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第二王子妃殿下

第二王子殿下・王太子殿下とのやり取りで、多少わかったことはあるがやはり本質はミューに聞いてみないとわからない。

もやもやを抱えつつ仕事をこなし、今日も定時で上がって帰宅しようとする姿は、やはりいそいそとしてたらしい。

同僚たちに労りの声を掛けられた。



馬車が着いて玄関前に降りると、いつもはホール内で待つセザールが扉の脇にいる。

「どうした?」

「お帰りなさいませルシウス様。本日、若奥様はお出迎えになられません」

「……どうして?!」

瞬時に嫌な想像が駆け巡り、我ながら悲痛な声が出たが、セザールは淡々と報告する。

「若奥様はご来客の接待をなさってます」

「接待?こんな時間に?」

役人が帰宅する時間だ。大概の客は帰ってるはずだし、晩餐会の予定があるとも聞いてないが。

「特別なお客様につき、旦那様方のご許可はいただいております。今宵晩餐までご一緒するとのことですので、ルシウス様にも身支度を整えられ次第ご挨拶を、と命じられております」

「特別……。わかった」

帰宅一番にミューが見れなかったのは残念だが、嫌な想像たちは当て嵌まらなかったので落ち着いた。

しかし、晩餐に合わせて呼んだ訳でもなさそうなのにそこまで居座る特別なお客様、か。

しかも両親ではなくミューが相手をするとは?

疑問点を浮かべつつ、着替えをするべく部屋に向かった。



◇◇◇◇◇◇◇


来客とミューがいるはずの部屋の前でひと呼吸し、ノックをする。

「どうぞ」とミューが応えたことにそれだけでテンションが上がり、少々勢い良く開けてしまった。

向かい合うソファに座るのは「ルシウス様。お帰りなさい」と柔らかく笑う愛しの妻と……。


咄嗟に()()()()礼を取った。


来客がコロコロ笑う。

「あらまぁ、綺麗な礼だこと」

「第二王子妃殿下、ルシウス・フォン・アイゼンバーグがご挨拶申し上げます」


なんでうちに第二王子妃殿下が?!

一日で何人の王族に会うんだ!

頭を下げたまま思考を巡らす。

その間にも、妻と妃殿下は楽しそうに会話をしていた。


「愛妻への帰宅の挨拶よりわたくしへの礼が優先されたわよ、ミュー」

「当たり前でしょうマリー。むしろここで逆にしたら、セザールからの礼儀作法指導が入るわよ」

「厳しそうねぇ」

「大変厳しゅうございます。」


ミュー……マリー?

ハッと顔を上げる。


「……第二王子殿下が『ミュー』と呼んでいたのは、妃殿下と親しいから……?」


思わず呟いた言葉に、二人の目が同時にスッと細められた。

?!


「……第二王子殿下が、私を『ミュー』と?ルシウス様の前でお呼びになったの?あのスカポンタンが……」

「口が軽くて頭も軽くて、あれで王族なんだから嫌になっちゃうわよね」

「嫌になるのはこちらよマリー。あなたの旦那様でなくて?」

「生粋の王族の性質なんて、結婚二年目の妻には何も出来ませんー。親か王族教育の瑕疵なんでしょたぶん」


お互いに呆れ混じりに---王族への罵倒を繰り出してる。

聞いてるこちらは冷や汗が凄い。

一方、室内にいるミュリエル付きの侍女は至って平静な顔だ。負けてる……。


「あらルシウス様。そこで立ちっぱなしは良くないですわね、こちらにいらして?」


にこやかにミューが隣を勧めてきた。

大変ぎこちなく座り、ミューに小さく「ただいま」と言うと、向かいにいた妃殿下が「ぷはっ」と吹き出した。


「マリー、もう少し堪えてよ。ルシウス様が驚いてるじゃないの」

「ふふふっ、ごめんなさいねアイゼンバーグ卿。わたくし貴方と学園が一年だけ被っていたので、モテ囃されてる姿の印象が強くて。今の姿とのギャップが……ふふっ、けっこうツボ」


