シオン様生誕祭のその後
少し揉め事があったシオンの生誕祭だが、その後無事に閉幕した。
お昼寝から目覚めてご機嫌のシオンが舞台に上がると、観客席から歓声が飛ぶ。
大人の我々でも一瞬ビクっ!となったが、うちのシオンは大きな声には対抗する赤ちゃんなので、僕の腕の中から「ふわわ〜!」と両手を挙げて叫んだ。
さらに盛り上がる観客。
「天性のエンターテイナーですね」とミューが感心していた。
余興はシオンが飽きてしまわないよう、進行がさくさく進む。
もちろん彼が飽きたりグズり出したらそっと控室に戻るつもりではいたけれど、終始ご機嫌だった。
グリフィス伯爵家を審査員としたプレゼン大会も、大変盛り上がった。
審査員長としてシオンにタスキと冠を用意し、彼に向かって商品のアピールが行われる。
当然言葉はわからないので、モノで勝負してもらう。
子ども用玩具が有利かと思われたが、現時点で王国イチ貢がれてる疑惑のある子どもなので、割と目が肥えてるのだ。
うちに似たようなモノあるな?と思う品物でさえ、登場したら笑顔になるシオン、本当に社交性の塊だ。
予選を勝ち抜いた7品が、決勝戦で一列に並ぶ。
そこでシオンをよちよち歩かせ、最初に手にした商品が優勝となった。
「ぷあ!ぷあ、れ!れ、しょんの!」
一目散に向かい、手に取ってなぜか僕にアピールする。
それは僕らの目と同じ紫色をした、リボンタイだった。
「「「……それ?」」」
審査員からも司会からも観客からも疑問が飛ぶ。
僕も不思議に思ったが、ミューだけは楽しそうに笑った。
「お父様がお仕事に行く時に付けてらっしゃるから、シオンも真似をしたいのよねー」
「しょんも!」
シオンが声をあげ、全員の心の声が『可愛っ……!』と一致した瞬間だった。
リボンタイを握り締め、よちよちこちらに歩いてくるシオンは本物の天使だ!
受け取り首に巻いてやると、今日見た限り最高の笑顔になった。
抱き上げて、皆に見えるように高い高いをする。
「シオン、似合うよ」
「にゃは!たしゃ!たしゃ、しょんよ!しょん、ぷあよ!」
何言ってるかよく分からないが、とにかく可愛い。
もはやシオンが優勝だ!
「優勝は、シオン様ーーー!っ、じゃない、イブソ衣料店の、リボンタイだーー!」
司会も同じこと言った。やはりそう思うんだ。
店主が挙動不審に舞台へ上がる。観客は大盛り上がりだ。
「シオンほら、店主に『ありがとう』は?」
「ありゃと!」
満面の笑みでシオンが笑い掛けると、店主がその場に頽れた。
「こちらこそ……ありがとうございます!!」
泣くほどか、そうか。
後日、優勝特典としてグリフィス家全面的支援付きで、イブソ衣料店の支店がアイゼンバーグ領で展開する。
シオンが選んだリボンタイは『シオン様モデル』として売り出され、グリフィス領本店・アイゼンバーグ支店共に一位の売上を記録することになった。
◇◇◇◇◇◇◇
シオン様生誕祭を終えたことで、新たな問題が浮上した。
「……他領でシオン様の生誕祭を開いたのであれば、当然アイゼンバーグ領でもおこなうべきである……」
「正論ですね」
アイゼンバーグの領民一同、派閥貴族、縁戚達からの嘆願書が届いた。
父も母も、なんとも言えない顔をしてる。
シオンはアイゼンバーグの跡継ぎなので、他領でお祝いとかしてる場合ではないのだ本当は。
でも面白そう!とミューが乗ったし僕も便乗したし、実際面白かったよなぁ……。
やはり、王都からの距離の近さは、ことシオンのお祝いに関しては有利だった。
渦中のシオンはと言えば、お気に入りのリボンタイを首に着けてメイド達の間をちょこまか歩き、「シオン様お似合いです〜」の褒め言葉を浴びている。
首が絞まるなどの事故が起きないよう、安全対策は万全なので、本人がねだれば付けてやることにしてる。
ただ、あまりに着用回数が多いので、イブソ衣料店に第二弾を開発するよう依頼済みだ。
「お父様みたいなシオンくん〜、ちょっと戻ってらっしゃい〜」
「たい!」
ピシッ!と手を上げて返事をすると、僕らのところへ戻ってきた。
