テンプレートな王女様とお茶会
さて、始まりました女の戦いin王宮庭園。
一年前にルシウス様との結婚を夢見て帰国した王女様と、その帰国の隙を狙って婚約・結婚・妊娠までやり遂げた私の、仁義なき戦いです!
……仁義ないと戦いってどうなるんだ?
手段を選ばず、てことだろうか。
そんな埒もないことを思いつつ、私はニコニコと笑顔のまま黙って話を聞いている。
一番最初に初対面同士である王女殿下と「ミュリエル・フォン・アイゼンバーグと申します。お初にお目に掛かります、王女殿下」「……リリーシア・ナヴィエ・デリルよ」と言う愛想の欠片もない挨拶を交わし、その後は一切発言してない。
様子見と言うこともあるが、何よりこのテーブルでは私が一番年下かつ身分が低いのだ。
王太子妃殿下、第二王子妃のマリー、第四王女殿下、公爵夫人なお義姉様。
次期公爵夫人なので、ほら。
……嫌なテーブルだわ本当に。私が伯爵令嬢の身分のままだったら、即座に腹痛を訴えて欠席してる。
「……ミュリエル様。心ここにあらずのようですけど。わたくしの話は退屈かしら?」
リリーシア様の棘の生えた声掛けに、一瞬キョトンとしてしまった。
「まぁ、退屈だなんて。とても興味深く拝聴させていただきました。他国のお話は、やはりその国に住んでる方からお聞きすると印象が変わりますね」
棘に気付かない体でそう答える。
これは本音。細かな習慣、物事に対する考え方などはその文化に慣れ親しんだ人の話の方が深みがある。
そこを理解しなければ、他国で商品など売り込めはしない。
考え方が商売人なのは気にしないで下さい。
なので、デリル王国の話もちゃんと聞いてたけども。
喧嘩を売ってくるようなら容赦せんぞ?
「心ここにあらずのように見えていたら申し訳ありません。少々、夫のことを考えてまして」
忖度なしでルシウス様のことをぶっ込むと、王女殿下は顔を引き攣らせマリーとお義姉様はパン!と扇を開いて口元を隠した。
一人変わらないままの王太子妃殿下、ホノカ様が話に乗ってくれる。
「あら。旦那様のことを?」
「はい。ルシウス・フォン・アイゼンバーグ。王女殿下もよくご存知かと思いますが、先程こちらまでついてきてしまいましたの。心配性にも程があると、つい」
「そうね。ご夫君を茶会の会場まで連れ回すなんて、初めて見たわ。ルシウス様にワガママを言うものではなくてよ」
案の定、すぐに喰らいついた。わかりやすい。
名前呼びはマナー違反と思うけど、そこを窘めてると面倒なので今はやめとこう。
あと個人的には、「アイゼンバーグ卿」って呼び名が長く感じるんだよね。
「ワガママだなんて。あれは夫が侍女長に申し出たのです、わたくしでは思い付くこともない発想ですわ」
「そうね、わたくしもそう聞いたわ。さすが今話題の『王宮一の愛妻家』と感心したものよ」
マリー、お義姉様。今肩を震わすところ?
「ホノカ様、ご配慮ありがとうございます。実はこのお茶会に参る前、夫の職場を訪ねてみたんです。待ち合わせはしていたのですが、働いている姿を見てみたくって」
「まぁ、ミュリエル様は妻なのに、ルシウス様の働いている姿を見たことがなかったの?」
「はい。恥ずかしながら、家にいるとあの人はわたくしとの時間ばかり優先するので、声を掛けると仕事をやめてしまうのです。なるべく邪魔しないようにと思うと、姿を見れません」
「ルシウス様らしいわね。それで、ミューは働く姿は見れたの?」
笑いから回復したマリーがシレッと会話に参加してきた。
よし、アシストよろしく!
