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テンプレートが立ちはだかる日常  作者: ひつじ


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101/105

王家の宴本番:嵐の元が広間を闊歩する

ヴィンスが差し出したお菓子に、シオンがぷいっとそっぽを向いたので、おやつタイム終了だ。

ルシウス様が口の中を検めて、頬袋に隠してないか確認する。

それから抱き寄せて少し背中を叩いてみるけど……眠くはないみたいね。

「さてと。では私達は社交をしてくるわ。シオン様、またね」

三人娘は、それぞれの夫と共に広間へ戻って行った。

残された我々はお互いを見合う。


「……社交、します?」

「いる?」

「俺はいらんなぁ。サリーは?」

「必要ありません。」


だよね、と全員で頷いた。

片や公爵家、片や商人。

知り合いはわんさかいるし、必要ならば自分らで開拓する。

何もこの場で新たな人脈作りとかいらんなー。

「まあでも、シオンもおやつに飽きちゃったし。このままここにいるのもつまらないですよね」

「僕はミューとシオンがいるからつまらなくないけど、シオンは飽きちゃうね」

「息をするように口説くなぁルシウス」

「これが若旦那様の常態ですので」

揶揄われ赤くなるが、ではどこが口説き文句?と言うのはわからないんだろうな。

「シオンが眠くなったら帰ってもいいと言われてますし、ひとまず親戚に会いに行きましょうか」

「親戚?誰か来てたっけ」

「グリフィスじゃないわよ、アイゼンバーグ側。お義姉様達も来てるはずでしょ?」

「あぁ、カトリーヌも連れてきてるならちょうどいいね。シオン、ご挨拶に行こうか」

「ごち、よぅ!しょんよ!」

「「早い早い」」

フライングで挨拶を始めるシオンに苦笑しつつ、私達も広間へと歩き出した。


◇◇◇◇◇◇◇


「カトリーヌ、諦めなさい!シオンならいい、でも彼は駄目だ!」

「いにゃ!や!」


カトリーヌ様とお義兄様の攻防戦。

苦笑してるのはヴィンスだ。

「カトリーヌは美形好きなのね」

「そこで括るのはちょっと」

「じゃあ、悪い男が好み?」

「お義姉様、さりげに俺を悪いやつにしないでくれ」

お義姉様は感心したように眺めているが、娘と夫を止める気配はまったくない。

皆でぞろぞろと歩き、レスター公爵家ご一行様と出会った瞬間、カトリーヌ様が「きゃー!」と歓声を上げたのだ。

何に興奮しているのかと思ったら、ヴィンスだった。

ばたばたと手足を動かしヴィンスのところへ行こうとするカトリーヌ様を、お義兄様が必死に留めて今に至る。

シオン?ヘルメス様のお髭に夢中よ。


「ヴィンスくんの魅了は、一歳児にも効くのねぇ」

「重ねて言うが、故意ではないぞ?さすがに赤ん坊は対象外だ」

「グリフィスにいた時、赤ん坊なんてそうそう会わなかったわよね?」

「ミュリエル様、グリフィスに赤ん坊がいなかったのではなく、その母達が魅了を警戒してヴィンス様を避けてたのです」

「「なんと……!」」


初めて知る事実だった。

「まあ、じゃあ避けて正解だったのね。旦那様が負けそうよ」

「ローズ!頼む、手伝ってくれ!」

「まあ旦那様、娘の初恋を邪魔するなんて野暮ですわよ?」

「初恋言うな!」

お義兄様、泣きそう。

「大丈夫だお義兄様、魅了は初恋のうちに入らないから」

「そういう問題じゃない!」

「お嫁に行く練習だと思ったらいかが?」

「カトリーヌは嫁には行かない!」

「どこかのヴィンセント様みたいなこと言いますね」

悠長に眺めていると、ヘルメス様とシオンとルシウス様がこちらに合流した。


「父上!カトリーヌを止めてください、嫁に行きそうです!」


お義兄様、必死過ぎ。嫁には行かないだろう?

