王家の宴本番:対峙!嵐と王家と他国の人々
ここまで書いといて初めて王国に名前を付けました。
なんてことはない、王族達の名字をまんまです。
騒いでいた王女殿下とそのお付が、ビクッとなった。
お付はすぐに平伏したが、殿下はさすがに矜持が邪魔をしたらしい。
「今宵は、我が国の王族に新しい子が生まれたことを披露するために開いた宴だ。貴女もそのために来てくれたのではなかったか?何故そこで騒がれる」
一言発するたびに、空気が重くなっていく。
凄いな陛下、お髭は伊達ではない!
「いえあの、その通りですわ陛下。お祝いを贈りに参りましたの」
顔色が悪くなった王女殿下が、どうにか取り繕って返事をする。
「そうか。なら言葉は受け取った。後の者も控えているのでな、下がられよ」
陛下の言葉が付き人に向かう。
ビクリと肩を跳ね上がらせた付き人が殿下を誘導しようとすると、王女殿下は再度声をあげた。
「お待ちください!少しで良いのです、アイゼンバーグ卿とお話を!誤解を解かせてください!」
すご、この状況でまだ食い下がるとか。
「ガッツあんなー王女」
ヴィンスの呟きに同意だ。
さすがに耳に入ったらしく、ルシウス様も眉を顰めた。
「……騒がれると、シオンが起きちゃう」
そこ?
訂正、耳に入ったのは言葉ではなく音量のせいだった。
陛下も苦々しげに殿下を見る。
「そこで騒ぐな。シオンが起きてしまうだろう」
それもそこ?
陛下の御前で不敬、とかじゃないのか。
「……アイゼンバーグ卿は取り込み中だ。公爵、息子に代わって話を聞いてやれ」
陛下がお義父様を呼び付ける。
「承知しました。王女殿下、どうぞこちらへ。そこは次の方が参られますし、何より騒がれては、私の孫が目を覚ましてしまいます」
お義父様までそれか!
陛下とお義父様の圧に、王女殿下は渋々場を離れた。
行く手に待ち受けてるのはーー貴族スマイルを貼り付けたお義母様だ。
王女殿下、説教決定ー。
少しばかりの矜持など、完膚なきまでに打ち砕かれるだろう。
殿下の行く末を思い、内心合掌した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
あんな騒ぎが起きても、優雅な音楽が流れても、シオンはまったく起きやしない。
張り付かれたままで重かったので、そっとルシウス様に預けてもまだ起きない。
「……全然起きる気配がないな」
ヴィンスが感心する。
「眠りが深いのよね。だから寝起きも良いのかしら?」
「シオン様の美点です」
なぜかサリーが誇らしげ。
我々が呑気に寛いでる間も、前方では王族への挨拶が続く。
先程の騒動を気にしてるらしく、声を張らないように祝辞を述べてはこちらをチラと窺う人が多い。
興味半分、シオンを起こしてないか心配が半分かな。
なので、目が合ったらニコリと微笑むようにした。
……段々と嫉妬深いルシウス様が不機嫌そうになってきたので、三回に一回はヴィンスにやらせることにした。
控えめ、弱めに!と釘を刺したので、微笑まれた相手も赤面はするものの倒れることなく、覚束ない足取りで去っていく。
「ルシウス様があちらに向かって微笑んでくれてもいいんですよ?」
「ルシウスなら蔑む視線もありだな」
「……どっちも嫌」
シオンを揺らしながら、嫌そうに顔を顰めてる。
