王家の宴本番:入場だけで大嵐
やってきました王家の宴本番!
いやー長かった。旦那様を宥めすかす毎日が。
最終的に「宴が終わって来賓が帰国したら、一週間休みを取っていいから!」とヴィンセント様直々にお許しが出たわ。
それくらい、不機嫌顔のルシウス様が働いてる姿は胃に悪いらしい。
一週間の休暇は心浮かれるらしく、少し機嫌が直った。良かった。
その間に、全ての対策を!と全員が全力でやり切った結果の今日である。
「ぷあ!しょん、かーい?」
「今日もシオンは可愛いね。ミューも可愛い」
「私はいいんですよ、ルシウス様」
お揃いの衣装でお揃いの笑顔をしている二人が向き合っていると、部屋内の使用人達が眩しそうな顔をする。
アイゼンバーグ家に与えられた控室で、グリフィス家ご一行様の到着を待っているところだ。
今日の為に磨かれた!と言っても過言ではない親子に、目を細めながらも満足そうな皆様に見守られながら、これからのことを思う。
今日の宴を乗り切れば、落ち着いた生活が戻ってくるのだ。
そこはかとない不安は健在だが、やり切る!
内心拳を固めていると、ノックが響いた。
あれ、予定より少し早くない?と思ったら、突発的訪問のヴィンセント様だった。
「シオン!始まったら落ち着いて見てられないから、先に見に来たぞ!うわ可愛いな!」
ヴィンセント様……これはたぶん、抜け駆け認定です。
「全然落ち着いてませんね」
「当たり前だろう、落ち着けるか?!愛らしさ全開じゃないか!シオン、このままエリカの隣に座って婚約発表をしよう!」
「ぷ?」
「しません!」
「ヴィンセント様、一人で会いに来たことをホノカ様はご存知?」
喧嘩が始まる前に冷水を浴びせるために聞くと、ヴィンセント様はピタッと停まった。
言ってないなこれ。
「今は黙ってて差し上げますから、落ち着いて座ってくださいな」
「はい」
勢いをなくししずしずと私達の向かいのソファに座るが、シオンと向き合うとまたデレッとなった。
……こんなにルシウス様そっくりのシオンにデレデレとは、ヴィンセント様やはり……。
サリーの喜びそうな邪推をしている間にも、ヴィンセント様のシオン賞賛は止まらない。
「あぁ、パステルカラーも似合うが黒も似合うのだな。金髪との対比が美しい。デザインも、シオンを引き立てる絶妙な仕様だ」
「ファッションチェックですか?」
「光栄ですわ殿下」
「シオン、褒められてるよ」
「ありゃーと!」
「くっ……可愛い!」
身悶えてるヴィンセント様を余所に、私達はこそこそ相談する。
「もうすぐ来るでしょう?どうする?」
「今から追い返す訳にもいかないので、ここはもう引き合わせましょう。一人くらい心構えが出来てた方が、いくらかマシですよ。たぶん」
「推測だね……」
「いつだって、想像以上の騒ぎが起きるんです。いざとなったら、ヴィンセント様を殴ってでも止めてくださいね」
「なぐ……分かった」
神妙な顔をしてルシウス様が頷いた時。またしてもノックがした。
ルシウス様はさりげなくヴィンセント様の背後に回る。
目配せをして頷き、義父母を見て頷き、ノアに指示を出すと慎重に扉を開いた。
「いやー疲れた!馬車の中でずっとお小言だぞ、母上はよく喋るな。ミュー、ルシウス、お義父様にお義母様もご機嫌よう。シオン、会いたかったぞー」
……嵐か。捲し立てながら入り込んだヴィンスを見て、ヴィンセント様は固まった。
よし、まだ殴らなくて良さそう。
「びー!」
「おぉ、お父様とお揃いか。シオンは可愛いな〜」
脇目も振らずシオンに歩み寄り、抱き上げて抱擁をする。
息子はきゃいきゃい喜んでるのでいいんだけど。
「お、そこにいるのは王太子殿下。なんでいるんだ?」
「ーーヴィっ」
硬直が解け、顔を赤らませながら立ち上がろうとするヴィンセント様の肩をルシウス様がガシッ!と押さえつける。
同時に、二人の間にハリーが入った。
「ハリー殿……」
「御父様、お嬢様、シオン様。お目にかかれて光栄です。お三方とも、本日も大変見目麗しく。望外の喜びでございます」
ヴィンセント様を見据えながら淡々と我々にまとめて挨拶する。
これは、前回の失態を教訓にした結果だな?