リボンタイをする度に「お父様みたいね〜」とミューがおだて、それを聞いたシオンが笑顔を輝かせるので、逆に着用時の決まり文句のようになってしまった。
なんにせよ面映い。
「ぷあ!しょん、ね?しょん、ぷあ、ね?」
「そうだねシオン、カッコいいよ」
「きゃ〜〜!」
よくわからないがこちらも褒めると、バフっ!と勢い良くソファに突っ込んだ。
楽しそうだな……。
「……現状、ミューをアイゼンバーグまで馬車に乗せる訳にはいかない」
「それは当然ですわね」
「ミューが行かないならルシウスも行かない」
「当然ですね」
「二人が行かないなら、シオンも行かない」
「……当然、ですね?」
二人してシオンを見つめる。
我々がいなくても楽しくお祭りを巡っていたシオンなら、あるいは……?とも一瞬考えてしまった。
だが普通に考えて、この歳の子どもが親と何日も別行動はあり得ない。だろう。たぶん。
「シオンが行かないなら、生誕祭はなしだ」
「本人不在でやってくれても良いんですけどね」
「どうかな……」
やれることはやれるだろうが……やはり本人がいるのといないのとでは、盛り上がり方が違うだろうな。
大人がう〜んと悩む。
それを見て、シオンも「ん〜?」と首を傾げる。
その姿を目にした人から、順々に口元を抑えていく。
使用人は迂闊に声を上げられないから大変だ。
「……仕方ないわね。ミューの懐妊をそのまま報告しましょう。そうすれば何がなんでも来い、とは言えないだろうし。跡継ぎに取り入ろうとする令嬢が諦め悪く残っているという報告にも、効果はあるでしょう。これでもまだ諦めないなら、もう状況認識が出来ないと判断するべきだわ」
母上がキッパリ言い切った。
それには異論はないが、付け加えられた言葉に驚く。
「まだ僕に取り入ろうとする人が?お祖母様が釘を刺してくださったはずですが」
「ご令嬢を連れてきた貴族にはね。令嬢本人には何もしてないでしょう?それでも一族丸ごと脅してるんだから普通は大人しくなるものだけど、どこの世界にも諦め悪く『思い続ければどうにかなる!』と信じたい人はいるのよ」
呆れた口調で教えてもらった。
隣のミューを見ると、シオンとじゃれ合っていたが視線に気付き「別に意外ではないですね。世の中の人が皆聞き分け良ければ、ヴィンスは留学せずに済んだのです」と告げた。確かに。
コホン、と父が咳払いをした。
「では、シオンがアイゼンバーグ領に赴くのは、ミューの出産が終わってからだな。一応医師に相談して、出産後何ヶ月経ってから行くべきか算出してもらおう。もちろん、次の孫の月齢も確認だ」
次の孫、と言う単語に、言った父本人も少し浮かれたし、聞いてた母も周りの使用人も口元が緩んだ。
「ぷあ?」
「シオンはお兄ちゃんになるんだものね。お母様と赤ちゃん、よしよししてあげなきゃね」
そう言って頭を撫でると、シオンはまたミューのお腹にピトと手を当てた。
ミュー込みで可愛い画だ……。
「……この間の画家、まだ連絡が着くかしら?」
「手の早い方であれば、そろそろ仕上がる頃かと」
母がメリッサに画家の手配の相談をしている。
ミューが口に出さずに『ええぇぇ』と言っていた。
照れくさいのはわかるが、ミューとシオンの絵は僕も欲しいので止めない。
◇◇◇◇◇◇◇◇
アイゼンバーグへの回答が決まったので、集まりは解散となった。
シオンはまだ寝そうにないし、子供部屋で過ごそうかと考えていたら、ミューがピタッと止まった後にギギギと首を動かした。
向いた方向にいるのは、サリー。
「……サリー?」
「はい」
「まさか」
「お察しの通りです」
「シレッと!シレッと認めたわね?!」
突然怒りだすミューに、僕らは慌てた。
「ミュー?どうしたの、落ち着いて」
「たしゃ〜」
「シオン〜、あなたの伯父は本当にもう!」
二人で声を掛けると、ミューがシオンを抱き締めて嘆いた。
伯父?ん?
僕もサリーの方を向く。
いつも無表情なサリーが、貴族スマイルを浮かべていた。
「私も妊娠しました。もちろん、相手はヴィンス様です」
…………はぁ?!




