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テンプレートが立ちはだかる日常  作者: ひつじ


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アイゼンバーグ訪問 〜妻子と歩く忍べないお忍びの準備〜

アイゼンバーグ滞在は半月の予定。

前後一日ずつ移動に使うので、十日ほどの日程でやりたいことを効率良く熟さなければならない。

セザールの作ってくれた日程表の元、自分達の希望のために各々動いてるーーと言う訳ではない。

僕の優先事項はミューとシオンだし、父母もシオンとなるべく過ごしたい方針だ。

なので、ミューとシオンのやりたいことが第一優先、それに付き合える者が付いてくるスケジュールになった。

今日のミューは「アイゼンバーグのお店が!見たい!」とシオンを踊らせながら訴えて来たので、もちろんそうする。

その前にーー。



カン、カンと模造剣同士の当たる音。

その剣戟の合間に「ルシウス様ー、頑張ってー」「ふぶわぁ!」と応援が聞こえるので、少し力がこもった。


「ルシウス様、力み過ぎです」

「っ、だっ、て、カッコイイ、とこ、見せたい、し!」


ウォルターの揶揄う声にもなんとか返し、最後の一撃を凌いだ。

しばし双方動かず、同時に力を抜いて終了の合図だ。

深く息を吐いてから観覧席を振り返ると、気付いたミューがシオンとともに手を振っていた。

なんだあれ、可愛いな。

手を振り返してそちらへ進むと、途中でノアがタオルを頭に掛けてきた。


「若奥様の所へ急ぐのは構わないんですがね、汗まみれでお会いするんですか?」

「……やだ」

「ははは、ルシウス様は若奥様に夢中ですな!」


後ろからウォルターの陽気な声が響く。

なぜ大音量で言うんだ……。

無視して二人の近くまで辿り着くと……あれ?


「サリーがいないね?」

「混じってます」

「まじ……え、鍛錬に?」


ミューが指差す先、お仕着せのまま組手をするサリーと……あの相手は、


「お祖母様?!」

「いい〜勝負してますよ〜」


心なしかミューの表情も生温い。さては自分から申し込みに行ったんだな……。

「ぷわ!」

「シオン、見てて面白かった?」

「のゆ!」

「興奮しっぱなしでしたよ。本当に騎士とやり合えるとは驚きです」

「疑ってたの?」

「少しだけ。でもカッコ良かったですよ」

ねー、シオン?と呼び掛けるミューの耳が赤かった。


照れてる!可愛い!!


でもここで指摘すると隠されちゃうから、ニマニマと堪能することにした。


「ルシウス様、水を飲んでください」

「ん」

「ノアは鍛錬しないの?」

「私はルシウス様と時間をずらすようにしてますので」

「なるほど。効率的ね」

「何せ、体力使い果たしてヘロヘロなルシウス様は狙い時ですからね。二人して弱ってる訳にはいきません」

「なる、ほど……」


そこは言及しないでくれるミュー、助かった。

いい思い出な訳ないからね。


「あ、ソフィア様の相手がクラストに替わったわ。何かやる気満々ねあのおじさん」

「おじ……、アイゼンバーグの騎士と戦い方が違うみたいだからね。お祖母様は新しい戦い方を見ると、すぐ手合わせをしたがるんだ」

「ルシウス様も手合わせを?」

「僕は実力が違い過ぎるし、お祖母様が母上と同じ顔に攻撃出来ないって言うから」

試しの手合わせとしてお祖母様と向き合った瞬間、言い捨てて逃げられた。

敵前逃亡とも言うが、まぁ、無理強いは良くない。


「あぁ……むしろルシウス様のお顔に攻撃出来る人っているの?」

「騎士団ではウォルターだけかな。僕をしごけるのもウォルターだけだから、専属で鍛えられたよ」

「精神もタフなのね」

「他の団員からは『冷血団長』とか『人の心を置いてきた騎士』とか言われてる」

「ふふ、変なあだ名が付いてる」

「クラスト殿にはないの?」

「『笊を通り越して枠すらない掛け流し』と『酒をもっとも蔑ろにする酒屋の息子』と言われてたかしら」

「酒飲みなことしかわかんない……」

そりゃノアが潰される訳だ。


「お嬢様ー、若旦那様に妙なこと吹き込まないでくださいよー!」


手合わせの最中、お祖母様の攻撃を躱しながらクラスト殿が叫ぶ。

と言うか、身体能力もすごいけど、地獄耳だな?!

「妙なこと吹き込みまくった奴に言われたくないわー、ソフィア様頑張ってー!」

「うにゃー!」

「はは、あぁ頑張るとも!」

「うお、お館様まだ速度上げられるんですか!」

ミューたちの声援を聞いたお祖母様が嬉しそうに技を繰り出す。

紙一重で避けるクラスト殿も後ろ手に剣を振り、二人の攻防をいつしか訓練場にいる誰もが熱心に見てた。

白熱する手合わせに息を詰めて観戦してたがーー。



「今よサリー!やっておしまい!」

「承知しました」


?!


