幕間IF 1 「もしも魔法のある世界だったら?」
IF話を唐突に思い付きました。
短編にした噛み噛み旦那様の話と違って、完全にこちらの設定込みで進めますので、幕間としますm(_ _)m
◆◆◆◆◆◆◆◆
アイゼンバーグ公爵家は、代々希少な氷魔法の使い手を多く輩出している家系だ。
次期公爵であるルシウスも、血筋通り氷魔法を使う。
オマケに魔力も膨大であり、本人が文官志望であるにも関わらず、魔法騎士への勧誘が後を絶たない。
あまりにしつこい勧誘には死なない程度に凍らせて良い、と王太子殿下から許可をいただいているので、今日も遠慮なくガッチガチに凍らせてる。
強大な氷魔法、無表情塩対応な本人とくれば、呼び名は「氷の公爵様(次期)」になることは間違いなかった。
父親譲りの色合いに母親譲りの美貌を持つが、モテを謳歌する気が一切ないルシウスは、いつも淡々と過ごしていた。
彼は学園に入学する時から王都の屋敷で生活をしているが、その頃からこの家の気温はずっとひんやりとしている。
前公爵夫妻がいた頃は特に気にならなかったのだが、公爵親子が暮らすようになって以来、暑さとは無縁の屋敷になった。
父親である公爵も氷魔法の持ち主なので、二人もいれば滲み出る魔力で寒くなるのだろうきっと。
使用人たちはそう思っていたが、ある日耐え切れなくなった長女が弟の頭をはたいた。
「さっむいのよ!植物だって全然育たないじゃないの、いい加減にしなさい!」
「……そんなこと言われたって」
緑の目を持つ長女ローザリアは、こちらも珍しい植物魔法の使い手であり、氷魔法には縁がない。
大事な植物に害をなす弟を威嚇していたが、恨めしそうに姉を睨む弟の無意識による冷えだったらしく、本人にもどうにも出来ないようだ。
空気は薄ら寒く感じるが、厚着をすればどうと言うことはない。そのための服飾費も公爵家から支給される。
見目麗しく、そこにいるだけで拝みたくなるような奇跡の坊っちゃんの傍にいるためなら、寒いくらいなんてことはないのだ。
執事やメイド長を筆頭に、寒さに強めの使用人がアイゼンバーグ家を盛り立て、ルシウスが学園を卒業し王宮役人として働き出してからも、「夏って暑いから、お屋敷の外に出たくないよね〜」と涼しさを満喫する日々を送っていた。
◇
ある日、王宮から吹雪と共にルシウスが帰宅した。
正確には、屋敷外は王家の結界があるので吹雪いてはなかったが、ルシウスの魔力と親和性の高いアイゼンバーグ邸の敷地に馬車が入った途端、氷雪が舞い出した。
オマケに馬車から降り立った本人は大変凄惨な顔付きをしている。
基本無表情なので、このような顔も滅多に見れない。
使用人達は口元をひくつかせたが、執事のセザールはいつも通りに出迎えた。さすが。
常と変わらないセザールに、少し落ち着いたらしく吹雪がちょっと威力を減らした。
そのまま父母のところへ報告をしに行く。
「……デリル王国の王女殿下に求婚されました。……顔が、好みだと……」
語ってる間にまた感情が昂ぶったのか、窓がガタガタ震え出した。
母は動じず、ペチ!と額を扇で叩く。
不意をつかれたルシウスが瞬きをしていると、外の荒れ模様がまた収まり出す。
「王家とも相談しますが、我が家はこの婚姻は受けません。お見合いしますよ、ルシウス」
他国の王族からの求婚は、いかに力の強い公爵家と雖も断りづらい。
考えられる手段としては、あちらからの正式な申込みの前に別の縁を結ぶことが確実だ。
今まではのらりくらりと躱していた結婚話が、ここに来て現実味を帯びる。
ルシウスは無言で頷いた。
◇◇
最初に思ったことは、夫婦揃って同じ感想だった。
『『……完全に、ルシウスの好みそのもの……』』
当の本人も、間違いなく一瞬見惚れていた。
すぐさま貴族らしく笑みを浮かべて振る舞ってるが、たまにそよ……っと動く目が全てを物語ってる。
「初めまして。ミュリエル・グリフィスと申します」
黒髪に青い目、利発そうに微笑む令嬢がルシウスのお見合い相手になった。
今年学園を卒業するミュリエル嬢は、学生生活や領地での活動に重きを置き、王都での夜会やお茶会などの社交を積極的に行わなかったらしい。
前情報での人となりはあまり齎されなかった。
道理でルシウスに見染められなかった訳だ……と父リカルドは微笑みながら横目で息子をチラ見する。
