続・禁断の質問:あなたの夫または婚約者が浮気をしたらどうしますか?
またの名を「すり潰す話」
《アイゼンバーグ家侍女:サリーと想像上の恋人の場合》
「すり潰します。」
「……ん?」
「すり潰します」
「……サリー、あの」
「こう言った場合には切り落とすのが定石とは重々承知してますが、切り落とすと周囲が汚れるのと何より形が残るので。すり潰します」
「そんな定石は聞いたことないわ?!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「サリー怖い!怖いぃぃぃっっ!」
「ルゥ落ち着いて、ルゥのことをターゲットにして言ってる訳じゃないんだから」
もはや押し倒す勢いでしがみついてくる旦那様をどうにか慰める。
その間に埒もないことを考えてた。
ーーこの場合の相手って、ヴィンスよねきっと。
切り落とされたりすり潰されたりしたらつかの間の平和は訪れそうだけど、性別が曖昧になったら余計に求婚者が増えるのでは?
うん、サリーには他の方法を考えてもらおう。
「…………ごめん、取り乱した」
そうこうしてるうちに、落ち着きを取り戻したルシウス様がちょっと体を起こす。
よしよし、とまた頭を撫でる。
「サリーが過激なことはわかりますから。この話をしてた時、隣を通り過ぎてうっかり聞いちゃったノアが、青褪めた後にフラフラして曲がり角の目測を誤るくらい」
「あぁ……なんか、額に跡が付いてた日あったね。あの日か……」
どうやら思い当たることがあるらしい。
すごい音したのよあの時。
「サリーの対処の相手は今のところ想像上にしかいないですけど。私の夫が浮気したらたぶん勝手に同じことをすると思うので、気を付けてくださいね?」
一応忠告してあげる。
するとルシウス様は、頭を撫でていた私の手を取って求婚者のように指先にキスした。
「浮気なんてしないよ、絶対」
「ふふ、そうですね」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
《アイゼンバーグ家メイド:ナンシーと過去の恋人の場合》
「浮気ですか。昔地元にいた頃、付き合ってた男が浮気したんですけど。その相手が私と一番仲の悪い女で、『ごめんなさぁい、あなたの彼と分かってたのに好きになっちゃったのぉ』って、カフェで別れ話している間も隣に侍ってマウント取るんですよ。腹が立ったので二人ともに水を掛けて、ご近所と職場周辺に噂を流してやりました。『人の男にしか興味ない猫かぶり肉食獣』と、『浮気したくせに自分の気持ちは純愛なんだ!といい年して言い張る空気の読めない男』って。低評価が広まって二人ともボロボロになってましたけどね」
「ナンシーは経験ずみなのね」
「ええ、まあ。でも今思うと、若かったんで私も甘かったのかもしれません。評判下がったからって復縁を迫られたりとか、公の場で『親友でしょ?!』とか言われたりするのは、舐められてるってことですよね?」
「え、うーんと「そうですよ」」
「ですよね?なのでやっぱり、私もサリーと同じようにすり潰しておけば良かったと後悔してます」
「ダメよ?!」
◆◆◆◆◆◆◆◆
「ナンシーまで……!」
「止めました。止めましたからルシウス様。怖がらなくていいですよー」
◆◆◆◆◆◆◆◆
《アイゼンバーグ家乳母:ジュリアと過去の恋人達の場合》
「浮気ですか……。若奥様、男と言うのは自分に甘い者が多くて。『浮気は男の甲斐性』なんて戯言を宣う輩が、割といるんですよ」
「ジュリアは複数人会ったことがある、と」
「ええ。そして一度浮気をした者は、かなりの確率で繰り返しますの。発覚して謝っては再発し、なかなか懲りないのですわ」
「なるほどー」
「なので、本気で反省させたければ心の底から恐れおののくようなお仕置きをしないと」
「お仕置き……」
「ええ。外には絶対行けないような髪型にしてやったり、持ってる服を全部ピンク色に染めたり、一週間は落ちない染料で顔に卑猥な言葉をデカデカと書いてやったり。この辺りは割と効きましたね」
「おぉ……」
「でも手間が掛かるので。次に機会がありましたら、サリーの方法が手っ取り早そうで「手っ取り早くても!ダメです!」」
◆◆◆◆◆◆◆◆
「ジュリアまで……!」
「サリーの聞き取りを皆の前でするべきではなかったと、それだけは大変後悔してます」
「ジュリアの旦那さんは、無事……?」
