名付けの報告とカトリーヌ様のご生誕と、そのお爺様
グリフィスの家族からくれぐれもアイゼンバーグ家に迷惑を掛けないよう、厳密に言い渡され。
いつお子様をお連れで戻られても、万全の態勢でお迎えします!と使用人に熱く語られ。(僕も行く、とルシウス様に耳打ちされた。置いてこれるとは私も使用人たちも思ってない)
今後の警護のためにと騎士たちはあんちょこを受け取り、王都とアイゼンバーグ領の警護たちとの交歓会を設定し。
涙ながらにルシウス様を惜しむ領民たちに見送られ、私達はアイゼンバーグ家に戻ってきた。
……いや、ルシウス様はグリフィスの婿ではなくてよ?アイゼンバーグの後継者よ?
誰だ『ヴィンス様とお並びになられたら、うちの婿様方最強!』とか叫んだやつ。
ヴィンスの婿でもないんだけど。並べんな。
久々のアイゼンバーグ家です。
帰宅早々おじいちゃん先生の診察を受け、何事もなし!と太鼓判を捺してもらってから義父母に帰還の挨拶をする。
ついでに息子(仮)の名前がようやく決まりました、と報告したらお義父様はまたカップを取り落としそうになった。
大丈夫?手元が覚束ないって、何かの病気のサインだったりしない?
「メリッサ」
「はい」
「シオンのお洋服をした「お義母様。ミハイル(仮)の時にたくさん作られましたよね??」」
こちらはこちらでまた仕立て屋呼ぼうとしてるし。
「ミュー、ミハイルとシオンではお洋服のイメージが違うわよ?」
「どちらにせよルシウス様のお顔しますよたぶん」
「え、そこは決まりなの?」
「私の遺伝子でルシウス様に勝てそうなのって、横入りしてくるヴィンスのオッドアイくらいです」
「それも困る……」
「ルシウスの顔にオッドアイはヤバイわね……家から出せなくなるじゃないの。王家に取られそう」
お義母様、真剣に考え込まなくていいです。
自分で言っといてなんだが、遺伝子の横入りってなんだ。隔世遺伝か?
「とにかく、一度ミハイルのお洋服をシオンにイメージし直してください。足りないものだけお願いします」
すでにクローゼットは満杯なのだ。
うちの子で一日何回着せ替えする気なんだ?
この時ばかりはメリッサの冷徹メイド長モードが停止する不思議。
「それに、シオンの産着はお義父様の管轄では?」
そちらに話を向けると、茫然としていたお義父様が起動した。
「セザール!シオンの産着を揃えるぞ!肌触りの良い布を商人に持って来させ「お義父様、産着はもう用意してましたよね??」」
似た者夫婦だった。
セザールも部屋を出て行き掛け、ちょっと迷ってる。
おい、いつもの冷静さはどこへやった執事。
相変わらずお腹をナデナデしてる夫に目を向け、クイと顎で示してやる。
「……父上、母上。グリフィス領のポルカ商会から、子どもへとスタイをいただきました。こちら、ポイントに紫苑の花が入ってるんです。用意した服に刺繍を入れてもらうのはいかがです?あとは、このような小物の類でしたらまだ揃える余地はあるかと」
タスクから受け取ったスタイセットをノアが差し出すと、二人して目を輝かせる。
「いいわね……シオンなら名入れの代わりになるし、レティシアなら守護花にしようかしら?」