妻譲りの顔を綺麗に笑んで話をしているが、手は落ち着き無く色々な場所に置かれていた。
……もう少し耐えなさい。家に帰ったら浮かれていいから。
目線だけで伝えると、かすかに頷いた。
グリフィス家も同じような理由でミュリエル嬢の婚姻を早く結ばせたいとのことなので、早々に合意し後は段取りを打ち合せる。
主役になる二人ももちろん話し合いに参加しないといけないので、「後は若い人同士で交流を……」とはしてやれなかった。
まあルシウスの落ち着きのなさからしたら、二人で散歩などに行かせても表面上の振る舞いが出来たらいい方だったろうし。
半年後には一緒に暮らすのだから、それからゆっくり分かり合ってくれ。
そう思っていると、不意にルシウスがミュリエル嬢に話し掛けた。
「……ミュリエル嬢は、寒さは平気でしょうか?」
ーー何気なさを装っているが、だいぶ悲痛な思いで聞いてるぞ。
妻のミモザと目を交わす。
これで「寒いのは苦手ですね〜」とか言われたら、新婚早々別居になるかもしれない。
公爵夫妻も少し緊張したが、ミュリエル嬢は朗らかに笑った。
「わたくし、水属性なんです。ですので、寒い方が暑いところよりも好きですわ」
「……良かった」
この日一番の笑顔で、ルシウスは呟いた。
◇◇◇
それからと言うもの、アイゼンバーグ邸は徐々に変化し出した。
厚着をして動くとーー暑い?と感じる時がある。
坊っちゃんが王都に来て以来10年、一度たりとも感じたことなかった暖かさが屋敷を覆う。
結婚して家を出たローザリアが遊びに来た時、「分かりやすく浮かれてるわね〜」と言い放った。
そう、ルシウスの心境が浮かれ出しているため、アイゼンバーグ邸の気温は春めいて来たのだ。
指摘を受けたルシウスが赤面する。
父も母も姉も、使用人一同も皆ニヤニヤしていた。
変わらないのは執事のセザール……いや、口元少し上がってんな。
これは、若奥様をお迎えしたら常夏のような屋敷になるのか……?
これまでの環境とは真逆になりそうだが、浮かれてる坊っちゃんを前にしては些事だ。
こうなったら両方備えるしかない。
足りない暑さ対策の服や家具を用意しつつ、いつ冷えてもいいように寒さ対策分も保管しておく。
万全の態勢で若奥様を迎え入れるべく、ルシウスの結婚までに使用人達はしゃかりきに働いた。
そして結婚式当日、からの初夜。
なんだかやらかした坊っちゃんのせいで深夜に嵐が吹き荒れたが、いつの間にか穏やかな夜に変わっていた。
明らかに坊っちゃんは若奥様に恋をしており、若奥様も満更でもない様子。
仲睦まじい夫婦の姿に、今日も少し暑いね〜と使用人達は祝福を送りながら、今度はめっきり暖かくなったアイゼンバーグ邸を満喫していた。
◇◇◇◇
ルシウスが初夜以来二回目のやらかしをしたのは、ミュリエルと結婚してから半年後のこと。
美貌とは裏腹に女性を寄せ付けない彼が、唯一接する女性・幼馴染のミアと、事もあろうに密室に二人だけで数十分過ごしていたのだ。
初めは何を怒られているのかわからない様子だったが、ミュリエルがミアの兄である侍従のノアと二人の距離を再現した途端、屋敷の外で瞬間最大風速の記録が出た。
その後も、ルシウスの荒れた心情を文字通り風景にして天気が荒れ狂う。
ローザリア様がご結婚されていて本当に良かった。
しっちゃかめっちゃかな庭園を眺めながら、諦観と共に庭師は呟いたと言う。
反省と後悔と悲しみと、全てが内側で渦巻いたまま母からの叱責により「ミュリエルへの接触禁止期間」がスタートする。
アイゼンバーグ邸の気温は、もはや雪山並ではないかと思えるくらい凍えていた。
しかしそんな中、当人であるミュリエルだけは平気な顔をしている。
「そんなに寒い?ですか?」
不思議そうな顔をするが、強がりでもなさそうである。
義父も義母も首を傾げたが、ルシウスが無意識の内にミュリエルだけには冷気が及ばないようにしているのかもしれない。
そう結論づけ、嫡男の危機管理能力強化のために、自分達も甘んじて厚着していた。
接触禁止期間を終え、寒さから一気に解放された日。
せっかく愛しの妻と触れ合えると言うのに、号泣しながら手を引かれるルシウスの姿があった。
その少し前、どうやら若奥様が医師による診察を受けたとか……。
え、坊っちゃんが号泣って、もしかして若奥様に重篤なご病気が……?!
