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ヴィンスからの提案を読んだ時には、新手の嫌がらせなのかと思った。
さすが双子の兄、私の好みを熟知している。
でも身重の体で野次馬をしに行けるか?!
好奇心だけ膨らませて、悔しがる私を笑いたいのか!
ヴィンスに唸りたくなるような気持ちを抱え、手紙をルシウス様にも読んでもらったのは、優しく諭してもらうためだったのだ。
なのに!まさかの後押し、行けるように手配までしてくれるなんて!
本当、旦那様大好き!
と、テンション上がりまくってるので、ここの所スキンシップはいつもより過剰である。
ルシウス様も照れながら喜んでいるので良いことだろう。
お義父様とお義母様は呆れてるけど。
使用人はいつにもまして生温かい目だ。
シオンは「しょんも!」と混じってくる。
例外はサリーで、自分が連れて行ってもらえないと分かるやいなや、ルシウス様をそれはそれは睨んでる。
たまにルゥが涙目になるので、何度めかの時に「シオンを置いてくから、二人でいい子にお留守番してなさい」と言ったら、渋々引き下がった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
さて。
ヴィンスが「ミューの好きそうな騒ぎ」とピックアップしたのは、とある貴族の婚約披露パーティーである。
婚約披露パーティー!絶対何か起きる!
と、それだけでテンションがさらに上がる。
爵位のそれほど高くない家同士、かつ片方は隣国の貴族だから、招待客もそれほど多くない。
そんな中にアイゼンバーグ次期公爵夫妻が入り込んだら、騒ぎを鑑賞するどころかこちらが騒ぎの中心になってしまうので、二人揃って変装していくことにする。
まずはなんと言ってもルシウス様の眩い金髪だろう。
とにかく色鮮やかで、視界に入ると誰もが目を向けてくる。
「なら染めようか?」と執着のない本人は軽く言ったが、ほぼ全員に止められた。
万が一にでも傷んでしまったら!と青褪める人もいるくらい。
私はそれほどでもなく、まあたまには色を変えてみるのもいいのでは?くらいだったけど、周囲のあまりの剣幕に二人して従うしかなかった。
と言うことで、ウィッグの試着である。
「わぁ質がいいし、本物みたい!さすが毛髪のことならポルカ商会、各種揃えてるわね〜」
「そんなキャッチコピーねえよ!当てこすってらっしゃいますねお嬢様?!」
ウィッグを並べていたタスクが噛み付いてくる。
「まあそんな当てこすりだなんて。ちなみにご愛用の育毛剤はまだ残ってるの?」
「追加購入申し込みますんでよろしくお願いします!ちくしょう!」
「……元気だね会頭」
「これはね、自棄って言うんだよ若旦那様!」
まあ元気よねタスクは。お嫁さん(候補)の若さにも対応できそうで良かったこと。
「あぁもう、さっさと試着してくれ。若旦那様、ひとまず色の薄い方から試します?」
ぐちぐち言いながら慣れた手付きで、タスクがルシウス様の髪をヘアピンで止めていく。
「ふふ、ルシウス様可愛い」
「そう?」
髪を止めてる姿なんて見たことないものね。
「はい、じゃこれから行ってみようか〜」
そう言ってタスクが被せたのは、王族と同じ色の銀髪だった。
「……」
「……」
「?どう?」
「「神々しい」」
「ん?」
物凄く似合う。かっこいい。
ルシウス様の紫の瞳には眩い金髪がベストマッチと思っていたが、銀髪も素晴らしく似合う。
「変装するってのに、金髪と同じくらい目立つじゃないの」
「普通に王族降臨ってなるな」
「絵に描かせるのはいいけど、これは連れて歩けないわ」
「嫌だ!」
むしり取られてしまった。残念。
