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銃弾と祈りのシスター  作者: 猫じゃらし
第三章 鉄の聖女、現る
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第17話 雨の日のこと

 雨が来た。


 午後の早い時間から空が低くなっていて、夕方になる前に降り始めた。街道を外れた草地の中を歩いていたから、雨宿りできる場所を探すのに少し時間がかかった。


 見つけたのは、街道から離れた場所にある古い農家だった。


 屋根が半分、残っていた。半分でも十分だった。壁が3方向ある。床は土だった。雨が吹き込まない向きに荷物を置いた。



 雨音が建物を満たした。


 最初は細かい音だった。屋根の残骸を叩く音、壁の外の草を叩く音、遠くの木を叩く音。それが少しずつ重なって、やがて一つの音になった。


 クラリスは壁に背中を預けた。


 セラが向かいの壁に座った。膝を抱えて、屋根の穴から見える空を見ていた。灰色だった。どこまでも同じ灰色だった。


 火はない。食料は少し食べた。水は雨が補ってくれる。


 何もすることがなかった。



 一時間ほど、そのままだった。


 クラリスは目録を一度確認した。変化はない。外に人の気配はない。雨の中を動く者がいない。それだけ確かめて、目録から意識を外した。


 雨の音が続いた。


 セラが膝の上に顎を乗せた。子供の姿勢だった。しかしその顔は何かを考えている顔だった。何を考えているのかは分からない。分かろうとしなかった。


 外で雷が鳴った。


 遠かった。セラの肩が少し動いた。すぐに戻った。



 「クラリスさんは」


 セラが言った。


 雨音の中だった。


 クラリスはセラを見た。セラは膝の上に顎を乗せたまま、屋根の穴を見ていた。クラリスの方を見ていなかった。


 「クラリスさんは、もともとどこにいたんですか」


 クラリスは答えなかった。


 答えられなかったのではなかった。答えようとして、どこから答えるべきかが分からなかった。孤児院か。教会か。もっと別の何かか。どこが「もともと」なのかが、自分でも分からなかった。


 セラは答えを待っている様子ではなかった。


 顎を膝の上に乗せたまま、ただ空を見ていた。答えが来なくても、来なくていいと思っているような待ち方だった。


 雨が強くなった。


 屋根の穴から雨粒が落ちてきて、土の床に染みを作った。染みが広がって、隣の染みと合わさった。



 しばらくして、セラがまた言った。


 「わたしも、覚えていないんです」


 前の問いの続きではなかった。つながっていないようで、つながっている気もした。クラリスには判断できなかった。


 「覚えていない、というのは?」


 「どこにいたか。最初のこと」


 セラが膝の上で少し顔を動かした。


 「帝都の外縁部にいたのは覚えています。でもその前のことが、あまり」


 言葉が途切れた。


 途切れたまま、続かなかった。


 クラリスは何も言わなかった。何か言うべきかどうかを考えた。考えながら、言葉が出てこなかった。出てきた言葉を、全部手放した。残ったのは雨音だけだった。


 セラが顎を膝から離した。両手を床について、少し前に出た。屋根の穴から落ちてくる雨粒を、手のひらで受けた。冷たいはずだった。セラの顔は、冷たいとも暖かいとも言えない顔をしていた。


 「痛くないんですよ」


 雨粒を受けたまま、セラが言った。


 「雨って、痛くないですよね」


 クラリスは答えなかった。


 答えではなかったからだ。



 雨が続いた。


 外が少し暗くなってきた。夕方が来ている。しかし雨の日の夕方は、昼と夜の境目がはっきりしない。


 セラが手を引っ込めた。服で拭いた。また壁に背中をつけた。


 眠そうではなかった。しかし目を閉じた。


 クラリスはセラが目を閉じるのを見た。


 それから外を見た。雨が降っている。草が揺れている。風が少し出てきた。屋根の残骸が、端の方で軋んだ。


 胸元が少し重かった。


 取り出さなかった。



 夜になった。


 セラは眠っていた。


 雨はまだ降っていた。強さは変わっていなかった。止む気配はなかった。


 クラリスは暗い建物の中で、雨音を聞いていた。


 何も考えていなかった。考えようとしたが、何も来なかった。目録が視界の端に薄く広がっている。動きはない。周囲に気配はない。


 ただ、雨が降っていた。


 クラリスはそれを、聞いていた。

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