テンプレートな絡まれ方をした(第四王女以来一年振り三回目)
「アイゼンバーグ卿にはお世話になっておりまして……よくお話もさせていただきますの。とてもリラックスしたご様子でいらっしゃるから、周りの者もわたくしが専任になるようにと」
優雅に微笑みつつ、優越感を隠せない視線を投げ掛けられる。
テンプレートな絡まれ方をしました。
第四王女殿下以来、一年振り三回目……かな?
密会事件は絡まれたと言うより遭遇したと言う感じなので、一応ノーカウントで。
しかし、結婚生活二年弱にして三回って多くね?
いや、夫の美貌を思えばこれでも少ない方か。
夜会でルシウス様や王族と離れるたびに絡まれるようだと、二度と手放してもらえないな。
目の前の令嬢のマウントよりも、今後の夜会の振る舞いの方が憂鬱で、扇の陰で嘆息した。
……よし。この憂鬱の原因は半分あなたよご令嬢。
残り半分はルシウス様だが、そこは交渉あるのみ。
とにかく、今の憂さはきっちり晴らさせてもらうわー。
ご令嬢に向けて貴族スマイルを作る。
隣のシャーリーが震えたように見えた。気のせい。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
晴れやかな王族たちの顔。
皆が祝いを口にする中、私は壇上に立つユーリ様へ目線で祝辞を伝える。
……ようやく解禁、おめでとうユーリ様。
よくむずがる口を耐えました!
公爵家は前の方に立つので、この距離なら見える。
ユーリ様の口元はひくつき、マリーは扇で隠した。
ニンマリ、と笑っていると旦那様が擦り寄って来る。
「……何か伝えたの?」
「おめでとうございますと」
「……そう」
なんだか納得してないが、こっちも擦り寄ると満足したようだ。なにより。
王太子殿下ご夫妻、並びに第二王子殿下ご夫妻、共にご懐妊!
公爵家の披露目以来の大きな話題が出て、今日の夜会は盛り上がりが凄い。
これで当分、うちの子の嫁問題は上がらないだろう。
今度は王家とうちが繋がるのか邪推されそうだが……めんどくさ。
「今日はさすがにマリー様のところへは行けそうにないですね。いただいたお祝いのお礼をしたかったのですけど」
隣のシャーリーが少し残念そうに呟く。
「お祝い?」
「少し早いけど、と結婚祝いを。式には参列出来そうにないとのことで」
「いや無理でしょ。妊娠してなくても、無爵位の役人同士の式に王族とか」
「爵位はあるけどうちも遠慮したわー」
「私も」
サラとトレイシーは先月式を挙げた。
シャーリーは来月だ。
立て続けに挙式し出したので訝しんだが、「「「今を逃したらミュー(様)がまた参列出来なくなる」」」と言われた。
すみません……予定はしてないが、いつでもその危険性はあります……。
「サラ様とトレイシー様とお揃いのカトラリーをいただいたんです。それぞれ付いてるお花模様が異なってて、でも裏は紫苑の花が刻まれてます」
「なぜうちの子をぶっ込む??」
「可愛いからね!」
「可愛いけどね?」
「願掛けの一種ね。ミューを見習った幸せ新婚生活、子宝に恵まれる、可愛い子どもがやってくる」
「最後は求めるレベルによると思うけど、うちの天使並みをお求めで?」
「「「無理です」」」
良かった。さすがにシオンレベルは保証できない。
「いくら私と言えど、相手がルシウス様でなければシオンの可愛さは再現できないわ」
そう言うと、自然と全員の目が社交中のルシウス様へと向いた。
アサト、サラの旦那様のサンレイク様、トレイシーの旦那様のケント様と共に男性同士の会話に参加してる。
今日の衣装は私とお揃いで、黒と水色を合わせてる。
いつもいつも紫を着せよって、偶には私の色に染まりなさい!と突き付けたら、めっちゃ赤面してた。なぜだ。
なので私も黒と水色のドレスである。
二人並べば明らかにペアルックと分かるので、大変ご満悦ではあったがその分離れなかった。
アサトがいてくれて助かった。
「文官方の間にうちの夫が交じって平気かと思ったけど、アイゼンバーグ卿がいると馴染むのが不思議」
「そうは見えないけど体育会系で脳筋思考なとこがあるからね」
「意外過ぎますよね……」
「シオンくんも脳筋になってしまうのかしら?」
そう聞かれ、今は屋敷でちやほやされてるであろう息子を思い浮かべる。
「ルシウス様の脳筋思考は騎士団に鍛えられた経験から来てると思うの。それで言うと、シオンを鍛える予定はないから騎士寄りにはならないんじゃないかしら?」
「あらそうなの?運動神経も良さそうだし、鍛えるのはいいことだと思うけど」
「周りがね、シオンが怪我をしそうなことをさせられないって。ルシウス様ですら止めるんだから無理っぽいわ」
「あぁ確かに……シオン様が傷を負ったりしたら」
「「鍛えるのはやめましょう」」
君たちもか。過保護だな。
「今ちょうど歩き始めたのよ。すっごく覚束ない足取りで、本人満面の笑顔なの。誰かが補助しようとしても嫌がるから、皆ハラハラしっぱなしで見守ってるのよね」
最近の光景を思い浮かべて話すと、三人は顔を輝かせた。
