12,砂漠のオアシスを復活させろ! ~その1~
ミオが魔法使いとして活躍します!
降り注ぐ太陽と、大地一面の砂の中にあるガラス質の粒が、光を乱反射させ目に眩しい。
照り返しが絡み付くような熱風により、油断すると咽を焼いてしまいそうだ。
光と熱が、この見渡す限りの砂の海、レーテ砂漠に蜃気楼をもたらし揺らめいている。
ミオは砂漠の上空を、日本から持ってきたスノーボードに乗り翔んでいた。
スノーボードは軽く改造を施し、専用のブーツを履かずに済むようにしてある。普段の靴で手軽に着脱可能に変更したので使い勝手がいい。
最早スノーボードと呼べないソレは、フローティングボードと呼称するべきだろうか?
熱風烟る砂の大海原を眼下に臨み、されども風と水の結界により微塵も不快さを感じることなく進んでいく。
「たしかこの辺だったような~?」
キョロキョロと見回し、地理を思い出そうとする。
以前存在していたオアシスを探しているのだが、なかなか見つからない。
「まあ前に来た時から300年位経ってれば、だいぶ変わるよねぇ」
だがそのオアシスは、天然の泉が湧いたものではない。
砂漠の民の部族には伝承として語られていたはずだが、その事実を知る者は今はいるだろうか?
時の流れは記録も記憶も風化させてしまう。
魔女レイラが気まぐれに顕現させたオアシスは、砂漠の民に多大なる恩恵を与えた。
遥か北の山脈の雪解け水を、魔法によって造られた水路を通して運んだのだ。
数千キロに及ぶその水路の存在は、魔女が教えた数人以外はいない。
だが魔女レイラが一度この世から去ったことにより、魔女の魔力が遮断され、水の常用供給にも綻びが出たのではないかと疑い、ミオは水路とオアシスの確認に足を運んだのだ。
「お父さんが決めた集合は3日後だから、それまでに水路のメンテナンスとかしなきゃね!」
フローティングボードで翔んで来たおかげで、ダンジョンを出てからさほど経過してはいない。
日本で暮らしていてはお目にかかることのない風景を眺めながら、浮き立つような感情をおぼえていた。
前世の記憶持ちではあるが、日本人のフィルターを通すと、何ということもないこのエターナリアの世界の日常が、実に心躍るファンタジー要素で満ちているように映る。
楽しい!!
ミオはボードの速度を上げ、突き進んだ。
少しすると、何かが陽炎の中で蠢いている。
目を凝らして見ると、それは1ダースほどの人々と、巨大な鋏と毒の尾を持つ魔物、サンドスコーピオンが5匹のようだ。
人間の3倍の大きさはあろうかというその魔物は、両手の鋏をガチンガチンと硬質な音を発して威嚇している。
毒を持つ尾を揺らめかせ、徐々に人々を囲み追い込んでいた。
(うわっ!あれはもう詰んでるでしょ!た、助けなきゃ。あー、久々だから、魔法制御とか心配だよ。雷とかは周囲の人まで巻き込んで感電しそうだし・・・!)
「まずは落ち着いて、っと!」
スゥーはぁー。と深呼吸をして杖を構えた。
―――砂が海面を飛び跳ねるイルカを模し、幾多の砂の塊が現れては潜りを繰り返し、生き物のように躍動する。
それに阻まれ、サンドスコーピオンは人々に近づけない。
不意に砂のイルカが魔物目掛けて突進した。
その額部分には、氷の角が生えており、いとも容易く魔物の装甲を貫いた。
―――1匹、また1匹と、串刺しにされては砂の海に沈む魔物。
人々はただ戸惑い、立ち尽くすのみ。
そして、最後の魔物が倒れる頃を見計らい、ミオは地上へと降り立った。
青いローブを身に纏いフードを目深にかぶっているミオは、少しでも相手の警戒心を薄れさせるために、やや明るいトーンで話しかける。
「もう魔物はやっつけたから大丈夫だよ。怪我の具合はどう?治療が必要じゃないかな?」
砂漠の民の特徴である赤銅色の肌をした人々は、体のあちこちから血を流している。
数人は緊張が解けたのか、フラフラと座り込んでしまった。
その中から2人、ミオの前に進み出た。
金髪で明るい茶色の瞳の20代前半に見える男性と、黒髪に金色の瞳の30代半ばに見える男性。
黒髪の方は、金髪男性の護衛だろうか、左斜めに半歩程下がった位置で、剣の柄に片手を軽く置き警戒している。
「やあっ!助かったよ。凄い魔術・・・いや、魔法だね?」
「――――――っ!?」
金髪男性の放った言葉は、黒髪男性の予想外だったようだ。
はっ、と息を飲んだ。
「よく判ったね。見たことがあるの?」
ミオは面白がるように笑ってみせる。
「いや?文献だよ。ウチは砂漠の民の数ある部族の中でも古いからね」
「ふーん。利用しようとか考えてるの?」
「あっ。警戒とかしないでよー。大体にしてどの国でも、魔法使いに過干渉は御法度。割りと重い罪に問われるじゃあないか。そんな危険な橋は渡らないよ」
金髪男性が言うには、魔術師と違って魔法使いは、存在そのものが不可解かつ理不尽。
魔術のような法則性が掴めず、対応が困難。
過去に魔法使いを怒らせて沈んだ国は数知れず。それ故に国々は、魔法使いに不用意な接触は勿論、自分に都合のいいように利用しようとするのを禁じた。
そんな相手を敵にまわすなんて自殺行為もいいところだ。
などと、出るわ出るわのマイナスイメージ。
まぁ下手に絡まれるよりはいいか!と、開き直ってみたりする。
各国が脅威に感じる程の力の強い魔法使いが居たらしく、其方は随分と怖れられているようだ。
「まあ、怪我人の治療くらいは手を貸してあげるよ。ポーションと治癒魔法、どっちにする?」
「どちらでもありがたい・・・っと!大事な事を忘れていたよ。僕の名前はカシム。この者はジーク。部下共々、助けて頂き感謝します」
カシムと名乗った金髪男性は、黒髪男性をジークだと紹介し、謝辞を述べる。
「ちょっと行った所に、ウチの集落である岩場があるから、もし差し支えなければ一緒に来てくれたりしない?」
魔法使い相手のため、やや、というか、ものスゴーく控えめに訊ねられた。
「砂漠の民の集落に興味があるから行くよ。・・・心配しなくても、理不尽に暴れないし」
安心させるためにそう付け加えた。
砂漠の民達は、駱駝のような生き物に、魔物に襲われたことにより散らばってしまった荷物を載せ直していた。
ミオが近づくと、緊張したように固まっている。魔法使いだということが判明したため、敵対行動の一切を取らないようにしたらしい。
範囲治癒魔法を発動させ、全員をまとめて一度に回復させる。
まさかイッキに治療が出来るとは思わなかったのか、驚きで目を見張る。
無事に怪我を直した一行は、集落へと向かうのだった。
オアシスは何処にあるのか。次回に続く!




