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幕間2 ミュリエルの高笑い

時系列がちょっと変わります。

里帰り後の話です。

「ミュー、だいぶお腹大きくなってるけど、そんなんで里帰りとか大丈夫だったの?」


サラがテーブルに着くなり心配そうに聞く。

トレイシーも同意見らしく、コクコクと頷いていた。


「右にルシウス様、左にサリーが寄り添って、前方にグリフィスの騎士、後方にアイゼンバーグの騎士が配備されてる街歩きをしたわ」

「物々しい……」

「あれはあれで楽しかったわよ?街の人たちも妊婦にいいお茶とか果物とか差し入れしてくれるし。ちょっと息をつくとすぐ椅子が現れるのには笑ったけど」

「いたれりつくせりですね……」

「むしろ街には迷惑だったんじゃ?」

「本音はどうか知らないけど、パレードみたい!って子どもたち喜んでたし。『ミュリエル様と旦那様だ!』って街の人が呼び掛け合うから、野次馬がどんどん増えて収拾つかなくなりそうだった」


普段から注目を浴びることに慣れてるルシウス様も、なんだか目線の質が違う……と戸惑ってた。

あくまで『ミュリエル様の旦那様』と扱われてるんだと気付いて、面映ゆそうな顔をしてたわね。


「楽しそうで良かったです」


シャーリーがニコニコと笑った。

「あちらで産んでくるのかとも思ったのだけど」

菓子を摘みながらトレイシーが言ったのは、既に却下された案だ。

「その意見は、ルシウス様が涙を飲んで諦めたわ」

茶会前のやり取りを思い出してそう言うと、三人はなぜか黙り込んだ。


「?どうしたの?」

「あの……、ミュー様が旦那様のお話をされるたびに、『涙』とか『泣いた』と聞いてる気がするのですが、どこまでが本当なんでしょうか……?」

「どこまで、って?」

「この間のお茶会で迎えに来られたアイゼンバーグ卿を見て、ミューにデレデレなのはわかったの。でも『泣いた』はさすがに大袈裟じゃない?」

「そうね、私達より5個も年上でいらっしゃるのでしょう?あまり情けないイメージがつく言い方は良くないわ」


シャーロットの疑問、サラの文句、トレイシーの忠告。

共通してるのは、『成人男性はそんなに泣きはしない』と言う認識だろうか?

信じたくない気持ちはわからないでもないが、私がオーバーにルシウス様を語ってると思われるのは心外だ。



「大袈裟も何も、あの人本当によく泣くのだけど?」

「「「……は?」」」



三人とも口が開いた。菓子でも突っ込んでやろうかしら。

「婚約期間中はそんなに会わなかったから知らなかったけど、結婚式の後の初夜では土下座するような人よ」

「「「はぁ?!」」」

「やらかしの内容はご想像にお任せするけど。その後もまぁ色々あって、気が付いたらよく泣く夫になってたわ。昨日は……泣かなかったかな。でも一昨日は泣いた。ちょっと子どもが女の子だった場合の嫁入りを語っただけなのに」

「ちょ、ミュー、待ってそれ話していいこと?!」

サラが慌てて止めようとするが、そんなことは気にしない〜。

「少し邪険にするとすぐ目が潤むし、割と屋敷内の誰にも強く出れない残念な後継者だけど。泣いてる顔も可愛いから改善してあげられないわー」

「ミュー様!惚気だけでいいんです!前半は言わなくて良かったんですっ!」

シャーリーも必死になって止めるが、聞いちゃったもんは仕方ないよね〜。

「あぁ、次の夜会で私は当分社交をお休みにするから。最後の夫婦仲の見せ付け、派手にやらなきゃね。……でもその実、泣きながら妻の膝に縋る夫」

「ミュー!だから!なんで具体的な画が浮かぶような内容でバラす訳?!」

普段は取り乱さないトレイシーの焦った声、とても新鮮。

三者三様の焦りを堪能しつつ、私は優雅に笑った。



「もちろん。夜会に参加してカッコよくキメたルシウス様を見て、それでも『この人、これで妻の膝に縋りついて泣くんだよね……』と想像してしまい、肩を震わせて笑いを堪える。そんなあなたたちの姿を見て、内心大笑いするためよ!」

「「「鬼っっっ!!!」」」



ほーっほっほっほっほ。

悪役令嬢のごとく高笑いし、三人の抗議を聞き流す。

だってこれでしばらく夜会には出ないんだもの、楽しい会にしたいじゃない?

旧友たちは頭を抱えた。

「サイアク……次の夜会って王宮じゃないの。欠席出来ない……いや、この一回を避けたとしても、いつかは見る羽目になるんだわ……」

「私なんて、アイゼンバーグ卿と職場が同じなんですよ……?一度やらかしてるのに、さらに目の前で笑い出すなんてことしたら、もう二度と王宮で働けません……」

「これ、絶対ミューがこちらを見て意味ありげに笑う奴よ……。否が応でも思い起こさせる気じゃないの。なんで学園卒業してまで、『貴族の振る舞い方』の実践を行わなきゃいけない訳……?!」


なんか思い詰めてるわね。そんなに大変なこと?

私は楽しいからいいけど、ふむ。


「そんなに気にするなら、人を増やしましょうか?」

「増やす?」

「人を、ですか?」

「ルシウス様の日常をあなたたちに語ったことを、マリーとユーリ様にも伝えるわ。二人はルシウス様の泣きっぷりにそこまで反応はしないけど、ルシウス様を見てあなたたちが思い出し笑いを堪えてる姿を、さらに壇上から見る訳。『令嬢たちがルシウスを見て笑いを堪えてる……!』て気付いたら、ユーリ様もきっと壇上で笑いを堪えるようになるわ。王族と同じ、と思ったら少しは気が楽になるんじゃない?」

「「「楽になる訳ないでしょう?!」」」


そのユーリ様をチラ見して、より楽しもうと思ったんだけど、勢い良く否定された。


「ユーリウス様が肩を震わせてるお姿なんて視界に入れたら、いっそう笑えてくるじゃないの!あんたは

悪魔なの?!」

「悪魔て」

「お願いですからミュー様!増やさないでください!ユーリウス様まで見れなくなります!」

「ええぇぇぇ」

「ミュー!余計なことはしないでちょうだい!私達の貴族生命が掛かってるのよ?!」

「そこまでぇ?」

「「「そこまで!」」」


三人の揃った抗議に、とりあえずこれ以上人は増やさないと誓わされた。

まぁ、王族が壇上で失態をおかしたら居た堪れないだろうし、ここは勘弁してあげよう。





後日。

実態を暴露されたことにはまったく気付かないままのルシウス様と、夜会に入場した時。

先に会場入りした友達を見るたびに、勢い良く目を逸らされてしまう。

さすがにこの距離で肩の震えはわからなかったけど、きっとこの姿で私の膝に縋りつくシーンを想像したのであろうと、心の中で高笑いをするのだった。

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悪魔の高笑い…!
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