「ん?シオンか?」

「ヴィンスくんですよ。ミューのお兄様の」

「ヴィンスくん?」

何気にヴィンスを見、オッドアイと目が合った途端、ヘルメス様はガチリと固まった。

「あらまぁ、幼女からお年寄りまで、選り取りみどりね」

お義姉様は楽しそうに笑う。

「そう言われても、俺にはこうして妻子がいるしな」

そう言ってヴィンスはサリーを引き寄せた。

サリーが少しむくれてるのは、恥ずかしいからだろう。

「あら。そう言えば、いつの間に結婚を?」

「一昨日?かな?」

「まあ」

「提出したのが一昨昨日で、受領されたのが一昨日ですね」

「新婚ホヤホヤね!」

「……そう言えば、そうだな」

「ホヤホヤ感はまるでないです」

付き合いが長いせいか、熟年夫婦くらいの慣れっぷりだ。


「ホヤホヤ感は、お前達の方があるよな」


ヴィンスが笑う。

お前達?

言われてふと後ろを見ると、見慣れた夫の顔が間近にあった。

シオンがヘルメス様に抱っこされてるので、こちらにくっつきに来たらしい。

「?」

目が合って嬉しそうに笑う。

バックハグでお腹を触る、いつもの立ち位置だ。

「結婚生活も二年を過ぎてるでしょうに、確かになんだか新婚夫婦っぽい二人ね」

お義姉様も納得したらしい。

「新婚の頃からお変わりないです」

サリーにも言われた。

「何が?」

「私達、新婚夫婦っぽいんですって」

「新婚……?」

撫で撫で。どこら辺が新婚夫婦っぽいのか、こちらもわからないらしい。

まあ、そこがルシウス様らしいっちゃらしいが。


「じーじ?じー、じ!」


固まってるヘルメス様をシオンがペチペチ叩き、ようやく硬直が解けたらしい。

「あ、あぁすまないシオン。ぼうっとしてしまった」

そう言ってヘルメス様はルシウス様にシオンを渡し、戦い続けてる親子の元へ行った。

「カトリーヌ、彼はやめておきなさい。魂を抜かれる」

「いにゃー!」

「抜いてないし」

それでもその表現は気に入ったらしく、ヴィンスは楽しそうに笑った。


◇◇◇◇◇◇◇◇


しばらくレスター公爵家の攻防を見ていたが、たぶんヴィンスがいたら終わらないのでは?となったので、カトリーヌ様頑張ってね〜とエールを送って立ち去った。

ぎにゃーー!と凄い悲鳴が響いたが、「ふわわ!」とシオンが対抗するくらいしか出来ない。

「赤ん坊の相手は大変だなぁ。皆が皆、シオンのようにお利口ではないってことか」

後ろの騒ぎを聞きながら、ヴィンスが呟く。

「シオンだって大変よ?比較的楽な方ではあるけど、それでも癇癪起こしたり物を投げたりするわ」

「しょん、いーこ?」

「今はね」

「そっか、ならカトリーヌが泣くのも仕方ないな」

ふふ、とヴィンスがシオンと笑い合ってると、「ミュー様!」と声が掛かった。

「エリーゼ様!いらしてたの?」

エリーゼ様とレイモンド様、辺境伯ご夫妻だった。

「はい、三日前に王都に着いたんです。お久しぶりです!」

「ええ、お久しぶり。シオン、ご挨拶は?」

「ごち、よぅ!しょんよ!」

「かわっっ!!」

口元を抑えるエリーゼ様に、レイモンド様は肩をポンポンと叩いた。

「レイモンド。こんばんは」

「ルシウス、久しいな。それと……」

「お初にお目に掛かる。ヴィンス・グリフィス、ミュリエルの双子の兄だ」

ヴィンスは目を見て挨拶をしたが、レイモンド様は動じず「初めまして。辺境伯、レイモンド・ヴュー・ハーツライドだ。ルシウスのハトコにあたる。こちらが妻のエリーゼ」と普通に自己紹介をした。

