王家の宴本番:大嵐を王家にぶつけた
日常100話目です。
長くなりましたがまだまだ続いております。
引き続きよろしくお願いしますm(_ _)m
広間は騒然となった。
グラスを落とした人達の後始末、お酒が掛かったご婦人の染み抜き、倒れた人達の介護……。
我々は入場しただけなんだけどな!
とりあえず玉座の一番近くに陣取って、乾杯が始まるまで待機だ。
「ぷあ、れ!れ!」
「んー?あぁ、シャンデリアがキラキラしてるね」
「きりゃ!」
「綺麗だね」
うふふ、とシオンがご機嫌なので、ルシウス様も笑う。
目撃した辺りから二次災害起きてんだけど。
今日のシオンはルシウス様と同じように髪を固めて額を出し、いつもよりも一層男の子らしくなってる。
それにお気に入りの紫のリボンタイをしているので、「お父様みたいね〜」と褒められるのを待ってる感じだ。
……いやホント、こちとら赤ん坊と妊婦の集団なんだから、早くしてくれ。
騒ぎの原因ではあるが、勝手に騒いでるという見方もあるので、そこは知らん!
◇◇◇◇◇◇◇◇
どうにかこうにか乾杯の音頭が取られた。
シオンは赤ちゃん用のマグで。
「かんぱ〜い」と声を掛けてグラスと合わせてみたら、思いの外喜び「ぷあ!かんぴゃ!」とノリノリになる。
「シオン、溢れるからそっとやるのよ」
「はいシオン、乾杯」
「かんぴゃ!」
ちょん、と合わせるだけで大喜びだ。
「びー!かんぴゃ!」
「んー?気に入ったのか。ほれ、乾杯」
「しゃり!かんぴゃ!」
「光栄ですシオン様」
「はり、かんぴゃ!」
「シオン様……なんと恐れ多い」
義父母にもうちの両親にも声を掛けてる。
切りがないのでマグを口に付けたら、ゴクゴクと飲み始めた。
「「かわっ……」」
呟きが重なって聞こえる。
横目で見るに、王家もやりたそうな顔してんな。
「ミュー、果実水が苺だね」
「接待の一環かしら?」
「ふふ、ミューは大物だね」
こちらも静かに乾杯した。
子どもがいるという事で、王家への挨拶も一番にしてもらえた。
お義父様とお義母様が先頭に立ち、祝いの言葉を述べる。
「本日は誠におめでとうございます。アイゼンバーグ家・グリフィス家一同、王家の永らくの繁栄を、心よりお祈り申し上げます」
お義父様の挨拶に合わせ、全員で頭を下げた。
王族も勢揃いし、ヒムロまで並んでる。
「うむ、忠誠に感謝する。公爵、伯爵」
陛下が厳かに頷いたところで、うちの天使がご挨拶した。
「ごち、よぅ!じっじ!」
「シオ……う、む、元気がいいな、アイゼンバーグ家の跡継ぎは……」
陛下、腰浮いたんだけど。条件反射で抱き上げようとしたな?
他の王族もそわそわしてるし。
陛下のいつもと違う対応に、シオンの顔が少し曇った。
それを見てさらにそわそわになる王族たち。
こりゃいかん。
「シオンくんー、ほら、あちらでお父様とお菓子食べる人〜?」
「たい!」
困った時の仕込み。
意識を大好きなお父様に向けたので、すぐに笑顔になるシオン、ちょろい。
そのまま我々は後ろに下がり、グリフィス家へと譲る。
父上は悲愴な顔で陛下に告げた。
「陛下……本日のお祝いに、我が息子もお目通り叶いたく。御前に参上してもよろしいでしょうか」
「グリフィス伯爵の?……例の子息だな」
陛下も顔を強張らせる。
うん、さっきの騒ぎぐらいじゃ、玉座からは顔までは見えなかったかな?
