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グリフィスへの里帰り 〜ヒーロー顔のお約束〜

夫を連れて里帰り。

結婚式以来、実に半年以上振りである。

王都から二、三時間も馬車で走れば着く距離ではあるのだけど、中々帰れなかったのはひとえに寂しがりの旦那様に「家を空ける」と言い出せなかったからだ。

明らか寂しがるのが分かるのに、それを振り切ってまで帰る理由がなかったとも言う。


……結婚する前までは。「実家に帰らせていただきます!」とか言う日がいつか来るのだろうか?とか考えてたんだけど。

今はどんだけ想像を膨らませても、泣き縋る夫を連れて一緒に帰る絵面しか浮かばん。


なんだかなぁ、と傍らのルシウス様を見上げると、興味深そうに街並みを見ている。

「ルゥ、面白い?」

「うん、新鮮……」

繋がれている手を握って聞くと、いつもより簡素な服装のルシウス様が嬉しそうに笑った。


◇◇◇◇◇◇◇◇


昨日丸一日移動日とし、昼過ぎに着いて家族と挨拶を交わした後は体を休めることにした。

馬車の中でもグリフィス邸でもベッタリ貼り付いて幸せそうな夫に、家族も使用人たちもなんだか納得している様子だった。


一夜明け、早速街歩きをしようと準備を始めたところで「コンセプトはいかがいたしますか?」とグリフィス家のメイド長・ミヤビから質問が来た。

コンセプト?初めて聞かれたんだけど。

サリーと顔を見合わせたが、要はアイゼンバーグ小公爵をどこまでお忍びスタイルにするか、と言う話だった。

眩い金髪と冴え渡る美貌のルシウス様を人目から隠すなら、髪を染める所からか?と使用人たちの間で疑問になったらしい。


ふむ、と考えルシウス様を呼び出す。

何も怪しまずにやってくる夫は、手で示すと何も怪しまずにソファの足元に跪いた。

それはどうなんだ次期公爵よ、と思いつつもルシウス様の輝く金髪をわしゃわしゃと両手でかき乱す。

「……?」

訳がわからずとも構ってもらえることが嬉しそうな大型犬風夫に、ダメだこりゃと呆れながら結論を下した。


「この髪を染めるのは、許されざる罪です。」

「「ごもっともですお嬢様」」

「そして、髪を染めたくらいで私の夫の輝きは隠せません。」

「「その通りですお嬢様」」

「よって!適度に肩の凝らない、過ごしやすい服装で行きます」

「「承知しましたお嬢様」」

「解散!」


号令と共に使用人たちが散る。グリフィス家に仕える者達は、相変わらずノリが良い。

「……なんの話?」

「今日の服装の話です」

「それだけだった……?」

「そうですよ。ルシウス様、今日は赤ちゃんとあまり触れ合ってませんけどよろしいの?」

「そうだった!上にあがるね」


わざわざソファに座り直す許可を取り、いそいそと日課のお腹タッチを始めたルシウス様を見守りつつ、平和だなぁ、としみじみ思った。


◇◇◇◇◇◇◇


結論。簡易な服装を着せても、私の夫は眩しかった。

「ルゥって、お忍びとかしたことある?」

「街歩きはしたことあるけど、お忍びじゃなかったな。父上の色と母上の顔を合わせたら、まったく忍べないことくらいは僕でも分かる」

ルシウス様は自分の天使なお顔を活用する気がないが、自分を客観視出来ない訳ではないし、美的感覚が鈍い訳でもない。

お忍びスタイルにして護衛を減らすことが、本人のためにならないことも承知している。

だから、街歩きのためにここまで厳重な警護をされていても、文句を言わない。


「……でもここまで厳重な警護は初めて見ました」

「そう?王族とかこんなもんじゃない?」

「王族と並べますか……」


なんでもないことのように言う辺り、最高位の貴族だわー。

「ユーリ様を連れ回した時は、もっと少なかったですよ」

「ダメだよ殿下連れ回しちゃ……」

「勝手についてきたんです。あの時、やっぱりユーリ様を撒いた方が良かったんですかね?」

「もっとダメ……」

繋いでる手に力が篭もる。なにか反応した?

「……ルゥのことを撒こうなんて思ってませんよ?」

「冗談でもやめて……」

顔が曇ったぞ。これはよろしくない。

反対側のサリーに目配せすると、一歩前に出て手で指し示す。


「こちら、右手方向に進みますと新鮮な果物を使用したパフェが名物のカフェがございます。左手方向には、焼き菓子とそれに合わせた風味の紅茶セットが売りの喫茶店がございます」


