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テンプレートが立ちはだかる日常  作者: ひつじ


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テンプレートな侍女についての、辺境伯夫人の心得

横柄で横暴な侍女が、エリーゼ様の選んだ贈り物を「不要」と言った。

それだけで、アイゼンバーグ家に仕える侍女もメイドも皆「なんだコイツ」の視線で彼女を見てる。

うむ、うちの教育はセザールの指揮下メリッサの指導で行われてるからね。

密会事件以来、使用人としての心構えも完璧に近い。

私の視線を受け、一人の侍女が一礼して部屋を出た。

先程のエリーゼ様の贈り物を回収しに行ったのだろう。


「エリーゼ様、アイゼンバーグ夫人、こちらに贈り物を置かせていただきました。ぜひご覧くださいませ」


なんだかドヤ顔で報告される。

ううむ、他家に来てまでこれって……。


エリーゼ様はそこを気にすることなく、「ミュー様、ぜひご覧くださいな」と屈託なく誘ってくる。

私はちょっと考え、シオンを乳母に渡した。

キョトンとするシオンの頬にキスをし、指で突くとニパッと笑う。

そのまま目で指示し、シオンは退出した。


「ミュー様、あの……?」

「授乳の時間なんですよ」


嘘ではない。そろそろお腹が空き始めてる頃だが、贈り物を一緒に見るくらいまでは出来ただろう。

母親の本能なのか、気に食わない人物の傍に我が子を置きたくなかったのだ。


「まあ……ご子息様にも反応いただけましたら、レイモンド様もお喜びになりましたのに……」


シオンの出て行った扉を見詰め、侍女ーーイリスが呟いた。

余計に苛立ったのか、サリーが私の隣に立つ。

うんうん、サリーは同じ侍女だし腹が立つポイントが多いのかね。

いつもルシウス様にするように頭を撫でると、少しだけ雰囲気が和らいだ。本当に少しだけど。


エリーゼ様とサリーと並びながら、贈り物に関する説明をイリスから聞く。

どうやらこの贈り物の大半は、イリスのアドバイスをレイモンド様が聞き入れて選ばれたものらしい。

そのことを誇りに思ってる感情がダダ漏れだった。


……テンプレートっちゃあテンプレートだけど、この手の侍女はエリーゼ様の実家の方にいるものだとばかり。

まさか嫁入り先にもいるなんてね。


無邪気なエリーゼ様の横顔を見て、なんとも言えない気持ちになる。

突っ掛かってくる異母妹、遅すぎる当て馬に続き、身の程知らずな侍女か。

エリーゼ様は『テンプレートホイホイ』の二つ名をもらえそうだ。

イリスは見たところエリーゼ様より年上、その立ち居振る舞いからして長く辺境伯家に仕えてきたのだろう。

そこにやってきた新参者の奥様。気が弱そうで、物知らずで。使用人達にも強気で振る舞う訳がなく、古参の者達には頼る場面もあったのかもしれない。

それが重なるうちに、『自分の方が頼りになる』『私の方が偉い』なんて思い違いが発生することもあるだろう。

……でもね?