「どうも」
「結局どんな制裁を?」
「逆さ吊りだな」
「……二時間ほど」
「わかりやすいわー」
「はり!」
「!シオン様……お呼びいただけるとは、誠に慈悲深い」
シオンが呼ぶ時だけ異常な早さで振り向くなよ、怖いじゃない。
「ヴィ、ヴィンス殿が参加するのか……?!」
震えた声でヴィンセント様が聞いてきた。
うんまぁ、王家には言ってなかったしね。
「グリフィス伯爵家嫡男として、王家の跡継ぎを祝いに来た。グリフィス家一同、お祝い申し上げる」
シオンを片手に抱き、艷やかに微笑む。
ヴィンセント様とその背後にいた使用人達が一斉に頽れた。
「ヴィンス、飾り付けに気合が入ってるわね。てか他の人達は?」
「後から来るぞ。俺はシオンに会いたかったので、ハリーと先に来た」
「……騒ぎは起こしてないでしょうね?」
「だから足早に来ただろう?顔を眺める暇もないさ」
自慢気に言うヴィンスに、肩を竦めるしかない。
確かに、一理ある。
「まあ座りなさい。そして宴の前に王族に致命傷を与えるな」
隣の席を示すと、シオンを伴ったまま素直に従った。
ヴィンセント様は放置するしかないと見做し、夫も反対隣りに戻ってくる。
ハリーはシオンの足元に跪いた。定位置決定か。
「致命傷を与えるつもりで笑ったんじゃないんだけどな?まったくやりづらい」
不満そうにヴィンスが口を尖らせる。
それを見て、生き残っていた使用人も目眩を起こすので切りがない。
「……ひとまず、ここで一回見ておけばヴィンセント様は耐性が出来るでしょう。それ以上威力を強めちゃ駄目よ?あとはマリーが乗り切る筈だから、それでなんとか」
「威力……」
「少しは示威行為もしておこうと思うんだ。ほら、俺は突然出現した跡継ぎだから。舐められちゃ困る」
「……ヴィンス殿を舐めてかかるほどの身の程知らずが、この国にいるの……?」
「いるかもしれないぞ?気骨のある奴が、どこかにもしかしたら」
「全然信じてないじゃないか」
今度はルシウス様が口を尖らす。
それを見て面白がったシオンも「むー」と尖らす。
ヴィンセント様はもはや瀕死だ。
「ミュー、ミューはなぜそこに囲まれてそんなに平気そうなのだ……?眩しさに死にそうだ!」
「「大袈裟な」」
二人して見詰めるな、また倒れちゃうじゃん。
「片や夫、片や兄ですよ?私の日常ですもの」
呆れて言うと、今度は二人して笑顔でこちらを向く。
そんなに喜ぶこと?
「……もうこれは、あの塊でいたら誰も近寄れないんじゃないか?」
「そんな気がします」
お義父様とお義母様は、少し離れたところから見守っていた。
巻き込まれるのを回避した、とも言う。
そうこうしてるうちに、グリフィスの父母とサリーとマシュルトがやってきた。
「ミュリエル様、シオン様……!」
こちらも婚約者にも兄にも目を向けず、私達にまっしぐらだ。
「ドレス間に合ったのね。似合うわ、サリー」
「しゃり、かーいね!」
「!!シオン様……光栄です!」
感激するサリー。いや、あなたは跪いたら駄目よ?
