テンプレートな男装騎士(卵)を捕まえた
捕らえた生徒を、ひとまず控室に軟禁。
学園の騎士と、女性疑惑があるので実は付いてきてたサリーを一緒に付ける。
それはそれとして、ヒムロの入学式は何事もなく執り行われた。
公的な場では普通の王族に見える。……普通の王族?
言葉がおかしいな。
とにかく、式は滞りなく終了し、満足したヒムロには別の近衛を付けて園舎に送り出す。
話を拡げたくないので、そのまま二人のスィルギルスにも付いてきてもらって、軟禁部屋へと向かう今だ。
「性別詐称……身分詐称にもなるのかな?」
「どうでしょう。身分の方は騙る前に捕らえましたから」
「……分かっていたなら教えてくださいよ、ミュリエル様……」
後ろからセネカ卿の恨みがましい声が。
顔だけ振り向いて答えてやる。
「だって、疑ってはいたけど確証はなかったんですもの」
「ちなみにどれぐらいの割合まで自信はおありで?」
「九割」
「もう確信してるじゃないですか!」
うっかり大声を出す相方を諌めつつ、ジェット卿が聞いてきた。
「それほどまでに女性であると確信を?」
「逆になんで皆気付かないか不思議だったけどね。歩き方からして男性じゃなかったもの。制服も着慣れてない感じで」
「新入生なら制服は慣れないんじゃない?」
「制服と言っても、トラウザーズの捌き方に慣れてないのはおかしいでしょう?」
「あぁ、そうか」
「それで最初は目に付いたんですけど。後は腰回りとかがどう見ても華奢で。騎士を目指す男性にしては細過ぎるから、性別詐称か年齢詐称のどちらかかな、って」
「それで『バレると困るのは誰』って言わせたんだね」
「言う前に逃げ出そうとしたから腕を掴んだんですが、柔らかさが明らかに男じゃないので動揺しました……」
セネカ卿が項垂れる。
それでもそのまま捕縛出来たのは彼だからこそだ。
ルシウス様じゃ無理だし、話に聞いてたジェット卿の性格だと柔軟な対応は難しいだろう。
「しかし、何を考えて男装で騎士科なんて」
「それはこれから聞き出しますけど。物語としては割とあるんですよね、男装騎士」
「…………無理じゃない?」
「物語ですから」
「騎士科に男装した女子が入り込む話ですか?普通に女性騎士ではいけないんですか??」
男性陣が困惑してるが、そこは物語だし。
「いつバレるかわからない!て言うスリルが良いのよ」
「ええぇぇ……」
「あとは一人にだけバレて恋仲になる感じ?」
「男装してるのに?」
「大体男装してても可愛いんですよ」
「いやそれ、危なくないですか?!」
「危ないでしょうねぇ」
「それより男同士のあの馬鹿話にうっかり女子が紛れ込んでるとか」
「うわそれ最悪!あとあの更衣室とかロッカールームとかに女子がいるってことだろ?!」
「想像だけで死ねる……」
騎士科出身の二人は我が身に置き換えて震え上がってる。
まぁねえ。逆を思い浮かべたら、後から男だと分かった野郎を抹殺するしかないわー。
そんなことを考えてると、ルシウス様がこちらを見た。
「なんです?」
「……僕は関わりたくないんですけど」
「いいですよ。でも別行動は嫌なんでしょ?」
「嫌……」
「じゃあお隣で大人しくしててください。もしかしたらヒーロー顔を発揮するかもしれませんけど」
「それも嫌……」
むぅ、と口を尖らせて擦り寄ってきた。
物語なら確実にルシウス様と恋仲ねー。
「考えてみても、やっぱりなぜ男装するか分からない」
「それは各自事情がありますから。私はそれより、なぜ少人数にしかバレないかが読んでていつも不思議です。大体可愛い子がやるし、体型だって別に男性寄りじゃないんですよ?胸とか大きくてもサラシで潰したりして」
「……ミューのは普通の大きさだよね?」
「ルシウス様今私の話してました?と言うか普通ってなんです誰と比べて普通とか言うんですかもしかして浮気したんですかそれで他の人と比べて普通とか吐かすんですか」
「違います!ごめんなさい!本当にごめんなさい!!他の人なんて知らない!」
私の真顔の剣幕にルシウス様は泣いてしがみついた。
後ろのスィルギルス達が無言で驚いているが、まあこれは仕様なので諦めてくれ。
「デリカシーのない人は嫌いです」
「嫌だ!ごめんなさい!」
二度と言わせないために強めに言っておこう。
と言うか、デリカシーのない男No.1は確実にヴィンスだし。
なので悲しいことにノンデリには慣れてるが、この手の話を女性に振ったら、拳が飛んでくるのは間違いないんだぞ旦那様。
人によっては血の雨も降る。マリーとかシャーリーとかマリーとか。
「ミュー、気を付けるから嫌わないで……」
これから聴取だってのに泣いてどうするんだ次期公爵よ。示しが付かないよ。
「私だけじゃなくて他の人にも言ったら駄目なんですからね」
「他の人とは話さないよ……」
「なら私限定でデリカシーがないと「ある!あるから!気を付けるから〜〜!」」
より泣かせちゃった、てへ。
動きの止まってたスィルギルスもようやく起動し出した。
「これが噂に聞く『アイゼンバーグ卿の夫人限定デレ』か。威力が凄いな」
「『王都一の恐妻』は伊達じゃないな」
「ちょっと何それ」
聞き捨てならない噂が回ってるぞ?
