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テンプレートが立ちはだかる日常  作者: ひつじ


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幕間4 シオンの訪問

【電子書籍化決定】『女の敵は女』だけとは限らない

https://ncode.syosetu.com/n3678mg/

↑こちらから引っ張りました

「ですので、必ずお通りになるあちらの地点から扉までの時間を計測し、規定通りの速さであることを定期的に記録しております」

「なるほど、他でもうちょっと早くてもお目溢ししてもらえそうね」

「なぁ、そんな規定前からあったか?」

「……7年程前に発足しました」

「完全にルシウス様のための規定ね」


四人、プラスαでこそこそしてると「いらっしゃいました」とジェット卿が呼び掛けた。

廊下の向こうでも分かるキラキラした金髪と、それに付き従う黒髪は報告通りアサトなんだろう。

シオンいい子ねー、もうちょっと噛み噛みしててね。

歯固めを噛む息子を確認すると、上目遣いでモグモグしてる。

かわっっ……。

自分で産んだ息子が眩しいってどういうことだ。


もう一人の眩しい人間……人間?天使?を皆で見守る。

けっこう遠くにいたと思ってたのに、瞬く間に計測地点に到着してる。うん、比喩でなく瞬く間だった。

そこから二人で話しながらもサーッと通り抜け……侍女長の言ってた扉まで辿り着いた。


時間は?!


皆で侍女長の手元を覗き込み、記録を見た。

「……早」

「え、歩きでこれ?」

「近衛のタイムに迫りますよ……」

それぞれ感嘆の声が上がる。

うん、私の旦那様、足早!

いつもなら開けてくれる扉をアサトが止めているので、ルシウス様は不思議そうだった。


よし、シオンいいよー。

歯固めをそっと引き抜き、ルシウス様の方へ気を向けてやる。



「ぷあ!」

「ーーーーっ?!え?!」



愛しの息子の呼び掛けに即座に反応し、振り返る夫。

こちらを見た途端、全速力で駆けてきてまとめて抱き締められた。

「シオン!ミュー!」

「ぷーあー」

「……侍女長、今のは?」

「速過ぎて見えませんでしたわ」

「ふふ、ありがとう」

「なんで王宮に?!ユーリウス様とマリアベル様まで!来るなら言って!」

たくさんキスを落としながら叫ぶとは、肺活量も相当だなルシウス様。


「だって、足早なルシウス様を見たかったんですもの」

「ふみゃ」

「足早?」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


以前シャーロットと彼女の侍女仲間であるエステルから聞いた、ルシウス様の王宮での早歩き。

それをアサトからの報告書で思い出したのだ。

物理的に声を掛けられない、計測されてる、規定がある……見たい!

その欲求に耐えられず、アサトと密かに連絡を取り、計測担当の侍女長にもご協力いただき、ついでにシオンにもお父様の働く姿を見せてあげようと思った訳だ。

妊娠中に来たことはあるけど、さすがにそれは見せたことにはならないだろう。


「待ってミュー。ワルローの報告書って何?」


肩に乗せてた頭を少し上げて、ルシウス様が覗き込んできた。

ユーリ様の執務エリア、その中の応接室。

あらかじめ訪問予定を入れていたので、私とシオンがここにいるのは問題ない。

だが、第二王子とその妃が公務サボってうちの子を構いまくってるのは問題なんじゃないかなー。


「ルシウス様の働きっぷりを週一で報告してもらってます。ご存知ない?」

「知らないよ?!」

「アサトから言い出しましたよ?ルシウス様の下について報告書を出しますって」

「アイツ……!」


ここにはいないアサトの方角へ向けて唸ってる。

今回のお膳立てを報いようとこの部屋にも呼んだのだが、「そんな緊張間違いなしの部屋には入りたくありません」と拒否られた。

変なところで小心者よねー。

ならば総務室で話そうかとも考えたが、挨拶をしにシオンを抱えたルシウス様が入った途端、全員固まってしまった。

いやその前に扉前の騎士達も固まってたわ。

メドゥーサ親子?

