四人+ゲストのお茶会(天使達はお預かり)
結局。
コーデリア嬢は数日謹慎の後、地方の役場に出向になった。
経験を積むのはいいことだよね〜的な風潮を匂わせつつ、既婚者に余計な手出しするなよ?という見せしめである。
と言うのをわざわざ豪華手土産付きでやってきたヘルメス様からお聞きし、「これくらいで許してもらえるか?」と確認された。
いや、私をどれだけ非道だと思ってんの?
ちょっくら抗議しようかと思ったが、シオンが閣下のお髭を気に入ってしまったので、触り放題で許すことにした。
「リカルド様もお髭を生やそうか悩んでたわ。でも、アイゼンバーグの家系って生えづらいらしいのよね」
馬車内、シオンを膝に乗せてあやしながらお義母様が言った。
「単に珍しいだけですから。なんなら眼鏡とかでもじゃれますよ?アサトが大変そうでした」
「シオンが触っても害のない気を引く物、ってなかなか難しいわね」
ありとあらゆる玩具を与えまくるシオンの祖母が、ため息をついてる。
あれだけあるんだから、もういいのでは……?
しかし嫁の身で余計なことは言わないに限るので、ニコニコ黙っとく。
「シオンは王太子妃殿下のサロンに預けるのよね?持ち物は大丈夫かしら?」
何回目かの確認に、しかし律儀にもサリーはシオン用手荷物を開けた。
「ホノカ様もお子様のために揃えていらっしゃるとのことで、貸していただけると。シオンの反応次第で今後の買い物の参考にするそうです」
「……それは、お子のためかしら?それともまたシオンを預かるための……?」
「深くは気にしちゃダメですよお義母様」
下手に警戒すると、ルシウス様のように「王宮にシオンは駄目!」となってしまう。
別に行かなくてもいいっちゃいいが、マリーの子どもは親戚になるしホノカ様だって遠縁だ。
親戚付き合いがやり辛いのは嫌だしね。
適当な玩具を選んでシオンに渡すと、「あーと!」と笑顔で受け取り、お義母様が身悶えする。
サリーは堪えてるようだが、息をしなさい息を。
意味がある単語を話しだしたので、いかに自分を呼ばせるかが今のアイゼンバーグ家の流行りだ。
どう呼ばれたいか、どのような単語が発しやすいか、皆さん試行錯誤してらっしゃる。お疲れさん。
そうこうしてるうちに目的地到着。
降りる支度をして扉が開くと、大変眩い金髪が輝いていた。
「ミュー、シオン」
「ぷあ!」
お出迎えをしてくれたルシウス様に、お義母様に抱っこされてるシオンがいち早く呼ぶ。
……なぜかルシウス様は、呼び名を仕込む前にシオンから「ぷあ」と呼ばれることが決定していた。
いや、前からルシウス様に反応する時だけ「ぷあ」って言うよな〜とは思ってたんだけど、まさかの父を呼んでいたらしい。
「なぜぷあ……?」とルシウス様も不思議そうだったが、本人がそれで呼び続けるんだから仕方ない。
私の手を取り降ろすと、「そこにいてね」と念を押してシオンを受け取る。
うん、どれだけ信用ないんだ。
両手が塞がったので、お義母様とサリーは御者の手を借りて降りた。
「出迎えご苦労様。でも待遇に差があり過ぎるわ」
「申し訳ありません。ミューとシオンで手一杯ですから」
言葉通り、片手でシオンを抱っこして片手で私と手を繋いでるので完全に手一杯。
「先にシオンを預けに行く?」
「そうですね。カトリーヌ様もいらっしゃってるかと」
ルシウス様の提案に従い、我々はホノカ様の待つサロンへと向かった。
「ぷあ、ぷあ」と頻りに父を呼ぶシオンに対して、呼ばれてる当人はもちろん背後のお義母様もサリーも、すれ違う王宮役人達もデレッとなってる。
やばいなぁ、本当にヴィンス級かもしれない。
◇◇◇◇◇◇◇
ホノカ様のサロンにはすでにカトリーヌ様がいらっしゃって、シオンに向かってよちよち歩いてきた。
さすがにここで二人を対面させたらドミノ倒しになりそうなので、彼女を促しつつホノカ様にお預かりのため挨拶へ向かう。
普通なら侍女辺りが受け入れそうなものを、当たり前のようにホノカ様が直々に抱っこしてくれた。
王太子妃殿下だぞ、息子よ。貴重な経験だわ。
ここでもシオンはまったく平気で、「じゃーねー」と手を振ると「ぱ!」と手を上げてきた。
むしろルシウス様とお義母様が後ろ髪を引かれてる。
「ルシウス様、わたくしを送ってはくれませんの?」
「送ります。」
上目遣いで擦り寄ったらイチコロだけどね!
