三人プラス二匹の天使のお茶会
翌日午後。
お義姉様がカトリーヌ様を連れてやってきたので、女子三人と二匹の天使を交えたお茶会を開く。
天使は匹で数えるのかって?知らん。
まだ「人」というより小動物っぽいので匹。
カトリーヌ様が白いワンピース風ロンパースを着ていたので、それならとシオンも白いお洋服に着替えた。
気が向いたら着替えるようにしないと、一度も着ないままサイズアウトしそうなので、こまめに着替えさせている。
未着用ならそのまま下げ渡せばいいとは思うんだが……だって、うちの天使の為に揃えた服よ?!いつ着てもらえるんだ、今か今かと待っていたのに袖を通してもらえずに終わるなんて……!と服の立場でお義母様が訴えるから。
まあ、脱ぎ着簡単だし?可愛いし?よしとしてる。
「……この服、後ろに羽付けましょうか……」
「「羽?!」」
ペアルック風従姉弟たちを並べてみて、マジ天使!と思ったら声に出てた。
メイド達が慌ただしくなったから、改造決定かな。
シオンより二ヶ月お姉さんなカトリーヌ様は、もうしっかり目を合わせて笑ってくれるので、これまた尊い。
「お義兄様、嫁には出さん!って言ってます?」
「言うけど、その後に『でもシオンなら許す』が続くの」
「なんて?」
いつの間にか嫁候補が出来てて驚いた。シオンくん、生後三ヶ月半ですが?
「……シオンの嫁については、お義母様とルシウス様の厳正な審査の元で決まると思います」
「シード枠は?」
「……カトリーヌ様なら、あるいは……?」
「頑張りましょうね、カトリーヌ」
「んば」
頑張るのか、そうか……。
遥か未来の話に遠い目をしてると、サリーがハーブティーを淹れてくれる。
「ミュー、ハーブティーなんて珍しいわね」
「……」
「なんで無言?」
「ミュー様、お疲れなんです」
「は?」
「朝のルシウス様のお見送りも出来なかったくらいで」
エリーゼ様がこそっと伝えてくれてるが、聞こえてるわー。
ええそうですよ、お見送りもベッドの中から済ませましたよ!午前中は起き上がるの辛かったんだもの!
ルシウス様が何も聞かずに私の味方になってくれたことは、本当に嬉しかった。
なので、夜にお礼とご褒美を兼ねてたくさんキスを送ったのだ。
その際、調子に乗って人様には言えないような所にもしてしまい……あっという間に朝が来た、と言う次第。
だって、夫が可愛かったんだもの……!
体力は全部持っていかれたが、悔いはない。
細身のくせに鍛えてるルシウス様は元気なまま、なんなら艶々になって仕事に向かった。
「ミュー、今日は無理して起きなくても良いよ?」とか労ってくれたけど、ほとんどルシウス様のせいなのに!
ベッドの中からジト目で睨むも、「ミュー可愛い」と愛でられるだけだった。
シオンの世話も放棄して眠って、昼過ぎにようやく回復したので起きてみたら、お義姉様とエリーゼ様がお話してた、と言う訳だ。
「……ローズ様」
「なぁに?」
「二人目が出来るのも、時間の問題かもしれません……」
「早っ」
お二人とも笑ってらっしゃるけど、全然冗談じゃないんだけどなぁ……。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ミュー様とルシウス様は、本当に仲睦まじくて。見ているこちらが幸せを感じますわ」
昨日のショックが尾を引いてるかと思いきや、エリーゼ様は元気だった。
「憧れる?」
「ええ、なんて言うかお二人がとても自然体で……。何も気負うことなく楽しそうにしていらっしゃるのが、素敵です」
気負うことなく、ねえ。
「エリーゼ様達は違ったの?」
シオンをあやしながら聞くと、彼女は少しだけ遠い目をした。
「……少しだけ、気を張っていたと思います」
「そう」
「私には最後の居場所だから……。ここが駄目だったら、レイモンド様と添えなかったらもう行くところがないって、心のどこかで思ってて。だから少しでも好きになってもらえるように、嫌われないように、いい子に見えるよう振る舞っていたんだと、今はそう感じます」
「いい子、ね。いい妻ではなくて?」
