夫が難色を示す理由
ひと騒動あった衣装合わせをなんとか終え。
ルシウス様とシオンの服も方向性を揃え。
『シオン様生誕祭』の概要を聞いたところで、一日目は終了。
グリフィス邸に泊まる時は親子三人、客間を借りて川の字で寝ることにしてる。
両親に挟まれたシオンはウキャウキャ喜び中々眠らず、それを見詰めるルシウス様も中々寝なかったらしい。
私?シオンが落ちるのと同時に眠ってたな。
なんでか眠いのだ。なんでか。
二日目、領都の商会組合にて生誕祭の計画を聞く予定ーーだったが。
旦那様が難色を示した。
理由はもちろん、私の妊娠疑惑。
帰ったらおじいちゃん先生に診察してもらおうと思っているが、グリフィス家の専属医も「たぶんそうでしょうな〜」とパッと見だけで診断してきた。
そうなると、ここからルシウス様の心配性かつ過保護悪化期間に突入だ。
「やっぱり、ミューはお留守番してるべきだと思うよ?」
「私がお留守番してたら、ルシウス様が行ってくれるんですか?」
「……」
「両親が二人とも欠席じゃ駄目じゃないですか」
「……でも……」
難色を示しつつ、相変わらずお腹を撫でてくる。
まだなんにも分からんだろうに。
よちよちよたよた歩いて歓声を浴びてるシオンも、ついでのようにやってきてお腹をピトッと触っていく。
そしてまたファン達の元へ歩いて行くのを繰り返してる。
「……母親のお腹は触るもん、ってシオンに刷り込まれちゃいましたね」
「まあ、乱暴にしなければ良いんじゃない?」
自分も触るもんだから、やめさせようとはしないんだな。
「とにかく。今日を逃したら次は生誕祭当日になるんですから、話は聞きに行かないと駄目です」
「どうしても?」
「テンション上がった奴らに、銅像とか建てられますよ」
「シオンの?」
「たぶん、ルシウス様が抱っこしてる銅像」
「僕も?!」
「だから、止めに行きますよ」
「……わかった」
渋々とはこういう顔か、と思える表情をしてた。
「大丈夫ですよ。今日はヴィンスも付いてくると言ってるし、いざとなったらアイツを囮にして逃げましょう!」
「……クラスト殿にまた怒られるよミュー」
「あんちょこでどこまでカバー出来るか、楽しみですね!」
「楽しくないよ……」
悲観的だな、旦那様。
◇◇◇◇◇◇◇◇
結果。
今回は人が殺到することはなかった。
と言うか、本当にパレード?というくらい整然と並んで見てきた。
まあ、稀に見る豪華メンバーの一行だ。
ヴィンス、ルシウス様、クラストの肩車でキャッキャ喜ぶシオン。
そりゃ拝む人も出てくるよね。
「これはまた、新しいパターンですね……」
「全員揃い踏みだと、交通整理が楽ね」
「ミューが潰されないなら何でもいいよ」
「ぷあ!たしゃ!」
「なぁにシオン」
「はーいーシオン。大っきくなったわね〜」
「びー!」
「おお、呼んだか?」
ヴィンスは「びー」になった。
昨日、マジマジとヴィンスを見て「たしゃ?」と首を傾げてた。あまりの可愛さに周囲が悶絶してた。
それまでも遊んでもらってたけど、ようやく母親と同じ顔をしてると気付いたようだ。
そこからヴィンスが根気よく呼び名を仕込んだところ、区別がついたらしく「びー」と呼ぶ。
ヴィンスが手を伸ばしてシオンとハイタッチをした瞬間、キャー!と声が上がった。
「久しぶりだなぁ、こういうの」
「ヴィンスとハリーが必要以上に密着した時に、似たような声が上がってたわね」
「何してんの……」
「ファンサだな」
「ふぁんさ……?」
先に禁じておこう。
「ルシウス様を巻き込むのは許さないわよ」
「そら残念」
「んん?」
サリーまで残念そうにしないの。
あなた、ヴィンスと結婚することわかってんのか?