魅了には掛からないらしい。

ふむ、と頷き、ヴィンスは次にエリーゼ様に向かって笑い掛けた。


「エリーゼ様、初めまして。ミュリエルの兄のヴィンスだ、どうぞよろしく」


エリーゼ様は一瞬にして赤くなり、言葉をなくした。

「エリーゼ?どうした??」

魅了のわからないレイモンド様は、何がなんだかわからないらしい。

「……辺境の者だから耐性がある訳でもないんだな?」

「私の友達で実験しないでくれる?」

「すまん」

そうなんだろうな、と思いつつ釘を刺す。

エリーゼ様は深呼吸して、己を取り戻したようだ。

「……失礼しました。辺境伯家のエリーゼと申します。よろしくお願いします」

「大丈夫よ。失礼なのは兄の方だから」

「すまないなエリーゼ様。これに懲りず、ミューと仲良くやってくれ」

原因が何を言うかと思ったが、エリーゼ様はにこやかに微笑んだ。


「ミュー様、しばらくお会いしなかった間に、お腹が随分大きくなりましたね!」

エリーゼ様が嬉しそうに声をあげる。

「そうね、半分超えたから。まだもうちょっと膨らむわ」

「わぁ……!」

「……ミュリエル夫人、その……見間違いでないといいのだが、侍女の方も……?」

レイモンド様が大変言いづらそうに切り出す。

まあ、これで妊娠してなかったらただ太っただけってことになるしね。

さすがに今のサリーのように、お腹周りのみ太るような人はそうそういないだろうけど。

「ええ、見間違いではありませんわレイモンド様。サリーは私の侍女ですけど、この度兄と結婚しましたの」

「この腹の原因は俺だ」

当然のようにサリーのお腹をポンポン叩くので、逆にサリーから拳をお腹にめり込まされてる。

「うぐ……おい、これが夫に対する仕打ちか……?」

「無礼者には鉄拳を、と父から言われております」

「俺は対象外だろう……」

「そうでしたか?」

シレッと言うサリーは平然としている。

うん、ヴィンスが悪い。

二人のやり取りを見て、レイモンド様が驚愕した。


「侍女……サリー!では君が……!」


ん?どういう驚き方?

戸惑っていると、エリーゼ様も「あ!」と声をあげる。

「サリーさんの旦那様……ではこの方が、す(・)り(・)潰(・)さ(・)れ(・)る(・)方……!」

ぶはっ!

私とルシウス様は同時に吹いてしまった。

その話か!今蒸し返す?!

「すり潰される?何が?」

事情を知らないヴィンスが普通に聞き返すが、辺境伯夫妻は答えない。

「サリー、なんだ?」

あぁ、サリーに聞くなんて……!

肩が震えてしまう。ルシウス様も盛大に咳き込んでるぞ。


「ミュリエル様に『もしも浮気をされたら』と聞かれましたので、『すり潰す』とお答えしました」


サリーは平然と答える。

男性陣は皆固まった。

「……すり潰す?」

「はい」

「……アレを?」

「はい」

「〜〜なんでそんなに平然と?!」

「なんでと言われましても。浮気をされたら、ですから」

「それにしたって極端だろ?!お前だって俺ので喜んでたじゃな、グハッ!」

再度拳がめり込み、王家の宴に相応しくない会話は強制終了された。


辺境伯夫妻は、場に見合った話題を選びましょう。(他人事)


◇◇◇◇◇◇◇


辺境伯夫妻に無自覚な意趣返しをされたヴィンスは、少し大人しくなった。

殴られた腹が痛い、とも言う。


「あと私の知り合いで来てそうなのは、オリビア様くらいかしら?他は下位貴族が多くて、当主だけとかばかりね」

「オリビア様?あぁ、タスクの嫁か。そういや何か言ってなかったか?」

「オリビア様は先週お風邪を召されまして、大事を取って欠席いたします、とポルカ会頭よりご伝言を承っております」

ヴィンスの確認に、サリーが平然と答えた。

……今?

「宴も中盤じゃないの、なんで今まで黙ってたの?!」

「「忘れてました」」

そこだけ声を揃えおって!

