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第四王女殿下の退場です

頭から紅茶を被り、放心状態のリリーシア様は何も言わず動きもしない。

目で合図を送ると、護衛騎士が傍までやってくる。

「王女殿下の身なりが汚れてしまったわ。このご様子じゃお茶会に戻ることは難しいから、お部屋までお連れして。ついでにわたくしの侍女を寄越してちょうだい」

「……承知しました」

一礼し、慎重に殿下を立ち上がらせる。

こちらを見た殿下が恨みがましい目をしていたので、ダメ押しで教えてやる。


「お気を付けてね王女殿下。ついでに忠告しておきますわ。わたくし、ルシウス様と結婚する前から王宮へはよく訪れてましたの。マリーとの関係はもちろん、王族の方々にも可愛がっていただいてますわ。ですからね、最後の抵抗とばかりに馬鹿げたことを主張しても、どなたも取り合ってくれませんよ。『ミュリエル』という人間がどのような生き物か、皆様よくご存知ですの」

「……」

「そしてこれは最後の餞。例えあなたが憐れを装い、わたくしが不敬を働いたと訴えても。肝心のルシウス様には何も響きません。だってあの方、王女殿下を()()()()()()()()()()()()

「……は?」


リリーシア様の口が開いてしまった。

こればかりは私もどうかと思うので、苦笑してしまう。


「殿下の求婚を、頭から『迷惑』と言い切っていらっしゃるの。ルシウス様ってね、自分に害を為すものは寄せ付けない姿勢を徹底しているのよ。だから、王女殿下のことも関わろうとしない。『そんな存在がいる』としか思ってないから、殿下がどのような容姿でどんな方なのかご存知ないわ。目の前で泣き崩れてみせたとしても一瞥もくれないし、呼び掛けたとしても全く反応してくださらない。先程もそうだったでしょう?」


マリーと誰かが席に着いてる、立ち位置からしてアレが王女殿下なのだろう、たぶん。

ルシウス様の認識はその程度だった。

そのことを思い出したのか、リリーシア様は頽れてしまった。

護衛騎士が慌てて体を支え、もはや歩かせられないと判断したのだろう、横抱きに抱き上げた。

そのまま私に一礼し、足早に去っていく。

後ろ姿を見送り、本当にサイアクな失恋だな、ともう一度苦笑した。


◇◇◇◇◇◇◇◇


呼ばれたサリーはまずテーブルとその周辺を観察し、私の全身を視診し、立ち上がらせてスパパっ!と軽く触診してからようやく頷いた。

「何もないわよ?」

「王女殿下が立ち上がれないほどのダメージを受けて退場されてます」

それなら心配するのは道理ね。

ゆっくりと元いた席に戻ると、やはりマリーとお義姉様から全身を隈なく観察された。

「……大丈夫そうね」

「お腹の様子は?具合が悪くなったなんてことは、ないの?」

「何もないですよ。皆様、ルシウス様並に心配性ですね」

「「心配させるようなことをしているのは誰」」

声が揃った。はい、私ですね。


そこからあちらの席での顛末を説明し、やはり……!とか見たかった……!とかの感想を受ける。

ついでに旧友たちが挨拶をしに来て、子宝に恵まれた秘訣は?!なんて恥ずかしげもなく聞いてくるもんだから、こちらも一切恥じらうことなく「旦那様の頑張りに寄るものです」と答え、淑女らしからぬ笑い声が満ちる。