「ええ、扉の隙間から。凛々しくて素敵だったわ」
これは嘘ではないので、少し大袈裟にしつつウットリと微笑む。
「念願叶ったのねミュー」
「それがお義姉様、覗いてたら10秒経たずに見付かって。結局いつものルシウス様です」
「いつもの……?」
リリーシア様とホノカ様が不思議そうな顔をした。
マリーとお義姉様は納得の表情だ。
「デレデレの」
「はい」
「溢れんばかりの笑顔の」
「はい」
「大型犬が尻尾を振るような?」
「その通りです」
「……それ、アイゼンバーグ卿のお話よね?」
「ホノカ様、わたくしの知るルシウス様は大体こんな感じです」
リリーシア様は黙って俯いてる。
そんなルシウス様は見たことがないのだ。
妻の差を見せつけつつ、ここで憂いを帯びる顔に変更。
「……ただ、同僚の方からお聞きしたのですけど。夫がこのところ、諸事情により何かと落ち着かないまま仕事をする羽目になっているようでして」
ほぅ、とため息をつくと、リリーシア様の肩がピクリと動いた。
ホノカ様とマリーは知ってるし、お義姉様も大体予想はついてるだろう。
「……そうね、ここのところ総務室は少しバタバタしてるわ」
「本人は疲れてはいないそうなんですが、気忙しいままなのも心配なので、早く落ち着いたら良いと、そう考えておりましたの。お話の最中に申し訳ありませんでしたわ、王女殿下」
「……良くってよ」
当てこすりの全てを喰らい、リリーシア様は大変悔しそうなお顔をした。
……テンプレートな王女様だなぁ。
◇◇◇◇◇◇◇
王太子妃殿下と第四王女殿下は、他のテーブルへ王女殿下の紹介をしに。
マリーも第二王子妃として、接待に行った。
客として来た私とお義姉様は、そのまままったりお茶を続行だ。お腹重いしね。
「随分飛ばしたわねミュー。遠慮の欠片もなく」
お義姉様が楽しそうに言う。
「売られた喧嘩は三倍の値で買う主義ですので」
「相手からしたら『そんなに売ってない!』って焦る値段ね」
「喧嘩を売る、という行為で既にアウトですからね」
「相手が悪過ぎるわねぇ。それで?実際に会ってみてどう?」
チラ、とお義姉様が視線を向ける。
私もリリーシア様のいる方を見た。別のテーブルで、令嬢たちと話をしている。ーー大して面白くもない顔をして。
「典型的な王女様ですね。悪い意味で」
お義姉様の楽し気な目線が先を促す。
「自身の容姿に合っているドレスや髪型をしていますが、それだけです。年齢や、王太子妃殿下に賓客として招かれた立場を考慮していません。『自分が可愛く見えるのならそれでいい』、王族の考え方ではありません」
自分のことが一番可愛い、末っ子のままの意識。
「話している内容は、ドレスや宝石や気になる歌劇についてです。わたくしは商売人としての視線から殿下のお話は有意義としましたが、次期公爵夫人としては何も得るものがありませんでした。デリル王国と我が国の友好関係を継続するための施策、関税や輸入品の在り方、抑えておくべき重要人物の経歴……何ひとつ興味がないのでしょうね」
王族でさえあれば何もしなくても許されると考える、傲慢で怠惰な思考。
「そして、今のあの姿。王族と話すことに緊張している他国の令嬢に対して、労るでも労うでもなく『つまらない』と顔に出す、取り繕わない姿勢。『自分を退屈にさせるつまらないお茶会』と考えているのが透けてます」
身分が下の民を明らかに軽く捉え、自分のために消費されるモノと見做す浅はかさ。
「総じてーーわたくしの敵になる〝資格〟がありませんわ」
貴族スマイル・極みで伝えると、お義姉様は満足したように笑った。
「わたくしも同意見だわ。あの程度の小娘にアイゼンバーグ家が振り回されたと考えるのも業腹だけど、ミューを得るためだと思えば仕方ないのかしらね」
「光栄です」
「ちなみに、資格があるとしたらルシウスを譲るの?」
「まさか。敵の資格、ですよ?相手に応じて戦うに決まってるじゃないですか」
「そう、立ち向かうのね」
なんだかお義姉様、嬉しそう。
「わたくしが立ち向かうことなく全面降伏して受け入れるのは、お義母様とお義姉様のみです」
「わたくしたち?」
「わたくしより前にアイゼンバーグ家の淑女としてお振る舞いになってるのですから、女主人の座は譲ります」
キョトンとしていたローズ様が、扇で口元を隠し肩を震わせた。
「いやだミュー、それって女主人の座は譲っても、ルシウスの妻の座は誰にも譲る気がないってこと?」
何を当たり前のことを。
あの可愛い夫をどうして誰かに譲らなければならないのだ?
