王家の宴本番:嵐に元凶を引っ張り込んだ
デリル王国の元第四王女殿下は、臣籍降嫁をされて下位貴族へと嫁いだ。
今回の宴に、そのお相手と参加してるらしいと情報を貰った。
旦那様となった方は大柄で恰幅が良く、熊みたいな人だとトレイシーから聞いた。
その時にお髭の情報も聞いておけばこんなことには……、いや、それ聞いてもまさかうちの息子のお髭琴線に触れるとは思うまい。
だからこれは不可抗力。そこまではいい。
ーーなんで当のルシウス様が、元王女殿下に気付いてないのって話よ!
なんでかは知ってる。顔を知らないからだ。
でも、警護にここまで警戒態勢取らせてんだから、いい加減覚えてもいいんじゃないかな?!
だから騎士達は諦めの表情をするし、迎えた側の騎士も驚愕の顔をしてる。
気付いてないのはルシウス様だけ……それってどうなのよ。
よし、説教してやろう。親子共々。
私の決意を感じ取ったのか、兄夫婦が二人とも体を震わせた。
貴族スマイルを浮かべて、元殿下夫婦に話し掛ける。
「まあ、うちの息子の我儘でご足労お掛けして申し訳ありません。少し夫とも話し合いますので、もう少々お時間をいただいても?クラスト、お席ご用意して」
いくら下位だからって、わざわざここまで呼んどいて立たせて置く訳にはいかない。
椅子を準備した騎士たちが勧めると、二人とも居心地悪そうに座った。
「ヴィンス、サリー。お相手お願いしてもよろしい?」
「承知しました」
「心ゆくまでやってこい」
兄夫婦も快諾してくれたので、席の移動をお願いして、笑顔のままこちらへ天使親子を呼び寄せた。
困り顔のルシウス様も、涙目のシオンも、不穏な気配を感じ取ったらしくビクビクしてる。
手だけで隣を示し、座らせると準備完了。
まずはルシウス様からだ。
「あの、ミュー?」
恐る恐る問い掛けてくるルシウス様にニコリと微笑むと、襟首を掴んで引き寄せた。
「このすかぽんたん」
「?!」
「一体誰を連れてきてくれてんのよ、デリル王国の元第四王女殿下夫婦じゃないの」
「……え“」
「誰に配慮してここまで厳重な体制組んだと思ってんの?あなたのためでしょうに。なのになんで当の本人が気付かずに引き入れてんの、いい加減にしなさいよね」
「〜〜ごめん!」
「騎士達の諦めと呆れの入った表情見えない?仕えてる主人がこれじゃ、まったく報われないわよ。有能な騎士達が辞職願出してきたら、全部ルゥのせいだからね」
「ごめん!ごめんなさい!!」
半泣きで謝り倒すルシウス様だった。
騎士達が〜のところが聞こえたらしく、周りの騎士が首をめっちゃ横に振ってる。
まあ、脅しだから。これくらいで辞職するとも思ってないし。
「何を謝ってるの?ルゥ」
「きちんと状況を把握せずに、守られてるだけで胡座をかいてました!ごめんなさい!」
「家に帰ったら、お義母様にも叱ってもらいますからね」
「はい……」
しおしおと項垂れるルシウス様を見て、これは怒ってると思ったらしく「たしゃ、めんちゃ〜」とシオンが言ってきた。
いや、次は君だからね?
「シオン」
叱る時のトーンで呼び掛ける。
一瞬で自分が怒られる!と悟ったらしく、顔が歪んだ。
「他所様のお髭を触りたいなどと、ワガママ言ってはいけません」
「たしゃ!めんちゃ!めんちゃっ!!」
「ワガママ言って、お父様とおじさまを困らせたのはダメです」
「めんちゃ!めんちゃ、ぷあ!めんちゃーー!!」
「お父様とおじさまを困らせたシオンは、今はいい子じゃありません」
「しょん、いーこ!いーこよ!たしゃーーーー!!」
大泣きに泣いて、私に縋りついてきた。
あぁ、衣装がビショビショ……まあ仕方ない。
「シオン、いい子に出来るの?」
「んぐ、しょん、いーこ、うく……」
「おじさまにもごめんなさいするのよ?」
「おじ、めんちゃ……」
「お約束ね。できる人?」
「たい……」
元気ないバージョンのお返事だが、まあ良しとしよう。
ポンポンと背中を叩くと、ちょっと落ち着いたらしい。
ついでにルシウス様も抱き着いてきてるし。そっくり親子だな。
「シオンはともかく、さすがにルシウス様が涙目じゃカッコつかないですから。それ以上は泣かないでね」
「はい……」
「うにゅ、たしゃ〜」
「なぁに?」
「めんちゃ〜」
「うん、わかったよ」
「ミュー、僕もごめんね」
「はいはい」
二人とも顔を覗き込んできたので、許した証拠に微笑むと同時に顔が輝いた。
眩しっっ。
二人がひとまず泣き止んだので、ヴィンス達の元へ向かう。
狭いスペースでのこと、私からルシウス様への説教はさすがに聞こえなかっただろうが、シオンが盛大に泣いたことはわかる。
つか、この泣き声たぶん広間中に響いたな。
「お手間を取らせて申し訳ございません。息子の謝罪を聞いていただいても?」
「え?えぇ、どうぞ」
戸惑った旦那さんの許可を得て、シオンが謝った。
「おじちゃ、めんちゃ……」
「はい、いいですよ。……萎れてますね」
「説教後ですから」
人の良さそうなお顔を少し困った風にして、旦那さんは笑った。
「その、突然の声掛けに戸惑っただけでして。嫌な思いはしてないのですよ?むしろ私はこの髭で子どもたちから倦厭されることが多かったので、ちょっと嬉しかったと言うか」
「まあ」
「……良ければ、触りますか?ご両親がお嫌でなければですが」
恥ずかしそうにしながら申し出てきた。
いい人!