◇◇◇◇◇◇◇◇
泣き顔のルシウス様を連れて行くのも混乱の元だし、一度泣かせてるからテコでも離れない。
なので途中の空いてる部屋に少しばかりお邪魔して、スィルギルスの二人には扉を見詰めて警護をしてもらいつつ、ソファの上でルシウス様のご機嫌直しだ。
短期間で戻さなきゃだから、お膝に乗って話をする。
「もう話題にしちゃ駄目ですよ」
「しない」
「他の人と比べるのもなしです」
「わかった」
神妙な顔で頷くので、許してやることにしよう。
軽くキスするとようやく涙が引っ込んで笑った。
ハンカチで涙を拭き、目尻にキスして完了だ。
「……お返しは?」
「帰ったらね」
「わかった」
膝から降りて「もういいわよー」と二人に声を掛けると、少し耳が赤くなってた。
「「仲がよろしくてなによりです」」
「ありがとう」
ルシウス様もようやく二人を気にする余裕が出来て、赤くなった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
後に二人のスィルギルスは、騎士仲間に語ったと言う。
「『お返しは?』と囁くアイゼンバーグ卿の声が甘過ぎて鼻血を吹くかと思った、あれを顔を見ながら平然と返せるミュリエル様はマジパねぇ」
◆◆◆◆◆◆◆◆
控室を開けると、扉脇に立っていた騎士が大変ホッとした顔をした。
一礼してそそくさと去っていく。
……中の空気に耐えられなくなったんだな。
俯いたままソファに座る生徒、その斜め前から見下ろすサリー。
空気悪っ。
「サリー、ご苦労様」
声を掛けてやるとサリーは頭を下げ、私の背後に移る。
生徒の前のソファにルシウス様と並んで座ると、顔を上げてこちらを見てーーポッと頬を染めた。
早いな!さすがヒーロー顔。
対照的にルシウス様は顔を顰めた。
せっかくご機嫌直したのに。
少し擦り寄って耳元で囁いてあげよう。
「ルシウス様。頬になら、今お返ししてくれてもいいですよ」
少し驚いた顔になり、「……帰ってもしていい?」と囁き返してくるので頷いておいた。
チュ、チュと頬へキスを繰り返すルシウス様を見て、あちらはショックを受けた顔をしてる。
牽制成功。
まったく、人の夫でヒロインしようとすんな。
「ミュリエル様。若旦那様。話を進めてください。シオン様がお待ちです」
なかなかやめようとしないルシウス様に、サリーがストップをかける。
シオンは待ってないと思うけどねー。
名残惜しそうなルシウス様が体勢を戻したので、ようやく生徒に向き合う。
「わたくしはミュリエル・フォン・アイゼンバーグ。公爵家の者よ。隣はわたくしの夫。あなたはどなた?偽名も身分詐称もなしよ、罪が重くなるわ」
釘を刺しながら促すと、震える声がする。
……完全に女子の声じゃん。
「レノア・ツウィフトと申します」
「ツウィフト。爵位は?」
「……男爵家です」
「ツウィフト男爵令嬢、でよろしいのね?」
「……はい」
性別詐称、確定。
「どうして男子生徒の制服を着てらっしゃるの?」
「それは……」
「着慣れない服まで着て、学園に入り込みたかったの?」
「……」
黙られるとなぁ。時間は掛けたくないんだけど。
なにせ隣の夫が絶賛不機嫌中だ。
お返しを終えた時はそうでもなかったのに、チラチラ顔を見られるのが腹立たしいらしい。
腰に回った手を撫でてあげると、少しだけ眉間のシワが浅くなったような。
サリーに目をやると、ササッと冊子を渡される。
入学式の式次第、並びに新入生のクラス分け名簿だ。
パラパラと捲り、お目当ての名前を見付ける。
「レナルド・ツウィフト」
「ーー!」
「新入生でツウィフトを名乗るのは彼だけね。もちろん男子生徒として載ってるわ」
「……」
「双子?」
「……年子です」
「あら。年齢詐称も追加?」
「……」
「お兄さん?それとも弟さん?彼はどうしたの?」
「……」
駄目だこりゃ。話をする気がないわー。
ルシウス様も飽きてきちゃうし、もういいか?
「話さないならそれでも良いわ。正式に騎士団に通報して、王族のいらっしゃる場へ不法侵入した罪で捕らえてもらうから」
「!そんな!」
「だってそうじゃない?今日の入学式には第三王子殿下もいらしたのよ。怪しい人物なんて近付けさせたくないし、大事にして入学式を台無しにもしたくなかったからここに入れただけで。あなたの事情とかどうでも良いの」
絶望的な顔をされた。
いや、なんで助けてもらえると思ったのかな?
普通に不審者なんだけど。
私の貴族スマイルを見て撤回されないと思ったのか、彼女は目を動かしてーー
ルシウス様をロックオンした。
予想通り!
「助けてください!」
「……は?」
声が低いよ、旦那様。
昔男装ものの某コミカライズで主人公がサラシを巻いてて、「その大きさは潰せないよ……」と思ったら夢を見られなくなりました。
魔法のある世界ならたぶんイケます。