「うむ、ひとまず産着に入れさせよう。針子は当家の者だけで足りるか?」
「旦那様、産着の次にお洋服ですし、子ども用の靴下や靴にも入れたいわ。専門家もお呼びしましょう」
「「かしこまりました」」
どうにか服の増加は回避出来そうで良かったわー。
◇◇◇◇◇◇◇
里帰り後は一緒にいたがりゴネる夫を職場に送り出し、運動しつつも安静に!と言うどうせいちゅうねんみたいな生活を送っていたら、あっという間に出産予定日を迎えていた。
私ではなく、二ヶ月違いのお義姉様が。
夜中に報せが来て、義父母が慌てて公爵家に向かうと、すでに初孫・カトリーヌ様はお生まれになっていたそうだ。
初産なのに驚異的な早さ、と立ち会った医師も産婆さんも驚いてたらしい。
私達も起こされはしたが、妊婦が駆け付けるのもおかしいしその妊婦を置いていく夫でもないので二度寝した。
と言うことで、翌朝疲れながらも嬉しそうな義父母が帰宅してからの報告を聞く。
「やっぱり女の子でしたか」
「そりゃあれほどカトリーヌと呼び掛けてたらね……お腹の中でも空気が読める子だわ」
「呼び掛けてたら、性別が変わるの?」
「と言うより、お義姉様の意思の強さじゃないですか?ルシウス様がお義姉様張りに子どもに言い聞かせられるならやってみたら?」
「……どっちでもいいから、やらない」
「そうだな、ルシウスには向いてないだろう」
「しばらく安静にして落ち着いたから、カトリーヌを交代で抱っこさせてもらったの。色は公爵様似、顔立ちは明らかにローズ似の女の子でね、前公爵様が『ローズよくやった!大成功だ!』って浮かれてて」
前公爵様。お義兄様の父親、先代王弟だ。
「大成功?」
「それを聞き咎めたテオドール様と険悪になったんだけど、全然相手になさらないの。『ローズに似た可愛い初孫がお前の色を持ってる女子だ、大成功だろう?お前に似た女子だったら厳つくて可哀想じゃないか』と仰って」
「……言いたいことはわかりますが」
「ね。『私に似ていたら可愛がれないと仰るんですか?!』ってテオドール様が食って掛かるんだけど、『お前に似てたら私にも似るだろう。自分に似た孫は可愛いさ、逆にお前はローズに似たカトリーヌは可愛がれないのか?』なんて言い返してて。『そんな訳ないでしょう?!』『じゃあいいだろうが!』とか有耶無耶になって、そこでカトリーヌが泣いたもんだから責任を押し付け合いつつあやすと言う」
「混沌としてますね……」
カトリーヌ様が混沌の元であり潤滑油にもなるんだな。
うちもきっとそうなのだろう。
「前公爵様は、領地にいらしたのですか?」
「いいえ。あの方は王宮でまだ役職についてらっしゃるから、王都住まいよ。ローズたちに本邸を譲って離れで過ごされてたんだけど、先週から戻られたらしいの。厳ついのが倍そわそわしてて鬱陶しい、とローズが怒ったから基本は座ってたようよ」
「姉上……先代王弟になんてことを」
「ローズは元々、前公爵様と意気投合して婚約したようなものだから。遠慮なんてしないわ」
「「は?」」
「あら、ルシウス知らない?」
「婚約してからのことしか……」
「学園で意気投合したのよ?」
「え?」
ルシウス様がキョトンとした。私もわからん。
学園で意気投合……?前公爵様と?