ヴィンスが笑ってシオンを私に寄越し、少し間を空けたのでサリーは私達の隣に座った。
すかさずヴィンスが背後から抱き締めるが、まったく動じないぞサリー。
「ヴィンスもお腹を触る派?」
「ルシウスの真似だ。存外良いな」
「でしょう?」
何を得意げなのだルシウス様。あなた、妊娠してなくても触るじゃないの。
こちらは妻子まとめて抱き締めてくる。
二組の夫婦でいちゃついてると、ヴィンセント様が再度震え出した。
「さ、サリー、その腹は……え、ヴィンス殿?!」
「あぁ、紹介してなかったか。俺の妻のサリーだ」
「サリー・グリフィスです。よろしくお願いします」
とっても普通の調子で妻と紹介し、自己紹介もグリフィスになってる。
ヴィンセント様はもう言葉が出ないらしい。
「え、もう届け出したの?」
「こんなに腹がデカイのに婚約者と紹介するとか、失笑だろうとクラストに言われてな。確かに、と思ったからこの際籍を入れることにしたんだ」
「まあ、サリーお義姉様」
「…………はい」
照れ臭そうに頷くサリーに、ヴィンスが優しく目を細めた。
ルシウス様が感心したように言う。
「その視点はなかったね。さすがワイン団長」
「ワイン団長?」
「騎士団長の真名です」
「サ!リー、様、それ以上は……」
扉前のクラストがいつも通りに怒鳴ろうとし、萎んだ。
王族の前では、さすがに主君の妻へ声を荒らげられないらしい。そりゃそうだ。
サリーとハリーがそっくりな顔でニヤリと笑った。
「やはり、嫁と暮らし始めた次の日に妊娠を発表したワイン団長には、発言に重みがあります」
「それはまあ、俺の方が当日発表だけどな?」
「ヴィンス様の方が事が大きくなりますが、ワイン団長と言う先駆者がいるのはありがたいですよ」
「そうですね、感謝申し上げますワイン団長」
二人揃って頭を下げる。
クラストは歯ぎしりしてるわ。
「……すごい鍛錬をしそうだね」
「サリーは当分出来ないですから、ハリーが二倍相手をしますよ」
「想像が出来ない……」
「クラストが諦めるまでやり続けます。ハリーは引くことをしないので」
「うわぁ」
若干引き気味のルシウス様の頬にキスをした後、ヴィンセント様に向き直る。
「と言うことでヴィンセント様。我々は両家揃って入場し、揃ってご挨拶をしますので。お覚悟を」
ヴィンセント様はとても引き攣った顔をしたが、全員の顔を順繰りに見回した後、締めにシオンを見据えて頷いた。
「こうなったら、まとめて来てくれ!シオンとルシウスの後にヴィンス殿が登場とか、波状攻撃よりもマシだ!」
そんなに悲痛な決意をするほど?
まぁ、大惨事なことは確かだけど。
◇◇◇◇◇◇◇
「あ、アイゼンバーグ公爵家ご一同様!並びに、ぐり、グリフィス伯爵家ご一同様!入場です!!」
こんなに噛み噛みの案内、初めて聞いたわー。
登場前の待機で目が眩んだらしい侍従に、ドンマイと思いながらルシウス様のエスコートを受ける。
シオンを抱き上げたルシウス様と腕に絡む私、お義父様とお義母様、セザール。
その後ろから両親とマシュルト、さらに後ろにエスコートをするヴィンスとサリーにハリーが従って、玉座に向かって歩き出す。
「「「………?!!」」」
至るところで、グラスを落として割る音が響いた。
シオンが向いた方角から人の倒れる音、ルシウス様の笑顔を見られる角度の方から歓声、ヴィンスの目線を受けた方向から騒ぎが聞こえる。
……大嵐になった。