そうこうしている内に決められた時間となり、お茶会はお開きとなった。


「ミュー、ルシウス様とはどこで落ち合うの?」

「どこにも行くなと言われてるわね」

「ここからどこへ行く可能性が……?」

「さあ」


呆れ顔のマリーとお義姉様に適当に返事していると、何やら入り口がきゃいきゃい騒がしい。

これは来たかな?と思っていると、思いの外大人数だった。

「あら?」

「まあ旦那様まで」

「殿下もですか……」

「アサトは関係ないじゃないよ」

金髪美貌のルシウス様、体格の良いお義兄様、銀髪の揃ったヴィンセント様とユーリ様兄弟、後ろにアサト。

ついでにユーリ様の護衛騎士は、友人サラの婚約者だ。


「ミュー」


先陣を切ってやってきたルシウス様が、座ったままの私に抱き着く。

少し体を離し、本日三度目の視診だ。


「大丈夫?何もされなかった?」

「されてないですよ」

「……もしかしてだけど、今会場にいない……?」


それらしき人物がいないことくらいは分かるらしい。

首を傾げながら確認してる。

「お部屋に戻られました」

「やっぱりミューが何かする方じゃないか!ルシウスは心配性過ぎる」

「やっぱりってなんですかユーリ様」

「やっぱりとしか言いようがないだろう?何をしたのか言ってごらんミュリエル」

「私はお話しただけですよ。殿下は紅茶を被りました」

「「「「「は?」」」」」

「紅茶を被ったので、お部屋に戻られました」

「紅茶を……?」

「掛けたのか?」

「人聞きが悪いですよヴィンセント様。被られたんです自分で」

「「なんで??」」

「強いて言うなら、ヒロインムーブ?」

「なんだそれ」

「お茶会ってそういうものなのか?」

「違いますわ旦那様。ミューを基準にしちゃいけません」


混乱気味の夫たちを、妻たちが宥めてる。

うちの夫だけは気にせず、「ミューが無事ならそれでいいんだ」と頭を撫でてきた。


「ルシウス様、私の潔白はうちの子のおかげで立証できましたから。褒めてあげてください」

「ん?潔白?……よくわかんないけど、偉かったね」


よしよし、といつもの調子で撫でると動いたらしい。

夫の笑顔が一段輝度を上げた。

見慣れない辺りが「うわぁ……」と感嘆してる。


「まあ、ミュリエル様がその辺の令嬢に負けるとか想像つかないんですけどね。例えそれが隣国の王女殿下でも。……それはそうと、なぜ控えてるだけのシャーロットが泣き腫らした顔を?」


