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再び第二王子殿下並びに王太子殿下

第二王子妃殿下ことマリアベル様の来襲から一週間。

改めてグリフィス家の縁戚情報をセザールから(小言とともに)ノアと学び、商売関係の縁故も含めるとかなりの人脈だったので関心してしまった。

と言うか、うちの上司も少し遠いが繋がりがあった……。


新しい関係性を見直しつつ業務に携わっていると、昼食のお誘いを受けた。

相手は第二王子殿下付第一補佐、ジェイデン卿。

特に断る要素がないので、その日は早めに午前の業務を切り上げて、指定の部屋へと向かった。


◇◇◇◇◇◇


「……第二王子殿下はいるとは思ってましたが……」

「申し訳ございません。失言をせぬよう、また、したとしてもすぐ挽回出来るように、と殿下の要望でして」


テーブルにつく面子を見て思わず呟いてしまい、招待主となっているジェイデン卿が深く頭を下げた。


「ルシウス、そんな所で立ち止まるな。早く席に付け」

「ヴィンセント様、こちらはあくまでユーリウス殿下の招待ですので、我々が仕切るのはいかがなものかと」

「いいんだリニ。招待主で言ったら私でもない」


我が物顔で招く王太子殿下、背後に立ち諌める第一補佐、諦め顔の第二王子殿下。

自分は慣れてはいるが、人によっては胃がもたれる昼食会だ。

ため息をついて、示された席についた。


「失礼します殿下方。いらっしゃるとはつゆにも思わず」

「嘘つけ」

「すまない、アイゼンバーグ卿……」

「正確には、ヴィンセント様がいらっしゃるとはこれっぽっちも思わず」

「真実ですな」


しれっと言い放つと、同じくリニがしれっと同意した。

そんな小さな嫌味が効くようなヴィンセント様ではない。豪快に笑い飛ばされる。


「弟が先日の失態を気にしてるからな。お目付け役をお願いされたら断れないだろう?」

「失態ですか?言葉が強いですね」

「右頬をマリアベルに、左頬を母上に抓られたまま一時間談笑してたぞ」

「失態だったんですね……」

そう言えば、捻られる!て騒いでたっけ。

「爪を立てられなかったのは優しさだな」

「傷跡を付けたくなかっただけですよ……」


ショボンとしながらもヤサグレた感じで、第二王子殿下が言う。

銀髪にミューの瞳よりも濃いアイスブルーの眼、王族の色を受け継いだ精悍な青年なのに、今の覇気のなさは仔犬のような……。

そこまで思い浮かべて咳払いをする。

思考が妻に似て無礼になってる気がする。危ない。


「食事はすぐ運ばれてくる。ユーリウス、今のうちに伝えたいことは伝えておけ。ここにいるのは皆気心が知れた奴らだ」


やはりなぜかヴィンセント様が仕切ってるが、殿下は素直に従い立ち上がってこちらを向いた。



「アイゼンバーグ卿、先日は不快な思いをさせてしまいすまなかった。きちんと紹介も説明もしてないのに、夫人を愛称で呼ばれてさぞ気を揉まれたことだろう。昔馴染みの間柄に甘えてしまった。申し訳ない」



誠実に頭を下げられる。

兄殿下、ニヤニヤが邪魔だ。


「頭をお上げください殿下。妻からも妃殿下からも話がありましたので、もう気にしておりません。殿下もお気になさらず」

「アイゼンバーグ卿……」

「ルシウス、とお呼びください。知らなかったとは言え、縁戚になったのですから。よろしければジェイデン卿も」

「……っ、あぁ、ありがとう!私のことはユーリウスと呼んでくれ!ユーリでもいいぞ!!」

「殿下、いきなり距離を詰め過ぎです。私のことは、どうぞフォルスと呼んでください」


第二王子殿下あらためユーリウス様の笑顔がパアッ!と輝いたところで、食事が運び込まれた。

リニもフォルス殿も席につき、男ばかりの昼食会が始まる。


「兄上も生徒会長として活躍してたから目標にして憧れていたんだがな。ルシウスは別の意味で憧れだったんだ。クールで淡々と熟す姿が硬派で、容姿とは真逆な所がかっこいい」

「我々の学年には多かったですね。ルシウス殿に憧れて、なんでか書紀が人気でした」

「そうなんですか?」


あいにく他学年とは交流を持っていなかった。

これが、妃殿下の仰ってた『モテ囃されてる姿』か?

初めて聞く話に感心していると、ヴィンセント様とリニが内情をバラし出した。


「淡々と熟していたのは確かだがな。そのスタイルが出来たのは二年の終わりくらいだぞ?それまでは領地から出て来て王都が物珍しく、何にでも感心していた可愛らしい少年だったのに……」

「可愛らしい少年だったからこそ、でしたよヴィンセント様。ルシウスのこの容貌で可愛らしい反応なんてしたら、周りがどうなるかくらい分かりそうなものを。それが嫌で淡々とし出したんです」

「「あぁ……」」

「なんですかユーリウス様、フォルス殿。納得、みたいな顔をされるのは心外です」


本当に心外だ。

初めての王都なんて、13歳の少年からしたら夢の世界みたいなものだろう?

