10,ここって魔王城じゃね?とは思っていても言えない件について。
今回はお兄ちゃんのケンが主役です!
芦屋ケンは呆然としていた。
色々な事柄にツッコミどころ満載ではあるが、今回は言葉に出さず、心の中だけで語ってみたいと思う。
日本人の感覚では、バルコニーと呼ぶには広すぎるこの空間。
このスペースだけで盛大なパーティーが行えるだろう。
妹のミオが最前列にて手を振ると、爆発音のような歓声があがり、拍手や口笛などが続けて沸き起こる。
だいたいにして、この空間はかなりおかしい。
建物の中のだというのに、向こう側の壁まで到達するのにどれ程歩けばいいのかも検討がつかないし、天井に至っては、空間が歪んでいてよく見えないとかってどういう事なんだよ(混乱)
バルコニーから下まで、ビルの十階くらいの高さはあるだろうか。
そこから見渡す限りの住人の波また波。何千人?いや何万人いるかわからない。
ヘタなアイドルのコンサートよりも人出があることだけは間違いない。
そんな中で、日本では全くの一般人のハズの妹が注目を浴びてなお怯むことがない。
期待に満ちた眼差しと、嵐のような歓声を一身に受け、凛と立つ。
ミオだけが前に出て、俺や両親は少し下がったところに用意された席に着いている。
俺達の近くには、顔がそっくりな双子らしき金髪の人物がいる。クレイにトールと呼ばれた2人は、どうやら俺達の護衛らしく、油断なく周囲に気を配っていた。
ミオの右手側には、身長が2メートルはあろうかという大柄でいて、均整のとれたギリシャ彫刻のような美丈夫がいる。赤い髪を持つその男性の名はイグニスというらしい。
左手側には、銀髪で長身のスーパーモデルのような美女、アクアがいた。
なんでもこの美女の容姿は、ミオの前世の魔女に似通っているらしい
(マジか!)
そしてイグニスにより【回帰祭】開催が宣言され、魔女の生まれ変わりの帰還を祝う宴が始まった。
ミオはそのまま、家族とは少し離れた場所に席が設けられ、訪れる各種族代表をはじめとした住人達と言葉を交わしている。
跪いて拝謁し、緊張も露な面持ちで、時折歓喜の涙で咽び泣き、震えながら言葉を紡ぐ住人に対して、ミオは普段からは想像もつかないような落ち着いた態度で接している。
慈愛に満ち、仰ぎたくなるような存在感を放っている。
(これが世に聞くカリスマオーラってヤツか?まぁ、俺達にとっては、ただの家族なんだけどなぁ・・・)
父さんが言うには、日本ではほとんどの力と記憶を封印し日本人としての自我を優先させて保っているらしい。
魔女としての記憶は、ミオの人格を消し去ってしまう程の強いものとのことで、たとえこちらの世界に来たからといって、全てを解放するわけではないらしいが・・・。
その様子を暫く眺めていると、フィオーレというピンクゴールドの髪に新緑を連想させる翡翠色の瞳をした可愛らしい女性が、俺達家族のテーブルに料理を運んで来た。
食前酒が出されたが、両親により手の届かない位置に遠ざけられてしまう。
(チッ。残念)
見たことがない野菜のサラダには、フルーツを使ったと思われる、やや酸味のあるがさっぱりした甘味も感じるドレッシングがかかっていた。
(フツーにウマイ)
次に出されたのは肉厚のステーキ。鉄板でジュージュー音をたてているその肉は、サシが入っていて柔らかそうだ。
(霜降り肉ってことは、黒毛の牛かな?シンプルな塩胡椒だけでもスゲーうま~い!)
食事を摂っていると、今さらながらに気がついたことがある。
異世界だからこんなものかなぁ~と思っていたが、フツーの人間が見当たらないのだ。
角や尻尾、鱗や牙があったりして、姿も人よりはだいぶ威圧感のある姿。
ゲームなどで耐性があるとはいえ、ちょっとビビる。
だが驚きはあるものの、恐怖は感じない。
誰も彼もがミオに好意的なのが判るからだろうか?
「ちょっとレストルームに行ってくる」
そう両親に伝えて席を立つと、トールが「こちらです」と直ぐに案内役兼護衛として先導する。
歩いていると沢山の視線が向けられる。
「あの方が魔女様のご家族の・・・」
等と囁かれているのが耳に入る。
(本当に特別な存在だったんだなぁ)
ここに来てからというものの、ひしひしと伝わる想いがあった。
それは日本の生活では縁のない、狂おしいまで憧憬の念。
いなくてはならない存在。
まるで崇拝される偶像のよう。
(ずげーなぁ~)
それを考えたところで、今後の態度を変えるなんてないが、TPOはわきまえなくてはならないだろう。
歩いていると、なにやら可愛らしい生き物が2匹、通路の端っこのほうにうずくまっていた。
(うおっ!でっけーハムスター!)
小型犬くらいの大きさのハムスター2匹に近づくと、しゃがみこんでいる灰色のハムスターを、心配そうに覗き込んでいる薄茶色のハムスターがいた。
「どうしたんだ?」
2匹・・・いや、ここの住人だから、2人だろうか?