繋いでた手はエスコートの形にして、今度はマリーのサロンへ向かった。
「しかし、よく王太子妃殿下が預かってくれたね?」
「むしろこの茶会に参加出来ないなら癒やしを!と言われましたので」
「参加は……」
「内容が内容ですので、今回は限定メンバーのみです」
むしろあなた方のためだからな?アイゼンバーグ家の長男どもめ。
お義母様からもサリーからも私からもジト目で見られ、「……ご配慮いたみいります……」と呟く直近のやらかし長男。
これからマリーのサロンで開かれるのは、先日お会いしたオリビア様の話を聞く茶会だ。
夜会で彼女と別れたあと、王族の元へ行くなり「マリー!いたの!やっぱりいたのよ!」と興奮のあまり詰め寄ってしまった。
コーデリア嬢との話を聞くつもりだった王族方は皆様キョトンとされてたので、少し落ち着いたけど。
一部始終の説明後、再度マリーに「ルシウス様と同じやらかしをした人を発見したの!」と打ち明ければ、マリーもそれは面白がる。
ぜひ話を!となった時に「面白そうね?」とホノカ様が入ってきたのだけど、さすがにこればかりはご存知ない方を加える訳にはいかない。
丁重にお断りをし、引き換えにマリーのサロンで茶会をしている間、うちのシオンを預かってもらうことにしたのだ。
いつもなら私が留守にする時はお義母様にお願いするが、お義母様も聞きたいかなと思い。
案の定乗ってきた。
ついでにお義姉様にも連絡を取ったら乗ってきたので、それならカトリーヌ様もお願いしようとなった。
「お義姉様はもうサロンにいらっしゃいますかね?」
「カトリーヌを預けたならそうじゃないかな」
「カトリーヌとシオンが遊ぶ姿なんて、このお茶会じゃなければずっと眺めていたかったわ」
「……ルシウス様、お仕事抜け出して見に行ったら駄目ですからね」
「しないよ……たぶん」
「アサトに報告させますよ。お約束守れなければ、しばらく子供部屋へ立ち入り禁止にします」
「絶対守る……!」
シオンのことになるとイマイチ信用ならない夫に釘を刺す。
立ち入り禁止になったら部屋の前でウロウロしそうなので、本当に死守してほしい。
サロンの入り口で仕事に戻るよう指示し、うだうだしてたので行ってきますのキスをすることでようやく立ち去る夫へ、義母と侍女が向ける冷たい視線を感じつつ、私達は第二王子妃殿下のサロンへと進んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「お、お初にお目に掛かります、オリビア・ヤミルスと申します……!」
ガッチガチに緊張したカーテシーをして、オリビア様が挨拶をする。
うん、巻き込んじゃってごめんね!