本当に自分の容姿を活かす気がない。
「ふふ、ならルシウス様、私に笑い掛けて?」
「ん?」
不思議そうながら蕩ける顔で、ルシウス様がこちらへ笑い掛ける。
あ、やり過ぎ。横顔を目撃した婦人が倒れ掛けた。
「……調整が難しいわ」
「なにが?」
「こればかりは慣れだな。あとは相手の耐性にもよる」
ペチペチ、と夫の頬を叩き笑みを少し弱めていると、広間がざわついた。
「……来たな」
ヴィンスが低い声で呟く。
入口から入場してきた一行が、注目を集めているのだ。
二人組を囲む騎士達。
男性は明らかに高貴な生まれがわかる振る舞いをしているが、対して女性は身分が高くないことを明確に示す動きをしている。
「トラキオン王国第二王子殿下、並びにお連れの方が
ご入場です」
……こんな宴の終盤近くに、こんなに物々しい集団が入ってきたぞ?と注目されていたのが、トラキオンの王族と知り「あぁ〜」と納得した雰囲気に変わった。
全体的にうちの国において、評価低いからねトラキオン。
「飯は旨いんだけどなぁ?」
「ヴィンスはスイーツでしょ」
「海鮮も旨いぞ?」
「前にも言ったけど、わざわざ訪れる必要性は感じないわ」
「先月分かったことなんだがな、俺の島の近くに海老の産卵場所があるらしく。時期と獲る量を見極めれば、いつでも食べ放題なんだ」
「?!」
「ミューが来るなら、海老祭りを開催してもいいぞ」
「……!」
「ミュー、行ってみる?」
「ミュリエル様、食べ放題でしたら小エビの唐揚げと海老フライの盛り合わせも可能かと」
「〜〜〜〜!待って待って、考えさせて!なんで皆で畳み掛けてくるの?!」
慌てて止めたら、前方のマリーに振り返って睨まれた。
解せぬ!
納得がいかない、とルシウス様のほっぺを抓るが、「いてて」と喜ぶだけだった。
「トラキオン王国よりお祝いに参りました。第二王子、クヨル・ティル・トラキオンでございます。ジークハイド王国のさらなる繁栄を、心よりお祝い申し上げます」
第二王子殿下は、さすがに王族といった仕草で礼をした。
金髪に灰色の目、華やかさならうちの第二王子の方が上かなー。
とか思ってたら、気配を感じたユーリ様にも睨まれた。
さすがにこれはルシウス様に八つ当たり出来ないので、自重しよう。
「遠路遥々ようこそ、クヨル殿下。ご足労いただき感謝する」
陛下は殿下にだけ言葉を掛け、隣の女性には触れない。
が、ここで終わる訳なかった。
「陛下、こちらは我が国の聖女です。お二人の新王族に、ぜひとも祝福をと思い同伴していただきました」
我が国の聖女、と紹介されたけど。
チラとヴィンスを見ると「ギリギリ許容範囲だな。国の聖女と言うだけなら何人いてもおかしくない」と言われた。なるほど。
だが、それだけの女性を新王族に近付けさせる訳がない。
案の定、陛下は微笑むだけで回答をしなかった。
第二王子殿下もここで無理強いする気はなかったらしく、それ以上言葉を続けなかった。
ーーが、聖女は違ったらしい。
「ほら!私がせっかく来てあげたんだから、さっさと赤ちゃん出してください!祝福してほしいんでしょ?私だって忙しいんだから!」
聖女様、暴発!
すっご、ここまで傍若無人に振る舞うとか、今までどこで暮らしてたの?!無人島?
私は肩をプルプルさせた。
「ミュー好みだな」とか囁かないでくれる?ヴィンス!
