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テンプレートが立ちはだかる日常  作者: ひつじ


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82/104

初恋は何においても優るべき?

「私、貴方が初恋だったの……!」

「初恋の君、ずっと貴女のことを想っていたんです!」


これは、私達夫婦にそれぞれ掛けられた『初恋至上主義者』からの言葉。

そんな主義があるのかわからんけど、立て続けに出会ったのでもはや派閥があるものとして考えている。

もちろん、そんなことを言われたからと言って、私達が離婚して彼らの初恋に寄り添ってやる義務はない。

そのつもりもない。


つか、ルシウス様に関して言うなら、彼が初恋だと言う令嬢はごまんといる。もしかしたら令息も。

……実のところ、ヴィンセント様達の一行は少し疑ってるのよね……。ルシウス様にバレたら極端に距離を置き始めるだろうから、口にしないけど。

とにかく、初恋を主張されたからと言って取り合っていたら、王国中の女性の言い分を聞く羽目になる。

なので、口上が『初恋』なだけで、ただの横恋慕と見做して対応をすることにしよう。


それにしても……初恋は、何においても優るべき、なのか?



◇◇◇◇◇◇◇◇


ルシウス様の機嫌が、ここのところずっと悪い。

正確に言うと、私とシオンの前ではいつも通りのルシウス様だけど、私達の目がないところでは眉間に皺を寄せてため息をついてるそうだ。

ノアを始め、目撃した多くの使用人達からのタレコミで判明。

ついでに言えば、いくら私達の前では平常そうに振る舞っていても、なんだかおかしいな?くらいはわかるぞ。

シオンだって気付いてるみたいで、いつもよりルシウス様に擦り寄る回数が多いではないか。


私達に心配を掛けたくない、とかそういう理由だろうけど。

調子の悪いルシウス様を放置しておく方が、私達は心配だ。



「と言うことで、洗いざらい吐いてくださいルシウス様」

「……ん?」



恒例のお腹擦りを堪能し、ご機嫌がちょっと上向いたかな?と思ったので、おもむろに切り出す。

ルシウス様は私の肩に乗せていた顔を上げる。

近いなぁ、寄り目になるよ。

「……なに?」

「なんだか隠し事をしているのはお見通しなんです。一週間待ちましたけど、タイムアップです!さぁ、ちゃきちゃき説明を!」

「ちゃきちゃき……?」

気にするところはそこじゃないよ旦那様。

眉を顰めてる表情からするに、従うつもりはないな?


「……隠し事って、単に仕事の話だから。ミューが気にする必要はないよ」

「ルシウス様が仕事の悩みを家に持ち込むこと自体、常とは違いますから。シオンの顔を見ても私のお腹を撫でても忘れられないなら、根本的に解決して差し上げます!」

「勇ましい……」


私の勢いに少し笑ったけど、まだぶちまけようとはしない。

「そんなに私には話せないような内容?」

「そうじゃないけど……ミューを煩わせたくないし」

またお腹を擦って俯いてしまう。

煩わしいと思うかどうかは、聞いてみないとわからないけど。

可能性が少しでもあるなら、話したくはないということだろう。

しかしルシウス様、それでは解決しないよ?

今こそ、切り札を出す時!


「ルシウス様、お忘れのようなので教えて差し上げますが」

「……なに?」

「私には、週一で届けられるアサトからの報告書があるのですよ?」

「……あ。」


すっかり忘れていたらしい。

「今週の分は今日届きました。ルシウス様が悩み続けるような出来事はもちろん書かれているでしょう。ただ、まだ読んでません」

「……そうなの?」

「ルシウス様の口から先に聞きたいんです。ここでも黙るなら今から読みに行ってきますので、私は自分の部屋に戻りますよ。大人しくここで待っててください」

「やだ……」

「どっちのやだ?」

「ちゃんと説明するから、行かないでほしい」


きちんと言えたので、頭を撫でてあげよう。

再度肩に頭を乗せて、深いため息をついてる。

「……ワルロー、油断ならない」

「そりゃそうでしょ。アサトですよ?」

「よくわからないけど、説得力あるね」

「闇属性間違い無しです」

「黒髪で黒目だから?」

「外見のイメージもありますが、人が使いこなせない物を好んで習得するし、人が予想も付かない使い方を好んで行うんです」

「納得」

「でしょ?」

ふふ、と笑うと、もう一度ため息をついてから旦那様が話し出した。



「……隣国から来た外交官が、昔の知り合いだったらしくて。仕事のついでに思い出話を語っていくんだけど……そのたびに、僕が『初恋の人』だって主張するんだ」


◇◇◇◇◇◇◇


問題の外交官が来たのは、隣国チェルティフとの共同事業に関する取り決めを打ち合せるためだそうだ。

王宮内の部署から各担当者が選出され、会議に参加する。

チェルティフとは、ミカさんが取引をしている国のこと。

かつ辺境とも近いため、ルシウス様は総務室メンバーの中で一番内情に詳しい。

そのことで、総務室室長は直々にヴィンセント様へ相談をした。


と言うのも、新人当時は他の人たちと同様打ち合わせに参加していたルシウス様だが、そのことに対して『普段は近寄れないけど、ぜひこの機会にお近付きになりたい人達』が、暴走し出したのだそうだ。

すでに決定していた代表を賄賂や恐喝で変更させる、どの会議にルシウス様が参加するか総務室に探りを入れる、買収して聞き出そうとする……。

このままじゃ役人を辞めそうだ!と危惧した室長とヴィンセント様が、ルシウス様の会議参加免除を公表した。要は担当になっても会議には参加せず、代理を立てて後から聴取するってこと。

