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テンプレートが立ちはだかる日常  作者: ひつじ


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81/104

幕間IF 2 「もしも乙女ゲームの世界だったら?」

乙女ゲームの世界だったら。

分かりやすいのは、やはりクライマックスの断罪イベントだろう。

悪役令嬢がメインの話なら、ここからが始まりになるパターンもあるが。


場所は華やかなパーティー会場。間違っても修了式とか日常では起きない。間違っても。

王宮夜会とか婚約披露パーティーとか種類はあるが、王宮夜会をぶち壊すアホに救済の手は差し伸べられないし、婚約披露パーティーに至ってはもはや目に映す価値もないと思う。

そのパーティーを開くのに、どれだけの人の労力があって、ぶち壊したせいでどれだけの後始末が必要なのか……。それを思うとイベント自体潰したくなるが。

この辺り、貴族と言うより商人の目線で捉えてしまう故の感想かな。

ここはやはり、学園の卒業パーティーとしよう。

ギリ「若気の至り」「学生のおふざけ」として、罰に考慮されるように。

なので、今大体の人たちは既婚者だけど、学生と言うことで婚約者止まりにしておく。

学年も本来ならば重ならないけど、二三年の範囲内に設定しておこう。

こういうのがご都合主義ってやつね。


必要な人員配置。

攻略対象達や悪役令嬢(笑)は人材豊富だが、攻略対象に寄り添うヒロイン枠は誰か。

まあこれもヒロインと言うべきか、性悪なざまぁ対象と言うべきかは感性次第だけど。

条件としては『可愛い』『庇護欲をそそる』『男性に楯突かない』とか?

最後の条件を満たす女性が、私の周りには極端に少ない。

エリーゼ様は容姿と性格的には合っているが、いかんせん育った環境がドアマット過ぎる。

普通に不遇過ぎて、ゲームの主人公には向かない。

シャーリーは……早々に脳内アサトに拒否られた。

彼女に他の男が寄り付くことが嫌だと。

と言うことで、新顔のレノア嬢にお願いしよう。

後日お詫びはするねー。


攻略対象は揃い踏み。

ヴィンセント様(王太子枠)

→嫌々

ユーリ様(第二王子枠)

→もっと嫌々

リニ様(側近枠)

→諦め

サンレイク様(騎士枠)

→本人は殿下方の警護としか思ってない

アサト(腹黒令息枠)

→下手なモブで被害が及ぶより、こっちに加わってシャーリーが妃殿下達と一緒にいる方が安心

さらに、ヴィンスが名前だけで隠しキャラ枠。

なんなら『隣国からの留学生』としても良し。

大変攻略が難し過ぎると思う。なにせ、妹である悪役令嬢(私)に一度でも反感を持つ・持たれるとルートが出現しないのだ。

お義姉様夫婦はさすがに入れられなかった。

イベント開始直後に粉砕されそうだし。


そして忘れてはいけないルシウス様だが……どうにも配役が出来なかった。

ここでヒロインの取り巻きに入れると、ルシウス様じゃなくなるんだよなぁ……。

絶対メインルートだし、なんならパッケージでヒロインのすぐ隣に描かれるはずなのに。

色々なパターンを検討したが、悪役令嬢(私)と対峙出来なかった。無念。


とりあえず!舞台は整った。

それでは『乙女ゲームの世界だったら』、始めてみよう〜。


◆◆◆◆◆◆◆


「ホノカ・リューゼン、並びにマリアベル・ハルフィン!君達の悪行を、今この場にて断罪する!」


少し悲痛そうな声音で、ヴィンセント様が叫んだ。

後ろに控えるユーリ様もリニ様も顔色が悪い。

一方、名指しされたホノカ様とマリーは大変優雅に微笑んだ。

「あらまぁ、ヴィンセント様……何やら楽しそうですわね?」

「本当。ユーリ様まで一緒にいらっしゃるなんて、兄弟仲がよろしくて結構ですこと」

「楽しい訳……ないだろう……!」

ヴィンセント様、本音が出てるよ。頑張れ。

ユーリ様の後ろから、レノア嬢がおどおどと出てくる。

「君達は!このレノア・ツウィフト嬢に対して、嫌がらせをしていただろう?!王族の婚約者として、あるまじきことだ!」

おお、言い切った。お疲れ様!


