表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銃弾と祈りのシスター  作者: 猫じゃらし
第5章 魔力がなくとも
34/38

第34話 修道院の戦い

 夜明け前に動いた。


 3人で宿を出た。通りに人はいなかった。空の端がまだ暗かった。丘の方向に向かって歩いた。途中でリードが分かれた。


 「外を固めます」


 「お願いします」


 それだけで別れた。クラリスとセラが丘の方へ進んだ。リードの足音が遠ざかった。



 修道院に近づいた時、クラリスは足を止めた。


 気配が違った。前回と根本から違った。修道院全体から、濃い魔素の層が滲み出ていた。建物の石壁の隙間から、窓の枠から、屋根の縁から、全方位に広がっていた。それが地面に溜まるように、丘の斜面を伝っていた。


 理沙の思考回路が自動的に動いた。


 脅威評価。


 高位魔法使い。最低でも8名以上。魔素密度の総量から逆算した数字だった。これまでの戦闘で遭遇した規模の、倍以上だった。


 「クラリス様」


 セラが小声で言った。足が止まっていた。


 「多い、ですね」


 「はい」


 「行くんですか?」


 クラリスは修道院の輪郭を見た。石壁が夜明け前の空に黒く立っていた。


 「行きます」


 目録が視界の端で広がった。P90の輪郭が、夜明け前の暗さの中でひときわ明るかった。



 裏手から入った。


 南京錠を外した。廊下に入った。石床だった。足音を殺した。セラが2歩後ろについた。


 最初の接触は、廊下の角を曲がった直後だった。


 詠唱の声がした。2人いた。魔素が一気に集まった。密度が高かった。充填の速さが、理沙の計算を更新した。


 P90を向けた。


 引き金を引いた。


 連射音が廊下に弾けた。詠唱が止まった。2人が崩れた。床に倒れる音が響いた。


 硝煙が流れた。


 クラリスは2人の前で一瞬だけ目を閉じた。開いた。


 目録の中でP90の輪郭が増していた。充填が始まっていた。高密度の魔素環境が、充填を加速させていた。


 「続けます」


 セラが頷いた。



 内部に進むにつれ、密度が上がった。


 廊下の分岐で、セラが右手を上げた。指を3本立てた。クラリスは左の廊下を選んだ。右から3人分の足音が来た。通り過ぎるのを待った。やり過ごした。


 次の区画に入った。


 大広間だった。


 扉を開けた瞬間、詠唱が重なった。4つ同時だった。広間の四隅にそれぞれ1人ずついた。4人が同時に魔素を集め始めた。壁に、天井に、床に、魔素の紋様が走った。


 「下がっていてください」


 クラリスはセラに言った。後退する音がした。


 グロック17を引いた。


 右前の詠唱が最も進んでいた。2節まで来ていた。引き金を引いた。倒れた。残り3人が続けた。左前に向けた。引いた。2節目が途切れた。


 残り2人が魔法を切り替えた。個別から合わせた詠唱に変えた。魔素が1点に集中し始めた。規模が変わった。


 P90に切り替えた。


 引き金を引いた。


 連射音が広間に反響した。2人が崩れた。集中していた魔素が霧散した。


 広間が静かになった。


 4人の前で膝をついた。目を閉じた。短く祈った。立った。


 P90の充填が、大きく進んでいた。目録の奥で、M134の輪郭が増していた。



 奥の廊下を進んだ。


 さらに2人と遭遇した。P90で処理した。また2人。グロック17で処理した。進むたびに充填が進んだ。修道院の内部は魔素で飽和していた。高位魔法使いが集結しているということが、充填の速さに直接出ていた。


