総出の見送りをされた。しばらく留守にするけど元気でね!!


……僕よりも師匠に対する歓声が大きい気がするよ。


確かにここ最近は最下層から動けなくて、皆の前に姿を現せずにいたけどさ。ちょっと嫉妬しちゃうよね!


肩で切り揃えられた黒髪の師匠と違い、僕の黒髪は腰まであって長い。空の移動の時に邪魔になるからと、三つ編みに結ってもらった。


人化した僕の身長は185cm位。空飛ぶ板に乗り、小柄な師匠にしがみついていると、まるっきり大人と子供だ。


頭を撫でたら、またジト目で見られた。


あ、その目はなんだかクセになりそうだよ。


ふふっ。冗談ですよセンセイ。


これからも、ずぅーっとヨロシクね!!






弟子を助け出しました!

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