15,砂漠のオアシスを復活させろ! ~その4~
レイラの弟子が登場します。
砂漠の町サヘリアルで一泊して翌日の早朝、早速オアシスのあった場所へと向かう事にした。
ハリソンは護衛を数名つけようとしてくれたが、その申し出は辞退した。
魔法を使用した際に、フレンドリーファイアなんて事態になったら大変だ。なにせ戦闘どころか、生まれ変わってからは日常でも魔法はほとんど使っていなかったのだ。魔法制御の練習をしなくてはいけない状態であるのに、周りに人がいたら危険極まりない。
それに移動速度の問題もある。
1人ならばすぐ着くが、砂漠の民がいると昨日のように5時間以上かかるのだ。さすがに時間が惜しい。
今日はダンジョンのある岩場から出ないように!と念押ししてから出発した。
フローティングボードで移動しながら、オアシスを作った当時を思い起こしていた。
―――今から約2千年前に遡る。
あの時はまだ融機人もダンジョンも創造してはいなかった。
ただ、迫害されている魔族や少数民族の救済活動は行っていた。
そんなある日の事。
「ねえ!今度はドコに連れてってくれる?」
魔女レイラの腕の中で、上機嫌で鼻息をふんふんっ!と荒くして、尻尾をピタンピタンと抱き上げている腕に軽くリズミカルに擦り付けてくる、中型犬程の大きさのその生き物は、黒い鱗の幼竜だ。
名前はフィルガズィール。レイラはフィルと呼んでいる。
幼竜とはいえ産まれてから50年位は経っているだろう。
しかし親元を離れて単独行動をするにはもう半世紀は足りない。
興奮しているのか、普段は金色の瞳が、赤みを帯びた橙色が混じったものになっている。まるでエターナリアの満月のようだ。
魔力制御も不完全なのか、時折キラキラと銀色の粒子が身体を覆っている。
知り合いのドラゴンからベビーシッターを頼まれたのだが、どうにもこの子は好奇心が旺盛で、色々な場所へと行きたがる。
レイラはリクエストに答えて火山地帯や海、高原、森林など色々な場所へと案内した。
「あと行ってないのは、人が住む街と……砂漠かしら?」
「街は危ないから行っちゃダメだってママが言ってたよ!ウロコを剥がされてしまうって!コワイね!」
そう言ってプルプルと身震いをして、レイラにしがみつく。
「では砂漠にしましょう」
「サバクってどんなトコロ?」
目を輝かせ、前のめりになるフィルを抱え直す。
「砂の海よ。大地一面砂が敷き詰められているわ。気温が高くて暑いの」
「海みたく砂のお城とか作れる?」
「水分が少ないから無理ね。魔法を使えば出来るけど……」
「う~ん。よく分かんないや!とにかく早く見に行こうよ!」
だんだん尻尾の主張が激しくなってきた。
レイラはそんなフィルに頷き、魔法で砂漠まで転移した。
灼熱地獄もかくやといった、酷暑の大地に着き、レイラは必要最低限の結界のみを身に纏う。
フィルにもその魔法をかける。だがせっかく砂漠に来たのだから、完全に暑さを遮断しては風情に欠けるだろう。やや弱めてみる。
そして砂の上へとフィルを降ろした。
「!あっつい!ナニこれ!?空気も地面も熱いよ。火傷しちゃう!」
「ドラゴンなのだから、キチンと魔法制御出来るようにならないとね…」
「えっ?修行?これ修行なの!?」
熱さでワタワタと足踏みをしながらグルグルとレイラの周囲を回っていたフィルが、絶望的!と言いたげな表情をした。
知り合いのドラゴンからはベビーシッターとしてだけではなく、教育も任されている。
ちょっとは先生らしく教えた方がいいだろう。
「でも、もうお昼だよ!ご、ゴハンを先に食べたいなぁ……!」
上目遣いでチラチラと目配せをしながら、レイラにの足元にピタッと寄り添う。
レイラはフゥとため息をつき、フィルを抱き上げた。
「では簡易の休憩所を作りましょう」
左手だけでフィルを抱え、右手を地面にかざし、そして天へと振り上げた。
たったそれだけの動作で、古代神殿のような建物が現れた。天井を支える柱が12本。それぞれが見事な装飾をほどこされている。
日の光を遮るだけで、体感温度がグッと下がる。
少しするとフィルも落ち着いたのか、下に降りたがった。
レイラは作った建物の床へと、フィルをそっと降ろした。
「ノド渇いちゃったよ!お水欲しいな~!」
「水を出す魔法は初歩よ。練習しましょう」
(どうせなら楽しめた方がいいわね)
建物内部の中央の床を深さ1メートル、広さは10メートル四方に陥没させる。
「さあ。ここに水を出してごらんなさい。いっぱいになったら泳げるわ」
「ホント!?水浴びが出来るの!?ボクやるよ!ガンバル!!」
果物と水を摂取した後にフィルは、水を出す魔法を何度も練習した。
ようやく水が窪みを満たしたのは日が暮れてからだった。
思う存分水浴びを堪能したフィルは言う。
「ねぇ。砂漠にはヒト族は住んでいないの?」
「いるわよ。もう少し砂漠の端の方にね」
「そのヒト達も魔法で水浴びをしてる?」
首を傾げて質問を投げ掛けてくる。
「人は魔法では無く魔術を使うわ。魔法ほど使い勝手は良くないから、水浴びは簡単では無いでしょうね」
「こんなに暑いのに!?それはツラいよ!ねぇセンセイ。助けてあげないの?」
「人は各々その土地に順応して生活しているわ。あえて私が助けてあげる必要性を感じないのだけど」
「えーっ!だってここには水だけじゃなく、果物もないよ!タイヘンすぎるよ!?」
この優しい幼竜は、随分と人族贔屓らしい。
近づけば鱗を剥がされると親からキツく言われているのにもかかわらずだ。
親しい人族が、自分に好意的なレイラしか知らない為、危険対象に認定されていないのだろうか。
悪意を受けた事の無い無垢な幼竜は、森羅万象を操るとまではいかないが、限りなくこの世の万物の事象に干渉出来るであろう魔女を見つめる。
「……仕方がない子ね。では私の魔力の流れをしっかりと見ておきなさい。貴方が将来、自分の住処を作る時の為に参考にするのよ」
この砂漠には水を安定供給するだけの水源は無い。探査能力の網を周辺国まで拡げる。
ほんの数分経過後、最有力なのは北の山脈だろうと判断する。
豊富な湧水がとめどなく流れている。だがそれは大地の表層に河となっているものは半分もない。ほぼ地下水脈として海へと流れ出てていた。
その分岐をレイラの魔力で曲げ、地下で水路を形成し、砂漠まで届くようにと繋げた。
作業を終える頃には、フィルはうつらうつらと夢の世界へと誘われていた。
水の魔法の練習を昼から夕方まで行っていたため、疲れが出たのだろう。
水が北の山脈から砂漠に到達するまで、一晩はかかるだろう。
今日はここで休もう。
レイラは昼と違って気温の下がった砂漠の温度差で風邪をひかぬよう、フィルに布をかけて抱き上げる。そして自分も寝床を整えて横になり目を閉じた。
つづく。




