アイゼンバーグ訪問 〜ついにご対面!お館様〜
人攫いどもを振り切って城内に入ると、中もさすが!な造りをしていた。
シオンと二人、天井を見上げてポカンとしていると「二人して可愛い」と旦那様から愛でられる。
「ミューは王城も慣れてるのに、そんなに驚く?」
「個人宅でこれはないでしょう……」
「一応執政の場でもあるけどね」
城内で会議すんのか。
グリフィスは組合や集会所まで出向くし、大人数が集まる時は広場とかでやっちゃうけどね。すぐ宴会になるし。
一刻休憩、その後に待ちに待ったお館様ことソフィア様と謁見!の予定。
私達も夫婦に充てがわれた部屋に通される。
二人分の部屋の隣、それぞれ中の扉で繋がってるのが子ども部屋とルシウス様の私室だそうだ。
滞在中くらい親子三人で過ごしても、と思ったけどルシウス様が反対した。
シオンと三人で過ごすのは良い。でもどうせ誰かしらがシオンを愛でに訪れるんだから、第三者が入り浸るのは落ち着かない、と言う主張。
ごもっとも。
今は部屋の支度の最終調整をしているので、シオンも一緒に休憩だ。
「さて。ミュー、抱っこさせて」
「シオンですか?」
「いや、ミューを抱っこしたい」
「なぜに?」
シオンを抱っこしたまま部屋のあちこちを見回ってると、ソファに腰掛けた旦那様が両手を広げた。
「休憩なのに私を膝に乗せたら疲れるでしょうに」
「疲れないから抱っこさせて」
「なんですかその欲求」
「だってミューが足りない……!」
「一日中張り付いてましたよね?!」
驚きの声が出た。シオンも「ふわ!」と一緒に叫ぶ。
息子は休憩場所や観光で立ち寄った際、色んな人に代わる代わる愛でられ社交をしてたと言うのに、この夫はまったくもって私から離れなかったのだ。
仲睦まじくて……と会う人皆に目を細められたぞ。
あれで足りないとは??本当に疑問。
「……だって、ミューが変なこと言うから……」
弱々しく、顔を赤らめながらルシウス様が訴える。
あーはい、馬車の中でのアレね。
一応私にも主張と言うものがあるが、ほぼ八つ当たりであったことは間違いない。
平和にアイゼンバーグ領での滞在を過ごすなら、この辺で手を打った方が良いのかな。
「……シオンも乗っかりますよ?」
「望むところ!」
「変なルゥ」
「ミューに変って言われた……」
なぜそんなにショックを受けてるのかな?
今この場で変なのはルシウス様だろうに。
シオンをしっかり抱え直し、ルシウス様の膝の上に横向きに座る。
こうすると、三人とも顔を見て話せるからね。
腰に回った手が安定してるので、肩に凭れ掛かるようにしてシオンもルシウス様の方へ向けた。
「……夢の抱っこだ」
「なんですかそれ」
「もうちょっと体を鍛えるよ」
「……?その心は?」
「あと二人くらいは乗せたい」
「……頑張ってください」
でもそれ、私がまず三人抱っこするの?無理じゃね?
◇◇◇◇◇◇
親子水入らずの休憩を過ごした後、旅装を正装に着替えついでに髪型なんかも直し、いよいよ謁見の間へ。
……個人宅に謁見の間……、いや、城つってんだからあって当然。
謁見に来る人もいるんだろうし。
未だ夫の実家が城、と言う違和感を拭い切れないままに目的地へ進む。
扉の前には既に義父母がいて、エスコートしたがる夫が乳母からシオンを受け取り、私は身軽なままで入場するらしい。
まぁ良いか。
恭しく扉が開き、一家揃って中へ入った。
王宮の仕様にも劣らない豪華な装飾。
まっすぐ前に向かう赤い絨毯の先には、玉座?いや王はいないけど、領主の座る豪華な椅子が……誰も座ってなかった。
代わりに、背凭れに手を掛け立っている騎士装の麗人がいた。
女性にしては短めな銀髪を横で結んで肩に流し、背筋を伸ばして凛と佇む、美しい人。
ルシウス様のお祖母様、ソフィア・フォン・アイゼンバーグ様……!