「妻……と言えるほどの振る舞いも出来なくて。それでも受け入れられなきゃいけないと思ったから、何も分からない新参者でいたんです。周りに教えを乞うて、庇護してもらえるように。だから辺境に三年近くもいたのに、侮られることになるんですね」
微笑みは少し自虐的。
でも、屈託はなかった。スッキリした、そう見える。
「昨日ミュー様に提案いただいて、あぁ何も人生を辺境に捧げなくてもいいんだな、って思えました。もちろん立場があり役目があるのだから、辺境には尽くしますけど。嫌な思いを抱えて悲しい目に遭ってまで、ここにいなきゃいけない訳じゃない、そう気付いたんです。だからイリスにも、レイモンド様にも言えたんです。ここで怒らせても不興を買っても、私はどこにでも行ける、そう思えたから」
教えと心得がエリーゼ様に根付いたらしい。
良いことだ。
シオンの伸ばしてくる手をパクっと咥えてやる。
きゃっきゃっと喜ぶ姿に、なぜかカトリーヌ様が興奮してた。
お義姉様がカトリーヌ様の手をじゃらしながら、楽しそうに語る。
「昨日、レイモンド様だけ戻ってきたでしょう?その前に侍女の待遇の件があったから、ちょうどいいと思って二人まとめて話を聞いたの。レイモンド様、本当に寝耳に水状態だったらしくて。侍女が『私の方がレイモンド様のお役に立ってます!』って叫ぶのを、呆然と見てたわ」
「お役に立つって、世話とか?彼女はそれが仕事では?」
「やはり、レイモンド様のことを慕っていたのでしょうか?」
「多少はあるかもしれないけど、どちらかと言うと貴族の上に立ちたがる平民だったようね。女主人のように振る舞いたかったみたい」
「楽しいんですかね?それ」
「さあ。わたくしたちにとっては、それが仕事だものね。人を使うのも指図するのも仕事で、楽しいとかなくない?」
「ビミョー」「ですね」
「それでね。侍女を辺境に送り返した後は、レイモンド様の話を聞いたの。頻りに『関係は持ってない』と主張されたんだけど、それはもう聞いたって感じ。テオドール様も話を聞いてるんだけど、侍女へ特別な思いがある訳でもないのになぜ庇ったのか、イマイチ掴めてなかったのよね。わたくしもさっさと寝たいから、レイモンド様に言っておいたわ。『あなたが一番最後まで、エリーゼ様を〝辺境の民〟と認めていなかった、と言うことですよ』って」
エリーゼ様は息を呑んだ。
「誤解しないでね?あなたがレイモンド様の妻であることには変わりないし、異議もないの。レイモンド様だって慌てて否定してたから、そのつもりはなかったようね。でもね、どんなに好きでも妻として愛していても、扱いが『客』のままならそれはいざと言う時に侍女に味方するわ。だって侍女は仲間、身内扱いなんですもの」
「なる、ほど。そうですね……わかります。私は客人扱いで辺境に来たから、そのままの姿勢で過ごしてたんですね」
自分に言い聞かせるように呟いている。
『ここを逃したら行く場所がない』と言う気持ちが無意識下にあったとしたら、『でもここは私の居場所じゃない』と言う気持ちもまた無意識にあったのだろう。
「そうならばエリーゼ様。今回のことは、良いキッカケとしませんか?」
私はシオンの手を支えて伸ばし、宣誓するようなポーズを取る。
「キッカケ?」
「無意識で思っていた『客人対応』も、無意識でとっていた『客人扱い』も、こうして表面に出て来たんです。ここから先どうするか、改めて考えるキッカケです」
「ここから先……」
「昨日もお伝えした通り、エリーゼ様が本当に進みたい道を私は援助します。お友達ですし、エリーゼ様のこれからの未来に賭けるんです」
「まあ」
「どの道を進みたいのか、じっくり考えてみては?」
伸ばした手を戻してモミモミしていると、サリーから耳打ちされた。
まあ合格、そう思ったのでサリーにもモミモミしてあげた。微妙に喜んでる。
しばしエリーゼ様のことは放っておき、シオンとカトリーヌ様を愛でる。
「ぷわ」とアクビをしだしたので、この辺でいったんお開きかな?と思っていると、エリーゼ様が顔をあげた。
「ミュー様、ローズ様。私にキッカケをお与えくださり、感謝申し上げます。色々考えてみましたが……結局、道はひとつのようです」
「決めたの?」