まぁ大受けなのは私だけだろう。
ルシウス様は呆れ顔、ジークハイド王国の皆さんは顔面が引き攣り、連れの王子様は蒼白である。
さすがにこれほど上から振る舞うとは思ってなかったのだろう。
ヴィンスに『個性が強い』と言われるだけある。
特徴として述べられた「軽薄、ふしだら、権力に弱い、(中略)嘘泣きをする」とかも、全部当て嵌まるんだろうなぁ。
「し、シズク、失礼だろう?一回下がろう」
「えー、そんなの面倒じゃない。今やっちゃえば、後は観光していいってクヨル言ったでしょう?」
「今は駄目だ!下がるぞ!」
第二王子殿下が強気で引っ張ると聖女はむくれたが、王族の背後にいる我々に気付いてしまった。
「ヴィンス!なによ、そんなところにいたの?来てるって聞いたのにいないから探しちゃった。ほら、早く私をエスコートして!」
顔見知りのためか、ヴィンスに向けて声を上げた。
ヴィンスは微笑んだまま何も言わないし、サリーは無表情のままだ。
「ちょっと、何黙ってるのよ?早くこっちに来なさいよ!」
聖女がこちらに向かって歩き出しそうなので、脇に控えていた騎士達が止めに入る。
邪魔しないで、とかなんとか言ってる聖女の声が響く中、ヴィンスが笑みを消しておもむろに呟いた。
「……うるさいぞ、聖女」
それだけで、騒いでいた一行の動きがピタリと止まる。
あちらの王族もこちらの王族も、皆ヴィンスの言葉に注目した。
「これ以上騒いだら、ハリーを嗾ける」
「ーーーー!」
背後のハリーが一歩進み出て頭を下げると、トラキオンご一行が蒼白になった。
これは……悪名が知れ渡ってるんだな。
「ハリーの効果、すごいのね」
「前にも鬱陶しさが頂点に達した時があったから、騒ぐたびに頭を掴んで組み伏せてやったんだ」
「……普通に怒られない?」
「一瞬で倒して一瞬で戻ってくるから、誰も犯行現場を見てない」
当たり前のように言うけど、犯行現場って。
「これで静かになったな。シオンもすやすやだ」
満足げな顔でシオンを覗き込む。
お前もか!
なんだかな、シオンがこの国の頂点に立ってる気がしてきたぞ?
ハリー効果は王族にまで波及してるらしく、より顔色が悪くなった王子殿下が聖女を連れ出そうとしたが、聖女は強かだった。
「待って!ならヴィンスでなくていいから、隣の金髪の人を紹介して!私のパートナーにしてあげる!」
性懲りもなく叫んだ聖女に、誰もが唖然とした。
隣の金髪の人。
全員が今度はルシウス様に注目した。
ものすっごく、嫌そうな顔をしてる。
「うわ、すごい美形じゃない!ジークハイド王国って素敵ね!私、あなたがいるならここに残ってもいいわ!」
嫌そうに見られてるのに浮かれてる聖女、ポジティブだな〜。
強メンタルに感心していると、ふいにルシウス様に引き寄せられた。
「ル……」
名前を呼ぼうとしたけどね、めっちゃ濃いキスをされたので何も言えなかったよ。
絶対人前ではやっちゃいけない類のキスで、腰が抜けるまで延々と。
ようやっと解放された時には、顔が熱くなるし体の力は入らなかった。
満足げな夫は嬉々として抱き締めてくるけど……おい。
「煽るなー、ルシウス。俺達もやるか?サリー」
「お断りします。」
うん、それは断ってくれ。この居た堪れない空気を増幅とかヤメテ。
恨めしくルシウス様を睨むけど、「おかわり?」と囁かれたので額を叩いておいた。
◇◇◇◇◇◇◇
私達がいちゃこらしている間に、唖然としたトラキオンご一行をさっさと御前から退出させ。
後ろのことは気にするな!オーラで、王族は宴を続行したらしい。
「目を付けられたから牽制しただけ」と平然と言うルシウス様に、大概の人は苦笑で納得し、ヴィンセント様だけがお説教していた。
私は目覚めたシオンに陛下がどれだけカッコ良かったか話し、「じっじ、ちゅおいね!」とキラキラな目で見詰められた陛下は、これ以上ないほどにご機嫌だった。
「シオン、シオンのじいじは私だぞ?」
「うにゅ?じちゃ?」
「くっ、それも可愛いが……!」
「シオン、私は?」
「ちゅうぇ!」
「ちゅ……?」
「私が『父上』と呼ぶからですかね?」
「……それはどうなんだ……」
「シオン、シオンのお父様は僕なんだけど?」
「ぷあ!ぷあ、だちゅき!」
「……うん、まあいいか(デレデレ)」