 次の大きな扉の前に出た時、セラが立ち止まった。


 シスター服の裾を、指先で少し引いた。


 クラリスが止まった。セラを見た。


 セラが扉の向こうを示した。指を立てた。1本。2本。3本。4本。5本。


 手を開いたまま止めた。


 5人以上、ということだった。


 クラリスは扉を見た。分厚い木の扉だった。鍵はかかっていなかった。隙間から光が漏れていた。詠唱の気配はまだなかった。待っている。


 「少々、お待ちいただけますか」


 セラへ言った。静かに、確かに。


 セラが頷いた。


 クラリスは目録を正面から見た。


 M134ミニガン。輪郭が完全に鮮明だった。


 終わらせる。


 その判断が落ちた瞬間、召喚が始まった。右腕の感覚が変わった。重さが生まれた。黒い板の輪郭が、現実の空気の中に現れ始めた。召喚には時間がかかった。3秒。4秒。


 その間、セラが動いた。


 クラリスの左側に立った。扉の方を向いた。魔力はない。何も持っていない。ただ立った。扉の向こうで何かが来ると分かっていて、その方向に体を向けた。


 扉が開いた。


 5人が出てきた。先頭の男の詠唱が始まった。


 セラが一歩前に出た。


 男の視線がセラに向いた。その一瞬、照準がずれた。


 5秒経った。


 召喚が完了した。


 M134が右腕に在った。


 引き金を引いた。


 毎分6000発の回転音が修道院の廊下を満たした。5人が廊下の先に消えた。石壁に無数の痕が刻まれた。硝煙が白く広がった。


 沈黙が来た。


 クラリスはM134を収めた。セラを見た。


 セラは立っていた。足が少し震えていた。震えながら、倒れていなかった。


 「怪我はありませんか?」


 「……ないです」


 「ありがとうございました」


 セラが息を吐いた。長い息だった。


 5人の前で膝をついた。目を閉じた。祈った。立った。



 修道院の中央に出た。


 吹き抜けの空間だった。天井が高かった。かつて礼拝に使われていた場所だろう、とクラリッサの記憶が静かに示した。今は礼拝の設えが消えていた。中央に大きな机と書類の山があった。


 静かだった。


 人の気配がなかった。倒してきた人間たちの魔素が、まだ空気に残っていた。それ以外は何もなかった。


 「奥にいます」


 セラが言った。


 中央の空間の、さらに奥。石造りの廊下が続いていた。明かりがあった。蝋燭ではなく、魔法による光だった。青白い光が廊下の床を照らしていた。


 クラリスは目録を確認した。


 P90。使用可。グロック17。使用可。M134——充填中。46cm三連装砲。


 46cm三連装砲の輪郭が、今夜の戦闘を通じて、大きく鮮明さを増していた。


 まだグレーがかっていた部分が、今は薄くなっていた。充填が、完了に近づいていた。



 奥の扉を開けた。


 広間だった。天井が丸く、壁が石で覆われていた。窓が1つ、高い位置にあった。夜明けの光が入り始めていた。朝だった。いつの間にか、夜が明けていた。


 広間の中央に、人が立っていた。


 前回と同じ姿だった。年齢のない目をした男だった。平服だった。武器を持っていなかった。


 クラリスを見た。


 「また来たのか、ヴァルシュタインの娘よ」


 「はい」


 クラリスはP90を構えたまま答えた。


 男の周囲の空気が変わった。魔素が集まり始めた。密度が、修道院の内部全体の比ではなかった。100年以上積み重ねた魔力が、1人の存在に宿っていた。理沙の思考回路が脅威評価を更新した。更新した。もう一度更新した。


 数字が出なかった。


 計算の上限を超えていた。


 クラリスは目録を確認した。


 46cm三連装砲充填、完了。


 輪郭が完全に鮮明だった。グレーが消えていた。使用可能の白い輪郭だった。


 男がクラリスを見たまま言った。


 「今度は、本気で来たようだな」


 クラリスは答えなかった。


 懐中時計を取り出した。左手で持った。親指で蓋を押した。開いた。秒針が動いていた。


 蓋を閉じた。


 胸元に戻した。


 「続けます」


 声に出なかった。口だけが動いた。


 セラが後ろで息を呑む音がした。


 男の詠唱が、始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