なにせ席に着いてるのは第二王子妃殿下、二人の公爵夫人、一人の小公爵夫人だ。
元子爵令嬢、現伯爵夫人からしたら高位もいいとこよねぇ……。
「ようこそヤミルス伯爵夫人。オリビア様とお呼びしても?」
サロンの主であるマリーが声を掛けると、オリビア様が真っ赤な顔をして頷いた。
「こ、光栄です妃殿下!」
「わたくしのこともマリアベルと呼んで?あとこちらはミュリエルよ」
「私はついでか」
「時間短縮よ」
「え、あ、あの」
「この二人は姉妹のような仲だから、やり取りには慣れた方がいいわ。わたくしはローザリア、ローズと呼んでちょうだいな」
「わたくしはミモザよ。オリビア様、こちらにどうぞ」
私とマリーが言い合ってるうちに、お義姉様とお義母様がフォローしてくれた。さすがです。
よろよろと席に着くオリビア様が少し息をついたので、発起人である私から切り出そう。
「オリビア様。本日お招きしたのは、先日夜会で教えていただいたお話を伺いたかったのです」
「え?」
「ご主人に『愛することはない』と言われたこと」
「あ……」
「ちなみに私も言われました」
「え?!」
「わたくしもよ」
「ええ?!」
溜めることなくバラす私とお義母様に、オリビア様が目を見開く。
「わたくし本人は言われてませんけどね。父と弟のやらかしは知ってるわ」
「わたくしはミューから聞いたの。アイゼンバーグ家以外にも言われた方がいるなんて、驚いたわ」
お義姉様とマリーの追加情報を聞くと、目を白黒させてる。
落ち着くまで待つか?と思ったら、意外とすぐ受容したらしい。
「……あの、アイゼンバーグ卿は『王宮一の愛妻家』だとお聞きしたのですが」
「ええそうです。あの人に張り合うのは中々大変ではないかと」
「王宮に来た時も馬車の出迎えからこのサロンまで送り届けて、サロンに入る前には『行ってらっしゃい』のキスを交わすほどよ」
「お義母様、『行ってきます』の方です」
「いいわよどっちでも……」
「マリー、『行ってらっしゃい』の方が濃いわよ?」
「どっちでも良くなかったわ……」
「この通り、噂のままよ」
「なのに、『愛することはない』と……?」
不思議そうな顔をされた。
確かに。
「夫曰く、『勢いがあまり過ぎて言葉がおかしくなった』だそうです」
当時の言い訳をそのまま伝えると、オリビア様はポカンとした。
「勢い?」
「ええ」
「言葉が……おかしく?」
「別のセリフを言おうとしてたらしいんですけど、アレンジ元のセリフを原文ママで叫んじゃったんですって」
「そんなことあります?!」
「あったのよ〜二年くらい前に」
思わず、と言う感じでオリビア様が突っ込んだ。
いい感じに力が抜けたかな?
チラ、とお義母様を見ると気付いてくれた。
「わたくしの旦那様は、『彼女を忘れることができなかった』と仰ってたわねぇ」
「ーー!」
「ただし、こちらも小説の原文ママ」
「は?」
お義母様の告白にオリビア様は悲痛な顔をしたが、付け加えられた情報に怪訝な顔をした。
「あれ?お義母様、そうだったんですか?」
私も知らなかった情報なので聞いとこう。
「セリフをママなのはルシウスだけど、リカルド様は設定?流れ?そんな感じ。言われた時は気付かなかったけど、わたくしの好きな小説と同じ内容だったわ。さすがにお姑さんが殴ってくれる展開ではなかったけど」
お義母様は呆れた顔を隠さず説明してくれた。
なんと……親子二代で!伝統?なっちゃう?
「……つくづくマヌケな親子よね……」
お義姉様の目が遠い。
うむ、マヌケに含まれるのはアレなので、シオンには「本を参考にするべからず」と教え込もう。
「そんな訳で、私達の他にオリビア様も言われたことがあるとお聞きして気になっちゃったんです!支障のない範囲で構わないので教えていただけますか?」
呆気に取られてるオリビア様に畳み掛ける。
しばらく見つめられた後、気の抜けた笑顔をされた。
「……ミュリエル様は、大変素直な方ですのね」
「よく言われます。」
「そこがミューの可愛いところよ」
「ありがとうございますお義姉様!」
「本当に素直ね」
「ミモザ様、この子の場合は取り繕うつもりがないんですよ。やれば出来るのに」
せっかくローズ様に褒められたのに、マリーで落とされた。
しかし当たってるので訂正できない。
オリビア様はクスクス笑った後、深呼吸をひとつした。
「……わたくしが主人に言われたのは初夜のことでした。『君を愛することはない。私には愛しい恋人がいるのだから』と。その言葉通り主人がわたくしを求めることはなく、現在に至るまで〝白い結婚〟のままです」
……本格的なやつ来た!