かろうじて総務室室長はぎこちなく動いたので、ご挨拶とともにシオンを抱っこさせたらやっぱり固まった。

その後シオンを引き取ったルシウス様が笑い掛けるたび、室内はざわめきが起きる。

「アイゼンバーグが笑った……」

「アイゼンバーグが二人いる……?」

「ちっさいアイゼンバーグ……!」

「赤ん坊なのになんであんなにキラキラしてるんだ?」

オマケにシオンの顔が向けられると硬直し、笑い掛けられようものなら真っ赤になるのだから仕事にならない。

営業妨害甚だしいので、ユーリ様のとこまで戻ってきた。

夫も当然のごとくついてくる。

かくして息子は待ち構えていた第二王子殿下夫妻に持ってかれ、微妙に不機嫌な旦那様のご機嫌取りに励んでいるのだ。


「悪いことは書いてませんよ?」

「道理で観察するような視線を向けてくると思った」

「ルシウス様が不快ならやめにします」

「不快って訳じゃないけど、ずるい」

「ずるい?」

「僕もミューとシオンの報告書が欲しい」


何を言い出すんだ旦那様。


「いつも家でお話してるでしょう?」

「それも聞くけど、報告書も欲しい」

「ならば書かせてもいいですけど。ルシウス様、それ読んで『僕も行きたかった』とか『僕もやりたかった』とか『僕も見たかった』とか言わない?」

「……」

「言わない?」

「……言う」

「じゃあ鬱陶しいからダメ」

「鬱陶しい?!」


眉がへにょりとして情けない顔になる。

可愛いけど、ダメなものはダメー。

そんなの読んでたら、一ヶ月保たずに退職しそうだもの。

私の笑顔で覆らないことを悟ったのか、より抱き着いてきた。


「足早なルシウス様も見れたし、シオンにもお父様の働く姿を見せてあげられたので、私は満足ですよ」

「……それは良かった」

「ルシウス様、私達と歩く時は全然急ぎませんものね。歩調を合わせてくれてるし、何よりお散歩を長く楽しんでるのでしょう?」

「……うん」

「そういうとこも分かって良かったわ」

「うん」


すり、と頬擦りしてるので機嫌は治ったらしい。

以前と比べて断然私達のいちゃつきに慣れたジェット卿が、ユーリ様の背後に立ってニコニコしてる。


「……そう言えばなぜ彼が?ヒムロ様の護衛だろう?」


ようやく違和感に気付いたルシウス様が顔を上げる。

「ユーリ様がまたやらかしたの」

「うん?」

「シオンが王宮に来ること、ヒムロに話しちゃったんですって」

「あぁ……」

二人してユーリ様を見ると、話が聞こえてたらしくそっぽを向いていた。

羽口王子の本領発揮か。

「それでジェット卿を?」

「ヒムロが『自分が護衛をする!』って言い出したらしいの。学園もあるのだし駄目でしょ、って話したら、なら近衛をシオンにも付けろ!て主張した結果があそこに立つジェット卿」

