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銃弾と祈りのシスター  作者: 猫じゃらし
第2章 死神のシスター
13/20

第13話 死神と呼ばれた朝

 朝の巡回が、変わっていた。


 外縁部の東通りを歩きながら、クラリスはそれに気づいた。昨日と一昨日、同じ時刻に同じ道を通った帝国軍の一団が、今朝はいない。代わりに、北側の路地に動きがあった。2人組で動いている。昨日まではいなかった組み合わせだった。


 目録が視界の端で薄く広がっている。


 変化はない。しかし帝国軍の魔法士が増えた区画では、目録の輪郭が全体的に増す感触があった。魔素の濃度が上がっている。探知魔法の範囲が広がっているせいだと理沙の思考回路が処理した。


 昨日までと違う。


 セラが一歩後ろを歩いていた。クラリスが足を緩めると、セラも緩める。速めると速める。言葉なく距離を保っていた。


 「少し寄り道をします」とクラリスは言った。


 セラがうなずいた。



 北側の路地に入った。


 意図があって入ったわけではなかった。変化が起きている場所を自分の足で確認したかった。路地の石畳は外縁部の他の通りより古く、継ぎ目が深かった。魔道灯が一つ、柱から外れかけたまま放置されていた。


 路地の奥で、動きがあった。


 3人。


 帝国軍の制服ではなかった。しかし歩き方が違った。目が動いていた。通行人を見ている目ではなく、対象を探している目だった。真ん中の男が、クラリスと目が合った瞬間に足を止めた。


 目録の輪郭が、一斉に増した。


 3人とも魔法士だった。充填が速い。略奪者とは比べ物にならない速さで魔素が集まってくる感触があった。3人分が同時に動いていた。目録の数字が増え続けていた。


 「シスターか」と真ん中の男が言った。「ちょうどいい。聞きたいことがある」


 クラリスは答えなかった。


 答える必要はなかった。3人の位置と、背後の路地の幅と、魔素の充填速度が頭の中で揃った瞬間に、手が後ろへ回っていた。



 先手を取った。


 引き金を引いた。連射。短く鋭い音が石の路地に反響した。真ん中の男が崩れた。充填していた魔素が散り、P90に流れ込んできた。


 左の男が詠唱に入った。


 速かった。略奪者の短縮詠唱よりさらに速い。一節が音節ではなく一音に近い。クラリッサの記憶が魔法の種別を判断した。風系。広域拡散型。当たれば壁まで吹き飛ぶ。


 クラリスは走った。


 路地を3歩、右へ。建物の角が盾になる位置に入った。一節が終わった。二節目が来る前に、銃口を向けた。引いた。左の男が止まった。充填が来た。目録の数字が跳ね上がった。3人分の魔素が全部流れ込んでいた。


 右の男が走った。


 逃げている。クラリスは追いかけなかった。角から出て、背中を見た。路地の奥に消えていく。路地の先は大通りに出る。人が多い。追えば人混みに入る。


 足を止めた。


 路地に硝煙が漂っていた。石の壁が白い煙を受けて、光の加減で表面が滲んで見えた。


 クラリスは目録を確認した。充填量が大きく増えていた。帝国軍の魔法士の充填速度は略奪者とは違う。同時進行で3人分が入ってきた。


 倒れた2人の前に、片膝をついた。


 目を閉じた。


 いつもより短くした。路地に人が来る前に動かなければならなかった。



 路地を出て、大通りに戻った。


 人の流れが続いている。帝都の朝の日常が動いていた。クラリスは流れに入った。セラがすぐ後ろについてきた。いつからそこにいたのか分からなかった。路地の入り口で待っていたのかもしれない。何も聞かなかった。


 大通りを南へ歩いた。


 2つ目の交差点を右に曲がったところで、壁に何かがあった。


 低い位置の石壁。誰かが描いた跡がある。インクではなく、炭か何かで引いた線だった。荒い筆跡だった。丁寧な文字ではなかった。それでも読めた。


 「死神のシスター、ここを通る」


 クラリスは立ち止まった。


 壁の文字を読んだ。


 「死神、ですか」


 声に出てから、自分でも少し驚いた。感情があったわけではなかった。ただ、声に出さなければならない気がした。


 文字の横に、粗い線で描かれた人影があった。シスター服の輪郭だった。銃口らしきものを持っている。顔には×印が引かれていた。


 絵として上手くはなかった。しかし描いた者の意図は読めた。


 恐怖ではなかった。蔑みでもなかった。畏れと、何か別のものが混じっていた。描いた者が何を思ってこれを壁に残したのかを、クラリスは少し考えた。答えは出なかった。


 セラが隣に来ていた。


 壁の文字を見ていた。「死神のシスター」という文字を、上から下へ読んでいた。それからクラリスの顔を見た。


 クラリスは壁から視線を外した。


 何も言わなかった。


 歩き始めた。


 セラがついてくる。

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