「はい」
シオンの背中をトントンとあやしながら、目で『どうぞ?』と伝えた。
「私はやはり、レイモンド様と共に歩みたい。これまでがお客様扱いだったのは、私の覚悟が足りなかったせいです。もう言い訳はやめます。レイモンド様の妻として、辺境伯家の女主人として。恥ずかしくない振る舞いを目指します」
「…………エリーゼ!」
エリーゼ様がキリッと宣言した直後。
扉が盛大に開き、大きな花束を持ったレイモンド様が現れた。
……大声と物音に驚き、寝掛けてたシオンとカトリーヌ様の、号泣二重奏が響き渡った。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「エリーゼ、俺と共に歩む道を選んでくれてありがとう。俺も君と共にいたい。昨日のことは済まなかった。口下手なくせに考えなしに話すなと、テオドールにキツく叱られた……。こんな俺だが、君を愛してるんだ。これからも一緒にいてほしい」
「レイモンド様……」
結婚二年目にして二回目のプロポーズが、我が家の庭園で繰り広げられている。
子連れの私達は外に出ず、庭園を見渡せるサロンで寝かし付けながら見守っていた。
「口下手なのに考えなしの発言ってヤバイですね……」
「だから寡黙を装ってるのよあの家は。辺境では割と喋るらしいわよ?こっちに来ると、揚げ足取りの輩が多いから自衛のために黙るって」
「なんと……!」
辺境の逞しく厳しい騎士たちの、真の姿だった。
「……雨降って地固まる、と言っていいんですかね」
「固まることは固まったわね。もうちょっと早く話し合っとけ、とも思うけど」
「むしろエリーゼ様の性格とレイモンド様の口下手を考えたら、早い方かと?」
「どれだけ悠長なのかしら……」
「ふふ。まあでも、昨日の今日で再プロポーズを決意して乗り込んで来たことは評価してあげましょうよ。時間を掛けてグダグダしてるようだったら、会わせることもなく別れさせてやろうかと」
「力技で?」
「だって、花の命は短いんですよ?加えて、いい男はドンドン売り切れます。見限るならさっさとしないと」
「……ミュー!」
話に夢中で、ルシウス様が帰ってたことに気付かなかった。
寝かしつけのシオンを起こさないように、それでも最速でルシウス様がしがみついてくる。
「ルシウス様?帰宅が早くないですか?」
「ミューが心配だったから、早く切り上げてきたのに……見限るってどういうこと?!」
「そこだけ聞いたんですか……」
「そこだけじゃないよ、い、いい男はドンドン売り切れるって……!」
「そこも聞いたんですか……」
みるみる内に目が潤みだす。本当にこの人の体内水分量が心配。
お義姉様も呆れてらっしゃるわー。
涙が溢れ落ちる寸前の目尻にキスを送ると、驚いて悲壮な顔が少し緩んだ。
「おかえりなさい、ルシウス様」
「……ただいま」
「心配して帰ってきてくださって、ありがとうございます」
「……うん」
「でもほとんどルゥのせいだけど」
「んむ、だから、世話をしようと思って……」
「大丈夫ですよ。寝たら回復しました」
「……良かった」
嬉しそうにはにかんでる。可愛いなぁ。
ほっぺたをツンツンと突いてやろう。
「私が思うに、王都一のいい男はここにいますよ。売約済みですが」
「売約済み……うん、そうだね」
「だから、いい男を探す人達は二番目以下から探してもらいます」
「二番目……じゃあシオンは?」
「シオンも売約済みですよ」
「え?!誰の?」
「うちの子ー」
「姉上……!」
子どもたちを起こさないよう、姉弟が小声で言い合うサロンをよそに。
仲直りした庭園の二人は、大きな花束を抱えたエリーゼ様の肩をレイモンド様が抱き寄せ、寄り添っていた。
◇◇◇◇◇◇◇
「叔父上、いい加減にしてくださいよ……!」
「レイモンド、そうは言うがな。私にも都合と言うものがあるぞ」
「……父上、レイモンド、揉め事ですか?」
「ルシウス。いや、これは」
「母上の記録の話だ」
「お祖母様……ああ。ひょっとして、レイモンドが催促を?」
「アイゼンバーグ家に行くなら必ず貰い受けて来いと厳命されてるんだ。辺境伯当主の俺が、分家の補佐に……」
