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テンプレートが立ちはだかる日常  作者: ひつじ


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アイゼンバーグ訪問 〜彼はどのようにして起こされるべきか〜

スピスピ眠る幸せそうなシオンの寝顔。

シオンを抱き締めつつ愛でる、ルシウス様の穏やかな笑顔。

同じ顔を見下ろしながら、ようやく平和が訪れたわねーと大きい方の頭を撫でといた。



街歩きが終わった翌日から、怒涛の「出張!シオン詣でアイゼンバーグ編」が始まった。

親戚一同、アイゼンバーグ領にいる配下の貴族、政務の幹部役人……。

嫁である私も初顔見せなので、それはそれは大変な目に遭った。

どうして誰もが年頃の娘を連れてくるのか、どうしてこんなにも冷たいルシウス様の視線にめげる事なく引き合わせようとするのか……。

そのたびにフォローし、夫のストレスが溜まると休憩と称して慰め、また挨拶のために会場に戻る。

不毛な繰り返しだったが、主役が赤ん坊なのでこれでもまだ控えめな方なんだとか。

公爵家に嫁ぐ覚悟はしていたけれど、実際直面すると貴族スマイルを維持するのが難しいくらいだった。


「シオン、あなたのおかげで手加減してもらえてるんだってー!やっぱり天使ー!!」と感極まって抱き締めたのも一度や二度ではない。

夫?もちろん一緒になって抱き着いていたさ。

公爵家嫡男として社交は慣れてるけど、嫁と息子を守りつつ会話を続けるのはさすがに疲れたらしい。

「ふふきゃー!みや!ちゅお!」とか面白がって叫んでる息子よ、いつかはこれやるんだぞ……。



シオン詣で全日程を終え、城内も落ち着きを取り戻して数日は、さすがに外出する気力も誰かと会う気力もない。

なのでこうして、今日も親子三人でダラダラ寛いでる。

私→ソファに座る

ルシウス様→私の腿に頭を乗せて寝っ転がる

シオン→ルシウス様のお腹の上で仰向けで寝てる

これがルシウス様ご希望の、ダラダラ過ごすスタイルだった。

……横倒しのトーテムポールを見下ろしてるぞ。

まぁ頑張ってくれた旦那様へのご褒美だ、と金髪を撫でてると、ノックがしてノアがやってきた。


「ルシウス様……貴族がソファに寝っ転がるとか、聞いたことありませんよ?」


大変ごもっともなことを言われるが、ルシウス様は気にしない。

「他の人がいないんだから、妻に甘えたっていいだろう?」

「他の者がいても若奥様には甘えてますよね?」

「体勢の話だよ。何か用?」

全く手応えのないルシウス様に、ノアはハァとため息をついた。


「……お館様が、お三方とお茶を共にされたいと」

「お祖母様が?……まぁいっか。ミュー、いいよね?」

「もちろん。朝は鍛錬や朝食をご一緒にされてますけど、日中お会いするのは久しぶりですね」


私達は休暇で来ているが、ソフィア様は普通に仕事がある。

差し入れやご機嫌伺いはしたが、時間を取ってお茶をするのは初日以来か?


「それじゃあ……シオン、起こす?」


その言葉に、ノアを筆頭とした室内の使用人たちが固まった。

そう、他の人はいないと言いつつ最低限の使用人たちは傍で控えてたのだ。

サリー、ナンシー、シオンの乳母とメイド。

皆が皆この光景を微笑みながら見守っていた。

特にシオンの天使的寝顔は、癒やし……!と身悶えるほどらしい。

「ソフィア様がお待ちなら、起こすしかないですよ」

「そうだよね……嫌だなぁ、こんなに幸せそうなのに。寝かせといたまま連れて行こうか」

「出来ます?」

「……ノア、シオン取って」


体を動かせないルシウス様がノアに命じると、ノアは手を前に出して拒否した。


「ルシウス様。お休みになられているシオン様に触ることなど、天が許しません」

「天?いや、父である僕が許してるんだからやってよ」

「万が一起こして泣かれたらどうするんですか!」

「ええ……」


起きる時は滅多に泣かないとは言え、熟睡中に起こされたらそりゃ泣くだろう。

ノアの言葉に、周りが全員頷いた。

「じゃあ、サリ「お断りします。」断られた!」

呼び掛けを遮ってまで断られてる。不敬(笑)。

頭を動かせる範囲でルシウス様が使用人を見ると、一斉に目を逸らされた。その統一された動き、練習でもしてんの?

