アイゼンバーグ訪問 〜忍べないお忍びを満喫する親子〜
抱っこ紐装着。シオンを入れる。
外の景色が見たいだろうから、向き合う形じゃなくて前を向かせた。
「トーテムポール……!」
「とーてむ……?」
「いえ、ある文化圏の置物を思い出しただけです」
コホンと咳払いをして誤魔化すミューは、商売好きな家柄のせいか色んなことを知っている。
悪い表現じゃなさそうだから気にしないでおこう。
抱っこ紐を使ってるおかげで手が空き、ミューと手を繋げることは散歩でも判明した利点だ。
興奮してバタバタと手足を動かすシオンに、護衛の騎士達も伴をする侍従も侍女も微笑ましげ。
「いや、ルシウス様も込みで微笑ましいんですよ?」
「そう?」
父親にまでなったと言うのに、微笑ましいとは一体。
「わきゃきゃきゃ!」と笑うシオンは実に楽しそうだ。
「ミューはどの辺りを見たいの?」
「護衛は大変かもしれませんが、雑多な所が見たいんですよね」
「護衛が大変なのは雑多な場所だけでなく、何か見つけるとすぐ走り出す護衛対象のせいでもありますが?」
二人の会話にクラスト殿が入ってきた。
「煩いわよクラスト。良い物はすぐ売り切れるんだもの、走らないでどうやって手に入れろと?」
「貴族様なんですから、商人は家に招いてくださいよ」
「タスクは来たわ」
「商人枠で?」
「取引先」
「それは商談ですね……」
うん、会頭とミューの会話は完全に仕事だった。
買い物、て感じではないね。
「あ、あの辺のお店が見たいです」
ミューが指差す先にあるのは、確かに雑多な商品を置いてる感じの店が並ぶ。
はぐれないように手をギュッと握ると、ミューが笑い掛けてくれた。
「ルゥも何かいいのがあったら買ってみたら?」
「そうだね、見てみる」
「こんな機会なかなかないですからね。過剰戦力の護衛を引き連れたお忍び」
「……全然忍べてないよね」
「だって私の夫と息子が眩いんですもの」
眩い?金髪に日差しが当たるのかな。
そう思ってシオンを見下ろすと、確かに金髪が輝いてる。眩しい。
「……シオンに帽子でも買おうか」
「いいですね!ヴィンスの贈り物に負けないくらいシオンに似合う物を!」
「ふふ、頑張って探そう」
「ふだ!」
三人で気合を入れて、『忍べないお忍び』を始めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
物々しい集団が店に入ると、店員も客も一瞬ギョッとする。
そこに囲まれた僕とシオンを見ると、皆二度見になる。
その隙を付いてミューが店員に話し掛け、色々尋ねたりするうちに店員は我に返るようだ。
大体その後店主が呼ばれ、やはり僕らにギョッとし、ミューの問い掛けに答えるうちに商売人魂に火がつくらしい。
白熱し過ぎて他の客が引いてしまうので、奥のスペースへ三人して招かれ、そこでまた話が盛り上がる。
そんな訪問を三回繰り返した。
今ミューは女性の店主の説明を受けながら、店の商品棚を熱心に見てる。
僕は他の商品を見てシオンをあやしながら、ミューの様子も盗み見してる。
「……だからね、あっちの国は言葉が荒くて。普通に話してるつもりでも喧嘩腰になることが多いから、通訳が必須なのよ」
「なるほど、そこにつけ込んで商機を」
「やだわぁつけ込むなんて!必要経費でしょう?」
「もちろんですとも。付加価値、手間賃、なんとでも付けたら良いです」
「わかってるじゃない奥様」
「いえいえ」
……うん、楽しそうだ。
ミューがこちらを振り向き手招く。
ひょこひょこ向かうと、「ルゥ、これどうです?」と品物を示された。
「……綺麗だね」
「ありがとうございます。こちら隣国から仕入れた一点物でして、作り手もなかなか作品数を増やさないので希少性が高く」
「シオン、だーめ」
「あらあら、お坊っちゃまにはまだお早いですよぅ」
僕には店主として接した女性も、手を伸ばすシオンには相好を崩した。
「本当に可愛らしい。お父様にもよく似てらっしゃるし、将来が楽しみですわね」
「ふふ、ありがとうございます。今は夫のお腹で大人しくしてくれてますけど、歩き出したらどうなることやら」
「それはもう。可愛らしくても男の子でしょう?……男の子よね?それなら、突然走り出したり座り込んだり、一時も落ち着いてくれませんわ。ご両親の運動不足解消間違い無しよ」
「えー」
公爵家としてでも、貴族としてでも、役人としてでもなく。
ただの親子として話し掛けられるのは、とても新鮮だった。
なんだか嬉しく感じる。
するとシオンがまた手を伸ばし出した。
「あら、お坊っちゃまは青がお好き?」
「そう言われてみれば。手を伸ばすのは青系多いですね」
「……妻の目の色ですから」
「まあ!うふふ、ご馳走様。仲がよろしくて羨ましいこと」
「そこは否定しないです」
「……シオン、これ買おうか。ミュー、良い?」
「気に入ったんですか?どうぞ」
「お願いします」
「お買上げありがとうございます」
店主が礼をし、後ろに控えていた店員が会計と包装をささっと対応する。
「こちら、お買上げいただいた方にサービスしてます。隣国の干しイチジクを加工したものですわ。よろしければどうぞ」
店主自ら渡してくれた。
妙齢の女性だけど、以前ほどの忌避感はなかった。
「……ありがとうございます」
「またのお越しをお待ちしております」
集団で店を出ると、少し深呼吸をする。
「いい店だったね」
「ええ。品揃えも接客も文句なしです」
「ミューにそう言ってもらえると、領主一族としては嬉しいな。それに、前ほど女性にも構える気持ちがなくなってきたかも」
そう言うと、ミューは驚いた顔の後に目を伏せた。
あれ?何か機嫌を損ねた??
