王家の宴本番:嵐たちと王家の戯れ(大体髭の話)
髭談義が終わり、シオンが大変満足してからリリーシア様達は去っていった。
ご機嫌のシオンは私に引っ付いているので、ルシウス様も当然引っ付く。
「シオンが懐いてくれたから、エネリオス殿は少し自信が付いたって。子どもには怖がられるばかりだと思ってたらしくて」
あの旦那さん、エネリオス様と仰るのね。聞きそびれてた。
「シオンをあやすの、お上手でしたね」
「甥とか姪とかの面倒は見るらしいんだけどね。他所の子?」
「あぁ」
身内以外の子ども、てことね。
「それなら、うちのシオンは自信を付けるのに最適でしょうね。一番怖がりそうなのに」
「うみゅ?」
「物怖じしないよねシオンは……ミューそっくり」
「なんと!」
横からシオンのほっぺをつつくヴィンスも、楽しそうに笑った。
「髭の生やし方とか整え方を教えてもらったからな、そのうちやってみるか?ルシウス」
「んー、ミューは僕に髭が生えたらどう?」
「どうって言われると、ルシウス様のお好きにしたら良いと思いますけど。お義母様曰く、アイゼンバーグの男性は生えづらいらしいですよ?」
「え……あぁ、そうかも。あんまり手入れしなくても伸びないもんな……」
ちょっとしょんぼりするルシウス様。
確かに、よく頬擦りされるけど痛かったことはないな。
まあ、頬擦りするなら生えてない方がありがたい。
「俺はやってみてもいいか?サリー」
「ダメです。」
関心がないかと思ったのに、サリーは即座に反対した。
ヴィンスも意外だったらしく、目を丸くする。
サリーは厳かに言った。
「ヴィンス様のお顔は、ミュリエル様のお顔です。髭、駄目、絶対。」
「「「……」」」
えっと……私の顔は私の顔であり、ヴィンスの顔もヴィンスの顔だぞ……?
ちら、と見ると兄もこちらを見てた。
「……要は、女顔ってことか。俺もルシウスも、なんならハリーも」
控えていたハリーは自分が出てきたので目を見開いたが、納得して頷いた。
「ルシウス様もシオンも、お義母様とそっくりですもんね……」
「父上に反対される気がしてきた」
ヴィンスが、手を伸ばしてルシウス様の肩を叩く。
「諦めよう」
「……うん」
そんなに悲哀を滲ませる話か?
◇◇◇◇◇◇◇
なんてことを話していると、ベストオブお髭から呼ばれた。
いや、そんな呼び方定着したら困る。陛下です。
挨拶の時に構えなくてそわそわし、社交をしていたらシオンの泣き声が響き、エネリオス様のお髭にじゃれている所を目撃して我慢ならなくなったらしい。
「シオン!他所様のお髭に戯れていたな?!髭の浮気をするとは、この小悪魔め!」
「うきゃは、きゃは、じっじー」
「じっじだぞーシオンー今日も可愛いな〜」
さすがに玉座には呼ばれなかったけど、王族がひと塊になってて充分注目の的である。
さぞかし嫉妬の視線がーーと危惧したけど、ルシウス・フォン・アイゼンバーグ卿の息子さんなら仕方ない、と生温かい目で見られてるようだ。
なんなら、シオンと戯れる陛下が羨ましい的な?
「シオンは大物ですね」
「ミューだって凄いと思うよ?」
「ルシウスもだぞ」
「皆様大物です」
全員で呟いたけど、侍女の振る舞いしかしてこなかったのに堂々とここに座ってるサリーが一番かもしれない。
「シオンの泣き声、響いてたわよ。ミューが叱ったの?」
カイリ様をあやしながらマリーが聞いてきた。
それが聞こえたらしく、シオンがしゅんとする。
「お、シオンどうした?なんだ?」
「しょん、いーこ」
「んん?」
「しょん、いーこ……」
「いーこ?シオンはいい子?ああ、シオンはいい子だぞ?」
陛下が慌てて機嫌を取るけど、シオンはチラチラこちらを見てしょんぼりしたままだ。
ルシウス様……じゃないのかな、今は。
「シオンはいい子よ〜」
「!しょん、いーこ!」
「なんだいきなり元気になったな?まあ良い、いい子だな〜シオン〜」
「父上、俺もシオンと遊びたいです!」
「ひーく!」
「シオン〜」
ヒムロが乱入した。
まだ学生なので、まあ大目に見るのもあり?
「ミューはシオンを叱れるのか、凄いな……。私は既にカイリを叱れるか、自信がない」
ユーリ様が息子を見てこちらもしょぼんとした。
……?