それだけ説明して、また隣に並び直す。

ルシウス様は一瞬キョトンとして、ふふ、と笑った。

「何今の。サリーが地図替わりなの?」

「私達はこの街に詳しいですからね。オススメのお店をご紹介しますよ。どちらに進みます?」

「んー、どっちも良いけど……今は冷たいパフェかな。ミューは悪阻平気?」

「私が食べられない可能性のあるお店を、サリーが紹介する訳がありません」

「そうだね。じゃあ右手で」

「承知しました」

サリーが一礼すると前方の騎士に合図が飛び、一人が先触れとして駆け出した。

騎士たちが道を空ける中進むと、何やら反対方向が騒がしかった。


「……?」


ちょっとそちらに注意を引かれると、「ミュー」とルシウス様に呼ばれる。

なんだか複雑そうな顔だ。

背後にいたアイゼンバーグの騎士の一人が、騒がしい方向へ駆け出して行く。

「僕らはあっち」

いつになく強引に意識を向けさせるルシウス様に、疑問を抱きつつも従って歩いた。


◇◇◇◇◇◇◇◇


サリーのプレゼンに従い、フルーツパフェをそれぞれ注文する。言い出しっぺのサリーも勿論頼んでる。

冷たい甘さを堪能しつつ、「あーん」と餌付けされて恥じらうルシウス様も堪能してると、先程の騎士が戻った。


「女性が男と揉めていたようでしたので、仲裁して参りました」

「間に入れた?」

「ちょうど近くを巡回中の騎士が通るところでしたので、彼らに任せました」

「ご苦労様」


礼をして立ち去る騎士を見送り、私はルシウス様を見詰める。

ルシウス様は苦笑した。


「聞きたいことがあるならどうぞ?」

「騒ぎには気付いてた」

「うん」

「自分では動かず、騎士をやった」

「うん」

「騎士も自分では仲裁せず、わざわざ巡回中の騎士に声を掛けて任せた」

「うん」

「なんでそんなに間接的?」


別に、ルシウス様自身で助けろとは思わない。

例えその力があったとしても、上に立つ公爵家の嫡男がやることではない。

でも、アイゼンバーグの騎士にも手を出させないようにするのは、中々手が込んでないか?


口元に差し出された果物をパクリといただくと、ルシウス様は「これ楽しいね」とはにかんだ。

「……女性が困ってる時に助けに入るのってさ、なんだか物語のようだなってのはわかるんだ」

「はい」

「ただそれも、単に困ってる人がいるから助けたってだけで。仲裁するたびに『運命の出会い』扱いされても、じゃあ騎士たちにはどれだけの運命が待ち構えてるんだって思う訳で」

「あぁ、確かに」

「何より困ったのはさ。自分で手助けすると盛り上がってしまうなら、他の人に頼めばいいと思ったんだけど。実際助けてくれた人より、その指示を出した僕に運命を感じるらしくって」

「なるほど……」

「挙句、何も関わってないのにその場にいただけで『あなたが助けてくれたのでしょう?!』って詰め寄ってくるから、本当どうしていいか分からなくて。ヴィンセント様に『ルシウスはヒーロー顔してるから、助けてくれたように見えるんだ。お約束って奴だな』て言われたから、なら顔すら見せずに立ち去ろうと考えたんだ」

「ヒーロー顔……」

「だから、なにか揉め事が起きてるかもって思っても自分では確認しない。確認した先で手助けが必要そうな事態が起こってたとしても、さらに別の誰かを挟ませて対応させる。絶対僕には辿らせない」


きっぱり言ったあと、少し淋しげに笑った。

「ミューの夫としても、子どもの父親としても情けないかもしれないと、ちょっと凹むけどね。でも知らない『運命』はいらないんだ」


ヒーロー顔でもヒーローにはなりたくない旦那様が凹むなら、そこを回復させるのが妻ってもんだろう。


凹む旦那様には頭を撫でるのが一番だ。

「……ミュー?」

「やれる範囲で手助けしてやってるだけで、あなたは偉いです。私なら助けません。私が介入するのは『悪を懲らしめたい』からであり、『困った人を助けたい』とはならないです」

「……ミューらしいね」

「それに、どうせ助けてもらうならルシウス様のお顔が良い、と言う気持ちは大いに分かりますけど。ルシウス様の運命は私ですから、そこは量産されても困ります」

「……そうだね」

「これからもやれる範囲で助けて、『運命の出会い』を避け続けてください。誰かが何かを言うようなら、私があなたの前に出ます。『余計なことを言うな、助けてもらっただけありがたいと思え』って」

「ふふ……うん、ありがとう」

「パフェが溶けないうちに食べましょうね、旦那様」

「そうだね、奥様」


仲良く食べさせ合い、サリーのパフェも少しちょうだいしつつ、パフェが溶け切る前に完食した。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「なんでよ、あそこで揉めてたら普通助けに入るでしょう?!あのカッコイイ金髪の人に助けてもらいたかったのに!そうしたら『運命の出会い』になるはずだったのに!」

「はいはい、結局君の方が男騙して詐欺働いてたんでしょ?掴みかかるのは良くないとしても、相手にも情状酌量の余地ありだし、とりあえず詰め所に来てね〜」

「待ってよ!あの人どこに行ったの?!あの流れならここまで来るはずだったでしょ?!絶対運命の人だったんたから、そうだきっとこっちに戻ってくるわよ!だからお願い、もうちょっとここで続けて!」

「待たないよ〜俺達も仕事だからね〜」

「あ、ちょっと!やだ待って、少しでいいんだってば!あの人の名前くらい聞かないと、再会出来なくなるわ!」

「はいはい行くよ〜(名前を聞いたってどうにもならんだろう、ミュリエル様のご主人だぞ?)」


翌日。

対応した騎士たちからの報告書を読み、あんなに仰々しく見せびらかしたと言うのに、ものの見事にロックオンされてる夫を見詰め、ヒーロー顔恐るべし……!と嘆息する。

「どうしたのミュー、それなんの報告?」

「街の出来事の報告ですわルシウス様。あら、また動いた」

「本当?!」

膝枕から顔をあげ、今日もいそいそとお腹に耳を付ける旦那様に、平和が一番ね……と頭を撫でといた。




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― 新着の感想 ―
ホントにそうで草
ルシウス様偉いなぁ~危機管理バッチリですね! しかも妻の実家の領地でそんな事になったらその女の人は領主の娘の旦那に言い寄ったってなりますしね(不敬罪) その後領内で生きてく場所なくなるもん。 と思っ…
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