とりあえずお買上げして、いつか肖像画にしよう。
「スタンダードなのは金髪だけど、若旦那様元々金髪だしね。つか、この色に勝てるウィッグとかないよ。ホントに金で作れっての?」
「重そう」
「高そう」
「そして誰が被っても若旦那様に見劣りする悲しい現実。次はいっそ真逆にしてみる?黒」
ポスッとルシウス様に乗ったのは、黒髪。
だいぶ質が良くて触り心地良さそう。
「ミューとお揃い?」
何が嬉しいのか、声が弾む旦那様だけど。
「……似合うな」
「これはこれでカッコイイ」
「そう?」
「黒髪に紫目、いつもの華やかさとはまた違った色気が出てるよ若旦那様」
「普段の層とは異なる辺りからモテそう」
「……別にいらないんだけど」
大抵の人には褒め言葉だが、うちの旦那様にはこれ以上モテは要らない。
ので、また外してしまった。
その後も色々試すが、ルシウス様はことごとく似合う。
赤髪、白髪、濃い目の紺、ちょっと変則で緑……。
何ひとつカッコよさが失われなかった。
なんとなく、タスクと共に敗北感を味わう。
「なんでミューがガッカリしてるの?」
「ルシウス様の天性の輝きを損なおうとする無謀さが、我が身に沁みてるんです」
もはや、単にルシウス様の新しい魅力を発見する会だった。
一縷の望みを賭けて被せた薄紫の長髪すら、優雅に座る旦那様の人外的美しさを際立たせてる。
「て言うか、なんのために作ったのこれ」
「演劇だったかな。神話をモチーフにした」
「私の夫が神だった……」
「人間ですが?暑いから外していい?」
さすがに長髪ウィッグはむしり取る訳にはいかない。
タスクが丁寧に外し、ついでにヘアピンも取った。
「仕方ないわ。ルシウス様に似合わない色はないから、せめて髪単体が目を引かないようにしましょう」
「それで言うと、この中で一番平凡なのは濃い目の茶髪だな」
「それで前髪を重たくして色の付いた眼鏡を掛けてもらえば、少しは印象が薄まるかもしれないわきっとたぶんもしかしたら」
「全然言い切れてないね」
本人が指摘した。
あなたのことなんですけど??
ジト目で見たらショボンとされた。可愛いからやめれ。
「んじゃ若旦那様はそれで調整しますよ。で、お嬢様もウィッグ希望だって?染料も一応持ってきたけど」
タスクが鞄から髪染めの薬品を出すと、ルシウス様が涙目でプルプルと首を振った。
「夫の反対に遭いましたの」
「ミューの髪を染めるなんて嫌だ……!」
「なんか良くわかんないけど、若旦那様が嫌がるならやめとこう」
さっさと鞄に仕舞われる。
うん、私もわかんないけど。泣くほど嫌がられたら強行はしないよ。
「はいじゃあこの辺から行こうかー。定番の金髪ね。お嬢様目が青いから、一番標準仕様だな」
「ミュー、金髪も可愛いね。あ、こっちは?ピンクがあるから被ってみて。……うん、それも似合うね!あとはどれが似合うかな??」
「……変装だって言ってんのに、なぜに地毛より目立つ色を被せるのかな?」
「黒より地味な色とかないから」
「全国の黒髪に喧嘩売ってんの?こっちにはワルロー兄弟だってヴィンスだっているんだからね!」
「ヒムロ殿下もそっちか……絶対勝てないね」
「ごめんなさいミュリエルお嬢様、黒髪は美しいです!俺が黒髪を馬鹿にしたとか吹聴しないでください!」
潔く土下座するねタスク。オリビア様に逃げられるよ?
結局、私もルシウス様も明度は違えど茶髪のウィッグにした。
金髪の次に人口が多いので、いざとなったら逃げやすいだろうとの判断だ。……逃げるのが前提って。
タスクの用意したウィッグと眼鏡をしたルシウス様は、カッコイイ別人に見える。
そう告げると少しはにかんだ後、「……シオンに泣かれたらどうしよう」と心配し出した。
夫よ、それはシオンの愛を甘く見てるぞ?