同じく顔を強張らせるのがマリーとユーリ様。覚悟を決めた顔がヴィンセント様。他の王族はわからんらしい。
「よろしいですか皆様方。気をしっかりお持ちになってください。臆したらそこで終わりでございます。とにかく、自分を見失わないように!」
父上の注意事項が続く。息子を紹介する父親とは思えない内容だな。
「父上ひどくないか?サリー」
ヴィンスも思ったらしく、寄り添うサリーに囁く。
「大変適正な評価です」
「嫁の方がひどかった」
「ミュリエル様ほどではありません」
「ちょっと!なんでこっちに飛び火すんの?」
後ろから抗議すると、陛下の前に立った父上がジト目で振り返っていた。え、私か?
「本当にお前達は、少しの間くらい大人しくしてられないのか。……まあいい、気が抜けた。ヴィンス、サリー、来なさい」
お前達、って!まとめられた!
ぐぬぬ、と唸ってるとルシウス様がお腹を撫で、シオンが「たしゃ?だじょぶ?」と労ってきた。
仕方ない、天使たちに慰められたら機嫌を直すしかない。
「陛下、息子のヴィンスとその妻のサリーです」
「お初にお目に掛かります。ヴィンス・グリフィスと申します。長らくトラキオンヘ留学しておりましたが、子の出産を機に戻って参りました。よろしくお願いいたします」
「サリー・グリフィスと申します。よろしくお願いいたします」
二人して頭を下げーー顔を上げた時、ヴィンスは最大限のにこやかさで微笑んだ。
おい、威力を強めるなとあれほど……。
「「「「「〜〜〜〜〜?!」」」」」
ほら、皆様絶句してるじゃないの。
あ、ヒムロだけ普通に驚いてる。たぶん、ヴィンスが私と同じ顔してるからだ。あの子も魅了耐性があるらしい。
マリーは傍らのユーリ様の背中を笑顔で抓ったらしい。おかげで涙目ながら、ユーリ様は我に返った。
「ヴィ、ヴィンス殿、久しぶりだな……」
「これは第二王子殿下。お久しぶりにございます。この度は誠におめでとうございます」
そう言って、先程とは違う親しみの篭った笑みを浮かべた。
ユーリ様はまた赤面してしまう。おい。
「ヴィンス、久しぶりね。あなたに妻がいたなんて知らなかったわ」
貴族スマイルを貼り付けたまま、今度はマリーが話し掛ける。
「あぁ、先日籍を入れたばかりだ。子どもはお前の息子と同級生だな。どうぞよろしく」
一転、くだけた口調でマリーと話すヴィンスに、王族方はもはや対応不可になってる様子。
これはもう、撤収した方が良いだろう。
「ヴィンス、シオンがお菓子を食べたがってるのよ」
後ろから囁くと、サリーも一緒に振り返った。
「シオンのおやつか、それは食べさせなければな。やはり苺がいいのか?」
「ヴィンス様、シオン様は葡萄もお好きです」
「葡萄か!きっと食べてる姿も可愛いぞ、よし行こう」
さっさと下がりそうになるので、父上が慌てて止める。
「マイペースなのもいい加減にしなさい!……失礼しました。これにて下がらせていただきます、お時間をいただきありがとうございました」
父上の言葉に合わせて頭を下げ、両家揃って玉座の前から去る。
王族はしばらく呆然としていた。
◇◇◇◇◇◇◇
「威力をあげるな、ってあれだけ言ったのに。全然従わなかったわね、馬鹿ヴィンス」
「まあそう怒るな。この国の王族に、どこまで効くのか知りたかったんだよ。第三王子殿下だけは耐性をお持ちのようだな」
「そういうもんなんだね、やっぱり不思議」
ルシウス様がシオンを膝に置き、ヴィンスがシオンの口に菓子を放り込む。
サリーは私の隣に座り、世話をしたがるのをなんとか抑えてるようだ。
妊婦と幼児のためにしつらえた、軽食スペース。
社交のある親達は散ったので、子どもたちだけで居座ってる。もちろん、周りは騎士達に固められてる。
「ん、シオン。さっき口に入れた葡萄、もしかしてこっちの頬に入ってるのか?」
「あぁ〜、シオン、お口の中ごっくんしてからヴィンス殿にもらうんだよ。ほらモグモグして」
「うみゅ」
「はは、頬袋に溜め込んでるのか?リスみたいだな」
「ほっぺが丸いから、気付かないことがあるんだけどね。気に入った物をこちらの頬に溜める癖が」
美麗な親子と美麗な伯父が戯れてる風景。
騎士達が後ろを向いたまま震えてるのは、気のせいか?
