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最近流行りの、テンプレートなあの行動

リリーシア様が示したのは、少し離れた位置にセットされたテーブルだった。

他より小さめ、定員は二名くらい。

絶妙な角度で周りを囲われ、他の席からはあのテーブルの様子は窺えないだろう。

お義姉様が難色を示す。


「お二人だけで、ですの?ミューは身重です、誰も付けない訳にはいかないわ」

「もちろん、わたくしの護衛騎士は控えさせます。なんならミュリエル様の侍女も付けても「いえ。結構です」」


王族の言葉なのに遮ってしまった。

それを断られるとは思ってなかったのだろう、リリーシア様が驚いた顔をした。

聞こえてたサリーも不服そうな顔だが、無視する。


「……ミュー、サリーぐらい付けたらどう?」

小声でお義姉様が勧めてくるが、それは悪手だ。

「サリーは既に〝敵認定〟してます。二人だけで話してる時に悪意を感じ取ったら、即行動に移しますよ」

「…………それはちょっと」

ですよね。

アサトの提案したプランが形を変えて実現しそうだ。

そうなったら遠慮なく巻き込んでやろうっと。


「わたくしは特に誰も付けずとも問題ありませんわ。参りましょう、王女殿下」


ニコリと笑い掛けて促す。

虚勢でもなんでもなく、本当に問題ない。

例え彼女の護衛騎士が加わったとしても、王女殿下()()()()私の敵ではないのだ。



◇◇◇◇◇◇◇


お茶のセットだけメイドが整え、持ち場に去って行った。

テーブルに着く私とリリーシア様、少し離れたところにリリーシア様の護衛である女騎士。

平静を装った顔は、リリーシア様よりは心得があると見える。


「王女殿下。わたくしとお話とは?」


紅茶を手に取り、思ったより温そうだったので飲まずに戻した。

これ小道具なのかな?


「……決まっているでしょう、ルシウス様のことよ」

「先程から思ってましたけど、人の夫を名前呼びするとははしたないですわね()()()()()()

「っ、わたくしを名前で呼ぶなんて許してなくてよ!」

「わたくしの夫の名前呼びも許していませんわ」

「わたくしはっ……、ルシウス様から許されてるわよ!」

「くだらない見栄を張るのは見苦しいですわよ……ルシウス様があなたに名前呼びを許すはずがありません。会ったこともないんですもの」

「あ、あるわよ!会ったからこうして……」

「廊下での騒ぎを邂逅のひとつに数えるんですの?まぁ……リリーシア様は、臣下に廊下で呼び掛けられたことを『会った』と言われて認めます?」

「〜〜〜〜〜っ!」

「デリル王国の程度が知れますねぇ……」


本気でため息をついた。

護衛騎士を見やると、表情は変わってないか顔色は悪くなってる。

聞きたくないよねー、王族が面と向かって貶されてるところとか。仕事って大変ー。


「それで?程度の低い王女殿下。何を主張されたいのです?」

「てっ?!不敬よ!撤回しなさい!」

「話を聞いて上げる、と申してます。お早くなさって?お茶会の終わりにはルシウス様が迎えに来て、問答無用で連れ帰られる予定ですのよ」

「〜〜〜〜っ、あなた程度の容姿で、あの方の隣に並ぶなんて恥ずかしくないの?!」

「容姿のことでしたら、わたくしの夫に並んで立てるのは義母か義姉くらいではないでしょうか?わたくしも王女殿下も、あの美貌の前には恥でしかありませんよ。わたくしを貶しても、あなたも大して変わりません」

まぁ、恥ずかしいとか思ったことないけど。

他に並び立つ美貌の女性がいたとして、だからなんだって感じだし。

「わ、わたくしの方が!実家は王家だし、あの方の力になれるのに!」

「殿下が王族なのは充分承知してますわ。それはアイゼンバーグ家も我が国の王家もご存知です。その背景を以てしても殿下の求婚を受けなかったのだから、ルシウス様には不要なのだわ」

「そんなっ……」


絶句するの早くない?

武器が少ないからかなぁ。

仕方ない、私からも煽ろう。


「王女殿下。世間知らずで物知らずのあなたに、年下であるわたくしが忠告して差し上げます。王家だから、可愛いからで受け入れられる婚姻なんて、正真正銘の政略結婚しかありませんよ。家門が欲しいのは女主人であり、男性が求めるのは妻であり、生まれた子どもに必要なのは母親です。自分が一番可愛い、我慢をしたくない、皆が私に従うべき。そんな見苦しい『少女のままの大人』と恋愛結婚したい人、わたくしは見たことありませんわ。広い世界にはもしかしたらいるかも知れないのですけど。極少数派の奇特な男性があなたを見初めて、彼もあなたが好意を寄せることが出来る容姿をしてる。低確率の奇跡をお求めなら、もっと世界を回ることですわね。残念ながらわたくしのルシウス様は、そのような趣味をお持ちではないわ」


……あの人が若干『少年のような大人』なのは割愛しよう。それでもワガママじゃないし自分を可愛いとも思ってないし、人を従わせたりしない。

いや、可愛いとは自覚した方がいいけどね。


リリーシア様は怒りでプルプル震えてる。

これは、例の『紅茶掛け』が来るのか??