「うわぁ……気持ちは分かります」
「でも見たいわ!」
「いいわよ。茶会にでも来てくれたら歩かせるから。それでね、よちよちフラフラ歩くから当然バランス崩して倒れるでしょう?その時顔上げて、周りが心配そうにしてるとニパッと笑って立ち上がる訳」
「わぉ。お利口」
「んで、この間偶々私に向かって歩いてる時に転けて。顔上げた時、目の前には私しかいなかったのよ。メイドたちは彼の背後で心配してて。どうするかなーとそのまま見てたら、途端に涙を流さず泣き声を上げだして」
「……嘘泣き?」
トレイシーの眉が顰められるが、別に珍しいことでもない。
「赤ちゃんならよくやるわよ。『シオン?』って声掛けたらピタッと止まってこっちを見て、それでも駆け寄ってこないと気付いたらまた泣き真似始めて。思わず笑っちゃった」
「「「……ふふっ」」」
「ねー。笑ったまま抱き上げに行ったらすぐニコニコ笑いになったの。それ以来、何回かに一回は嘘泣きを堪能してるわ」
「どうなのそれ」
サラの呆れた声はたぶん私に向けられてる。
「本当に痛い時は間髪入れずに泣くからわかるの。計算高いわよね〜」
「ミューそっくりじゃない」
なんと。心外な。
「私はあんなにあざとくないわよ」
「じゃあ夫婦のハイブリッドね」
「……そうね」
まったく否定できない。
あざとさで言ったら男性貴族ナンバーワンが旦那様だった。
「あ、叔父様達がいらしてる。ちょっとご挨拶に行ってくるわ」
「じゃあ私も。お祝いいただいたもの」
サラとトレイシーが二人で離れたので、シャーリーと来月の式について確認する。
概ね順調、体型の維持が目下の課題と笑ってると、声を掛けられた。
「アイゼンバーグ卿の奥様でいらっしゃいますか?」
薄い紫のドレスを着た令嬢に微笑まれて……内心げんなりした。
その紫、うちの旦那様の目の色を意識してるとかじゃないよね?
どこかの王女じゃないんだから。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
嫌な予感は的中。
彼女、外務配属役人の令嬢・コーデリア・ニーズ嬢は、職歴で言えばシャーリーやアサトと同じ二年目でありながら、総務からやってくるルシウス様の対応を任されていると自慢げに語る。
リラックスした様子って、あの人の究極のリラックスはシオン付膝枕だが?職場でやってんのか?
あり得ないのに想像したらムカムカしてきた。
ちょっと気を許したらすぐこれって、ルシウス様大変〜。
貴族スマイルに呆れ目線が混じったらしく、饒舌に語ってたコーデリア嬢が少し勢いを弱めた。
その隙に、傍らに控えていたシャーリーが口を挟む。
「コーデリア嬢。いくら職場での関わりがあるとは言え、ここは夜会です。公爵家の方に対する相応の振る舞いをするべきでは?」
シャーリー……立派になって!
完全保護者目線を向けてしまい、キリッとしていたシャーリーが戸惑ってしまった。ごめん。
「……いえ、わたくしはただお世話になっているお礼をお伝えしたくて」
お礼ねえ。伝えられたかしら?
私は微笑んでるだけ。
せっかくシャーリーが身分を説いてくれてるのだ、相応の振る舞いで行こうじゃないか。
「お礼を伝えているようには聞こえませんでしたが?そもそも、ミュリエル様はあなたから話し掛けられることを許されてません。許しも得ずに捲し立てるのが外務のやり方ですか?」
「そんなことは……」
口ごもるくらいなら話し掛けてこないでほしいんだけど。
ルシウス様が目を離した隙に絡まれたと知れたら、アイゼンバーグ家総意で夜会禁止にされてしまう。
絶対回避はするけど、その前に「私一人で撃退出来る」ところをアピールせねば!
……彼女、確かマリーがユーリ様に勧めてた浮気相手候補よね?
才女の評判だったのに……残念だな。
これで彼女の出世は見込めなくなった。
「いいのよシャーリー。夫の職場の姿なんてなかなか知り得ないことですもの、お話くらいは聞くわ」
ニコリと笑い促してやる。
実際はなかなか知り得ないどころか、週一で報告受けてるけどね!
アサトの詳細な報告の中に、彼女に関する記載はなかった。
ならばその程度、ということだ。
「それで?コーデリア嬢、でしたかしら。夫と職場でお話を?」
「え、ええそうです。外務へ用向きでいらっしゃる際は、わたくしが対応させていただきます。他の者と話されるより肩の力を抜いていただけるようで、上司からもなるべくお相手せよと指示がありますの」
話を向けると、途端にドヤ顔で語り出す。
横のシャーリーをチラ見すると、不満と疑問が混じった表情になってる。
うん、まあわかるよその気持ち。
ルシウス様が女性相手に肩の力を抜くなんて、と不思議に思ってるのでしょう?
普通に考えれば好意の発露、上司も認めるほど打ち解けてると解釈したいところだが。
うちの旦那様は一味違うぞ!
コーデリア嬢に向けて、貴族スマイル・極みを放つ。
「まぁ。あのルシウス様が肩の力を抜く、だなんて。あなたよっぽど、女性としての魅力が乏しいのね?」




