幕間5 アサトの心労
自称『女の味方』は信用ならない
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↑こちらで生まれた最強キャラを、主人公達に掛け合わせたくなりました。
時系列が少々戻ります。シオンがまだ喃語の頃。
なんでこんなことに……。
俺の嵐吹き荒れる内心に気付くことなくーーいやリヒトは気付いてるかも知れないーー、目の前で和やかに挨拶が交わされる。
「アイゼンバーグ小公爵夫人。お初にお目に掛かります、リヒト・ワルローと申します。この度はお招きありがとうございます」
「セシリス・ムーサルクです。姉がいつもお世話になっております」
「ご丁寧にどうも。お二人とも、よろしければミュリエルと呼んでちょうだいな。長いのよね小公爵夫人呼び」
「わかりました。僕はリヒトとお呼びください」
「私はセシリスと」
にこやかに笑い合う弟と義妹(予定)とミュリエル様。傍らには寄り添う先輩。
こちらは一人変わらぬシャーロット、俺と同じくらい絶望的な顔をしたクラリス嬢。
わかる、なんだか『混ぜるな危険!』と書かれている劇薬三種が盛大にかき混ぜられてる光景を見ている気分だ。
なぜこんなことに……。
遠い目のまま、招かれたテーブルにのろのろと向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
弟・リヒトが婚約者を得てから一ヶ月。
浮かれに浮かれたリヒトは、常に婚約者のセシリス嬢と行動を共にしているらしい。
弟の恋が叶って、こんなに平和になるとは……。
と、思っていたのに。
「やっぱりミューが会いたいって。弟くん」
先輩の一言で脆くも崩れ去った。
「……え?」
「ワルローが慌てふためくほどの人物だもんね。ついでに婚約者の、セシリス嬢?だっけ?彼女にも会ってみたいって言うんだ。連れてきて」
「せん、先輩……!リヒトもセシリス嬢も、学生であり子爵家の者です!公爵家にお邪魔出来る程の作法は備えてません!」
どうにか撤回してほしくて、必死で言い募る。
しかし先輩には効かなかった。
「そう?この間やってきた時には、随分しっかりしてるように見えたけど。まぁ、簡単なお茶会の招待だし、多少の粗相はそれこそ学生なら大目に見るよ」
「ですが「ワルロー」」
先輩がヒタッと見据えてきた。
「ミューが会いたいと言っているのを、覆せる?」
「…………出来ません」
出来る訳ないんだ、知ってる。
あのリヒトを、公爵家に……。
「あぁ、保護者も来ていいよって。心配なら付き添いなよ」
とても軽く言われたので、シャーロットとクラリス嬢も巻き込むことにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
会話は弾んでる。
学園の話、俺の学生時代、ミュリエル様の学生時代。
物怖じしないミュリエル様と物怖じしないリヒト、そしてセシリス嬢も物怖じしない人だった。
三人集まればそれは盛り上がる。
シャーロットと先輩はニコニコ聞いてる。
俺とクラリス嬢が浮かない表情でも、お構いなしだ。
「ミュー様、今日はシオン様は?」
「食後にすぐお昼寝タイムになっちゃったの。お茶会の途中くらいに起きると思うから、そうしたら連れてくるわ」
「わぁ、お会いして良いんですの??」
「構ってもらうのが大好きだから。ぜひ遊んでやって」
「物凄くお可愛らしいと、兄から聞いてます!」
「リヒト……」
「物凄く可愛らしいんですよ、シオン様は」
「物凄く可愛らしい……想像が難しいです」
シオン様を知ってる全員が、先輩に注目した。
顔を顰めても麗しい。
「この夫を赤ん坊にしたら息子になるわ」
「「なるほど」」
「その表現……」
「間違ってます?」
「合ってるけど……」
「「楽しみにしてます!」」
若い婚約者たちは声を揃えて笑う。
その姿を見て、ミュリエル様はにこやかに笑った。
「ねえリヒト様、セシリス様。お二人が良ければなんだけど、ひとつ頼まれてくれないかしら?」
途端に嫌な予感がし、背筋がゾワッとした。
クラリス嬢も同じようだ。
「みゅ、ミュリエル様、何を?」
俺の問い掛けには笑顔で黙したままだ。
「ミュー?それって」
「ちょうど良いと思うんですよね」
先輩には答えてる。先輩は二人を見て、「……確かに?」と呟いた。
「先輩?」
先輩も答えてくれないし!なんなんだ?!
「二人に引き合わせたい人がいるの。同じ学園に通ってる同年代の子なんだけど、お友達がいなくてね。少し難しい子だけど、根はいい子なので会ってみてもらえるかしら?」
にこやかに話すミュリエル様に、二人はキョトンとした。
俺はその言葉にまたゾワゾワっとする。
ミュリエル様が紹介?!難しい子?!