喜んではしゃいだって仕方ないじゃないか。

それに反応する周りが悪い。


「る、ルシウス殿はその……大丈夫だったんですか?色々……」


いかにも聞き辛そうにフォルス殿が尋ねる。

色々、の含みが腹立つので答えなかったが、仲間たちはこの手の質問の代弁に慣れている。


「皆が心配するところではありますがね。ルシウスは顔と腕っ節の強さが連動してないのですよ」

「加えて喧嘩っ早さもだな。不快なことを言われたりされたりするやいなや、相手が誰であろうとまず鳩尾に叩き込む」

「み、鳩尾?ですか?」

「顔はバレますから」

あとあんまり外さないし。

しれっと言ってのけると、ユーリウス様とフォルス殿は硬直してしまった。

まぁよくある反応だ。

「……私の顔は侯爵家出身の母似ですが、父方の祖母は辺境伯家の出なんです。祖父も父も祖母にボコボコにされた逸話を持ってます。私自身は祖母に可愛がられましたが、それでも辺境伯家で年に一度は鍛えられましたよ。と言っても、あくまで自衛のための攻防のみですが」

ちなみに姉もそこそこ鍛えてる。

その背景があるからこそ、天使な容貌と言われた13歳でも、護衛を付けずに王都デビューが出来たのだ。

自衛の手段を持ってなければ、どうなっていたのか……考えるのはやめておこう。


「私も鳩尾に食らったことがあるぞ。凄く強烈だった。二度とルシウスを揶揄うまい、と蹲りながら誓ったものだ……」


ヴィンセント様が遠い目をしながら思い出を語る。

「兄上も?!」

悲痛な顔をしてユーリウス様が絶叫した。

「あの時は集団で揶揄いに行きましたからね。あっという間に五人の少年がノされたのは圧巻でした」

リニは逆に楽しそうだ。

「リニ殿も、鳩尾に……?」

隣のフォルス殿が震えながら聞くが、笑って否定している。


「私は殿下をお止めしてました。多数で一人を揶揄いに行くなんてくだらない、しかも公爵令息に対してなんて礼儀がなってない、とお諌めしたのですが。入学して浮かれて調子に乗ってたんでしょうね。ノリが悪い、と言われて腹が立ったので放り投げました。ルシウスがこんなに強くなければ教師を呼んで陛下に密告しようと思ってましたが、あまりに鮮やかだったのでルシウスの味方になりました」

「……悪かったよリニ……」

「リニだけはその後も殴ったことがなかったな」


僕らのうちで一番冷静なリニは、ヴィンセント様でさえ逆らわない。

武のルシウス、知のリニと呼ばれていた。なんでだ。

さきほどより少し顔色が戻ったユーリウス様が、気を取り直されたようだ。


「ルシウスは兄上も殴るのか……。王族でも容赦ないあたり、似た者夫婦だな」

「似た者夫婦、ですか?」

僕とミューが?



「あぁ、ミュリエルも『面倒だから学園では馴れ馴れしくするな』と入学前に言い付けてきたくせに、いざ()()()()となったら迷うことなく私の権力を乱用してた。遠慮のなさが似てないか?」





「〝婚約破棄〟??」



低い声で問い掛けてしまった。

空気がピシッと固まる。

ユーリウス様の顔がギギギッと音がするくらい、ぎこちなくこちらを向く。


「…………聞いてないのか?」

「聞いてません。」


そこからの反応は各人それぞれだった。

「なんっで、まだ言ってないんだよぉぉっっ……!」と号泣するユーリウス様。

なんとか宥めたいと思ってるようだが、何も言えずユーリウス様の背中を擦るしかないフォルス殿。

額に手を当て、『処置なし』と体現するヴィンセント様。

混沌とした状態の中、「そろそろ時間ですね。メイドを呼びましょうか」などと飄々と段取りを熟すリニ。

そして僕は--。



ミューが婚約破棄?!

と言うことは、婚約者がいた?!

元恋人とかじゃないけど、婚約者!

贈り物とかエスコートとか、僕じゃない男がミューと!

え、その男今はどうしてるのだ?破棄した?なんで?!いつ?どんな男?!


部屋の状況とためを張るくらい、頭の中が混乱してるのだった。


◇◇◇◇◇◇◇


「ルシウスの父上って、アイゼンバーグ公爵だろう?祖母殿にボコボコにされたのか……?」

「私もルシウスからほんのちょっと聞いただけですがね。なんでも、祖母殿は鉄拳制裁を信条とされてるらしいので、貴族令息でも容赦ないとのことです」

「前アイゼンバーグ公爵夫人って何回か見たことあるけど、そんなに厳つい女性ではなかったよな?」

「……これは身内の話になるので、あまり広めないでほしいのですが」

「うん?」

「私の父がアイゼンバーグ公爵と同年代で、学生の頃に公爵家を訪れたことがあるそうです。若者たちが仲間内で楽しくなって、暴走してしまったと」

「暴走?」

「横柄な態度で使用人に無茶を言ったとか。ゲラゲラ笑ってるところに微笑みを浮かべた前公爵夫人がいらっしゃって、まず恐れ慄く息子の顔面に一撃叩き込んだ」

「怖い!」

「それを見てシンと静まり返った若者たちは、夫人を止めることも出来ず。怯えたまま全員鳩尾に食らって倒れ伏しました」

「ルシウスの再来か!」

「どうにか意識を取り戻した息子の公爵に倣い、全員正座して、夫人がよしと言うまで一人ずつ反省の意思表明を順繰りに行っていたそうです。解放されたのは三時間後だとか」

「恐ろしい……しかし、そんな話聞いたことなかったぞ?」

「前公爵夫人は、外見を見た限りでは普通の麗しい婦人です。そんな方に一撃食らったなどと、話しても誰も信じないでしょう?男の矜持と言うものもありますし」

「確かに」

「ルシウスの話によれば、夫人はご実家の騎士団で一部隊の隊長を務めてらしたとか」

「隊長クラスか……」

「ちなみに殿下」

「ん?」

「この若者たちを率いて公爵家に乗り込んだのは、若かりし頃の陛下です」

「父上かよ!親子揃って!!」



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