目を細めて見守るハリーに、騎士の一人が近付き耳打ち。
それをこちらまで伝えに来る。
「ミュリエル様のご友人方が、ご夫君と共にいらしてるそうです」
「あら。挨拶しに来たのかしら、ヴィンス、入れてもいい?」
「ん?あぁ、ミューの友達か。いいけど、俺は責任を持たないぞ?」
魅了に落ちる可能性か。それは仕方ないかな。
ハリーに許可を出すと、ぞろぞろと人がやってきた。
「「「ミュリエル様、皆様方、ご機嫌よう」」」
「ごち、よぅ!」
三人娘の揃った挨拶に、シオンが真っ先に反応する。
「シオン様……先日もお可愛らしかったですけど、今日はまた格別です!」
「ホント、物理的に眩しかったわ。私の父はグラスを落としたわよ」
「うちの母はふらついたわね……、それで、こちらがミューのお兄様?」
トレイシーの質問に、ヴィンスは立ち上がってニコリと笑い掛けた。
「初めまして、ヴィンス・グリフィスです。妹と甥がいつもお世話になっています。今後共よろしくお願いします」
ヴィンスにしては控えめな笑み。
それでも三人とも赤面してるし、魅了耐性は低いかも。
後ろの夫達は面白くなさそうな顔だ。
「……以前お会いしましたね、ミュリエル様のお兄様。アサト・ワルローと申します。アイゼンバーグ卿にも、日頃からお世話になっております」
赤くなったシャーリーを引き寄せ、アサトがヴィンスに果敢に挑む。
ヴィンスはーー大変、面白そうな顔になった。
「あぁ、ルシウスの後輩か。あの時は世話になったな!ミューのお友達の夫だったのか」
「ええ、私も同窓生ですので」
「へぇ!俺も学園に通えていたら、君らと一緒に過ごせたのにな。まあ良いか、どうぞよろしく」
「……はい」
アサトに近付き、にこやかに握手を求めるヴィンスに、アサトも応じる。
ルシウス様が、やれやれと言う顔をした。
「だいぶ俺を警戒しているようだがな、ミューのお友達を誘惑する気はないぞ?そこまで節操なしじゃないさ」
「……!はい、失礼しました」
「でもな、友達の旦那までは知らない」
「は?」
ヴィンスがニコリと笑って、アサトに顔を近付けた。
「自身でも俺をきちんと警戒しておくといいよ、アサト」
最後の名前のところだけ、必要以上に艷やかな声でそう囁いた。ついでに流し目も。
「〜〜〜〜〜?!」
咄嗟に手を振り払ったアサトは、真っ赤になって耳を抑える。
ヴィンスはカラカラと笑い、シオンの隣へ戻った。
「いやぁ新鮮な反応だな。とても楽しい!」
「楽しまないでくれる?アレも一応友達なんだけど」
「あれ、そうなのか。しまった、お友達を誘惑してしまったな。これじゃ節操なしと思われるぞ。アサト、今のなしで」
「〜〜〜〜!」
「あ、アサト様?大丈夫ですか?」
「だじょぶ〜?」
「シオンは気にしなくていいからね。ワルロー、誰にでも突っ掛っていくからこんなことになるんだよ。私の義兄に失礼な振る舞いをしないでくれ」
「〜〜!失礼、しました」
「おぉ、ルシウスが強気だ!見たかミュー」
「割と見るわよ?人によるの」
「へぇ〜〜」
「……まじまじと見るのはやめてほしいな」
ルシウス様も少し赤くなってるけど、これは照れだな。
やり取りに毒気を抜かれたのか、友人達も笑顔になってきた。
「ミューと同じ顔してるのに色男なんて、凄いわ!」
「サラ、微妙に引っ掛かるんだけどどういう意味?」
快活に言われたが解せない。
「色気と言うのは、顔だけじゃないのね」
「だからトレイシー、どういう意味??」
こっちも、しみじみ言うな。
「ミュー様は、どちらかと言うと可愛らしいので!その!だから!」
あわあわ言われるのもなんだか悲しい。
「……シャーリー、気持ちだけ受け取っておくわ」
「ミューは可愛いよ?」
「たしゃ、かーい!」
「君らの褒めは家でやって!際限ないから!」
混じってくるな、美麗親子!