温そうだから掛けられるくらいどうってことないが、サリーを宥めるのが難題……。


「お話が終わりなら、もうよろしい?」

「ーー待ちなさい」


怒りが一周回って冷静になったらしい。

引き攣ってはいるが笑顔を作って、紅茶を持ち上げる。

あらま。


「好き勝手言ってくれるじゃない、王族に向かって」

「好き勝手言ってくる相手には、好き勝手言うようにしてます。言うのはいいけど言われるのは我慢ならない、と仰る?本当に子どもねぇ」


さらに嗤ってやると、口元がさらに引き攣った。

さすがに見えないけど、コメカミに青筋とか浮いてるのかなぁ?


「どう考えても不敬よ。そうでしょう?」

「人の夫に未練タラタラのお嬢ちゃんへ、引導を渡してあげてるんですよ?親切心ですーーは嘘か。訂正。夫も嫌がってますし迷惑ですので、二度とくだらないことで公費を使ったりしないように釘を刺してます」

「馬鹿にしてっっっ、なんなのよあなた!何様のつもりなの?!」

「何様と聞かれても……あえて言うなら、ルシウス様の最愛の妻ですかね?結婚生活半年で身篭る程の」

これみよがしにお腹を撫でてやると、リリーシア様はついにキレたようだった。



「もういいわ!どれだけ屁理屈言ったって、わたくしが王女であなたは一貴族でしかないのよ!わたくしへの不敬は、罰になるんだから!」



そう言って、リリーシア様は持っていた紅茶をーー()()()()()()


「ーーっ!」


私は驚きのあまり絶句する。

その表情を見て、彼女は嬉しそうに笑った。

「わたくしがあなたに紅茶を掛けられた、そう訴えればあなたの行為が国際問題になるのよ?いい気になってられるのも今のうちだわ!」

高らかに言い放つその姿に……私は思った。



ーーこれ最近流行りの、『自作自演:飲み物掛けられたわ助けてヒーロー!悲劇のヒロインムーブ』だわ!


テンプレな行動をこの目で見ることが出来て、感激!

ワイン掛けは食らったことがないしドレスが汚れるのも嫌だから、夜会でも遭遇しないよう気を付けてたけど。

お茶会バージョンを見ることが出来るとは……。

マリーとお義姉様に報告しよう。


驚いた風でもなく、護衛騎士が近付く。あらかじめやる事を伝えてあったんだろうな。


「止まりなさい」


リリーシア様に声を掛ける寸前で騎士を止める。

「あなたに問うわ。わたくしのティーカップと王女殿下のティーカップ、残量が減っているのはどちら?」

「何を……」

「目で見えることの確認ですわよ王女殿下。それともあなたの騎士は盲目ですの?ティーカップの中身を見られないほどの?」

「いえ……」

「答えなさい。減っているのはどちら?」

「…………王女殿下の、ティーカップです」

「そうね。では、今王女殿下の頭から滴ってる紅茶はどちらのものかしら?」

「……それは」

「カーラ!わかってるわよね?!」

「わかってるかしら?目で見て明確な事実を捻じ曲げて報告すると言うことを。ねえ、何もあなたに無理して報告してもらう必要はないの。今すぐ別の騎士を呼び寄せて、同じように問うてもいいのよ?その場合、子どもでもわかるような事実を捻じ曲げて報告するあなたは、護衛騎士として相応しいのかしら?」

「ーー!」

「カーラ!」

「王女殿下、煩いです。わたくしの紅茶は注がれてから一滴も減ってませんのよ?その上あなたに掛ける量がまだ入ってたとか、どれだけ大きな器を用意したって言うのよ。馬鹿馬鹿しい。そこのあなた、証言出来ないなら下がりなさい。自分の処遇がどうなるのか、よく考えてから発言するように」

「……承知しました」


護衛騎士は引き下がり、元いた位置に戻った。


「そんな……!」

「ふふ、いい物を見せていただいたお礼に、もう少し教えてさしあげますわ。殿下はわたくしから紅茶を掛けられたと主張なさりたかったようですが、向かいに座るわたくしが殿下目掛けて紅茶を掛けるのと、殿下自ら紅茶を頭に注ぐのでは、紅茶の掛かり方が違います。放物線とかご存知ないかしら?大抵の人はこの状況を見たら、殿下が頭から紅茶を被ったことを理解します。向かいに座ったわたくしが、立ち上がって殿下の頭から殿下の紅茶を注いだと主張を修正なさる?その場合、殿下はわたくしが立ち上がって紅茶を奪い取るまでジッと動かなかったことになりますけど、なぜなされるがままだったのかしらね?不思議」


懇切丁寧に教えてあげるが、あんまり聞いてないかも。

まあいいよ、面白かったし。


「何より、わたくしこんなお腹ですもの。立ち上がるのも一苦労、ましてや殿下の頭に紅茶を掛けるために席を立ったりしません。面倒なの」


いつもルシウス様が撫でている辺りを、いつもルシウス様の頭を撫でるように労った。



「生まれる前からお母様の境遇を守ってくれるなんて、あなたはお利口さんね」



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― 新着の感想 ―
残念だがその理論は破綻している。放物線とか関係なく王女の紅茶を王女に掛ける方法…それは犯行現場が王女の隣だったのです!ミューが立ち上がって竦んだ王女の真横に立って、紅茶を頭から注ぐようにぶっかけた、こ…
うーん、それくらいのねじ曲げなら、遠征先でやったらダメだよなぁ マリー「私にかけられた気がしますわ」 で、格違いで終了する、というかミューのことになったら喧嘩を買う、あの方。
「わたくしの紅茶は注がれてから一滴も減ってませんのよ?その上あなたに掛ける量がまだ入ってたとか」 この部分が良く理解できなかったのですが、 「注がれて」⇒ 紅茶が入っている 「一滴も減っていない」⇒ …
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