わあ面倒。


長らくこの体制で上手く回していたが、今回ばかりは本人に出席させたい。

そこでヴィンセント様は各部の代表者を招集し、今回アイゼンバーグ卿が会議に参加するが、各部のメンバーは純粋に業務内容を考慮して選出すること、一度決めたメンバーは何があろうと撤回しないこと、万が一小細工をしていたことがバレた場合には処罰することを言い渡した。

もちろん会議中・会議後に無意味にアイゼンバーグ卿に絡むことも禁止だそうな。

……過保護?とも思うが、これがシオンなら?と置き直すと全然過保護じゃなかった。むしろ必要。


そこまで厳重に環境を整え、なんとか無事に会議を開けた!とヴィンセント様が感無量で隣国の外交官達を迎えた時。

思わぬ伏兵が現れた。



「あなた、ルシウス?私、ネスよ!辺境で一緒に過ごしたの、覚えてない?」


……全員、綺麗に凍りついたらしい。


◇◇◇◇◇◇◇


「ルシウス様、辺境でなら女性と接してたんですか?」

「してない!」


素朴な疑問を提示すると、ムキになって否定された。

「……そもそも、誰かわからなかったんだ。そしたら、隣国から辺境へ体験学習の一環として滞在してたとかで……その」

「?」

「……男の子みたいな格好で男の子みたく振る舞ってたから、女性だと認識されてなかったことは知ってる、と……」

「……またそれですか?」

「僕も思った……」


最近、女装だの男装だの多過ぎない?


「別に男と思わせたかった訳ではないけど、あの頃はそちらが自然だったんだとかで。そう言われれば、そんな子もいたかな?くらいには思ったんだけど」


彼女、隣国チェルティフの外交官:ネスティ・ボートファイは、朗らかに言った。


「嬉しい!私、貴方が初恋だったの!また会えるなんて!」


この発言により慌てふためいたのはヴィンセント様と室長と、もはや完全にルシウス様のお守りと認識されてるアサトだった。

驚いてるルシウス様に彼女が詰め寄りそうだったので、ヴィンセント様が「ルシウス、いやアイゼンバーグ卿!ちょっといいか?!」と大声で呼び、アサトがルシウス様の手を引いてそちらへ連れ出し、目の前から去られてポカンとする彼女に室長が「申し訳ない。話の途中のようでしたが、仕事がありますので失礼」と総務室メンバー一同が立ち去ることをにこやかに告げたそうだ。


「素晴らしい連携プレーですね!」

「でもその後、すごく尋問されたよ。なんでかリニとユーリ様まで一緒に。何を聞かれても僕だってわからないのに」


不満そうなお顔。

よしよし、とまた撫でてあげる。

「それで、結局第一回目以降会議には参加せずに裏方で仕事を進めてる。でもボートファイ外交官は、わざわざ総務室を訪ねて質問や確認をしてくるんだ。相手はワルローが買って出てくれるんだけど、辺境やアイゼンバーグのことになると僕が答えるしかない。で、その仕事の合間に思い出話をねじ込んできては『初恋の人に会えて嬉しい』と言い続けてる……」

うんざり、と言う表情でそう締め括った。

「一週間ずっと?」

「今の所そう。室長があまりにもひどいようなら、向こうのトップに言いつけるつもりでいてくれるけど、仕事の話がメインだからまだ咎められそうにない」

「あら」

「あと、思い出話に『そんなこと覚えてない』って言っても、『私は覚えてるから平気!』とか言うし。それに『仕事の話だけ簡潔にしてくれ』って訴えても、『照れてるの?私達の仲なんだから気にしなくていいのに』とか言うし!仲なんてないだろう?!」

おお、珍しく激高した。

目を丸くしてると、我に返ったルシウス様があわあわとし出した。


「ご、ごめんミュー、驚かせた?ミューに怒ってるんじゃないんだ、本当ごめん」


私を驚かせたことに、自分が泣きそうになってるし。

本当に可愛い旦那様だわ。

気にしてない、と笑うとホッとしたようだった。


「話はわかりました。愛しの旦那様にストレスが溜まってるのは良くないので、このアイゼンバーグ次期公爵夫人:ミュリエル・フォン・アイゼンバーグが、スパーンッ!と解決しましょう!」

「すぱーん?」

なんで擬音語が気になるの旦那様。


「しかし、初恋の人ってそんなに思い入れがあるものですかねぇ?私の初恋の人は旦那様なので、よくわかりません」

頬を突くと、ポッと赤くなった。

「あ、うん……。僕もミューが初恋だから、よくわかんない」

「絵本の姫君ではなく?」

「ミューだってば!」

「ふふ、光栄です」

胸元に擦り寄れば、そのまま抱き締めてくれる。

夫が初恋の人になるのは、幸運なことなんだろうたぶん。



「シオンの初恋の人は誰になりますかねぇ?」

「カトリーヌとかかな。ミューが初恋の人になったら困る……泣かせたくないけど譲れない……」

「私の予想では、シオンの初恋の人はルシウス様になりますよ」

「なんで??」






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― 新着の感想 ―
海外のWEB小説でよくあるよね、初恋設定 なんでそんなにこだわるのかねー?っていつも思う
えーシオン君の初恋の相手、パパなんですか? それってただのナルシ……げふんげふん。
ルシウス様はいわゆる「初恋泥棒」ですね! なんと言うか初恋そのものはその人自身にとっては重要ですが、周りから見るとビミョーな場合が有りますね。 初恋だから尊いなどとは思わないし、自分でもアイタタと思う…
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