「たしゃ、めんちゃ〜」

「ほら、二人が誠意足りなくて代わりにシオンが謝ってるわ!」

「ミュー、すまない俺が悪かった。本当に忘れてたんだ。お前達に逢いたくてすっぽ抜けた」

「めんちゃ〜」

「ミュリエル様、申し訳ございません。私もお二人に再会するのが待ち遠しすぎて、会頭の話を半分しか聞いてませんでした」

「たしゃ、めん「シオン、ほらお父様とお散歩しようか」」

合間にシオンの謝罪が入るもんだから、怒るに怒れない。

そう思って眉を顰めてると、ルシウス様がシオンを抱いて離れてくれた。

もちろん、警護も二手に分かれてそれぞれに付く。想定内だ。


「……シオンの見てるところで怒りづらい」

「うん、正直謝ってる身としても気が抜けて辛かった」

「あの癖、どうしたらなくなるかしら……」

「成長したら、いつかはお分かりになるかと」

サリーが慰めてくれるけど、それってだいぶ先ね?

呆れていると、ヴィンスが楽しそうに笑う。

「まあ、ここで立っていても仕方ない。二人を追うか?」

二人が歩いて行った方角を見る。

騎士達に囲まれて眩い金髪が見えないけど、体の大きいムラトが目印になってる。

「んー、でも少し座りたいわ」

「わかった。サリーも座るか?」

「……出来れば」

控えめにでもサリーが口にするなら、かなり切実なんだろう。

急遽、クラストの指示の下簡易なテーブルセットが壁際に置かれる。

「……ここまでする話だっけ?」

「若旦那様とシオン坊っちゃまが戻られましたら、ご一緒されると思われますので」

意外と気配りの出来る騎士団長が、堂々と言う。

「さっすが、ワイ「ワイン団長はもういいです!忘れろ!」」

「そう言うなよワイン、話は聞いたぞ?素敵な名じゃないか」

「名じゃねえんだよ!ワイン言うな!」

「お二人に酒の名付けをしようとした団長にはお似合いかと」

「俺が悪かったから!あれもふざけてたんじゃなくてだな、良かれと思って!」

「まぁ。ならワイン団長の子どもたちは、ワインから出来るお酒の名前がいいわねー。何があるかしら?」

「お嬢様!」

「有名どころはブランデーだな」

「長男は決まりね。次男は?」

「決めるな!」

「グラッパ、と言う蒸留酒がありますね」

「候補を出すな!うちの子に変な名前を付けるんじゃねぇ!……あぁ、目線が痛い……俺はなんであんなことを言っちまったんだ……」


なんてクラストを弄って待ってたが、なかなか戻ってこない。

……なんだか、向こうの方でぴいぴい泣いてる声がしない?

「クラスト」

「は」

「伝令ー。ルシウス様に、ミューが寂しがってますって伝えて〜」

「承知しました」

クラストが頭を下げて部下に指示を出す。

これで、どれだけシオンが騒ごうとひとまず戻ってくるだろう。

「誰かに絡まれてるのかしら」

「あの布陣で?どれだけ根性のある奴なんだ、逆にスカウトしたい」

「使い道ある?」

「使い捨てで良ければたんまりと」

「やめなさい」

不穏なことを言うヴィンスを窘めてるうちに、伝言が届いたらしく騎士達の塊がやってきた。

……なんか、騎士達の表情が諦めになってる??

ルシウス様について行った騎士達が囲いを解除し、中の人達が姿を現す。


「げ」


クラストが漏らした声が全てを物語っていた。

私も口元が引き攣る。ヴィンスは楽しげに笑い、サリーは眉間に皺を寄せた。


「ミュー、寂しい思いさせてごめんね!シオンを説得してたんだけど全然聞かなくて……。その、こちらの方のお髭を触りたいって駄々をこねてるんだ」

潤目のシオンを抱えたルシウス様が、困ったように背後を振り返った。

立派な体格、立派なお髭をお持ちの紳士が困った表情で佇んでいる。

隣に奥様を同伴して。



ーーその奥様、元・デリル王国の第四王女殿下なんですけど?!




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