アサトが不穏な笑顔で聞いてくるけど、私は知らない。

首を振ると、隣でマリーがため息とともに「サラがね…」とだけ呟いた。

グルン、とアサトの顔が別テーブルへ向いた。


「サラ嬢!君はまた、こんなところでもシャーロットをイビるのか?!」

「イビるなんて人聞きが悪いですわーワルロー様。ちょっとした噂話をしただけですわよ、ねぇトレイシー?」

「まあそうね、シャーロット自身には話し掛けてないわ。泣かすようなことは言ってたけど」

「トレイシー嬢、止めてくれ頼むから!」

「なぜ?」

「嫌だわワルロー様、泣かされるようなネタを作ったのはあなたの婚約者ご自身でしてよ?わたくしたちに当たる前に、きちんと婚約者の教育をしたらいかが〜?」

「本当に意地が悪いな君たちは!」


……同級生たちが、王宮庭園で喧嘩してる。

どうしよ?と思ってルシウス様を見上げたら、額にキスを落としてからアサトの方を向いて止めてくれた。


「ワルロー、うるさい」

「っ、すみません先輩、閣下、殿下方。取り乱しました……」


珍しくも顔を赤くするアサトを見て、シャーロットは目を丸くしサラとトレイシーは大笑いだった。


「ずいぶん個性的な者たちだな」

「兄上……ミューの同級生たちです」

「あぁ」


それで納得するのひどくない?王族兄弟。


「ローズ、そろそろ帰ろう。日が暮れると冷える」

「お義兄様もお迎えにいらしたの?」

「ちょうど用があってな。馬車停まりで待つつもりだったが、ルシウスと行き合って誘われた」

「なるほど」


お義兄様の差し出した手に引かれてお義姉様が立ち上がり、「それでは皆様、またの機会に。ご機嫌よう」と優雅にカーテシーをして帰っていった。

さて、私達も帰ろうか〜と思って腰を上げると、ルシウス様に持ち上げられる。


「ルシウス様?」

「眠いでしょ?体温高くなってるよ」


なんでもない様子でそのまま横抱きにされた。

眠い……ことは眠いが。

「馬車くらいまで歩けますよ」

「僕が気になるし」

心配性、ここに極まれり。

まあ良いか、目立つとか今更だ。

首に手を回し、コテンと肩に頭を付ける。それだけで既にまぶたが閉じそうになる。


「それでは妃殿下方、妻をありがとうございました」

「お気を付けて、アイゼンバーグ卿」

「ミュー、体大事にしてね」

「殿下方、御前失礼します」

「あぁ、気を付けてな」

「グリフィスの皆によろしく伝えてくれ」

「先輩、馬車までご一緒します」


そんな挨拶を耳にしながら、慣れたルシウス様の体温で暖められ、そのまま眠ってしまった。



◇◇◇◇◇◇◇◇


「さっきの連中……男は総務室のワルローだろ?あの侍女は婚約者だったな。喧嘩のようだったが、大丈夫なのか?」

「……ええ、まあ」

「大丈夫……と言えば大丈夫です」

「全然大丈夫に聞こえないが?」

「そうですよね……まず前提として、彼らは皆ミューの同級生です。ワルロー卿、侍女のターレス嬢、本日のお茶会の招待客であるフローディル侯爵令嬢とジュースト伯爵令嬢」

「ああ、そう言ってたな」

「フローディル嬢はそこにいるサンレイクの婚約者です」

「そうなのか」

「それでですね、まず先程騒いでいた『フローディル嬢たちがターレス嬢をイビった』と言う件に関してなんですが。……ターレス嬢は、先日ルシウスに愛人疑惑を齎した張本人なんです」

「…………あれか……」

「私も旧知の仲なので、実情を知った後はすぐ疑惑解消のためにワルローに協力したんですが。アレは下手したら、公爵家への名誉毀損で慰謝料と謝罪文の公開、もっと悪質と思われていたら令嬢の廃籍になりかねない事案になるところでした」

「そうだな、疑惑が消えて本当に良かった」

「それで、そのことを旧友であるフローディル嬢とジュースト嬢が話題にしていたのを、侍女として控えていたターレス嬢の耳に入り、羞恥と不甲斐なさのあまり泣いた、と言うのがイビリの真相です」

「そうか……そうなると、ワルローの言うイビリは当て嵌まらないのか?」

「それが少々複雑なところでして」

「複雑?」

「……サンレイク」

「は。殿下、失礼ながら申し上げて良いでしょうか」

「なんだ?」

「我が婚約者のサラ・フローディルは、加虐嗜好の強い令嬢でして。ターレス嬢と接する時は、つい苛めてしまうそうです」

「は?」

「そういうことです、兄上」

「ええぇぇぇ」

「その……ターレス嬢は気弱なところがありまして。フローディル嬢と話しているやり取りを聞いていると、第三者からしたらイジメとしか思えない会話になっていることが多く。ワルロー卿も、二人が友人なことは重々承知のはずですが、どうしてもフローディル嬢を責めるようになり」

「それは、ターレス嬢は大丈夫なのか?」

「本人は苛められてる訳ではないとわかっているようです。ですが、強い正論を言われると涙ぐむのが止められないと」

「サラの好物ですね!」

「…………大丈夫なのか?」

「あれで、サラ嬢を頼りにしているので」

「そうか……逆にフローディル嬢は?イジメと誤解されるのは不本意では?」

「……サンレイク」

「サラはワルロー卿と言い合いするのも好物です!」

「………………そうか……」

「サンレイクは、フローディル嬢とワルローのやり取りに思うところはないのか?」

「サラは勝っても負けても私に当たってきますので!」

「それでいいのか?!」

「私の好物ですので!」

「「「…………(ここはもう放っておこう……)」」」



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― 新着の感想 ―
最悪な失恋になっちゃったのは一方通行の未練タラタラ王女の自業自得なので、1ミリも同情心が湧いて来ないw あ、もう自国にお帰りになります?でしたらこれ、私のオヤツの駄菓子ですけど、分けて差し上げますね!…
王女にサイアクな失恋を味わらせた手腕、なんだかマリーを撃退したヴィンスに似ている。 やはり似た兄妹なんだなと思いました
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