◇◇◇◇◇◇◇◇
「グリフィス伯爵家ご一行様、お待ちしてました……なんか派手だな?!」
組合の集会所で私達を出迎えたタスクは、儀礼的に挨拶をしてから驚いていた。
糸目が見開かれてるからわかりやすい。
それにしても……。
「あはは、タスク、幸せやつれ?」
「失礼過ぎるだろお嬢様」
「でも本当、痩せた?」
一見してわかるくらい体型が絞られてる。
でも病気をしたとかではないはず。それなら情報が回ってくるし。
現に、体は痩せているものの滲み出るオーラがなんだかふわふわしてるのだ。
これはオリビア様の力に違いない!たぶん!
「ようタスク、久しぶりだな。なんか痩せたか?」
「若様まで似たようなことを……」
「若い嫁が来そうだと聞いたぞ。さては幸せやつれだな?」
「二人して時間差で同じこと言わないでくれます?」
タスクの不満そうな顔に、ヴィンスがパチリと目を瞬く。
こちらを見るので頷いてやった。
「「あっはっは、幸せやつれ〜」」
「声を揃えて言ってんじゃねえよ!時間差に文句があったんじゃないの、同じこと言うなっつってんの!」
「ふわ!」
「あ、あぁ、シオン坊っちゃん申し訳ない、大声を出してしまった……」
大声に釣られてシオンが主張すると、タスクがおろおろし出した。
うちのシオンは大声に驚くどころか、張り合って自分も声を上げる派だけど。
おろおろしてるタスクが面白いから言わない。
「これが相乗効果……」
「この後に追加効果も出ますよ若旦那様」
ルシウス様とサリーが何か呟いてるけど、気にしない〜。
タスクを筆頭に主たる商会の会長・会頭が集結しているので、生誕祭の運営方法や出店する候補を選定していく。
「あ、このお店はいいわね!シオンは海鮮が好きなのよね〜」
「それはお嬢様の好物だろ?!堂々とねじ込まないの!」
「シオンはスイーツも好きになる予定だから、もうちょっと甘味を増やせ」
「適当なこと言わない若様!なんだ予定って!」
「仕方ないわね、ならこれにしましょう。髪に良い素材を取り扱う薬屋」
「お嬢様まだそのネタでおちょくる?!」
「こっちにしよう。目が細くても良く見える眼鏡が売ってる」
「目が細くても視力はいいの!若様やめて!」
我々のやり取りを、シオンをあやしながらルシウス様は感心して見ていた。
「……息の合ったおちょくり方だね……」
「こちらは追加効果かつ相乗効果です若旦那様」
「会頭は大変そう」
「ポルカ会頭がお相手をしてくださっている間に、詳細を他の方が詰め切ります」
「なるほど」
なんか失礼なことを言ってるな?
「ルシウス様は、なにか要望あります?」
「……今日くらい混乱がなければ良いかな」
「確かに。あれなら警備も楽ですもんね」
「あんちょこのバージョンアップが必要ですな」
「全員勢揃い版か……」
ゴニョゴニョ言ってると、最長老の会長が呼び掛けてきた。
「お嬢様、若様。皆様方の巡回ルートは決まりました。あとは舞台での出し物をご検討いただきたく」
「は?」
ルシウス様のすっとんきょうな声に、皆が注目する。
「え、出し物?」
「ん?舞台で伯爵家がそれぞれ余興を披露するんだが。ルシウスは知らないのか?」
「知らない!」
「アイゼンバーグ家では見たことないわね、そう言えば」
「他家でもないよ?!」
「確かにそうだな。その筋のプロを呼ぶことはあっても、領主一家自らやる所はないなー」
はっはっは、とヴィンスが笑う前で、ルシウス様は本日二度目の難色を示す。
「なんでもいいんですよ?」
「なんにも出来ないよ……むしろ舞台の上とか乗りたくない……」
「あらあら」
縋る目をしてきたので、とりあえず抱き締めておこう。
皆の生温い目はいつも通りだ。
「ルシウスは顔に似合わず謙虚だからなぁ」
「……よく言われる」
「まぁまぁ。若旦那様なら、舞台に上がっていただくだけで領民は満足ですよ。お嬢様とシオン坊っちゃんと、仲睦まじいお姿を見せていただければ」
タスクの執り成しに、会長たちがウンウンと頷いた。
結局、タスクの意見が採用され今回のグリフィス伯爵家は舞台上にいるだけで余興なし。
むしろ領民からアイゼンバーグ次期公爵とその跡継ぎへ、商品のプレゼンを行う大会にした。
伯爵家一同で採点し、優勝者にはアイゼンバーグ領での出店を約束する。
私の商会が既に出店してることについては、身内枠と言うことで!