「ルシウス様、シオンを叱ったことありましたっけ?」
「……ない」
「今度叱ります?」
「無理」
「!ルシウスが無理なら、私が無理でも当たり前だな!」
「ユーリ様?」
ルシウス様の状況を知って浮かれたユーリ様だけど、マリーの冷ややかな呼び掛けに一瞬で沈静化した。
「それは、わたくしにだけ子育ての大変なところを押し付けて、自分はいい思いをしてカイリに好かれようと?」
高速で首を振るユーリ様を見て、ルシウス様は悲壮な表情になった。
「私は思ってないですよ?」
「でも……!」
「いやホントに。むしろルシウス様には、シオンの僕可愛い?攻撃に備えてほしいです」
アレに付き合い続けるのは、私は逆に無理。
「それでミューは本当に大丈夫?」
「大丈夫です。私はシオンを叱っても心が折れませんし。ルシウス様がシオンを叱ったら、その後の二人のケアがめんど……大変だから」
「言い直せてないぞミュー」
ヴィンスに笑われたけど、ルシウス様はホッとして擦り寄って来たので良しとしよう。
「……ヴィンス殿は、子どもを叱るのも平気そうだな」
まだ少し警戒してる風にユーリ様が言う。
「ん?どうだろうな。ルシウスほど心が折れる気はしないが。こればっかりは生まれてみないとなー」
「サリー、どう?」
「子どもと一緒になってはっちゃけて、子どもと一緒になって叱られる姿が目に浮かびます」
「「「「「…………」」」」」
冷静に返すサリーに、全員沈黙した。
「……それしかないわね」
「そうだね」
「やるだろうなぁ」
「やるでしょうね」
「既に諦めモードじゃないか……」
ユーリ様が呆れてる。
「もしくは、お一人ではっちゃけて子どもに叱られる気がします」
「「もっとあり得る!」」
思わずルシウス様と声が揃った。
「……なんだか、分別の付く子どもが育ちそうね」
マリーがしみじみと言う。
「むしろ、ヴィンス殿の武勇伝に付き合えるような子どもにはならないでほしい」
ルシウス様は切実に言う。
「武勇伝……?」
「そんな大したものじゃないさ、なぁハリー」
「ええ、まあ。大したことではないです、集落がひとつなくなるくらいで」
「…………何をしたらそうなるんだ……」
信じられない物を見る目でユーリ様がヴィンスを見た。
「ユーリ様、聞くんですか?後悔しない?絶対?」
念押ししてやると、プルプルと首を振った。
「そんなに怯えるなよ殿下、ちょっと争いごとが起きてちょっとハリーが暴れただけだから」
「こっちか!」
勢い良くハリーを振り向くが、ハリーが飄々と「全てヴィンス様の命によるものです」と返すので、またヴィンスを見て「どっちもか!」と叫んだ。
ユーリ様って反応が面白いのよね〜。
そう思ってると、ルシウス様に「……ミュー、おんなじ顔して笑ってるよ」と囁かれた。
そらいかん。
◇◇◇◇◇◇◇◇
シオンと戯れる休息を経て、俄然元気になった陛下が再度玉座にて挨拶を受けている。
回収したシオンを膝に乗せていると、うつらうつらとし出した。
「ここで眠くなるとは」
「帰るか?」
「……今?」
そりゃシオンが寝たら帰るとは言ったが……。
玉座におわす陛下。
その両側に控える王族たち。
さらにその後ろのスペースに、私達はいるのだ。
目立ちはしないが、いることは見えてる。
「ーー今は動けないよ」
「そうだな、失敗した。陛下が玉座に戻る時に、一緒に去るべきだったな」
まあ、過ぎたことは仕方ない。
挨拶の列が途切れるところでお暇しよう。
「……陛下の髭は立派だな」
「また髭の話?」
「でもホント、立派だよね。何年くらい伸ばしたらあぁなるんだろう?」
「一年や二年じゃ無理だろう?五年とか十年?俺が留学する前はたしかなかったような」
「あぁ確かに。僕が働き出した頃は、もう少し短かったと思う」
「ならやっぱり、十年単位だな。ルシウス、今からやってみたらどうだ?案外似合うかもしれないぞ」
「えぇ……」
チラ、とルシウス様から目線が飛んだ。
完全に寝る体勢になったシオンを抱きかかえ、ポンポンと背中を叩いてる間に、ふと言わなきゃいけないことを思い出す。
「お髭を伸ばすのはルシウス様の自由ですけど、生えてる間は頬擦り禁止です」
「なんで?!」
大声ではなかったけど、悲痛な声音に王族たちが少し振り向いた。
「なんでって、痛いからです。私はシオンじゃないので、お髭大好きでもないですもの。それだけ守ってくれれば、後は口出ししません」
「嫌だ!」
「嫌だって言われても」
「髭は生やさない!」
決意とともに抱き着いてきた。
シオンがいるから手加減してるけど。
ヴィンスはケタケタ笑った。
「頬擦りの方が大事かぁルシウス」
「……大事だし、うっかり忘れてミューに痛い思いさせたくないし。ましてや、それが原因で嫌われたくない……!」
「それぐらいで嫌いませんよ。咄嗟にどつくかもしれませんが」
「絶対、一生生やさない!!」
まあ、似合わないとは思うし、いいけど。
「アイゼンバーグ卿……!」
ふと、玉座の前で挨拶を終えたご一行様から、ルシウス様を呼ぶ声がした。
ルシウス様は都合のいい耳をしているので、全然意に介さない。
ガン無視して、髭の代償となる頬擦りを続けてる。
「……すごいな、ルシウス」
「でしょう?でもまったく聞いてない訳でもないのよ。ねぇ?ルシウス様」
「なにが?」
うん、耳に入る声が選別出来てる。
呆れて顎の下を撫でてみると、くすぐったそうな顔をした。
「殿下、お控えください!」
「でも、あちらに!」
一行はまだ騒いでる。
あの様子だと……ルシウス様に顔を使って働けと言った、チェルティフの王女殿下なんだろうな。
ルシウス様が関わりを断ったから、なんとか接触しようと足掻いてるってアサトが書いてた。
今更何を言ったって、変わらないと思うけど。
こちらにも呆れて見ていると、玉座に座っていた陛下がスッと立ち上がった。
場の雰囲気が一気にひりつく。
「……チェルティフ第二王女殿下。貴女は、ここに何をしに参られたのか?」
お髭の陛下、威厳バージョン!
滅多に見られない(失礼)格好良い姿なのに、溺愛するシオンくんは夢の中なので見れてないです!
じっじ、残念!