話しかけると、ビクッ!と体を強張らせた。そしてプルプル震えている。
「あー。急に話しかけてゴメンな。具合悪そうだけど大丈夫か?」
「通路でお邪魔になり申し訳ございません。直ぐに下がりますので、どうぞお許し下さい」
介抱している方の薄茶色のハムスターがそう言うと、またプルプルする。
「いや邪魔になんかしないよ。俺さ医療鑑定の眼鏡持ってるから、ちょっとみせて」
ミオから貰った、空間収納機能が付いたウエストポーチから、鑑定眼鏡を出して症状を診る。
【鼠族 : テト】
【状態 : 腎不全】
【余命 : 2日】
・・・思った以上にヤバかった。
「薬だぞ。すぐにこれを飲め!」
渡そうとするが、見たことのない人間を警戒しているのか、一向に手を伸ばそうとしない。
困り果てた俺は、トールに視線で救いを求めた。
「ケン様のご温情です。ありがたく受けとりなさい」
トールに促され、ようやくソロリソロリと薬を受け取り、2人でペコリと頭を下げた。
そして薬を飲み干すと、ビビビ!と衝撃を受けたように固まった後、再起動した。
(あれ苦いからなぁ)
前回ミオから渡された分を、栄養ドリンク感覚で飲んだが、ゲキマズだった。
【状態 : 健康体】
再度鑑定した結果が正常になっているのを確認して、もう大丈夫だと伝える。
2人は「ありがとうございます!」と何度も礼を言い、ペコペコお辞儀を繰り返し、キューキュー鳴いている。
(何コレ!めっちゃカワイイ!)
思わず2匹の頭を撫でまわし、抱っこして連れ去りたくなる気持ちグッと我慢して、その場を去ろうとする。
すると、その現場を目撃していた人物が声をかけてきた。
「少し伺いたいのだか・・・先程の薬はもしかして万能薬だろうか?」
浅黒い肌に、細身ながらもしなやかな筋肉がしっかりと付いているのがみてとれる身体の男性。一番注目すべきは額の角だろう。
―――うわ、カッコいい!もしかして鬼人族ってヤツ?
ミオから教えてもらった知識を思い浮かべる。
「ふはっ!そうだよ鬼人族だよ」
「あれ?俺いま声に出してた?」
「ああ、随分と大きな独り言だな。しかし、人間が我を怖れないばかりか、格好いいとは。ククッ。変わり者だな」
ニイッ。と犬歯を剥き出しにして目を細め、ワイルドに笑うその男は、やっぱり滅茶苦茶カッコいい。
「何その笑いかた。マジカッコいい。俺も真似したい。あー、そう言えばさっきの質問だけど、万能薬であってるよ」
「クッ!本心で言っているのが分かるな。まぁ気分は悪くない」
そう言った後に続ける。
「そのような貴重な品を惜しげもなく、初見の他種族に与え、見返りも求めずに去ろうとするとは。お主のような人間はお目にかかったことがない」
「俺はこの世界の人間ではないからね。ここの常識は知らないよ。ただ、俺の生まれ育った国は、困った人がいたら助けるのが当たり前だからな!別に俺が特別なワケじゃないさ」
「・・・ほう」
顎に手をやり、見定めるようにしていたその男は、感心したように目を見開く。
「名乗りが遅れた。我の名はヒューゴだ。以後よしなに」
「ああ。俺はケンだ。ヨロシクな!」
そして手を差し出されたので、しっかりと握手する。
するとまた目を大きく開き驚かれた。
「随分と柔い手だな。これでは戦えまい?」
「えー?俺のいた国は平和だったから、戦うとかないんだよ。武器すら持ったことがないぞ?」
「お主には驚かされ通しだ。だが戦えないとなると心配だ。ダンジョンの外にも行くのだろう?―――警護の者は10・・・いや20人は付けねばなるまい」
最後の方の台詞は、ブツブツとした呟きでよく聞き取れない。
ちなみに普通は、ダンジョンに潜るために戦力が必要なのではないだろうか。イロイロとオカシイ(汗)
「護衛はオレがするから問題はねぇよ」
先程からの畏まった護衛の態度や口調とはうって変わって、やや不機嫌そうにトールが言う。
「あれ?こっちの口調が素な感じ?さっきまでのより話しやすい!仲良くなれそうだ!ヨロシクな!?」
ケンはトールにも握手を求めた。
「お、おう。よろしくな―――ホントに柔らかい手だな。護ってやらねぇとすぐ傷ついてしまいそうだ・・・」
そんなトールの後半の小さな呟きはケンには届かない。
「あのあの!何かお礼をシタイのデス!」
灰色ハムスターの、テトがモジモジしながらやってきた。
そんなテトに対し、ケンは我慢していた理性が飛んだ。
「じゃあ抱っこさせて撫でさせて」
言うなり抱き上げて撫で回す。
「ふわぁ~~~」
テトは叫び身悶えするが、ケンの手からは抜け出せない!
しまいにはケンはテトの後頭部に顔を、うずめ頬ずりをした。
「あー・・・こんなカワイイ生き物ウチの国にはいなかった~」
「ええぇぇぇ。人族って鼠族を嫌っているのではナイのデスか!?」
「こちらではどうだか知らんけど、俺の世界では大人気になると思うぞ!」
「そ、そうなのデスか?」
「絶対ウチの親も好きだから、ちょっと一緒に来てくれないか?」
「え?」
「じゃあ私は戻ってるわ~」
「ミトーーーっ!」
どうやらあの薄茶色のハムスターはミトという名前らしい。
置いて行かれたテトは、可愛らしい声でキューっと鳴いた。
―――その後ウチの母親に、このでっかいハムスターのテトを見せたら、暫く撫でまわし続け、ややグッタリしてしまった。
・・・なんかスマン。
2021年 元日
本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます!