ホノカ様は、ヴィンセント様の言葉に眉を顰めた。

「ツウィフト嬢?どなた?」

「以前話題になった一年生ですわ。ご存知ありませんか?なんでも兄の替わりに騎士科への入学を希望したとかーー」

「は?騎士科?わたくしが騎士科の生徒に嫌がらせをすることが可能だと、ヴィンセント様は本気で思ってらっしゃるの?」

ホノカ様の抗議に、『この無能が!』と言う副音声が聞こえた。

「思ってない!」

ヴィンセント様にも聞こえたようだ。

「いえ、本人を見てわかる通り、騎士科に入学出来るような素質はございませんでしたの。それで担当教官とも相談をして、兄の替わりに経営科で学ぶことにされたんです」

「あぁそう。ならば良かったわ。それで、なぜ王子殿下方とお知り合いに?」

「たぶんですけど、あまりに特殊な身の上なので、生徒会が面倒を見るよう、教師陣に言い渡されたのではないかと」

胡乱な目を向けるマリーとホノカ様。

ここはお約束通り、攻略対象達をまとめて生徒会としておこう。


「面倒を見ているうちに絆されたと言うの?兄弟揃って?驚きのチョロさね……この国の王族教育はどうなってるのかしら」

「案外、殿下方の教育が甘いせいで、わたくし達の王子妃教育が厳しくなってるのかもしれませんわね」

「はぁ?何それ、そんなことある?やってられないんですけど」

「ホノカ!マリー!頼むから話を進めさせてくれ、これじゃあ終わらない!」

断罪を言い渡される前に王子妃教育を放り出しそうな婚約者達に、ヴィンセント様が叫んだ。

ユーリ様は縋るような目をしてマリーを見ているが、当の本人はまったく意に介してない。

やっぱり、教育に差が出ているのかもしれない。


「仕方ないですわね……続きをどうぞ?」


鷹揚に促すホノカ様に、ヴィンセント様はお礼を言い掛けて止めたらしい。

うん、さすがにここでお礼を言うのは違うね。


「……コホン。ではレノア嬢、何をされたか証言してくれ」

ヴィンセント様に言われ、レノア嬢が恐る恐る切り出す。

「あの……えっと、教科書を捨てられたり悪口を言われたり、水を掛けられたりしました。あと、『あなたのような身分の女性は、相応しくない』と責められて……」

「「へえ。」」

二人の相槌が重なる。どう聞いても、初耳な人の反応だった。

「……ホノカ。何か言いたいことがあるか?」

ヴィンセント様、なんだか投げ遣りに聞こえます。

もうちょっと気合入れて!

「そんなに彼女に構うなんて、よっぽど暇なのね?羨ましいわ、毎日授業が終わったら王子妃教育のために王宮に駆け込むわたくしたちには、到底真似できません」

「……え?」

「レノア嬢?でしたっけ?彼女に嫌がらせだなんて生産性のないこと、これっぽっちも思い付かないわ。そんな暇があったら寝てます」

「ええ?」

「ホノカ……暇があったら私と交流を持ってくれ!いつもいつも忙しいと断られて……!」

「だって本当に忙しいんですもの。わたくしは他国の文化も言語も学ばなければならないのですよ?ヴィンセント様よりも内容が多いのです。ご自分の予定が空いたからって、こちらのスケジュールも空いてるとは思わないでくださいませ」

「だからってなぁ!」


いつの間にか、王太子殿下とその婚約者の痴話喧嘩になってる。

リニ様が「殿下、脱線してます。そのことは後ほど王宮でご相談を」と止めてくれて良かった。


「レノア嬢?相応しくないとは、誰に相応しくないと、どなたに責められましたの?」

マリーが話を元に戻す。

ここで挙げられる名前が、レノア嬢の本命とも言えるべき相手だろう。

サンレイク様以外の攻略対象に緊張が走った。



「……あの、三年生のルシウス・フォン・アイゼンバーグ様です。ご婚約者様のミュリエル様に、そう言われまして……」


私?