すれ違う使用人達は最悪の展開を一瞬思い浮かべるが、それにしては外は快晴であり、なんなら少し汗ばむ陽気だ。
なんだろう?と思いつつも仕事に勤しんでいると、それは仕事終わりの報告会で告げられた。
ミュリエル様、ご懐妊……!
会議室内を怒号が響き渡る。
なるほど!と言う納得と共に嬉しさが爆発する使用人達。
ミュリエルが寒さを感じなかったのは、ルシウスの配慮もあったがどうやらお腹の子の守りのおかげだったらしい。
アイゼンバーグ家の跡継ぎ!今から母体を守る優秀さ!尊い!!
報告会は一転、若奥様の懐妊を祝う会!として宴会に突入した。
夜更けまで延々と騒ぎ、朝番の者まで深酒をしたため、翌日の彼らは一様に無口だった。
◇◇◇◇◇
その後、真に天使な跡継ぎ・シオン様がご誕生し、アイゼンバーグ家の庭園は一気に花が開いた。
嫁ぎ先からローザリア様をお招きし、少し植物達を落ち着かせてもらったが、シオン坊っちゃまがお散歩するとやはり咲き乱れてしまう。
これは、氷魔法ではなく植物魔法なのか……?と皆が思ったが、水を触ると気まぐれに氷にして遊んでいるので、氷魔法も使えない訳ではないらしい。
なんにせよ楽しそうなら良いか……と一同がほのぼのと見守る間も、光り輝く天使なシオン坊っちゃまは笑顔を振り撒き皆に幸せを与える。
ベンチに座って寄り添うご夫妻は相変わらずの仲良しで、今は第二子を身籠っているミュリエル様に、ルシウス様がせっせと冷たい果実水を与えている。
ーー後に6歳で受ける魔法鑑定にて、シオン様が驚異の『全属性持ち』と判明し、そこから王家も含めた壮絶なシオン様争奪戦が始まるのだが、まだ誰も知らぬ話である。
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「ーーと言う話をミューがしてて。『ルシウス様が氷を作れるようになったら、カッコイイし便利ですよね!』って言うんだ。そういうの、どこで覚えられると思う?」
「先輩……妻に寄り添う姿勢は大変尊いですが、物事には限度と言うものがあります……!」
「限度?」
「氷を作れるようにはなれません!そんなん、先輩本当に人外ですよ?!」
「うん、まあそうだよね。ミューが珍しく『カッコイイ』って言ってくれるから、どうにかやってみたかったんだけど。無理か」
「は?珍しいんですか?『カッコイイ』と言われるのが?」
「いつもは大体『可愛い』って言う」
「あぁ〜、なるほど?」
「それも嫌じゃないけど、たまにはカッコイイって言われたいなぁと」
「他のことで頑張りましょう。」
「そうだね。とりあえず氷苺でも買って帰るかな。溶けないといいけど」
「カッコイイかはわかりませんが、ミュリエル様は喜ばれると思います」
「うん。あぁ、それでその魔法のある世界の話。ミューの印象で、皆の属性がなんとなく決まってるって」
「属性?」
「僕が氷でミューが水。双子だけどヴィンス殿は火属性っぽいって。姉夫婦は植物と土?」
「へえ、なんとなくそれっぽくはありますね」
「王家は聖属性だったかな。光?とにかくそんな感じ。あの人たちキラキラしてるもんね」
「先輩が言います?」
「シャーロット嬢は治癒属性じゃないかって」
「癒やされそうな外見してますからね」
「それで、ワルローは絶対闇属性だって。貴重らしいよ、おめでとう」
「全力で、余計なお世話です!!」
魔法のある世界でもぶっ放せなかった……
向いてないことが判明しましたorz