ごめんなさい、とは言われているがまったく謝られてる気はしない。別にいいけど。

ふと見ると、こちらに向けたミューの目が好奇心で輝いていた。


「マリーがツボるほどのルシウス様のモテ姿って何?!見たいんだけど!ルシウス様、再現して!」

「無茶言わないでくれるかな?!」


モテ囃されてる姿ってどんなだ。

覚えがないし自覚もないぞ。

ひとしきり笑い切った妃殿下が、今更ながら扇で口元を隠してミューを促した。

笑った後で隠しても……。


「ほらほらミュー。わたくしにあなたの愛しの旦那様を紹介してちょうだいな。話が進まないわ」

「はいはい。マリー、こちら私が結婚したルシウス様よ。ルシウス様、私の従姉のマリアベルです。これでも第二王子妃をやってます」

「これでもは余計だわ。よろしくね、マリアベルと呼んでちょうだい」


王族の笑み、と言うべき優雅に微笑まれた。

従姉?


「ルシウス、とお呼びください。こちらこそよろしくお願いします……従姉、ですか。グリフィス家の血縁関係はひと通り教えてもらいましたが……」


困惑した顔を隠せずにいると、二人は満足そうに笑い合う。

「従姉であり、ハトコなんです。従姉の子ども」

「わたくしの母とミューの父が姉弟、その姉弟とミューの母が従姉なの。従姉弟同士の結婚ね。ミューのお父様は婿養子で伯爵家に入ったから、わたくしとミューの関係性は母たちの続柄に当て嵌められて、公式にはハトコよ。そこまでだと縁戚としての情報は省かれるでしょう?実態は姉妹寄りの従姉妹だからだいぶ近しいの」

「隠してる訳じゃないけど、吹聴してる訳でもないので。突っ込んで調査しないとわからないわ」

「そうなのか……」

「ちなみにお義父様とお義母様とお義姉様夫婦、セザールとメリッサはご存知です」

「だよね……」

「ノアは知らなくて、マリーを見て硬直したわ」

「だろうね!」


ケラケラ笑ってる。

姿形はともかく、内面はよく似ていそうだ。


「それで、第二王子殿下とも親しく?」

「ええ、まぁ。マリーとは幼い頃から婚約してるから、よくユーリウス様、ユーリ様もマリーの実家の侯爵家に遊びにいらしてたの。私は私で我が家のごとくに侯爵家に居座ってたので、必然的に」

「それで幼馴染として三人で意気投合したら、『今度は私の家に遊びに来るといい!』とか言って王宮に呼び出されましたの。わたくしはともかく、ミューの伯爵位は王宮に上がるのにも面倒なやり取りがあるってのに、あの阿呆が」