「……シオンの護衛?」

今度はジェット卿を見ると、騎士の礼をした。

「……うちの子は賓客なのかな?」

「客分のうちはまだいいですよ。準王族とか言い出されたらたまりません」

「確かに」

なんてことを話していると、慌ただしくノックが響いた。



「シオンが来ていると聞いたぞ!どうして知らせないんだ!」



ヴィンセント様、来襲。

どうしてと言われても。

王太子殿下はソファで自分の弟と戯れるうちの天使を見付け、大変緩んだ顔をされた。

「シオン〜、今日も可愛いな!ルシウスから聞いたぞー、ハイハイが早いそうじゃないか?さあ、殿下に見せておくれ」

跪きそうな勢いでソファに詰め寄る。

背後のリニ様も、今回は止める気がないらしい。

王族を跪かせる赤ん坊、シオン(生後七ヶ月)。


「ヴィンセント様、このお部屋ではハイハイはさせられませんよ。下に敷物を敷いたとしても、もっと物の少ない場所でないとぶつかります」


下に置かれたらそのまま突き進む息子なので、その前に殿下を止めねば。

ヴィンセント様は「そうなのか?!」と驚いてこちらを向く。

「……ルシウス、王族の前でいちゃつくとはいい度胸だな」

「振る舞いを気にされるような王族がいらっしゃいましたっけ?」

ヴィンセント様には強気だなルシウス様。

変に険悪になるのも困るので、空気を和ませよう。


「そのうちよちよち歩き出しますので、赤ん坊が動き回れるようなお部屋を用意しておいてくださいな」

「よちよち……!」

「よちよちか……!わかった!」

なんか二人してキラキラし出したぞ。

あ、ユーリ様も輝き出した。眩しいなこの部屋。

「ではヴィンセント様。ハイハイの代わりにこちらをどうぞ。シオンくん〜」

「たい!」

「「可愛い!」」


お座りシオンのお返事はいつでも好評だ。


「きちんと返事が出来て偉いな〜さすがは私のシオンだ」

「ヴィンセント様、うちのシオンですが。不穏な所有格付けないでください」


一瞬にしてまた険悪になる。もうこの二人はいいか。

「ホノカには知らせたか?後で一人だけ会えなかったと知ったら大変なことになるんだが……」

「ホノカ様と王妃陛下とはこの後お会いする予定ですので」

「なんで私には知らせないんだ!」

再度怒られた。

「理由がないから?」

「くっ……」

「私でさえ秘密にされたのに、ヴィンセント様が知らされるとかあり得ないですよ」

「秘密?言わなかったのか?」

「ルシウス様の歩く姿を見たかったので」

正直に言うと、ヴィンセント様は破顔した。


「あれか!早かっただろう?あれのせいで身体能力を見込んだ騎士団が長くルシウスのことを諦めなくてな」

「あのしつこい勧誘はそんな理由だったんですか?!」

「だってお前、タイム測らせたら当時の隊長クラスだったんだぞ?そりゃ有望だろう」


当然、という顔をするヴィンセント様と不満そうなルシウス様の顔を見比べていると、またノックがした。



「シオンが来ていると聞いたぞ!」



うわぁ、陛下まで。

驚愕している部屋内は無視して、うちの天使のところへ足早にやってくる国王陛下。

「シオン〜、久しぶりだな!もっと王宮に来なさい。どれ大きくなったかな?じいじに抱っこさせておくれ〜」

「陛下!なぜうちのシオンのじいじを名乗るのです?!」

きゃいきゃい喜ぶシオンを抱き上げる陛下に抗議するルシウス様。

怖いもの知らずだな、と思ったが正直今のデレデレな陛下は怖くない。

「堅いことを言うなルシウス卿。叔父上もそう呼んでると聞いたぞ?」

「そうなの?!」

「叔父上……ヘルメス様ですか?ええ、カトリーヌ様に呼び掛けるのとお揃いになりました。使い分けが面倒だと」

「ミュー……なぜ閣下を名前呼び?!」

「だって『レスター前公爵閣下』って長くないですか?そう言ったらお義姉様が『名前でいいわよ。言っておくから』と」

「姉上……!」


ルシウス様の眉間に皺が寄ってしまったので、なでなでしといた。

その間にも王族達による『シオンを愛でる会』が盛り上がりを見せている。

「おぉ、やはり生まれたての頃とは違うな!骨がしっかりしてる」

「でもほっぺの愛らしさは変わらないですよね」

「このちっちゃい手と足でハイハイするんだろう?見たかった……」

「アイゼンバーグ邸で見ましたが、ものすごく早かったですよ。今後のためにもここはひとつ、専用の部屋を作るべきではないかと」

「そうだな、ついでにシオンの滞在用の部屋を「要りません!」」

きちんと抗議をする男、ルシウス様。

他の者たちーーヴィンセント様の補佐のリニ様、ユーリ様の補佐のジェイデン様、さらに本日臨時シオン護衛のジェット卿はそれぞれ思いがけない大物の登場に固まってる。

ご愁傷様です、と内心哀れんどこう。

さて。



「ルシウス様、お仕事へ戻らなくて良いの?」

「……ミューとシオンと戻る」

「ダメです。マリー、ユーリ様、公務は?」

「そこの執務室でやるから、シオンと一緒に戻ろう」

「ならわたくしもユーリ様の執務室でしますわ」

「ダメです。ヴィンセント様、お仕事は?」

「シオンと……」

「ダメです。陛下は?」

「今来たばかりだぞ?なら私がシオンと謁見を「ダメです〜」」


どいつもこいつも、うちの天使を連れて行こうとしよって。

全員ぶったぎったら情けない顔をされた。

固まってた人たちは今度は青褪めてるけど、どうしたのかなー?


「シオンはこの後、王妃様とホノカ様がお待ちのサロンでお昼寝予定なんです。お二人に予定の変更を告げられる方がいるならいいですけど?ほら、さっさと告げてきてください」


しっし、と手振りで示したら全員沈黙した。

「……サロンまで送るのはいい?」

「まぁいいでしょう。ついでに寝かし付けもしてください。終わったら戻るんですよ?」

「わかった!」

パアッ、と笑顔が輝く夫。よし、ご機嫌で仕事に戻れそうだ。

「……わたくしはサロンでご一緒するわ。公務は調整するから」

「ふぅん?周囲に迷惑を掛けないならいいんじゃない?」

「では私はマリーを送ろう!」

「私はホノカのご機嫌伺いを」

「なら私はティオラのご機嫌伺いだな」

なんだかんだ言って全員ついてくるらしい。

大移動だな?


「シオンのパワーってすごいですねルシウス様」


そう夫に呟くと、ギュッと力を込めて抱き着いてきたルシウス様が耳元で囁く。



「……一番凄いのはミューだと思うよ」

そうかな?









この後国王と王太子と第二王子と第二王子妃殿下は、部下たちにサボりを叱られました。

ルシウスは一応セーフ扱いです。

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― 新着の感想 ―
駄目だ。面白すぎて顔が緩むのを堪えるのが大変すぎる… 7ヶ月かあ〜離乳食も始まってもうすぐ立っち…楽しみです! シオン様がルゥを見て「ぷあ!」と声をあげるのは、もしかして「パパ!」のつもりなのかしら…
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