やれやれ、と思って肩を竦めると、背後に誰かが立った。
振り仰ぐその先には、笑顔を貼り付けたリリーシア様がいた。
「ミュリエル様……二人だけでお話をしたいの。あちらまでご足労願えるかしら?」
……場外乱闘、始めます?
◇◇◇◇◇◇◇
「皆様、本日は王宮庭園まで足をお運びくださりありがとうございます」
「「マリアベル様、お招きありがとうございます」」
「こちらに座ってもよろしい?」
「ええ、どうぞ」
「ありがとう。……いいわよ、調子戻して」
「マリー様!ミューのあれ!何ですかあんなに早く子宝に恵まれるなんて!なんの秘訣ですか?!」
「サラ、戻すのが早過ぎるわ。まずは久しぶりの再会を喜ぶところからでしょう?」
「良いわよトレイシー。久しぶりね、わたくしの卒業以来かしら。サラ、ミューに秘訣を聞いても答えはひとつよ。『ルシウス様が頑張った』」
「どんな頑張りですか!アイゼンバーグ卿は絶倫なんですの?!」
「サラ、はしたない!」
「わたくしだって知らないわよ。ミューがそう言うんですもの。あの子は答える気がないのよ」
「それが本当なら、跡取りに悩む家門がこぞってアイゼンバーグ卿に聞きに行きますよ」
「『できるものならやったらいい』とミューは言うでしょうね。わたくしも無理だと思うわ」
「そうなんですか?」
「あー聞いたことあります。女性が話し掛けるの、すごい難しいんですよね?」
「女性だけではなく、男性もよ。基本的に知り合いとしか話さないし、それも大半が業務の話だわ」
「よくそんな人と結婚しましたよねミューは」
「ラブラブよ?」
「らぶらぶ」
「ルシウス様がミューにデレデレなの」
「でれ……?想像がつきません」
「それが普通よ。サラとトレイシーがいるなら、ここにシャーリーも呼べれば良かったのにね。あそこに控えてるわ」
「シャーリー!聞きました、この間アイゼンバーグ卿に食って掛かったんですよね?!自ら愛人疑惑を広めるとか、どれだけって話じゃないですか」
「あちらに聞こえてるみたいよサラ……誰から聞いたの?ワルロー卿?」
「ワルローがシャーリーの評価を下げるような真似する訳ありません。わたくしの婚約者ですわ。ユーリウス様の護衛騎士ですから」
「……サラ、それは機密漏洩ではなくて?」
「シャーリーのやらかしなんて、わたくしたちのお茶会で締め上げればすぐバレますよ。むしろその機会をなしにしたので、シャーリーはわたくしの婚約者に感謝するべきです!」
「そうかしら……」
「それに機密と言っても王族が対象ではなく、自業自得で自爆した侍女見習いの、冗談にもならない自滅話ですから!問題ないです!」
「すごく韻を踏んだわねサラ」
「感心してないで止めてちょうだいトレイシー!あっちでシャーリーが泣いてるわよ!」
「噂話ごときで精神を乱すなんて未熟ですね!」
「サラ、あとでワルロー様の仕返しがあなたの婚約者に向かうわよきっと」
「わたくしは被害ゼロだもの、問題ないわ!」
「あなた、ミューよりひどいわね?!」