え、若くない?
お義父様の母親、と言うよりお義母様の年の離れた姉に見える。
こちらのギャップにも混乱しつつ、義父母の礼に倣い頭を下げる。
「母上、お久しぶりです。お元気そうでなにより」
「お義母様、ご無沙汰しております」
「お祖母様、お久しぶりです」
親子三人が挨拶を述べる。私は初対面なので、紹介されるまで沈黙だ。
ソフィア様はニコリと笑った。
「リカルド、あなたも元気そうでなにより。ミモザは相変わらず美しいね」
「まぁ……」
「母上、息をするように私の妻を口説くのはやめてください」
頬を染めるお義母様を見てお義父様が抗議するが、ソフィア様は動じない。
「これくらいで口説くと言うのは、お前が普段から妻を褒めてないからだよリカルド。逃げられないように日々精進しろ」
「わかってますよ……!母上、被った猫を取り払うのが早過ぎます」
「老人は残り時間が少ないんだから、やりたいことをやるだけだ」
「それ、後半は私が子どもの頃から言ってますよね」
お義父様達のやり取りを聞いて、ルシウス様がハッ!とこちらを見る。
そのままジッと見詰めてくるので、言っておいた。
「あなたは散々褒めてますし口説いて来ますよルシウス様。不足はないです」
「本当?前、語彙を増やせって言ってたから」
「むしろ現状語彙を増やされたら対処し切れないので、語彙を増やすなら頻度を減らしてください」
「えぇ……考える」
コソコソやってると、ソフィア様がこちらを向いた。
「あなたも久しぶりだねルシウス。幸せそうで何よりだ。さあ、噂の花嫁と曽孫を紹介してくれ」
噂?
「……お祖母様、私の妻のミュリエルと息子のシオンです。念の為言っておきますが、私の妻を口説くのは控えてください」
ルシウス様が渋々私達を紹介してくれた。
「お初にお目に掛かります。ルシウス様の妻となりました、ミュリエルでございます。お会い出来ることを楽しみにしておりました」
カーテシーで挨拶をすると、ソフィア様は破顔した。
「会えて嬉しいよミュリエル!本当、ヴィンスくんの言ってたとおりだな!ルシウスがデレデレだ」
ヴィンスーーーーーー!!
確かに訪問したならソフィア様にもお会いするだろうけど!
私より先に会うとか、何を考えてるのよいや何も考えてないだろあんちくしょう!
「お祖母様、ヴィンス殿は本当にいらしてたんですね。何を言ったのですか?」
「ん?ミュリエルがルシウスの好みど真ん中過ぎて常にデレデレしてる、あと曽孫はルシウスの再臨だと」
「でれっっ」
「本当にそっくりだなぁ。またルシウスになるのか?」
「なりませんよ!シオンですってば」
私がわなわなしてる間に、ルシウス様とソフィア様がお約束のやり取りをしていた。
「シオン、と言うのか。可愛いな。これは……ルシウスにも増して鍛えづらい……」
ソフィア様がシオンの近くまで来て凝視する。
見詰められたシオンはニパッと笑い、手をソフィア様へ差し出した。
ソフィア様は右手でシオンの手と触れ、左手で両目を隠し、天を仰いだ。
「無理だ……!」
「母上、シオンには最高の護衛を付けますので鍛錬は無用です。いざとなったらセザールが教えますから」
お義父様が宥めるようにソフィア様の肩を叩く。
「セザール?出来るのか?」
「セザールが出来ないのならアイゼンバーグに篭もる、とミューが言えばやるでしょう」
「そうか……アイゼンバーグに来てもい「「行かせません」」」
ソフィア様の勧誘も、言い切る前に打ち切られた。
本気ではなかったらしく、ソフィア様は肩を竦めただけだった。
「さあ、あちらの部屋に菓子を用意してるんだ。今日までの思い出をたんと語ってくれ!ヴィンスくんが肝心なところを教えてくれなかったからな、私も侍女たちもうずうずしてるんだよ」
ウインクとともに扉を示された。
ヴィンス……。
こちらは脱力してしまう。
「ヴィンス殿……何を言ったんだろう」
「覚悟して行きましょうルシウス様」
再びエスコートをされ、侍女たちの待ち構える部屋へと移る。
先を行くお義父様とソフィア様の会話が聞こえた。
「母上、〝お館様〟ってなんですか?」
「カッコイイだろ?ヴィンスくんから聞いてな、呼び方を変えてみたんだ」
ヴィンス……!