「学園に通う方、ですか。それでしたら、お見掛けするくらいは機会があったかもしれませんね。セシリス、どうします?」
「お会いするだけですもの、よろしいのではなくて?」
「そうですね。ミュリエル様、お引き受けします」
「ありがとう」
「……セシリス……」
目の前であっさり決めてしまったセシリス嬢に、クラリス嬢が恨めしげに呟いた。
「なぁに?お姉様。お会いするだけでしてよ?ミュリエル様、学園でお会いしたらよろしいでしょうか?」
「いえ、もうすぐ来るわ」
「「え?」」
ミュリエル様は晴れやかに告げた。
「第三王子殿下:ヒムロ・フォン・ジークハイド様が、本日シオンを訪ねてくるの。せっかくだから、お話してみてね」
やっぱり〜〜!
◇◇◇◇◇◇◇
「ミュー!ルー兄!お邪魔します!シオンはどこだ?!」
「寝てるわ」
「どこで?!見に行ってくる!」
「ヒムロ」
突然飛び込んで来たかのように現れた第三王子殿下は、畏まる我々をまったく気にも止めず、先輩とミュリエル様に捲し立てるーーが、ミュリエル様の呼び掛けにピタリと止まった。
「ご挨拶は?」
「ご機嫌ようアイゼンバーグ小公爵夫妻。本日もよろしくお願いいたします」
「よし」
「いらっしゃい」
「シオンのところへ行っていいか?」
「ダメ」
「なんで!」
「寝てるシオンは手を突かれると握るから、皆様ツンツン突きたがるの。ヒムロもやるでしょ?」
「…………やる」
「やり過ぎて起きたら泣くわよ?」
「それは困る……」
「起きたら連れてくるから待ってなさい」
「はい」
素直に頷き、着席する姿はまるで普通の少年のようだ。
「ミュー?お客様か?」
そしてようやく我々に気付いたらしい。
「初めにお茶会の予定をしてたのはこちらよ。その後ヒムロの訪問予定が立ったから、どうせなら引き合わせようと思って」
なんでもないことのようにミュリエル様は言うが、俺とクラリス嬢と殿下に付いてきた王宮騎士達は引き攣った。
約束もなく王族に会わせるなんて!と文句を言われる場面かと思ったが、ここはアイゼンバーグ邸であり客を選ぶのは先輩とミュリエル様だ。
どうやらお忍びのようだし……あ、騎士に見覚えのある奴が。
「引き合せる?誰と誰を?」
「ヒムロと、こちらにいるお二人よ。リヒト・ワルロー様と、セシリス・ムーサルク様。同じ学園の生徒なの」
「殿下、初めまして。リヒト・ワルローと申します。こちらは婚約者のセシリス嬢です」
「初めまして。セシリス・ムーサルクと申します。よろしくお願いします」
普通に紹介するミュリエル様に、普通に挨拶する弟達。
だからなんで君たちは、そんなにブレないんだ?!
保護者の方がいっぱいいっぱいだよ!
「初めまして。俺はヒムロ・フォン・ジークハイドだ。俺は三年生だが、君たちは?」
「僕は一年生です」
「私は二年生ですわ」
「別の学年か……」
ヒムロ殿下は少し残念そうだった。
「ヒムロ、そもそも貴方騎士科じゃないの。科が違うんだから学年なんて今更じゃない?」
ミュリエル様が言うと、ハッ!とした顔になった。
「殿下は騎士科なんですね。体を動かすことがお好きなんですか?」
「いや、まあ動くのは好きだが。騎士科に入ったのは、シオンの騎士になるためだ」
なんだって?!
周りは驚きの顔になるが、子どもたちの話は続く。
「まぁ、シオン様の騎士に?それは素敵ですこと」
「そうだろう?そのために父上と約束してな、学年末に首席を取ることになったんだ!」
胸を張る殿下。いや、父上って陛下……。
「わあ、首席をお取りになられたんですか?殿下は学業にも秀でていらっしゃるんですね!文武両道とは羨ましい」
流れるように世辞を言うリヒト。
兄様はお前の肝の太さが心底羨ましいよ……。
「そうかな?褒められると少し照れるな!えっと」
「リヒトです」
「リヒト!リヒトは体を動かすことは好きか?」
「残念ながら、僕は運動神経が鈍くて。体力もあまりないので」
「そうか。せ……」
「私はセシリスですわ」
「セシリス嬢は?」
「体を動かすことは好きですが、騎士科の皆様と比べるなんてとても烏滸がましいです」
「そうか……。一緒に走れると思ったんだがな」
いやいや殿下、なぜうちの子たちと一緒に走るおつもりで?!
騎士達、止めてくれ!一番近くにいるセネカ・スィルギルス!仕事しろ!