「アイゼンバーグでの気候と風土、領民の気質に物価……」
「お嬢様、情報はどこまで提供してもらえるんですー?」
「一律?それとも条件付けて差が出るようにする?」
「余興としてなら、一律の情報でどれだけプレゼン出来るかを競わせた方が面白いぞ」
「ま!」
「シオンも同意してるしな!」
困り顔だったルシウス様もなんとか笑顔に戻ったし、シオン様生誕祭は無事に開けそう。
着々と進む計画に、大変満足!
「あ、シオン坊っちゃんと若旦那様の銅ぞ「「建てさせません。」」」
「馬鹿だなタスク、シオンとルシウスを表現するなら銅じゃなくて金だろう?」
「「素材の問題でもないから!」」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「……ミューは、余興って何が出来るの?」
「利き海鮮ですかね」
「……キキカイセン?」
「焼かれた魚や貝類をシンプルに塩で食して、どこの産地か当てるという」
「利き海鮮……あぁ」
「あとは、落ちた硬貨の音で幾らなのか当てるとか?」
「思ってた余興と違う……」
「むしろ貴族のする余興って何があるんですか?」
「楽器の演奏とかじゃないかなたぶん……」
「演奏。してもいいですけど、絶対乱入されますよ」
「ええぇぇ」
「どの楽器にも一家言を持つ人がいますからね。やるとなったら見に来るし、見に来たらうずうずして壇上に上がってきます」
「グリフィス領民、行動力があり過ぎる……」
「だから、平和に演奏とかじゃなくて参加者募って競わせる方が逆に平和です」
「なるほど。ヴィンス殿は何をするの?」
「ん?俺はそうだな、パティシエ達と共同で巨大ゼリーとか作ったな〜」
「巨大ゼリー」
「わざわざ新品の浴槽用意して、力自慢も集めてひっくり返したんですよ」
「美味かったろ?」
「普通のゼリーと変わらなかったじゃないの」
「作る工程が楽しいんだろう」
「余興とは……」
「楽しければいいんだ!」
「まあ、楽しいだろうね……」
「父上は縦横無尽に飛んでくる矢を全部避けたぞ!」
「危なっ!」
「そこはほら、マシュルトの腕です」
「いや観客も危なくない?!」
「その時は舞台じゃなくて一段低い場を用意して、客は上から見てたんだ。伯爵の威厳を見せつけた!」
「それは伯爵とかを超えてる気がする」
「気のせいですよルシウス様。母上は刺繍の早縫いとか、婦人達と共同作業でグリフィス邸の絵を針と糸で表現してました」
「……もしかして、玄関ホールに飾ってある絵?あれ刺繍なの??」
「母上凄いですよね〜」
「凄い……」
「まあ色々やりましたよ。ハリーとサリーの剣技とか、腕相撲大会とか。クラストが出ると酒の量を競う大会に変わっちゃうんですけど」
「それは、採算が取れるもの?」
「酒飲み達は一ヶ月お小遣いがなくなります」
「だよね」
「でも一番盛り上がったのは、久しぶりに帰国したヴィンスへ領民が愛を叫ぶコンテストでした」
「……?んん?」
「ちょうど皆さん、ヴィンスの欠乏症になり掛けてたので。思いの丈を本人にぶつけろと」
「えぇ……」
「スピーチ時間は最長3分、公序良俗に反する発言は即ハリーが潰す、伯爵一家とマシュルトとサリーで採点、優勝者にはヴィンスのハグが捧げられます」
「いや、よくそこまで興行化できるよね?!」
「なかなか聴き応えあったぞ?」
「面白かったです」
「サリーまで……」
「今なら予選なしでサリーに叫ばせて、優勝させるけどな!……痛い痛い、サリー、痛いって。やらない、やらないから抓るなおい」
「……ちなみに、優勝者は……?」
「「領都の肉屋の店主44歳男性妻子持ち」」
「想定外過ぎる!」
「ハグしたけど、恰幅が良すぎて腕が回らなかった」
「やっぱりするんだ!」
肉屋の店主は、肉の部位や種類をふんだんに盛り込んで愛を叫びました。
一同、お腹が減ってきたので満点です。
その後オススメの焼肉を味わいました。




