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銃弾と祈りのシスター  作者: 猫じゃらし
第2章 死神のシスター
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第12話 教会という名の檻

 夜が深くなってから、廊下に音があった。


 クラリスは目を開けた。眠っていたわけではなかった。壁に背中を預けたまま、暗い部屋の中で座っていた。改竄された記録のことを考えていた。ヴィンセントが言っていたことを考えていた。「聖典騎士団の関係者が閲覧を制限している」という言葉が、頭の中で繰り返していた。


 廊下の音はゆっくりだった。


 忍び足だった。



 クラリスは立ち上がった。


 目録が視界の端で反応した。魔素の動きはない。武器を持った者ではない。足音の重さから、一人だと判断した。部屋の扉に近づき、隙間から廊下を見た。


 修道女だった。


 年の若い方だった。この教会で二番目に若い修道女だとクラリスは把握していた。手に何も持っていない。廊下の奥へ向かっている。東の廊下。その先には小さな応接室がある。


 クラリスは扉を開けた。


 廊下に出た。


 足音を消して、距離を保って、ついた。



 応接室の扉の前で、修道女が立ち止まった。


 二度、ノックした。


 返事がなかった。しかし扉が内側から開いた。修道女が中に入った。扉が閉まった。


 クラリスは廊下の影に入った。


 応接室の扉の下に、光の線が一本あった。灯りが点いている。声は聞こえない。厚い扉だった。話の内容までは届かない。しかしどのくらいの時間、2人がいたかは分かった。


 長かった。


 雑談ではない長さだった。



 修道女が部屋から出てきた。


 廊下を戻っていく。クラリスは壁の影に入ったまま、修道女が通り過ぎるのを待った。


 修道女が部屋に消えた。


 クラリスは応接室の前に移動した。扉を見た。もう光の線はなかった。中の人間は別の出口から出たか、灯りを消して待っているか。


 開けなかった。


 証拠がない。確信がない。今ここで動けば、相手が警戒を強めるだけだった。


 廊下を戻り、自分の部屋に入った。



 部屋の中は暗かった。


 窓から帝都の光が薄く入っている。中心部の魔道灯が、外縁部の夜をわずかに照らしていた。


 セラが眠っていた。荷物を枕にして、壁際に丸まっていた。


 クラリスは壁に戻った。座った。膝を立てた。


 教会について、知っていることを並べた。


 この教会に来てから3日が経つ。院長の老人は本物の修道者に見える。修道女は4人。そのうちの1人が夜中に誰かと密かに話していた。先日の夜に礼拝堂で声をかけてきた男は、当番でないのにいた。今日確認した建物、アルダー商会。密偵が向かった場所。


 つながっていると考えた方が自然だった。


 組織が教会のネットワークを使っている。使えるように、ずっと前から整えていた。


 クラリスは胸に手を当てた。


 シスター服の布越しに、懐中時計の縁を感じた。押さえるだけで、取り出さなかった。


 孤児院の礼拝堂を思い出した。クラリスとしての最初の記憶の中にある場所だった。修道院長の声。蝋燭の灯り。石畳の冷たさ。あの場所は本物だったと、今も思っている。


 しかし本物だったとしても、本物でない場所が混じっていたとすれば。


 信仰の場が、別の何かの器として使われていたとすれば。


 まだ確信ではなかった。この教会が全てそうだとは言えない。院長が関わっているとも言えない。修道女の一人が組織の末端だとしても、教会そのものが組織のものだとは限らない。


 しかし。


 「しかし」で止まった。続きが出てこなかった。



 物音がした。


 セラが目を開けた。クラリスの方を見た。暗い部屋の中で、セラの目がクラリスを見つけた。起き上がった。膝を抱えて、クラリスの隣に座った。


 何も聞かなかった。


 クラリスはしばらく窓の外を見ていた。


 「セラ」と言った。「信じていた場所がそうでなかった時、あなたはどうしますか?」


 セラは答えなかった。


 すぐに答えが来ないことは、クラリスには分かっていた。答えを求めていたわけでもなかった。ただ、声に出しておきたかった。


 セラの沈黙が続いた。


 「……わたしも、まだわかりません」


 自分の声で、答えた。


 セラがクラリスの方を向いた。クラリスは窓の外を見たままだった。帝都の光が外縁部の夜の中に浮かんでいる。遠い光だった。



 夜が少しずつ薄れ始めた頃、クラリスは決めた。


 ヴィンセントに問い合わせる。懐中時計の蓋の裏の魔法文字のことを。あの文字が何なのかを、ヴィンセントなら手がかりを持っているかもしれない。


 聖典騎士団という名前を知った。改竄された記録を見た。教会の中に組織の末端がいることが分かった。


 それだけで今夜は十分だ。


 胸元の懐中時計の縁を、もう一度指で押さえた。


 窓の外を見た。


 帝都の光が煌々と灯っている。外縁部の夜を押しのけるほど、中心部の光は明るかった。しかし今は、その光が少しだけ違って見えた。光の強さではなく、光が届かない場所の広さの方が、目に入った。

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