「ユーリ様が王太子じゃなくて本当に良かったわねー。王太子妃だったらマリーのフォロー範囲が倍に広がるわよ」

「まったくよ」


会話の端々に不敬なフレーズが挟み込まれるが、気にしないのが一番なんだろう。

そういや、ノアが着替えだけ手伝ってついてこないと思ったら……。怖気づいたんだなあいつ。


「王太子殿下とも知り合いなの?」

「ユーリ様のお兄様として、お相手してくださったわ。妹がいらっしゃらないから新鮮だって」

「ルシウス様は学園でヴィンセント様とご一緒されてたけれど、ミューのことはご存知ではなかったの?」

「私は学園に入ってから殿下と交流を持ちましたので。それまでは姉と領地におりました」

「お姉様!ローズ様ね!」


妃殿下が嬉しそうに扇を鳴らした。


「姉をご存知ですか?」

「もちろんよ!社交界の華じゃないの。わたくしも可愛がっていただいたわ。ご夫君の公爵様とも、たまにお話させていただくのよ。義妹になれるなんてミューが羨ましいわー」

「先日、お義母様とお義姉様とお茶会をしたのよ。大変有意義だったわー」

「自慢話腹立つ!」


自慢気なミューも可愛い。

ではなくて、この妃殿下とあの姉が手を組むことを想像すると震えが来る。


「仕方ないから、次お義姉様とお茶会をする時は、マリーも誘ってあげるわ」

「ぜひ!」

「お義姉様が拒否ったらなしだけど」

「拒否られる訳ないでしょう?!失礼な!」


計画が立てられていく……。

うん、そのお茶会は迎えに行った馬車内で待機しよう。もしくは姉の目がないところで、早急にミューを回収しよう。

堅く決意した。


「忙しくてなかなかミューに会えなかったから、今日の予定が空いたのを見て思い切って突撃訪問したの。寛大なアイゼンバーグ家に感謝だわ」

「本当に突撃よ。先触れとの差が5分とか、先触れの意味ないし。いつでも来客対応可能な当家だからこそ受け入れられたんだからね?」

「でも、突撃訪問のおかげで面白い顔が見れたでしょ?」

「そこはノーコメントで」


面白い顔……。否定しない辺りがミューの意見を表してる。

そこで妃殿下は、再度目を細めた。


「……そういう訳で、アイゼンバーグ家にはなるべくわたくしたちの関係性を話してなかったのに。ミューだって、自分からは話してないんでしょう?なのにあの羽口(はねくち)王子が……」

「新しい名前ね、羽口王子。本当、どうしてマリーの関わる事柄だけペロッと出てくるのかしら。国家機密なんかは喋らないくせに」

「……それは首が飛ぶよミュー」


さすがに言葉を挟んでしまった。

第二王子殿下の先走り、とは妃殿下やミューが話す前にネタバラシしてしまったようなものか。

確かに、ミューの性格からしてサプライズを台無しにされるのは腹が立つ事態に違いない。


「はぁ、王宮(いえ)に帰ったら夫を絞め上げなきゃ。前回のやらかしから期間が開いてないのも腹立つ」


妃殿下がため息とともに呟いた『やらかし』と言う単語に、ピクリと反応してしまった。

恐る恐る妻を見ると、ニコッと微笑んでる。



「結婚初日から昨日までの新婚生活は、全部伝えましたわ!」

「ミュー?!」

「初夜から飛ばしますわねルシウス様。わたくしがミューの立場だったら、とりあえず鼻にパンチします」

「妃殿下……?!」

「マリーはユーリ様に鼻パンチしたの?」

「そういう無礼はなかったわ。でもね、ユーリってば緊張のあまり……」

「すみません!第二王子殿下のその辺りのお話は、女性同士のみでお願いします!!」


自分のやらかしが広まってることも脅威だが、それにもまして王族の初夜のやらかしは聞きたくない。

必死の思いで会話を止め、どうにか身の縮まらない内容に修正していくことに尽力するのだった。



◇◇◇◇◇◇◇


「サリーは妃殿下と顔見知りなの?平然としてるけど」

「そうです。昔から侯爵家に行く時は伴にしてましたし、逆にマリーが伯爵家に来ることもありましたから」

「なんならあの口軽が『私もミューの家に行ってみたい!』とか無茶言って、お忍びで来たこともあるわね」

「……そうですか」

「我が家は伯爵位ですが、マリーの家は侯爵家だし他の従兄弟たちもなんやかんや高位の貴族に縁付いたりしてるので、伴の侍女や侍従も慣れてるのです」

「だからあんなに取り乱さないんだね」

「まぁ、サリーはそれに加えて特殊な嗜好持ちなので、こういう場でも楽しめるんです」

「……特殊な思考?」

「サリーに取って、世の中の全ての男性はカップリングの対象なんです」

「カップリング?……!っ?!」

「実家にいた時もお父様やお兄様と侍従たち、友人たちでそれはそれは壮大な物語を編み出してました」

「遊びに来た殿下ももちろん対象です」

「はぁっ?!」

「アイゼンバーグ家に来てからは、ルシウス様とノア、お義父様とセザール、あと庭師と料理人とか門番たちとか、毎日が楽しいらしいですよ?この家、男性多いので」

「(鳥肌全開)なんでそんな、普通の顔して言うの?!」

「「わたくし(私)たちに害がないからです」」

(キッパリ)

「夫だよ?!害あるでしょ!」

「所詮はサリーの夢物語ですわ、ルシウス様」

「そうです。本人には言わないし、小説読んでるようなものですから。お気になさらず」

「それは気になるだろう……!」

「気にするとすれば、サリーの喜びそうな言動を謹んだ方が良いのでは?必要以上に近付くとか、隠し事があるような会話とか」

「あとは人間関係の広がりですね。今日のことで殿下とルシウス様ルートが出来たと思います」

「ルートって……!」


((あとは、この趣味がアイゼンバーグ家に広まらないことを願うばかりね……))

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