使用人は使用人、貴族は貴族、だ。


そこを弁えない者は、貴族に仕える資格はない。

そして、その弁えない者が仕えていると言うこと自体、家門の恥になると教えなければならない。

イリスにではなく、エリーゼ様に。



贈り物の説明が一段落した頃。

物は良いだろう品を眺め終わる時、ノックと共に先程出て行ったアイゼンバーグ家の侍女が戻ってきた。

手にエリーゼ様セレクトの贈り物を携えて。


「若奥様、お持ちしました」

「ありがとう」

「ミュー様、あの、それは……」


エリーゼ様が選んだ贈り物の包みを開ける。

苺の柄が描かれている木のスプーンとフォーク、それにこちらも苺の花が刺繍されているハンカチ。

どれも貴族が持つ物ではないけれど、私達が夜会で食べたケーキを覚えていたのだろう。

思わずクスッと笑ってしまった。


「エリーゼ様、こちらいただいてもよろしい?」

「でも、あの……」

「とっても可愛い。シオンが離乳食を食べるようになったら使うわ。ハンカチは私のよ」

「……はい、ぜひ使ってください」

「ありがとう。じゃあ、他はいらないわ」

「「え?」」


私は久々の貴族スマイル・極みを見せる。

エリーゼ様、こういう場面で使うから覚えてね。



「エリーゼ様が選んだ贈り物だけいただくわ。後は持ち帰ってちょうだい」



私の言葉に、辺境から来た使用人達は絶句した。

アイゼンバーグ家の者達は一礼すると、他の使用人を呼んだりしてさっさと荷物を運び出し始める。

我に返った辺境の者達がおろおろし始める中、イリスは抗議してきた。

「アイゼンバーグ夫人、どういうおつもりですか!辺境伯家からの贈り物を拒むなど……!」

サッとサリーが私の前に立ち、イリスからの視線を遮る。

その気迫にたじろいだところで、私はスマイルを維持したままイリスに告げる。


「そもそも、お前は誰?」

「え?」

「公爵家の夫人に抗議するなど、大層なことをしているけれど。そのような身分にあるの?」

「それはっ……」


イリスも他の使用人も青褪める。

勢いで抗議したが、他家の夫人に食って掛かるなど自殺行為だ。

エリーゼ様も顔色が悪くなった。


「ミュー様、申し訳ありません。我が家の侍女が差し出がましいことを申しました」

「そうね。わたくしにそのような口を聞くなんて、我が家から罰を受けたいのだとしか思えないのだけど」

「重ね重ねご無礼を……」

「それで?わたくしに対して無礼なことをした、それだけ?」

「え?」


「仕える主家の女主人に対して、『手出しは無用』と宣った無礼はどうされるの?」


重い空気が満ちる。

「……この者は、辺境伯家に長く仕えている侍女でして」

「ええ」

「レイモンド様からも信頼が厚く」

「そう」

「ですので……、わたくしも頼ってしまうことが多く……」

「だから?辺境伯夫人に対して横柄な態度で、横暴な振る舞いをするのも、許せると言うの?」

「……いえ……」


私は背後にいるナンシーを振り返った。

「ナンシー。もしアイゼンバーグ家のメイドが、わたくしに対して『若奥様の判断は不要です』と言い放っていたらどうする?」

「すぐさまメイド長に報告致します。若奥様を蔑ろにする者は当家の害です」

「そう。ランはどう?」

「同じく、上司に報告します。また、該当の者を若奥様とシオン様から遠ざけます。害意のある者は駆除致します」

「ありがとう」

ありがたいけど、駆除って言ったようちのメイド。

この流れでサリーには振らないからね。

あなた、たまに「ミュリエル様余計なことなさらないでください」って言うし!

そして、そうは言うものの私を軽んじる輩に対してサリーが行うことは、問答無用の鉄拳制裁一択だ。


エリーゼ様からの贈り物をナンシーに渡し、ソファに座り直す。


「お聞きのとおりよエリーゼ様。その者が我が家で仕えている者だとしたら、先程の発言だけですぐ処罰されるの。例え何年仕えようが、当主からの信頼が厚かろうが、処遇は同じよ。貴族に仕える者に一番大切なことは、『己の職分を履き違えないこと』。それが出来ない者は、屋敷にいることすら許されない」

「……はい」

「そしてね、その『履き違えた』者が仕えていた事自体、家門の恥なの。弁えずに振る舞う者がいた、窘める同僚がいなかった、主家の者も言い聞かせられなかった。これら全てが『辺境伯家の恥』になるわよ。あなた方が揃って恥を晒しているの、お分かり?」


辺境伯家の者達の顔が今度は赤くなった。

周りの者達は羞恥で……イリスはこの場合、憤怒なのだろう。

だがその感情に応対するのは、貴族の役目ではない。



「エリーゼ様。わたくし、今友情大サービスであなたに教えて差し上げてるのよ?他家の前でこのような振る舞いを見せていたら、立ちどころに辺境伯家は威厳を失うわ。見なかったことにしてあげるから、()()()()()()済ませなさいな」