「『今の夫はまだ浮気をしたことはありませんが』って前置きがありましたね」
「まだって言ってる……」
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《アイゼンバーグ家メイド長:メリッサと夫の場合》
「過去に一度だけ、ございます」
「メリッサがいると言うのに浮気するとは、どれだけの猛者なの」
「酒場で意気投合した女性でしたね。その時は色々案を出しましたが、どれが良いか奥様と大奥様にご相談申し上げまして」
「うん、その時点で戦力過多」
「結果、始末書を3枚以内に収めて提出するよう命じました」
「始末書……」
「地位のある者として示しが付きませんので」
「まあ、そういう面もあるわね」
「書き上げた翌日の朝礼で、奥様に提出するように致しまして」
「ん?奥様……お義母様に?朝礼で?」
「はい。使用人の朝礼の最後に、大勢の部下の前で」
「……」
「その日の夕方に大奥様と奥様と添削し、翌日の朝礼時に評価も含めて講評後、再提出を命じました」
「……おぉう」
「最終的に7回再提出があり、完成した始末書を奥様より下賜されましたので、わたくし達の部屋に額縁付で飾っております」
「……それ、旦那さん見るの?見れるの?」
「長年の癖で、そちらの壁は視界に入れないように動きます」
「ですよねー」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「メリッサの夫……」
「アイゼンバーグ騎士団王都部隊隊長ですね。当時は副隊長だったそうですが。この不始末を経て隊長に昇格するんだから、実力はあるってことですよね!」
「……そうだね……」
「参考までに、皆で始末書を見に行きました。多少色褪せてましたけど、立派な始末書でしたよ。始末書を書くお手本になるんじゃない?って話してたら、『その提案も出ましたが、そんなことになったらここでは生きていけない!と夫が土下座して懇願するのでやめました』って」
「それは生きていけないなー」
「でも、王都部隊に新人が入る時は必ずこの話をするらしいですよ。特に古参の騎士が、当時の震える朝礼を忘れられないらしく」
「それは忘れられないな!」
ギウ、と力を込めて抱き締められた。
サリーの話から怖さが継続したのか、もはや隣に座っていたことはすっかり忘れて膝の上だ。
「……うちの女性陣は強過ぎる……」
「そういう人を採用してるんですかね?」
「ゔ。いや、選んでる訳じゃないだろうけど……やっぱり職場の雰囲気に合うかとか、周りの人達との仲を悪くしない人柄を求めたら、自然とこうなるのかも……」
「なるほど。確かに私も侍女達とは話が合います」
「ミューも強いものね……」
「そんな私でも慄く時が偶にあるので、やっぱり強いですよアイゼンバーグの女性たち」
「知ってる……」
筆頭が身内だものね!
「それでですねルシウス様。ここまでは私が皆に願って話を聞いたんですけど。ただ一人、『語りたい!』と自ら志願した物好きがいまして」
「え、本当に物好き……。誰?」
「メイドのランです」
「ラン……ああ、別の領から推薦状で来たメイドだよね」
「詳しいですね」
「他の人だってわかるよ?素性を把握してないと、何か起こった時に対処出来ないから」
平然と言われた。さすが次期公爵にして、王宮役人。
「じゃあ、ランがどうしてここに来たかもご存知ですか?」
「いや、それは書いてなかったな。でも子爵家の長女で男兄弟なし、ってあったから、跡を継がないのは珍しいなとは思った」
背景は書いてないらしい。
それもそうか。
「浮気で婚約破棄したんですって」
「……は?」
「婚約者に浮気されて、婚約破棄したんです。しかも相手は実の妹」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
《アイゼンバーグ家メイド:ランと元婚約者の場合》
「浮気に関して語るなら私を外せませんよ若奥様!なにせ、私は過去婚約者に浮気されて婚約破棄した女です!」
「お、おおぅ」
「しかも浮気相手は妹です!」
「ひえ」
「ねー。ひえ、とも言いたくなりますよね?私も知った時には『うえ』と言いました」
「ちょっと違くない?」
「だって妹ですよ?同じ家の中で浮気とか、バレないとでも思ってんのか低能が、と」
「確かに」
「しかも当時の私ですら成人してなかったのに、その妹ですから」