その姿のまま子ども部屋に会いに行くと、シオンは一瞬驚いたあと「ぷあ!ぷあね!ぷあ!」と大興奮して飛びついたのだった。
安堵したルシウス様が抱き上げると、早速眼鏡に手を伸ばす。
「うわ、シオン駄目だよ、それは玩具じゃないって」
どうにか避けようとするルシウス様。
降ろせばいいのにねー、と見守ってたら、今度はウィッグを引っ張り始める。
「あ、これも駄目だって、いた、ピンで止まってるんだから、シオン」
いつもと違うルシウス様の反応に、きゃいきゃい喜んでしまってる。
これは駄目だな。ドクターストップならぬマザーストップだ。
ルシウス様のウィッグを引っ張る手を取り、低めの声で重々しく呼ぶ。
「シオン」
それだけでビク!と止まるシオン。
こちらを向いた顔はすでに涙目だった。
なぜなら、これは怒られる時のトーンだからです。
「お父様、痛いって」
「たしゃ!めんちゃ、めんちゃ!」
すぐ泣いて謝るが、ちょっと違うな。
「お母様にじゃなくて、お父様にごめんなさいでしょ」
「ぷあー!めんちゃ〜〜〜!」
大泣きで縋りついてる。
……怒られてることにショックを受けて泣いてるだけかな?痛いことは駄目だとわかってくれてるかしら。
呆れてルシウス様を見たら、こっちも涙目だった。
「……そんなに痛かったんですか?」
「……泣いてるシオンを見てたら辛くなった」
「左様ですか〜」
好きに泣いてくれ。
結果、両サイドから私が泣き付かれた。なんでだ。
◇◇◇◇◇◇◇
ということで。
茶髪ウィッグに眼鏡のルシウス様、茶髪ウィッグのみの私。
お付きはメイドのナンシー、侍女見習いレン、侍従のノア、護衛はムラト率いる騎士団!
これだけ引き連れて、野次馬に行ってきます!
……うん、何してんだか、とは思うけど。
ルシウス様が整えた『万全の態勢』がここまで大袈裟になったのよね。
これで最後だから!妊娠中は!たぶん!
と、自分に色々言い聞かせていざ出発である。
「じゃあね、シオン。サリー、よろしくね」
ジュリアに抱っこされたシオンと微妙に納得行ってないサリーが見送りだ。
例の婚約披露パーティーは主役二人が学生と言うこともあり、普通の夜会とは違って午後から始め夕方には終わるらしい。
なのでお昼寝前のシオンもお見送りをする。
と、ここで誤算が。
「ぷあー」
「うん、シオン、いい子にお留守番しててね」
手を伸ばすシオンに応えてルシウス様が抱っこをする。
どうせ親が出掛けても平気な坊っちゃんだもんねー、と見守ってたら、シオンがルシウス様にガシッ!としがみついた。
?!
「しょんも!」
「うえ?!」
あまりのことにルシウス様が狼狽した声をあげる。
周りの使用人も、もちろん私も驚いた。
生まれて一年ちょっと、どんなにこちらが未練がましく振り返っても、手を振った後は全く見向きもしない息子だったのに!
今日は絶対離さない!とお父様にしがみついとる!
「え、シオン、駄目だよ?今日はサリーとお留守番でしょ?」
「ぷあ!しょんも、ね?しょんも!」
「ええぇぇぇ」
ね?じゃないよシオン。連れてく訳ないでしょうが。
ジュリアも他のメイドも慌ててシオンの気を引こうとするが、ルシウス様の後襟を両手で強く掴んで離さない。
下手に引っ張ると、ルシウス様が苦しくなる上に服が乱れそうだ。
サリーがススっと近寄ってきた。
「ミュリエル様。ここはひとつ、シオン様と私も連れて行くというのはいかがでしょう?」
「いかがでしょう?じゃないのよ!何便乗しようとしてんの?!」
こっちも諦めてなかったのか!
睨むと「チッ」と舌打ちしながら下がった。
グズグズしてると本当に付いてきそうなので、いつもの切り札を使おう。
「シオンくん〜、お留守番出来る人〜?」
「たい!」
掛け声に乗せられ、条件反射で右手をビシ!と高く上げるシオン。
おかげで反対の手の力も緩んだので、その隙にジュリアがシオンをルシウス様から引き抜いた。
ホッとしてるルシウス様の腕を取り、「いい子ね〜シオン、お留守番しててね〜」とさっさと家を出る。
後ろからぴーっ!と泣き声が上がってるが、これはサリー達に任せることにしよう!
「ミュー、シオンが……」
「連れて行けるんですか?」
「……無理」
「じゃあやめますか?」
「行くよ」
ルシウス様は苦笑して、エスコートに変えた。
「今日は珍しかったですけど、皆にちやほやされたらすぐいつも通りですよきっと」
「我が息子ながら、チョロいね……」
「父親そっくりじゃないですかぁ」
「……チョロいと思ってるんだね」
ジト目に対して笑顔で答えると、また苦笑された。
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