「ミュー?」
「ルゥ……言いにくいんだけど、あの方男性なの……」
?!
「え?!」
「女装が趣味なだけで奥さんもお子さんもいらっしゃるそうよ。……だから、その……」
「いや、別になんてことはないんだけど!驚いただけで!」
言い淀まれても困る!他意はないんだから!
「大丈夫?ショック受けてない?」
「大丈夫!本当に驚いただけだから、お気遣いなく!」
キッパリ言い切ると、やっと笑顔になってくれた。
「隣国の情勢にも詳しいし、時流を見る目もありそうでした。提携か、ひとまずご挨拶に人を出すよう言っておこうかと」
「……ミュー?商売の話?」
「そうですよ。大丈夫、良いお店の店主をアイゼンバーグから引き抜いたりしません」
うん、そこじゃない。
そう思ったけど、楽しそうな妻を見るのは好きなので黙っておく。
「疲れました?まだ平気?」
「平気だよ。次はどこへ行く?」
「さっきの店主さんが雑談ついでに教えてくれたお店へ行こうかと」
ミューが示したのは、角を曲がった所にある小洒落た雑貨店だった。
騎士が先導し、ゾロゾロと入ると中にいた女性が目を見張り、すぐ表情を整える。
「いらっしゃいませ。ようこそ当店へ」
…………この人は、女性、だよね??
◇◇◇◇◇◇◇◇
「クラスト殿、お疲れ様です」
「ウォルター殿、あぁすみません助かります。ちょうど飲みたかったんだ」
「あれだけ動いたら喉も渇くでしょう」
「いい勝負してたのになぁ。あのガキ共本当に余計なことを」
「……クラスト殿は、若奥様方とだいぶ親しいのですね??」
「こりゃ失敬。何せ俺は元々酒屋の息子でして、行儀作法は一切学んでません。おまけにあの嬢ちゃんたちに振り回された過去があるものですから、つい」
「酒屋の息子……なんですか」
「はい。長男が継ぎ次男がサポートする体制が整ってる中での三男で、何も期待されることがなく。好き放題生きていたら体格も相まっていつの間にか街をひとつ牛耳ることに」
「おぉ……」
「それで調子に乗ってたところ、サリーの親父に叩きのめされました。んで、体力余ってるなら護衛にでもなれと引っ張られたんです」
「サリー嬢のお父様、ですか?」
「グリフィス伯爵の側仕えをしている男です。代々グリフィス家にくっついてる一族で、アホほど強い。一見優男なのに騎士団の誰も勝てないんですよ」
「おぉ……!」
「いつかお館様に引き合わせてみたいもんです」
「ええ、きっと大喜びで手合わせを申し込みますね。それでサリー嬢もあれほどまでに?」
「そうですね。ある種の英才教育と言うべきか、伯爵家の方々をお守りするためにはクラストぐらい倒せるようになれ、とか教え込むからサリーも兄のハリーも俺を見るとすぐ襲撃してくるんですよ」
「えぇ……」
「お嬢様も若様も面白がって嗾けるから、誰も止められないし。実際、兄妹ともに体格は中肉中背なんですが動きが恐ろしく早い。騎士団の連中でも捕らえられる奴は少ない」
「あぁ、確かにお館様と手合わせされてる時も、よくお館様の速度についていけると感心しました」
「一撃の力が弱いことを知ってるからか、急所狙いになりやすーーっておい!今話してるだろうが何振りかぶってやがる!」
「すみませんミュリエル様、避けられました」
「まぁ、話の途中ならキマるかと思ったけど残念ねぇ」
「くぉらお嬢様!嗾けるなって何度言ったらわかるんだ?!」
「えー?だってハリーは一撃入れたって聞いたから、サリーにも出来るかなって。ねえ?」
「出来ます」
「ソフィア様と組んだら出来たから、今度は単体で頑張ってサリー」
「誰がやらせるか!ハリーだって一撃つってもマグレだからな?!」
「じゃあサリーは二発頑張る?」
「承知しました」
「だーかーらー!誰がやらせるかっつーの!子持ちになったんだろ、いい加減倫理を覚えやがれお嬢様!」
「倫理……?」
「初めて知るような顔すんな!」
「「「………(アイゼンバーグ側:全員ドン引きの為沈黙)」」」
オネエにしてしまいました……