「仕方あるまい。相手が悪い」
「父上もご存知の方なんですか?」
「以前私を怒鳴った者だよ。辺境一の脳筋と言われてる爺だ。母上から喰らった一撃の傷痕を、それはそれは誇らしく思っている」
「うわぁ……」
「政治は向かないので補佐としてるがな。いまだに討伐や狩りでは最前線にいる」
「いつも書類はシチ面倒くせえと放り投げるくせに、この本については集中力が凄いんですよ。なので早めに原稿をいただきたいんです、叔父上」
「わかってる。だが、中々ミモザの許可が降りないんだ」
「父上、またそんなエピソードばかり載せようと?」
「ルシウス、よく考えてみろ。辺境時代ならまだしも、嫁いでからの母は公爵夫人だぞ?盗賊退治とか害獣駆除とかありはしない、せいぜいスリを追い掛けて叩きのめすぐらいだ」
「それはあるんですか……」
「そうなると、相手はほぼ身内になる。父のエピソードは過激なので大体却下された。私も自分の恥は晒したくない」
「あぁ……なるほど」
「学生時代の頃の話ならまだ良いかと思ったのだが、そちらは被害者に若い頃の陛下と宰相と財務大臣が入ってて、王家から待ったが掛かった」
「なにしてるんですか!」
「学生が羽目を外した話だ。だから筆が進まないんだ」
「誰かもうちょっと身分の低い方で、武勇伝はないのですか?叔父上」
「普通、公爵夫人に武勇伝はないよレイモンド」
「ミュリエル夫人は?」
「たぶんある……」
「……あぁ、一人元平民ならいるな。下町を根城にした若者の集団が傍若無人に振る舞っていたので、母上が業を煮やして制裁に乗り出したんだ。騎士団で制圧したがリーダーが納得しかねてたんで、母上との一騎打ちになった」
「すごい話ですね!」
「なんで公爵夫人が一騎打ちを……」
「本人がやりたがったからだな。全騎士団員と比べても、母上が一番強かったと言うのもある」
「叔父上、そちらを書いていただいたらよろしいのでは?事の始まりから書き記したら、かなりの文量になるかと」
「そうだな、一騎打ちに持っていくまでも長かったが、始まってからも長かった。三日三晩続いていたんだ」
「三日三晩?!」
「え、そんなに戦い続けられるものなんですか?」
「流血沙汰になるのは良くないと、肉弾戦だったからかな。私と父も差し入れしたり応援したり、何かと忙しかったぞ?」
「差し入れしてたんですか……」
「結果は、お祖母様が勝ったのですか?」
「そうだ。組み合ってからの頭突き、よろめいたところに綺麗な踵落としで終了だ。さすがの母も一日寝込んでたぐらいの死闘だった」
「一日でいいんですか……」
「じゃあ、その話を?」
「そうだな、一応本人に許可を取るか。おいセザール」
「「?!!」」
「はい旦那様」
「お前が母に負けた話、文章に起こしても問題ないか?」
「多少気恥ずかしくはありますが、問題はございません」
「わかった。ならこれで行こう」
「旦那様、奥様にはきちんとご確認を」
「わかってる」
「待って!待ってください父上!今の話、セザールのことなんですか?!」
「うん?そうだ。負けた後三日寝込んでな、目が覚めたら母上の配下になりたがったので、当時の執事長の下に付けて雇ったんだ」
「セザール殿はそんなに強かったんですか??」
「昔の話でございます」
「いや今も強いだろう?護衛の計画に必ずセザールの持ち場があるんだぞ、ルシウス知らないか?」
「そう言えば……!」
「母上とやり合った仲だからな。騎士達も実力は認めてるし、なんなら弟子入り志願もいるぞ」
「私には弟子など、恐れ多いことでございます」
「侍従も出来て護衛も出来るなら、シオンに付けられる気がするが」
「……!承知しました、精査いたします」
((人は見掛けに寄らない……!))
ミモザ様の判定:却下
理由:お義母様の所に腕試し兼侍従志願者が殺到しかねない、あと当家の執事が前公爵夫人と殴り合った話を広めるな
追記:珍しくセザールも正座で説教を受けた
「恥ずかしいとか言ってる場合じゃないでしょ、止めなさいよその場で」
「……失礼しました奥様……」
「これも駄目か……」
「リカルド様はもっと反省なさい!」「はい」