俺の心の声は全く届かないらしい。
誰しもが子どもたちの会話を見守っている。
ミュリエル様と先輩など、会話を聞きつつ菓子を食べさせ合っていちゃついてるのだ。こちらも肝が太過ぎる。
リヒトは、ふむ、と考えた。
「殿下。僕は一緒に走ることはしませんが、タイムを測ることはできますよ」
「タイムを測る?」
「はい。スタート地点とゴール地点を決めて、殿下がどれくらいの速さで走れるか計測します。そこから、殿下の走りやすい地形や靴などを検証したら、もっと速く走れるようになりますよ」
「それでしたら、私は殿下のフォームを観察しますわ。腕の振りや足の幅でも変わるらしいですし」
「なんと!もっと速く走れるのか?!」
殿下の目が輝いた。騎士達の目はどよんと濁った。
「じゃあ、今から走る!」
わくわくと席を立つが、「ヒムロ」と呼ばれてまた座った。
「ヒムロはうちに何しに来たのかしら。走りに来たのなら、走り終わったら帰りなさい」
「……シオンに会いに来ました」
「走って汗だくのまま、うちの天使に会おうと言うの?それが騎士の姿?」
「今日は走りません……」
シュンとする殿下は小犬のように見える。
リヒトが笑って取りなした。
「殿下。計測するなら、やはり地面は整えられた方が良いですよ。騎士科に鍛錬場があると聞いてますので、そちらで試しましょう」
「っ!そうだな!」
「そうしましたら殿下、他の騎士科の方々もご一緒されてはいかがです?お一人で測るのも良いですが、他の方と比較してみるのも新たな発見があるかと」
「そうしよう!学園、明日!明日か?!」
「僕らのスケジュールと殿下の時間割と相談ですね。鍛錬場も確保しておかないと」
「わかった!俺のことは殿下ではなくヒムロと呼んでくれ!」
「わかりました、ヒムロ様」
「承知しましたヒムロ様」
「様はいらない!」
「でも、ヒムロ様は学年が上ですので。もしくはヒムロ先輩、とお呼びしましょうか?」
「!いいな!そうしてくれ!」
瞬く間に打ち解けた若者たちに、周りの大人は呆然とする。
うちの弟が……第三王子殿下の知り合いになった……。
兄貴とこの重さを分かち合おうと思っていると、リヒトが笑顔でこちらを向いた。
?!
「ヒムロ先輩。こちら、僕の兄です。アサト兄様と言います」
「アサト兄様!」
「うえ?!」
「あら。ではこちらは私の姉ですわ、先輩。クラリスお姉様ですの」
「クラリスお姉様!よろしくな!」
「ええ?!」
「あ、シャーロットお義姉様もご紹介しますね。兄の婚約者です」
「はい?!」
「シャーロットお義姉様だな!覚えた!」
突然殿下に呼ばれ、保護者陣は慌てた。
ミュリエル様は楽しそうに笑った。
「お友達が出来て良かったわねぇヒムロ」
「うん!」
「……なんでワルローは『兄様』呼び……」
そこは引っ掛かるところではないです先輩!
むしろ呼ばれたくありません!
とは叫べず。
保護者三人とも、虚ろな笑いでその場を凌いだ。
劇薬の四種目が混ぜられていく光景。
そんなことを思いつつ、俺は自身に心労がどんどん積み重なっていくのを感じていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ふぱ」
「シオン!おはよう!会いたかったぞ!」
「落ち着きなさいヒムロ。最初はお父様です」
「ん。シオン、おはよう」
「にゃ」
「猫入ってますね」
「猫の日なんだね。ヒムロくん、はい」
「シオンー!元気だったか?!」
「みゃー!」
「わあ、本当に可愛らしいですね!この方は天使なんでしょうか?」
「羽は生えてないようですわよリヒト様」
「確かに。良かった、飛んでいく心配はないですね!」
「「シオンが……飛んでいく……?!」」
「ルシウス様。ヒムロ。真顔で取り合わないでちょうだい。私は人間のシオンしか産んでませんから」
「そうだよね……あまりの可愛さに不安になった」
「シオンには羽がないが、万が一のことを考えたらジャンプ力も鍛えるべきか?空中でも捕まえられるように」
「……?!(近衛騎士一同)」
「ヒムロ先輩、ジャンプ力を鍛えるなら下半身の筋力と体幹が大事ですよ」
「……!!(近衛騎士一同:具体的な指摘はやめて!)」
「下半身か……騎士科のトレーニングの項目を少し増やすか」
「それでしたら、こちらもフォームの検証をいたしますか?先輩の指先に染料を塗って、飛び上がった先に印を付ければ記録が取れます」
「そうだな!外で走れない日はジャンプ力を高めよう!協力してくれ、リヒト!セシリス嬢!」
「「喜んで」」
「〜〜!!(近衛騎士一同:殿下がジャンプ力を身に着けたら、我々も鍛えなければ……!)」
「にゃにゃ?」