「良かったなぁミュー、可愛いって言ってくれる奴がいて」
もっと混じるな馬鹿兄!
「あんたに言われると無性に腹が立つんだけど?!」
「たしゃー、めんちゃ〜」
シオンの謝罪に、一気に気が抜けた。
「…………シオン、ホントにその癖やめよう?」
「めんちゃ?」
ヴィンスがルシウス様に聞く。
「ミューが怒ると、無条件にシオンが謝罪するんだ」
「……俺が悪かったよシオン、ミュー」
珍しく素直に謝ってた。
一方、サリーとハリーを見比べたサンレイク様は、ハリーに何かを感じ取ったらしい。
「手合わせを!ぜひ!貴殿は強いだろう?」
「お断りします」
「そこをなんとか!どうしたら引き受ける?!」
「主の許可が下りなければお答え出来ません」
「あるじ?」
ハリーは無言でヴィンスを指差した。
「ヴィンス殿!貴殿の従者殿と、手合わせをさせていただきたい!」
「うお、びっくりした。手合わせ?」
詰め寄るサンレイク様に、ヴィンスが引く。
ヴィンスに詰め寄れるなんて、耐性高そう。
「サンレイク、何を興奮してるの?」
「サラ!この方強いぞ!」
サンレイク様が示すハリーを見て、サラは目を丸くした。
「あら、サリーと同じ顔。こちらも双子?」
「いえ、年子です」
「へー。でもサリーと兄妹なら、強くても当然ね」
なぜサリーの強さを知ってるかと言うと、色々やったからだね。
「だろう?ヴィンス殿、ぜひ!」
食い下がるサンレイク様に、ヴィンスは何かを考えてるようだった。
「んー、ならせっかくだから、皆集めてトーナメント制で競わせよう」
ヴィンスが何か言い出した。
ルシウス様が怪訝そうな顔をする。
「ヴィンス殿、何を?」
「シードにマシュルト入れて、セザールもだったか?アイゼンバーグとグリフィスの騎士と、あとは希望者だな。こちらの旦那さんはどこの所属だ?」
「王宮近衛騎士です!」
「はは、近衛騎士か。不足はないな。マリーに言って許可を取らせよう」
「マリー?王子殿下方ではなくて?」
なんで選りにも選って、ヴィンスを毛嫌いしてる従姉妹にやらせるんだ。
ヴィンスは肩を竦める。
「殿下方が許可を出したりしたら、俺の魅了が疑われるだろう?変に勘繰られるのもゴメンだし、マリーが納得して許可を出したなら公明正大だ」
「なるほど」
「ヴィンス様、父が出るなら私は辞退しても?」
「そんな!」
「父の方が強いので」
「そうなのか?!」
ハリーの言葉に、サンレイク様の目が輝く。
「辞退してもいいけどなハリー。上位入賞者には、それ相応の褒美をやるぞ?」
「褒美?でしょうか?」
「お前ならさしずめ、シオンを膝に乗せて給餌する権利とか「やります」」
おい。
間髪入れずに受けたハリーにも、勝手にうちの子を賞品にしたヴィンスにも物言いだ。
「うちのシオン様を勝手に賞品にしないでください〜」
「膝に乗せるだけだぞ?それでやる気が出るんだ、協力してやれよ」
「ルシウス様!なんとか言って!」
「膝に乗せるだけならいいと思うけど」
「それ、シオンじゃなくて私が賞品になっても言えます?」
「絶対駄目!駄目だよヴィンス殿!」
「落ち着けよルシウス、ミューにやらせる訳ないだろう?」
結局、父親の強固な反対に遭い、シオンを膝に乗せる賞品案は没になった。
ただ、ハリーのやる気を引き出すために、「シオンを一日コーディネートする権利」は提供することにした。
サンレイク様は賞品がなくとも喜んで参加するので、そこはサラの希望を叶えるらしい。
あっという間に『グリフィス家主催:最強騎士を決めるトーナメント ※褒賞は要相談』の開催が決まってしまった。
王家の宴で、何をやってんだかなぁ……。