極みスマイルを少し緩めて、エリーゼ様に微笑みかける。

エリーゼ様は一度口を引き結び、使用人に指示を出した。

「贈り物は持ち帰ります。アイゼンバーグ家の者達にご協力いただいて、外に運び出しなさい」

「「承知しました」」

「それとイリスは一度、レスター公爵家に。本邸には上がらず、ローザリア様の指示を仰いで謹慎させてちょうだい。処遇はレイモンド様と話してから決めます」

「「承知しました」」

「エリーゼ様っっ」

「イリス、聞いた通りよ。これ以上見苦しい姿はミュリエル様にお見せ出来ないの、下がりなさい」

「ーーっっ!」


他の使用人に連れられて、イリスは外へと出された。

持ち込まれた贈り物達も逆戻りである。

レスター家に置かれるんだとしたら、お義兄様達にお詫びしとかないとなぁ。

贈り物がなくなった頃、またもやノックと共にシオンがやってきた。

「あら?お昼寝は?」

「まだ若奥様と遊び足りないようですわ」

乳母が笑ってシオンを渡してくる。

本当だ、お目々パッチリ。眠気がいないわ。

「シオンー、ほら、エリーゼ様から贈り物をいただいたのよ。お母様の好きな苺。これ、離乳食の時に使ってくれる?」

「承知しました。お可愛らしいですね。こちらでごはんを召し上がるシオン様……はぁ、尊い」

想像だけでウットリする乳母たちは、まあ放っておこう。人望があるのはいいことだ。

強張ったまま立ち竦んでいたエリーゼ様も、シオンと苺のコラボにゆっくりと笑い出した。


「ふふっ、シオン様、男の子なのにそんなに苺が似合うなんて素晴らしいです」

「うちの子天使だから。性別は超えてるのよたぶん」

「そうですね、ここまで可愛らしかったら関係ないですね!」


そうでしょうとも。でもシオン、これまだ洗ってないからお口に入れちゃダメ。

遠ざけて乳母に渡すと、シオンが「あうあー」と抗議した。

世界で一番可愛い抗議か。いや夫の潤目抗議といい勝負だな……。


「……ミュー様、先程はありがとうございました。私、やっぱりまだ辺境では新参者だって言う意識が消えなくて。使用人達にも強くは言えないんです。それでも優しくしてもらえて嬉しかったんですけど、越えてはいけないラインがありますよね……」


肩の力が抜けたエリーゼ様がそう溢す。

「そうね。でも、今回のことで分かったでしょう?エリーゼ様は辺境伯夫人なのだから、侮られることはそのまま辺境伯家の外聞に繋がるの。演技でもいいから舐められないようにね」

「はい……そうします。今度のこと、レイモンド様にも相談しなきゃいけないんですが……聞いてくださるかどうか」

ため息をついてた。え、そこも心配なの?

「聞いてくれないの?」

「いえ、聞いてはくださると思うんですが……。何分、長い付き合いの侍女なものですから、先程もお伝えした通り信頼が厚いんです。重ねて説明すればご理解いただけるでしょうが、何回かお話しないと」

「何ソレ」


え、まさかレイモンド様、イリスと関係があったとか言う??

疑問に思って辺境伯家の者に目を向けると、意図を察したのかブンブンと全員首を振っていた。

それは安心。昔の女を今の妻に付けるとか、どれだけ無神経な男なのかと。

しかし、信頼が厚いねぇ……ふむ。


私はエリーゼ様にシオンを向け、キョトンとする二人が見詰め合うのを見ながら提案した。



「エリーゼ様。ここはひとつ、夫の〝模範解答〟をお見せします。それからレイモンド様に相談して、どう対応するか検討しましょう」


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― 新着の感想 ―
ここほ、やはりルシウス様が究極の模範をご披露するのでしょうか…w しかし毎回ミュー様のテンプレートぶった斬りが爽快すぎて夜しか眠れません!
むしろテンプレートホイホイはミューの方な気が……まぁ神(作者が)遭遇させてますのか
模範例がルシウスで良いのだろうか?w
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