本当、何を吹き込んでいったんだアイツは。
部屋に入る前から、既に疲れ切ってしまった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「皆様にひとつお聞きしたかったんですけど」
「なんだい?」
「ルシウス様の〝好みど真ん中〟ってなんですか?」
「ふぐっ!」
「ぷあ!」
「ん?それはミューがルシウスのタイプだと言うことだが?」
「それは分かるんですけど、ルシウス様って好みとかどうやって出来たのかなって。顔合わせの時は特に気にしてなかったですけど、結婚してみたら予想以上に女っ気がなさ過ぎて驚いたと言うか。初夜が完遂されてなかったらもしやそっち方面の人かと疑うくらい」
「げほ、げほ、ん、ミュー、そんなこと考えてたの?」
「考えたくなるくらい女性と関わってないでしょう?侍女たちすらほとんど近寄らないし、学生時代のお知り合いも男の方ばかりなのに、皆様『好み』と仰るから。何が好みの元なのか、疑問です」
「そうねー、まず容姿?」
「母上!」
「黒髪に青い目なのがポイントよ」
「はぁ」
「あとは中身か?活発で物怖じしない、令嬢としても振る舞える」
「父上!!」
「総じて好みど真ん中だな。話を聞いてルシウスの引きの強さを思ったよ」
「お祖母様!やめてください!」
「そうね、婚約のお話があった時に驚いたわ。緊急事態とは言え、ここまでルシウスの好みのお嬢さんと縁が結ばれるなんてって」
「母上……」
「顔合わせの時、部屋に入った瞬間からポーッとしてたもんな。ミューとグリフィス家に断られなくて良かった」
「父上も……勘弁してください……!」
「まあまあルシウス様、いつかは聞いてたことですよ。身内の前かどうかの違いです。それで?その元はなんですか?」
「……本」
「ほん?」
「小さな頃に読んだ、絵本……」
「絵本」
「ルシウスが幼い頃にどハマりした本よ。どこへ行くにも抱えてて、ボロボロになったら自分がボロボロに泣くくらい好きだったの」
「ずっと持ってたな。私も見てみて!と目の前で広げられたことがある」
「長いこと大事にしてたんだが、その主人公の少女がミューにそっくりなんだ」
「絵本の主人公がですか?」
「活発で物怖じしない、お転婆なお姫様が騎士を連れて冒険する話よ」
「あぁ、なるほど」
「それを読んでからは鍛錬にも身が入って、騎士になったらお姫様と結婚出来るから!と励んでたよ」
「まあ」
「けっこう長く、それこそ学園に入る数年前までは読んでたな。さすがに抱えてはいなかったが、まだ部屋にあるんだろう?」
「……」
「あるんですか?ルシウス様」
「ある……」
「なら後で読みますね」
「〜〜〜〜っ、思いっ切り恥ずかしいんだけど?!」
「そうでしょうねー。これがルシウス様の初恋の子か、と思いながら読みますよ」
「絵本の中の姫を初恋に数えるものかしら?」
「どうかな。ルシウスの嵌まり具合からしたら数えてもおかしくないのか?」
「〜〜っ、初恋は!ミューで!お願いします!」
「とぅあ!」
「まあルシウス様。初恋は実らない、とも言いますよ?」
「?!」
「いやミュー、実るもなにも結婚しただろう」
「!!」
「そうですねー」
「ミュー!もう、本当に!!」
「はいはい、泣かないでねルシウス様。私の初恋もルシウス様にしてあげますよ」
「……!」
「本当に仲良しなんだなぁ君たち」
「むにゃ?」
大変余談ですが、ミアは黒髪で黒目です。
ルシウスの本への傾倒っぷりを間近で見つつ、ワンチャンあるかも?と希望を捨て切れませんでした。
第二応接室でミューを初めて見た時、勝率が下がったことを自覚してました。