「は?!バカ、サリーてめ、お嬢様このやろ!」



騎士団長とは思えない罵声を最後に、乱入したサリーと隙を見逃さなかったお祖母様の息の合った突きを食らい、クラスト殿は撃沈する。


「……ミュー」

「油断大敵ですわよねえ騎士団長殿!お仕着せの侍女にやられるなんて情けないこと!」

「うろぉ!」


奇妙な沈黙の広がる訓練場に、ミューの悪役的な高笑いと追従するシオンの喃語が響いた。



◇◇◇◇◇◇◇


鍛錬後の水浴びを終え、ミューの希望を叶えるために外出する準備を始める。

「……シオン、こんな服持ってきてた?」

「ヴィンス様の贈り物だとか」

「あぁ」

ヴィンス殿の置土産が置かれた部屋は、机にもソファにもプレゼントがあって凄かった。

ミューは頭痛がするようだったけど、シオンははしゃいでいたな。うん、大物。

「……僕の服までお揃い風なんだけど?」

「大人用もありましたので」

頭痛がするね、わかった。

まぁでも、シオンによく似合ってると言うことは僕にも似合ってるのだろう。


「お待たせしました。あらー、二人ともよく似合うわー。ヴィンスのセレクトなのがまた腹立たしい……」


さすがにミューはお揃いではなかったけど、グリフィスで見たような簡易な服を着ていた。

髪型もいつもより幼い気がする。可愛い。

「ミューもよく似合ってるよ。可愛い」

「まー!」

「シオンもそう言ってる」

「ふふ、ありがとう」

シオンも含め三人でキスを送り合ってると、ウォルターに咳払いをされた。


「ルシウス様、若奥様。護衛に関する相談をさせていただいても?」


ソファに座ると、ウォルターとクラスト殿が二人一緒に説明しだす。

「ミュリエル様の希望されるアイゼンバーグの商店巡りですが、普段若旦那様に付ける護衛のやり方だと難しいとのことです」

「んー、あ、アイゼンバーグ方式?前誰かが叫んでたわね」

「ご存知でしたか。ルシウス様が視察などに行かれる際、御身と周囲の安全を確保するための護衛方法です」

「呼び方を聞いただけよ。やり方は知らない」

「関係者以外、完全な人払い方式だよ」

「は?」

ミューが怪訝そうな顔をした。


「視察なら視察先のトップの人とか、買い物なら商会の会頭とか。とにかく話が通じる一番偉い人だけを残して、他の人は完全排除」

「えぇ……」

「だからミューのお店巡りには合わないって」

「んぱ!」

「はい、そうお聞きしました。若奥様はアイゼンバーグの商店の普段のご様子をご覧になられたいとか」

「えぇ、まあそうね。物価とか流行を見たいんだけど。別に偉い人に会いたい訳じゃないわ」

不満そうにしてる。可愛い。

妻の要望は叶えてあげたいなぁ。


「ですので、先日お二人がグリフィスにいらした時の護衛手段をウォルター殿にお読みいただき、こちらをアレンジして対応することにいたしました」

「あんちょこ持ってきてんの??」

「護衛の命綱ですよミュリエル様」

「ルシウス様が周囲と目を合わせられる危険性は変わりなかったとのことですが、今回は若奥様から離れないようにお守りすれば、ルシウス様は若奥様と坊っちゃまにしか目を向けないと」

「ウォルター!なんでそんなこと」

「ノアとサリー嬢から聞きました」

グルン、と二人を見るとノアは目を逸らしサリーは平然としていた。


「とにかく、これでしたらお三方の街歩きが可能と思われます。念の為坊っちゃまは若旦那様が抱えていて下されば、ミュリエル様もサリーも逃亡は考えないでしょう」

クラスト殿が提案する。

もちろん僕が抱っこするつもりだったが、その言い方だとシオンがいなかったら逃げる気か?!

絶望的な目でミューを見ると「しませんってば」と頬を撫でられた。

「逃げるならルシウス様も引っ張って逃げますよ。あんなに強かったんですもの、ついて来れるでしょう?」

「うん……」

「お嬢様、逃げるなっつってんだろが」

「誰も逃げるなんて言ってないわよ。逃げるなら、でしょ?夫のトラウマ突くのやめてくんない」

「そのトラウマ作ったの誰だよ」


遠慮のないやり取りに、ウォルターが少し目を丸くした。

うん、グリフィスの人たちはあっという間に遠慮がなくなるんだよね。


「ルシウス様、シオンを抱っこし続けるのも大変だし、抱っこ紐使います?」

「抱っこ紐?」


うちにポルカ商会の会頭が訪問した時、数多くの贈り物の中でそれだけは「試供品」だった。

「非売品」でくれたスタイとは違い、そちらはミューの商会と開発中なので「販売前」と言う感じだ。

もちろんターゲットは貴族ではなく庶民。

いや庶民でも、息子を抱っこして歩く夫は僕くらいじゃないか?

しかしミューと会頭は嬉々として装着させてくるし、当時まだ首の座ってないシオンを入れて歩いてみると、なんだか母性が生まれてくる気分になった。

今でも庭園の散歩とかには使ってる。

歩き出す前までしか入ってくれないだろうから、シオンと密着できる期間も長くないのだ。


「いいよ。シオン、抱っこ紐入る?」

「ふみゅ?」

「見せたらテンション上がりますよ。お散歩って分かりますから」


ミューの言葉に従い侍女が持ってくると、途端にシオンが「ぶわー!」と万歳しだした。

「ぶわ、の、まにゃ!」

「うん全然わかんないし、まだ入るのは早いよシオン」

「タイミング間違えましたね」


さて、シオンの初街歩きだ。



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― 新着の感想 ―
やっておしまい!悪役のお姉様の台詞ですなぁ
そろそろルシウスが面倒で鬱陶しく感じる。。ミューの懐の広さと母性に乾杯ですね。
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