「え、ジュリア?乳母でしょ、起こさずに抱き上げられるよね??」

「あら、なんだか急に耳が聞こえづらくなったわ。年は取りたくないものねぇ」

「すっとぼけられた!」

乳母にまで拒否されてショックを受けてるルシウス様。

よしよし、と頭を撫でるとこちらを向いたから、言っておいた。


「私、ルシウス様が乗っかってるので動けませんが?」

「……だよね」


もちろんルシウス様も依然として動けない。

む〜、と悩んだ末、ノアに「……シオンが起きるまで時間が掛かるから、後にしてもらうよう伝えるかシオンを抱き起こせる強者を連れてくるか、どちらかはやってよ」と妥協する。

「承知しました」とノアも頭を下げ、部屋を出て行った。


「……まさか、全員に断られるとは……」

「ルシウス様ならやります?私はやりますけど」

「どうかな……」


目線を下げ天使の寝顔を見詰めてる。

「……難しいかも」

「泣いたって死にはしませんよ」

「僕の心が死ぬ」

「弱っ」

「ミューが強過ぎるんだよ……」

「母親ですもの」

「ふふ、そうだね。これ、あとどれくらい寝てるかな?」

「30分くらいでしょうか」

「……ミューの足、痺れない?大丈夫??」


大変今更な心配をされた。


「これくらいなら大丈夫ですよ。危なくなったら強制終了ですが」

「わかった。……ごめんね」

「私、ルシウス様と結婚して膝枕が特技になったかも」

「特技?んん、まあいつもお願いしてるものね……」

「ルシウス様の頭の重さに慣れたとも言う」

「うん、僕の重さにだけ慣れて。あとはシオン」

「たまにやりますけど、軽過ぎて落としそう」

「気を付けて……」


そんな話をしていると、ノアが戻ってきた。

ソフィア様を連れて。



「ルシウス、ずいぶん甘えたさんだなぁ」

「?!お祖母様!ちょ、ノアなんで連れてきたの?!身内に見せるとか反則!」

さすがに恥ずかしいらしく寝っ転がったまま抗議するが、ノアは恭しく礼をするだけだった。

「時間をずらすかシオンを起こすかだろう?なら私が起こそうと思って」

「そうですが……!」

「ソフィア様、出来ます?」

「持ち上げるだけだろう?簡単じゃないか」


そう言って近付きーー数歩手前で固まった。


「……天使?」

「だからお伝えしましたよねお館様。なのに軟弱とか鼻で笑うし……。宣言通り、シオン様を抱き起こしてください。ただし、お目覚めの瞬間に号泣されるかもしれませんが」


後ろから淡々とノアが告げると、ギギギと音がしそうな動き方で振り向いてる。


「……号泣?」

「そりゃ寝起きは泣くものですよ」

「無理だろう!」


思わず大きな声で言ってしまったらしい。

「んふ」とシオンから声が漏れると、慌てて口を塞いでた。

「起きました?」

「……まだ」

ルシウス様の判定に全員がホッとしてる。

「……私が悪かったノア。シオンの天使っぷりを甘く見ていた……。これはやはり猛者を探すか?」

ソフィア様が声量を抑えてノアに相談してる。

そんなに気にしなくてもいいのにね。

「それが、王都組には『何をバカなことを』と失笑されました。城の者達は恐れ多いそうです。いっそ騎士に頼もうかと思いましたが、ウォルター様は『力加減が出来ないから無理』と仰り、クラスト殿には『ヴィンス様の命により、シオン坊っちゃまの意に反することは出来ない』と断られてます」

「全滅……。じゃあリカルドかミモザを呼ぼう」

「お祖母様、この場に両親を呼ぶのはやめてください。恥ずかしいです」

「ならどうするのだ?」

「シオンが起きたら出向きますから、待っててくださいよ」

「そうか。ならここで見てて良いか?」

「駄目です!お戻りください!」


厳しく言ってるけど、膝枕中だからね旦那様。

結局追加で両親を呼ぶかソフィア様が居座るかの二択となり、ソフィア様は椅子に座って主にシオンの寝顔を堪能していた。偶にこちらも見てるし。

顔を真っ赤にした旦那様、いつもなら私のお腹に顔を埋めてるところだけど、シオンがいるから寝返りを打てなくて残念だね!


「ふぷあ?」とパッチリ目が覚め、泣くことなくご機嫌で笑うシオンを、誰が抱き起こすかジャンケンで勝者となったノアが抱っこした30分後。

ようやくお腹に抱き着いてグリグリしているルシウス様を、今日も平和ねーとよしよししておいた。



お茶会を始める前に文字数が止まらんかったので、区切りました。。。

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