「あわぁ……いくつ?」
「当時15歳です」
「婚約者は?」
「元婚約者は、22歳でした」
「犯罪!!」
「ですよねー。正当な婚約でこの年の差ならまだ許容範囲ですが、婚約者の妹に手を出すってどれだけキモい男なのかと」
「うわ、信じられない。結婚もしたくないし義兄弟にもなりたくない」
「私もそう思って、早々に婚約破棄に乗り出しました。家の中で密会してるもんだから、うちの両親と相手の両親呼び込んで現場を押さえましたよ」
「おぉ〜」パチパチパチ。
「どうも。それで妹は泣くし元婚約者は『真実の愛』とか叫び出すしカオスで。いったん場所を変えた後に両親からの尋問です。それで、『姉から妹に婚約者を代えるだけだから問題ない』とか言い始めまして。向こうの親もそれに便乗しそうだったので、とりあえず全員に水ぶっ掛けて頭を冷やさせました」
「おおぅ……」
「未婚の未成年女子に親に無断で手を出した犯罪者が何か言ってます?って。問題ない訳あるか、お前が問題そのものだ馬鹿野郎と伝えたら逆ギレされそうになったんですけど。そこは家の騎士に抑えつけさせました。婚約者の妹に手を出すような倫理観ゆるゆるの婿なんぞ、家に入れる訳ありませんよね?って向こうの親に笑顔で伝えて。犯罪者として騎士団に突き出されたくないなら、さっさとそちらの有責で破棄しろと迫りました」
「わぁー」
「お見事です」
「ありがとう!サリーに褒められるとやった!て思いますね!」
「基準にしないでよね……妹さんは?元婚約者と結婚するつもりだったの?」
「まあそうですね。年上のお兄さんに優しくされてポーッとなっちゃったみたいで。こちらも真実の愛とかほざくので、年の差考えろあんた8歳の男の子に真実の愛とか言えんの?て聞いたら一瞬黙っちゃって。でも私は15歳だし……とかまだなんか言ってましたけど、成人してなくて結婚出来ない歳なんだから8歳と大差ないわ、婚約者の妹に陰で手を出す男なんざただのクズだからねって教えたら考え込んでました」
「恋は盲目って言うけど、無理やり目を開かせた感じね」
「それで醒めたんだから問題はないかと。結局婚約破棄して私は進路が浮いたんでメイドになることにして。妹も公にはなってませんが傷物なので、貴族との縁は諦めて、領内の商家に嫁ぎました」
「あら。そうすると実家はどなたが継ぐの?」
「私の従兄弟です。元々私と婚約者が跡継ぎの基準を満たさなかったらそちらに引き継ぐ予定だったので、問題なく譲りました」
「物語みたいな話ねぇ〜」
「ご清聴ありがとうございました!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「浮気されて婚約破棄って、ミューと同じだね」
「同じですかね?ランの方が内容が濃いですよ」
「それはだって、妹と婚約者が浮気だなんて……」
「ねー。私もルシウス様も同性の兄弟がいないからなかなか想像しづらいですけど。でもやっぱり身内に浮気されてたらそれは気付きますよね?」
「うん……行動範囲だって重なるだろうし、恋人同士って目線とか仕草とかになんとなく出るよね?」
「ルシウス様から恋愛の話を聞くとは……!」
「ミューは僕をなんだと思ってるの」
「恋愛お子ちゃま」
「ぐっ……息子もいる歳なのに、お子ちゃまって……」
「あ、ルゥがヴィンスとうわ「しないよ?!ありとあらゆる意味合いで、その浮気はないから!」」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
しばしお酒とおつまみで休憩し、雑談を続ける。
アイゼンバーグ家の使用人たちは推薦状も厳選されてて、固定の家を経由しないと面接も受けられないらしい。
それでよく人が集まるな?と思ったけど、元を辿れば大体アイゼンバーグ領内から興した家なんだとか。
なるほど。
そこからアイゼンバーグでの思い出話になって、また行きたいねなんて話をしてると夜が更けていく。
あまり遅くなっても良くないし、そろそろ再開しようか?
「さあ、残るはお義母様とお義姉様ですよ。どちらから聞きます?」
「……聞かない選択肢はある?」
「そうすると私の話になりますが、心の準備は?」
「……まだもうちょっと。んー、じゃあ母上」
「わかりました。でもお義母様は、大変シンプルですよ」
ルシウス様にもたれ掛かり、私は今度はアイゼンバーグ家の女性たちの話を始めた。