思わず背後を振り返ってしまった。

「?」

至近距離の紫の目が嬉しそうに細められる。

まったく聞いてなかったなこの人……本当に、都合のいい耳をお持ちだ。


「やっぱり……」

レノア嬢の本命を知っていたらしく、マリーがため息をついた。

「っ、そうだルシウス!ルシウスとミューはどこにいるんだ?!我々にだけやらせといて、自分達は会場にもいないのか?!」

ユーリ様が叫んだので、マリーが目線で一角を示す。

カーテンで仕切られたスペースの前に、サリーが佇んでいた。

「サリー!そこか!」

目線でどうするか問われたので許可を出すと、しずしずとカーテンが開かれる。


婚約者をお膝に乗せて、ご満悦のルシウス・フォン・アイゼンバーグの姿が晒される。


「あれ、開いた。まぁいいや、ミュー、最後はこれだね」

「んんっ、んー……うん、ルシウス様にはこれが一番合いそうです。はい、あーん」

「ん。……そうだね、僕はこれくらいの甘さがいいかな。ミューはやっぱり二番目?」

「そうですね。最初のも悪くはないんですが、苺はやはり生クリームと合わせたいので」

「そっか。じゃあ披露宴の時のデザートはこの二種類にしてもらおう。後でレシピを確認しようね」

「ルシウスーー!公然といちゃつくなと、いつも言ってるだろう?!話を聞け!」


ヴィンセント様の怒号が飛ぶ。

王族の本気の怒りに周りが青褪めてるのに、言われたルシウス様だけが動じない。私もだけど。

いや他にも動じない人いるなけっこう。

「ヴィンセント様が怒ってますよ、ルシウス様」

「いつものことだよ。ミューといちゃつくなって五月蝿いんだ。自分は婚約者に相手にされないからって」

「聞こえてるぞルシウス!」

「だからなんです殿下」

「強気ですね〜」

「ヴィンセント様なら、例え掴み掛かられても叩きのめせるし」

「不敬罪に問われません?」

「王妃陛下から許可を頂いてるよ」

あらまあ。だから強気なのねルシウス様ってば。

愛しの旦那様……じゃない、婚約者の身の安全を知れて良かった。


まあでも、ここで苺のデザートの品定めをしていてもイベントが終わらないし。私達も向かいましょうか?

どの味が好みか、結論出たしね。

降りようとすると少し引き止められたが、「早く終わらせて屋敷に帰りましょう?」と囁やけばすぐにエスコートに変わる。

簡単だなぁ婚約者様。

背後にサリーを引き連れて向かうと、攻略対象共が恨みがましく見てくる。

「なんですか?ヴィンセント様」

「なんですか、じゃない!お前が出来ないと言ったから、私が替わりに口上を述べたのに、なんであっちでいちゃついてるんだ!」

「だって、ルシウス様じゃ一言も言えなかったじゃないですか。私のフルネームを呼ぶことすら嫌がりましたよ?」

激高するヴィンセント様に、当時のことを思い出してもらう。


乙女ゲームの再現のためには、攻略対象達からの宣言?が必要。

手近な存在としてルシウス様に試させたが、「ミュリエル……!」で止まってしまうのだ。なんなら涙目。

これは始められもしない、とヴィンセント様に代打をお願いした。

はいはい、思い出して涙目になるのはやめなさいルシウス様。

いくらでも頬擦りしていいから、その涙は溢さないでね。


こちらのグダグダなやり取りに、ホノカ様とマリーが痺れを切らした。

「ああもう、ミューたちがいつも通りじゃ終わらないわ。リニ様、先程ツウィフト嬢の仰ってた嫌がらせの話、裏取りしまして?」

「……はい。調査したところ、そのような事実はございませんでした」

「「え?!」」

ヴィンセント様とレノア嬢の驚き声が重なる。

それには構わず、ホノカ様はサクサク進める気だ。

「それは重畳。わたくしどもに冤罪を掛けたと言うことね?レノア嬢はとりあえず取り調べね。ヴィンセント様と連帯責任のユーリ様、婚約破棄に向けて陛下も交えてお話しますよ。慰謝料をいただかなければ」

「えぇ?!」

レノア嬢、ここでも騎士に捕まる。

本当、お詫びはするから!

「ホノカ、婚約破棄とは言ってないぞ?!」

「そうですね。でもわたくしから言い出すことは可能でしょう?信頼の置けない殿方を夫にすることは不可能ですの」

にこやかなホノカ様と、絶望的なヴィンセント様がとても対照的。


一方、マリーとユーリ様も揉め出す。

「ま、マリー、私はその」

「ユーリ様。ひとまずわたくしはハルフィンに戻りますので、王子妃教育の続きはレノア嬢になさってね」

「やっぱりそれなのか?!いや、レノア嬢は王子妃にはならないから!」

「だから、浮気するなら有能な方にしてとお願いしてあったのに。これから他の方を探すの?」

「嫌だ!私の妃はマリーだけだ!」

「嫌だ、と言われましてもねぇ」

ちらりとマリーから目線を向けられた。

私はひとつ頷き、揉めてる二組に質問した。



「ヴィンセント様、ユーリ様。今回の騒動ですが、何かの企みに巻き込まれた説と自らが招いた説、どちらにしますか?」



「「んん?」」

訝しげな二人に、懇切丁寧に説明してあげよう。

「何かの企みに巻き込まれた説だと、例えば媚薬やらなんやらの薬だとか催眠?暗示?そう言った物の影響のせいであり、お二方の意思による騒ぎではない、と判断します。残念ながらゲーム補正は適用されませんが。完全になくなることはないですが、お二人の責任の重さが軽減されます」