先代王弟とは現陛下の叔父様に当たる方だ。
先代陛下とは年が離れていたので、叔父と言っても兄弟みたいな近さらしいが。
だから年齢的にも私達の親世代より少し上、くらいの方なんだが。
ハッ!とルシウス様が気付いた顔をした。
「四阿の庭師……!」
「はぁ?」
なんのこっちゃ、と思ったがルシウス様はお義母様にそのまま続ける。
「前公爵様は、僕らが在籍してた頃の学園長でしたよね?」
「そうよ。ルシウスの卒業と同時期に交代されたの」
「姉上が学園にいた頃、四阿で庭師と話す植物の生態が盛り上がり過ぎて授業に遅れたと聞きました。いくらなんでも無防備だと諫言したのですが、『影が付いてるから問題ない』と言われて……。あの時は分からなかったのですが、影って」
「王家の影ね。役を引退するまでは付いてる筈よ。学園長のお仕事と宮廷のお仕事と公爵家の采配を同時になさってたから、随分多忙だった頃だけど。うちの娘とお喋りする暇はあったのね……」
お義母様が嘆息した。
つか庭師て。
「学園長が庭師の真似事を?」
「真似事ではなく、研究の一環だ。あの方は『緑の手』を持つと言われている。学園の庭園で薬草の栽培を行ってたはずだ」
「前公爵様は、そこでローズに会ったのかしらね」
「姉上は『緑の目』でしたね……」
「『緑の目』?」
「植物の状態に関して、驚くほどにピタリと言い当てるんだよ。農家にでも生まれてたら活用出来たのに、と悔しがって。一時期本当に離籍して農村に行こうと計画してたくらい」
「お義姉様が、農村へ……?」
待って、全然イメージ湧かないんだけど。
農村はわかる、領地にあるし。でもそこにローズ様が……?え、畑でお茶してる絵しか浮かばない。
「まあそういう縁で、ローズと前公爵様がまず交友を深めたの。そこからローズに婚約者がいないとなって、うちの息子はどうだ?!とお話をいただいたのよ」
「お義姉様も婚約してなかったのですか?」
「だって農村に行きたがるんですもの。夢を諦めさせないうちは、婚約なんて出来ないでしょう?」
「確かに」
「ルシウスが跡を継ぐんだからいいじゃない!って父上と喧嘩してましたね」
「あの時は旦那様に、『お前なんかに出来る筈がない』だけは言わないでねって釘を刺したわ」
「そうだったな。言いそうになったから、ミモザが伝えておいてくれて良かった」
「なんで……あぁ、出来る証明のために畑仕事始めそうですね」
「慧眼よミュー」
「なのに、レスター公爵家から婚約の申込が?」
「ローズが植物に携わりたいことをご存知の上で申し込まれるなら、問題はないかと思ったのよ。でも顔合わせの席でテオドール様そっちのけで前公爵様と盛り上がるもんだから、『ローザリア嬢はもしや、父の後妻になられるのですか?』って真顔で聞いちゃって」
「あちゃあ〜」
「義兄上……気持ちはわかりますが、それは……」
「ねー。前公爵様は早くに亡くされた奥様をとても愛しておられるし、ローズもそんな話はしてないでしょうが!って盛大にキレちゃって。二人からご子息が説教される光景を、旦那様と遠い目で見守ってたわ」
お義父様はコクコクと頷いてる。
すごい顔合わせだな。
なんにせよ、カトリーヌ様は無事にお生まれになったのだ。めでたい。
次は私達の番。
頑張ろうね、シオン/レティシア。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「姉上の顔合わせ、僕は学園の方を優先して欠席で良かった……」
「私は参席してみたかったです」
「あの時ローズは16歳だったけど、そうするとミューはいくつかしら?」
「7歳違うので9歳ですね。ヴィンスが留学して、やっと領地での生活が落ち着いた頃でしょうか」
「まあ、ヴィンスくんはそんなに幼い頃から留学を?」
「大変だったんじゃないか?本人も家族も」
「大変と言えば大変ですね。トラキオンの後宮に入れられそうになったけど回避した、とは聞きましたが、次はトラキオン王家からヴィンスへの婚約の申込が来出して。まず第三王子から来たので、これはどこまで本気で対応したら良いのかと、家族で途方に暮れました」
「「うわぁ……」」
「王印がなければいったん無視しようとなってそれは無視出来たんですが、今度は王女殿下の分が来ちゃってそっちは王印が捺されてたんです。これどうすんの、ヴィンス受けるのって聞いたら『興味ない女にも男にも「ミュー、それは言わない!」……、受ける気はないとのことなので、じゃあ自分で潰せとヴィンスに叩き返しました。ついでに他の貴族とかからも来てた婚約の打診を全部ヴィンス宛に送って、その気があるのだけ送り直せって告げたら、全部なかったことになりました。中には家自体なかったことになったところも」
「「うわぁぁ……」」
「ヴィンスくんの分は、自分でどうにか出来るものなのね」
「なんせ本人の魅力ありきですからね。使える手はなんでもありです。ことが私に降り掛かると打つ手が限られて、結果最速婚約の話に繋がります」
「……ローズの婚約は、テオドール様への説教くらいで済んで良かったわね……」