ルシウス様もシオンも、怒られた後なので物凄く私を窺っている。
「……シオン、お髭、触らせてもらう?」
「……!たい!」
「ルシウス様、シオンをお任せしても?」
「わかった」
神妙な顔をしてシオンを受け取り、旦那さんの隣へ座る。
なんだか興味を持ったらしいヴィンスも加わって、髭をどう生やすかとか手入れをどうするかとか盛り上がりだしたので、女性陣はテーブルを別にすることにした。
◇◇◇◇◇◇◇
「ご迷惑をお掛けしてすみませんでした、奥様」
そう声を掛けると、彼女ーー元王女殿下、リリーシア様は複雑そうな顔をした。
「……わたくしのことは分かってるのよね?」
「もちろんですわリリーシア様。気付かないのは、あのどうしようもない夫だけです」
ズバッと言い切ると、サリーも頷いた。
「……そうよね。演技か策略かと疑ったけど、ただ単に興味がないだけなのよね」
「本当に申し訳ないことです。あれはさすがにどうかと思うので、義母からも叱ってもらいます」
そう断言すると、リリーシア様はちょっと笑った。
「そうね、どうかと思う。……でも、おかげで吹っ切れたかも。あそこまで眼中にないことを示されたら、もうどうしようもないって」
そう言って、まだ髭を触ってきゃいきゃい喜ぶシオンを見つめる。
「……あの時、お腹にいた子よね?」
「そうです。シオンと言います」
「……今は、また次の子が?」
「ペース早いですよね」
「……言いづらいことを先に言っちゃうのね」
「私もそう思うんで」
隣のサリーを見る。
「……あなたも?」
「ミュリエル様のお子様と、時期を合わせました」
「そんなこと出来るの?」
「やってみたら出来ましたね」
シレッと答えるサリーに、リリーシア様はまた笑った。
「……あれから色々あって。王族からも離籍されて。自分が望んだ訳じゃない婚姻を結んで。陛下や兄弟達から『反省しろ』って言われても、何が悪かったか分からなかった。今でもよく分かってないと思う。でも、今日やっとひとつだけ分かった気がするの」
リリーシア様は、私をまっすぐ見た。
「……あの時、あの子がお腹にいる貴女に、冤罪を着せようとしたこと。あれは本当に悪かったわ。……ごめんなさい」
頭を下げられた。今日はよく謝られる日だ。
「良いですよ。結局何も起きなかったのですし、楽しかったので」
頭を上げたリリーシア様は、信じられないと言った表情をした。
「ーー楽しかった?」
「はい」
「あの状況が?」
「お約束、と言うか物語みたいで。王女様と一対一の対決なんて、中々機会がありませんもの」
素直に告げると、やはり信じられないと言わんばかりにサリーを見る。
サリーも頷いた。
「ミュリエル様の感性は、他の方とは一味違いますから」
「ちょっと!サリーに言われたくないんだけど?!」
「私も二味違います」
「増えてる!」
いつも通りのやり取りをしてると、リリーシア様は「変な人たち」と笑った。
まあ、そこは否定をしない。
あちらのテーブルでは、ルシウス様やヴィンスまで髭を触らせてもらってた。
「……あの人が子ども好きなんて、知らなかった」
「あやすのがお上手ですね。シオンはお髭大好きなので、相性ばっちりですよ」
「……変わったお子さんね」
「デリルにも、探せばいると思いますよ?」
「そうかしら……」
なんだか疑われたぞ?いるって、たぶん。
「……小さな頃から」
「?」
「例えば、その……生まれた時から父親に髭があったら、慣れるかしら、と……」
恥ずかしげに言われた。おや。
「さあ、どうでしょう?うちの子は周りにいなかったのに大好きですし、逆もあり得ますよたぶん」
「……そうよね」
「まずは、生まれてみないことには?」
お腹を擦って微笑みかけると、意図を察したようだった。
「……考えてみるわ」
随分と穏やかな顔で旦那さんを見つめるリリーシア様に、時の力って凄いなぁ〜と感じた。
「ちなみに、シオンのベストオブお髭は、あちらの玉座にいらっしゃる陛下です」
「大物過ぎない?!」
「今、旦那さんのお髭に戯れてるシオンを恨めしそうに見てますよ〜」
「ねえ、変な恨みとか買わないわよね?!」