「「なら!」」

「ただし。その場合は、『ではなぜ王族にそのような仕掛けがされたのか?』と言う疑問が生まれ、責任者の追及が始まります。一番はリニ様、サンレイク様の危機管理能力が問われますね。後は薬物ならメイドや侍従、催眠とかなら不審な人物を近付かせたことに近衛騎士や門番にも尋問開始です」

「「……………」」

勢い込んで乗ろうとしてきた二人の動きが止まる。

まあね、関係ない人たちにも範囲が広がるものね。

「一方、自らが招いた説であればお二人が自分の意思でレノア嬢に近付いたと言うことです。その場合もリニ様辺りは何かしらの訓戒を受けそうですが、責任の所在は王子殿下方にあると見做され、周りには及びません。でもこの場合も難点がひとつ。お二人に瑕疵が認められてサイアク王位継承権剥奪とかになったら、この国の王がヒムロになっちゃうんですよねー」

「「「「……………」」」」


二人の今後がどうと言うより、玉座にヒムロが座る想像の方が恐ろしい。

王族もその婚約者たちも固まった。


「さぁ皆様。どちらの道を選ばれます?」



◆◆◆◆◆◆◆◆


「ーーと言う感じで、乙女ゲームの世界は成立しなかったんです!」

「……?残念、だね?」

「だって、ルシウス様が他の女子に靡いた時点で世界観が崩壊するんですよ?!同じ顔違う性格じゃ意味ないし!せっかくメインヒーローぽいのに!」

「……なんだか、ごめんね?」

「現実ではこのままでいいんです!他の人に擦り寄るルゥとか見たくないし!なのでこれは八つ当たりですごめんなさい!」

「ふふ、いいよ。ぷりぷり怒るミューも可愛い」

「(相変わらず甘いな……:使用人一同)」

「度量が大きいですねルシウス様!もうちょっと言いたいこと言ってもいいですか?実は本家本元の乙女ゲームって、悪役令嬢とか出ないんですって!」

「まず悪役令嬢って?」

「攻略対象がルシウス様なら、その婚約者の私のこと。レノア嬢がルシウス様との距離を縮めようとするところに、嫌がらせとか妨害とかして彼女を泣かす役目です!」

「……婚約者に近付く女性を妨害するのは、当たり前では……?」

「ねー。むしろそれやらない関係性なら、婚約解消した方がいいですよね?」

「攻略対象?の婚約者を、悪役令嬢、と呼ぶの?それって悪役?」

「ヒロインからしたら、ですが。で、話を戻すとそもそも最初の乙女ゲーム世界には一人のヒロインとフリーの攻略対象がいるだけで、ライバルも婚約者もいないもんなんですよ」

「???」

「そりゃこれから落とすぞ!て相手に婚約者がいたら、まず除外しますもんね。その倫理観は納得なんですが、それってつまり主人公と攻略対象以外は全員モブでしょう?ライバルになることすら許さない、ヒロイン一強の世界。他の女性はさぞかし息苦しいのではないかと」

「??息苦しい……?」

「どれだけ格好良く有能な男性たちが大勢いても、その人達はヒロインに選ばれる待機中で。モブの女性がどれだけアピールしても、まったく靡きません。一人選ばれたら解放されるのかもしれませんが、その頃にはこの世界は終わる訳です。なんの努力も認めてくれない、ある意味超絶女性蔑視の世界ですよね!」

「???……よくわかんないけど、ミューがこの世界に生きててくれて良かったよ」

「はい!」

「(やっぱり甘いな……:使用人一同)」




乙女ゲームも成り立ちませんでしたorz

3つめに「男女逆転の世界」も思い付いたんですが、以下の理由から話が作れませんでした↓

・女性陣を男性化すると、もれなく俺様ハイスペ貴族ばかりになる

・ルシウス令嬢バージョンはさすがに未婚のままでいられないので、話が始まる前に嫁ぎ済だと思う


これにて幕間IF終了です。また何か思い付いたら?

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